十九. 特攻野郎Yチーム その一
阿久竹も六華も呆然としていた。
重苦しい空気の中、阿久竹が六華に話しかけた。
「軍曹殿・・・悪いけど一人にしてくれないか?」
「た・・・隊長殿?」
「軍曹聞こえなかったのか?一人にしてくれと言ったんだ。」
「隊長殿・・・我々はこれから」
「軍曹!聞こえないのか!一人にしてくれと言ってるんだ!」
「は、はい!失礼するであります!」
六華は逃げるようにその場から立ち去った。
部屋は静寂に包まれた。家鳴りの音だけが聞こえた。
(最低だ・・・俺は最低だ。部下に八つ当たりするなど隊長失格だ。)
阿久竹は八つ当たりしていたことに後悔していた。
阿久竹が後悔していると彼の携帯電話が鳴った。
(電話か・・・無視しよう。)
音が止んだ瞬間にまた音が鳴り始めた。
それが何度も何度も繰り返された。彼はそれらを全て無視した。
音が鳴らなくなって彼はようやく携帯電話を手に取った。
(弥生。それに草壁。笹岡からもか。メンバー全員から連絡が来てるな。・・・いやボスからは来ていないな。)
メール内容を確認すると彼に縋るような文章ばかりであった。
メンバーの連絡を確認した彼はまたしても呆然となった。
(俺に・・・俺にばかり頼るのか?俺は誰に頼ればいいんだ?)
リーダーである彼が頼れるのは上司のイースレイだけであった。
彼は携帯電話を手に取るとイースレイに電話を掛けた。しばらくすると電話が繋がった。
「もしもし私だ。」
「ボス!俺です!阿久竹です!ボスに相談があって」
「すまない阿久竹。先ほどのニュースの件で今は忙しくて対応できない。また後で連絡する。」
そう言ってイースレイは電話を切った。
イースレイは軍内で超お偉いさんである。
電話を切られるのも無理はないと阿久竹は思った。
(そりゃそうだ。忙しいに決まってる。ボスは超お偉いさんだしな。)
阿久竹は頼る人物がいなくなってうな垂れた。そしてピクリとも動かなかった。
このまま時間だけが過ぎるかに思われたが、然うは問屋が卸さなかった。
彼はブチ切れたのだ。
(ふ、ふははははは!そうだ!絶望的な状況など初めからわかっていたことだ!何を今さら慌てているんだ!)
そして彼は大好きな三国志のとある人物の名言を思い浮かべた。
『私は、いかなる逆境も、好機に変える努力をした。』
(覆してみせる・・・俺がこの手でこの逆境を覆してみせる!)
彼はそう決意をして鞄から2冊のノートを取り出した。その2冊のノートは彼の作戦ノートであった。
1冊目のノートを開き彼は作戦を考え始めた。
(温泉街で考えた作戦も含めて、今日一日で俺の思いつく限りのありとあらゆる作戦を考える!)
彼は思いつく作戦を片っ端から書き記した。
実現可能とか不可能とかそんなことを考えずに、ただひたすら思いつくままにペンを走らせた。
汚い字でどんどん作戦が書かれていく。
(手を止めるな。ペンを走らせろ。書き続けろ。)
彼がひたすら書き続けているとあっという間に1冊目が最後のページまでたどり着いた。
(もう1冊!!)
2冊目のノートを開いて書きなぐった。
(俺は止まることは許されないんだ!突き進むしかないんだ!特攻するしかないんだ!そして勝ってやる!仲間と共に勝利をつかんでやる!)
2冊目のノートの半分まで書き進めたところで彼の携帯電話が鳴った。
電話の主はイースレイであった。
彼が先ほどイースレイに電話を掛けてから既に6時間以上が経過しており、夜中の3時を越えていた。
「もしもし私だ。阿久竹よ。先ほどは申し訳なかったな。軍内が揉めていてその対応に追われていたのだ。」
「ボス!ちょうど良かったです!こちらから電話を再度掛けようとしていたところでした!」
「ほう。落ち込んでいると思っていたが、そうではないらしいな。さすがは私の右腕だ。」
「お褒めの言葉ありがとうございます!早速ですが俺の数々の作戦を聞いてください!」
「よかろう!話を聞ける時間は短いが私も手伝おう!」
「ありがとうございます!では・・・」
阿久竹とイースレイは徹夜で作戦を相談し合った。
イースレイは阿久竹の突拍子もない数々の作戦を決して馬鹿にしなかった。彼の作戦を褒め称えそして助言をした。
イースレイの助言も突拍子もないモノばかりであったが阿久竹はそれを基に新たな作戦を考えノートに書き記していった。
イース人の誇る2人の偉大なるアホたちが作戦を考えまくった。
そして5時間が経過した。
「ボス。ありがとうございました。これらをイースフル全員に報告したいと思います。」
「うむ。では検討を祈る。さらばだ。」
イースレイはそう言って電話を切った。
阿久竹はメンバー全員に緊急会議の連絡を入れた。
『本日の昼2時にアジトの会議室に集合せよ。緊急会議する。』
そして弥生に緊急会議の資料を作ってもらうために別途連絡を取った。
『弥生。今から俺が書く作戦を資料にしといてくれ。』
その返事を待たずに、阿久竹は隣の部屋で眠っている六華を叩き起こして、2人でバイクに乗って黒川温泉を後にした。