八.ノンストップ・イースフル その一
「阿久竹よ。何故私に嘘をついた?ごまかせるとでも思ったのか?」
イースレイは開口一番、阿久竹の心臓をえぐる様な言葉を発した。
「な・・・何のことでしょうか?警察に捕まったときの詳細は事実のままです。」
阿久竹は白を切った。彼はイースレイが何のことを言っているかわかっていた。
でもそれを認めれば彼は死ぬことになる。
比喩ではない本当の『死』である。
「ほう。私に2度言わすとはいい度胸だ。何故私に嘘をついたのだ?早く答えろ。」
「・・・」
阿久竹は無言を貫いた。
理由の一つに恐怖で言葉が出なかったのもある。
しかしそれ以上に彼の嘘でイースフルのメンバー全員を巻き込んだ責任を感じていたからだ。
無言を貫く阿久竹にイースフルは彼を喋らす決定打を言い放った。
「認めぬというならこちらにも考えがある。軍法会議にメンバー全員をかけ」
「彼らに非はありません。すべて私の独断でやりました。」
イースレイが全てを言い終わる前に彼は自分の嘘を認めた。
「認めるというのだ?」
「認めます。・・・嘘の報告書を提出していたことを認めます。」
彼の言葉にメンバー全員が驚愕する。
「皆聞いての通りだ。今まで阿久竹は私に対して嘘の報告をしていた。詳しく言えば6度目から9度目の作戦で嘘の報告書を作成して私に渡していたのだ。」
「・・・スマンみんな。言えなかったんだ。勝つためとはいえどうしても言いえなかったんだ。」
彼はメンバーに謝った。
その言葉に誰も返事をしなかった。
5度目の戦いの後、アジトの会議室で今後はアホな作戦を実行していくと部下に説明していた時に彼はこう言った。
「ボスからの許可は得た。だから今後はまともな作戦は止めることにする。」
しかし実際には許可を得ていなかったのだ。
「まともな作戦が通じませんのでこれからは『アホな作戦』を実行していきます!」
こんなセリフをイースレイに言えるはずがなかった。
軍の超お偉いさんであるイースレイに言えるはずがなかった。
言った瞬間、軍をクビになり2度とイース侵略作戦に加えて貰えないと思ったのだ。
彼は名誉は欲しくなかった。ただ実績が欲しかった。イース人を幸せにしたという実績が欲しかった。
そのために汚名を被る覚悟さえあった。
そこでアホな作戦を実行するため、彼は自分の命を懸けることにした。
嘘の報告書を作成することにしたのだ。
嘘の報告書を作成して、まともな作戦で戦いに挑んでいるように報告したのだ。
かつて両親がイース人のために命を懸けて研究に臨んだように、彼も命を懸けて戦いに臨みたかった。
嘘がばれた時も全て自分1人が罪を被るようにした。その点だけはぬかりが無かった。
しかし、報告書を作成するためには阿久竹の他にもう1人必要だった。
報告書を作成するためには『彼女』のサインが必要だった。
つまりメンバー内で嘘の報告書であると知っているのは首謀者の阿久竹と彼女だけだった。
そのため阿久竹は嘘の報告書がばれた理由がすぐにわかった。
イースレイは阿久竹の考えていることを察して念を押した。
「阿久竹よ。彼女を責めるなよ。イースフルの9度目の作戦『鳥黐作戦』の後、彼女が私に真実を話してくれたのだ。もっともその時点で既に私はお前が嘘をついていることに気づいていたがな。」
イースレイは念を押したが、阿久竹は彼女を責めるつもりなど微塵もなかった。
全て自分の責任だと受け入れていた。
メンバー全員も今の話の流れより『彼女』が誰の事を指しているのかわかった。しかし皆、阿久竹と同様に彼女を責めるつもりはなかった。
もちろん首謀者である阿久竹を責めるつもりもなかった。
『彼女』が誰の事か書く必要はないと思うがあえて書くことにする。
『彼女』こと梅林弥生。彼女は9度目の作戦を終えた時点ではまだ阿久竹の考えに納得していなかった。