二.アース人vsイース人
「何故だ!何故奴らに勝てん!」
阿久竹は苦悩していた。
イースの最新鋭のコンピューターをもとに立てた作戦がものの見事に破られたのだ。
彼がアースに侵入してからこれで通算9敗目を喫していた。
「何故この鳥黐作戦が通用しなかった!」
彼の立てた作戦はアース人の巨大人型ロボット『アウトサイダー』の出現場所に強力な鳥黐を仕掛けておき、アウトサイダーの動きを封じるというモノであった。
アース人たちの異世界人対策組織『AWCO(Another World Countermeasure Organizationの略)』の本拠地および各支部の所在地は不明だったが、AWCO福岡支部の切り札が巨大人型ロボット『アウトサイダー』であることは判明していた。
ここでアース人の巨大人型ロボット『アウトサイダー』について説明しておく。
アウトサイダーの全長は20メートル。超合金でできており、姿形は読者の想像に委ねられるという作者の表現力不足を逆手にとった形をしている。
また3体のロボットが組み合わさった合体ロボットであり名称は『アウトサイダーNО.1、アウトサイダーNО.2、アウトサイダーNО.3』である。
3体のロボットは人型ではなくアウトサイダーNО.1は鳥、NО.2は獣、NО.3は魚の姿をしている。当然この3体の姿形の詳細は読者に委ねられる。
3体ばらばらでも強力なロボットだが合体することで人型の無敵のロボットとなる。
アウトサイダーの前ではイース人の誇る巨大人型ロボット『インスマス』も形無しであった。当たり前だがインスマスの姿形は読者に委ねられる。
※今後姿形を表記しないモノは読者の皆様に委ねることにします。ご了承願います。
合体する前の3体はインスマスでもそこそこ戦えるのだが、合体してアウトサイダーになった瞬間、イース人たちの敗北が決定する。
まさに瞬殺である。
アウトサイダーの無慈悲なビーム攻撃によりインスマスは木端微塵に砕け散るのである。
そしてイース人はスタコラサッサとアジトへ逃げ帰るしかなくなるのである。
そのため合体前に倒すのがイース人たちが勝利するための絶対条件となっていた。
話を鳥黐作戦に戻すことにする。
阿久竹はこの作戦のために念入りに準備を行っていた。
ロボット3体は空を飛ぶことができる。そのため毎回空を飛んできて現場付近にある学校のグラウンドや公園、海といった人がいない場所に着地する。
またこの時はアウトサイダーになっておらず、合体前の状態であるアウトサイダーNО.1、2、3の状態で現れるのである。
そこで阿久竹は事前にアース人たちにばれぬように強力な鳥黐を仕掛けておきアウトサイダーNО.1、2、3の内の1体を動けないようにしようとしたのである。
今回仕掛ける場所は公園だった。
そこで公園に住むホームレスたちや近所の奥様方に公園に近づかないよう手配した。
また、人手が足りなかったのでホームレスたちに鳥黐を少し食べさせてやる代わりに手伝ってもらったりした。
その他にも天気や時間を考慮したり、過去の戦いを見直しアウトサイダーNО.1、2、3の動きを徹底的に研究した。
「アウトサイダーNО.1のパイロットは公園の南東の隅っこにロボットを着地するクセがある。ここが狙い目だ。」
阿久竹はイースフルのアジトの会議室でホワイトボードに公園の絵を描いて部下たちに鳥黐作戦の説明をした。
部下たちも皆真剣に話を聞き(これなら勝てる!)と意気揚々で臨んだ鳥黐作戦であったが結果は惨敗であった。
仕掛けた場所は良かった。上空から現れたアウトサイダーNО.1は鳥黐を仕掛けた場所へ着地しようとした。
(勝った!)
その様子をみた阿久竹はガッツポーズを決めた。しかし着地地点で予想外のことが起きていた。
大勢のホームレスたちが鳥黐を食べていたのだ。着地地点にホームレスの人の山ができてしまったのだ。
アウトサイダーNО.1のパイロットはホームレスの人の山に気付き着地地点を変えた。
そして3体合体。
香椎(福岡市東部の副都心の1つ)で暴れていたインスマスはアウトサイダーのビーム攻撃でお陀仏となった。
こうして鳥黐作戦を失敗した阿久竹はアジトの自室で1人頭を抱えていた。
阿久竹がこのようなアホな作戦を立てたのには理由がある。
阿久竹はアースに侵入してすぐにインスマスで攻撃を開始した。もちろん本格的な攻撃ではなく、負ける前提での攻撃であった。相手の戦力の把握をしたかったのだ。
しかしこの攻撃で彼は知ることになる。
アース人との絶望的なまでの力の差を。
阿久竹はインスマスで合体後のアウトサイダーとそこそこ戦えると思っていた。
しかし瞬殺された。1度や2度ではない5度戦い全て瞬殺されたのである。
この結果を目の当たりにして彼は愕然とした。
(俺は夢でもみているのか?夢なら覚めてくれ!)
彼は本気で頬をつねりそう思った。
彼がここまで愕然としたのには理由がある。
2年前の侵略開始時に彼は現場に参加していなかった。また、その時のアース人との戦闘データは上層部のみが知る極秘資料であったため、彼はアウトサイダーの戦闘力を知らなかったのである。
(上層部が極秘扱いしたのはこういうわけだったのか!)
悲惨な光景を目の当たりにした彼は上層部の意図を理解した。
貧しい星に住むイース人にとってアース侵略は希望だった。生きるための糧だった。
アースを侵略して豊かになる。それがイース人の悲願であった。
しかし現実は違った。
ひっくり返せないほどの絶望的な力の差がアース人とイース人にはあった。
(この事実を世間が知ればたちまち大騒ぎになる。そしてイースの破滅へと繋がってしまう。それだけは避けなければ!)
阿久竹は全身全霊をかけこの絶望的な力の差を打開しようと決意した。
6度目の戦い以降、阿久竹はまともな作戦をとるのを止めた。
(過去の5度の戦いはまともな作戦だったが瞬殺された。これはもう奇策しかない。)
そう考えた阿久竹は部下に今後の説明をして納得させた。
阿久竹の部下たちは彼の考えに一切反論しなかった。
部下たちも過去の5度の戦いで現実を思い知らされたのだ。
(まともにやっては勝ち目がない。奇策しかないのでは?)と部下たち自身も考えていたのだ。
しかし彼らの部下たち全員が完全に納得したわけではなかった。
阿久竹の幼馴染である女性、梅林弥生は完全には納得していなかった。
(相変わらず阿久竹はアホだな。私がキチンと補佐しないと。)
弥生は呆れていたが阿久竹を見捨てることはしなかった。彼女は阿久竹を補佐することを心に決めた。
こうして阿久竹次郎率いるイースフルはアホな作戦でアース人に戦いを挑むことになったのである。