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イースの大いなる野望  作者: ダメ人間
第二章 特攻野郎Yチーム
18/21

十八. 温泉街の悪夢 その五

 天然な性格の仙水は新兵器についての説明を始めた。


「えーとですね。まず初めになんですけど、今回のですね」


「せ、仙水部長。ちょっといいかな。」


 寺内は慌てて仙水に話し方を変えるようにヒソヒソ話をした。

 ヒソヒソ話が終わり、仙水はまた咳払いをして説明を再開した。


「では新兵器の開発をさせて頂きます。話している間は記者の皆様方はご静粛に願います。」


 今度はのんびりとした喋りではなく凛々しい感じの喋り方になっていた。

 あまりにもコロコロと喋り方が変わるので記者たちは混乱しそうになった。


「申し訳ありませんが初めに訂正があります。今回我々が完成させようとしている兵器なのですが、実は既に存在する兵器なのです。そのため『新兵器が完成間近』ではなく『既存兵器が完成間近』が正しい言い方となります。」


 このよく意味の分からない発言で記者たちが皆首をかしげた。

 そんな記者たちの様子など気にもせず仙水は話を進めた。


「我々アース人にとっては『新兵器』ですがイース人にとっては『既存兵器』なのです。」


 記者たちは増々意味がわからなかった。その場にいる記者だけではないテレビの前の視聴者もその発言の意味がわからなかった。イース人たちを除いては。

 テレビを見ていたイース人である阿久竹次郎は仙水が何を言いたいのか瞬時に理解した。


(ま、まさか・・・。)


 仙水の発言を聞いて阿久竹は自分の顔色が青ざめていくのがわかった。

 アース人が完成させようとしている兵器がイース人にとって絶望的な兵器であることがわかったのだ。


(た、頼む。俺の考えが外れてくれ!)


 阿久竹は必死に願ったが、それは無駄に終わった。現実は非常である。

 願い空しく仙水はこう言い放った。


「我々は今、異世界を繋ぐための『ゲート』を完成させようとしています。」



『アース人はイース人よりも豊かである。』これは正しい。

『アース人はイース人よりも文明が進んでいる。』これも正しい。

『アース人はイース人よりも全てにおいて優れている。』これは間違いである。


 イース人の方が優れているモノも数多く存在する。その優れているモノの中で、一番大きな存在だったのが異世界研究であった。

 イース人たちは異世界への研究を古来より欠かさなかった。

 ありとあらゆる世界と時代を調査して自分たちの知識を高めようとしたのだ。

 科学技術や産業を発展させ、労働ではなく知的・芸術活動に時間を費やそうと夢見る種族。それがイースの大いなる種族『イース人』であった。


 イース人は先祖代々伝わる長年の研究により、異世界を繋ぐゲートを開発することが出来たのだ。

 そしてこの努力の結晶である異世界を繋ぐゲートはアース人には決して作ることが出来ない。そう思っていたのだ。

 しかし、現実は違った。アース人たちは異世界を繋ぐゲートを完成させようとしていた。


(イース人の最高傑作であるゲートを作られる・・・だと。)


 絶望的な仙水の発言に阿久竹は心がへし折れそうになった。彼だけではないイース人全員の心が折れそうになった。

 そんなイース人たちの気持ちなど知る由もなく仙水は言葉を続ける。


「このゲートが完成すればイース人たちの世界に乗り込むことが出来ます。」


「「おお!」」


 記者たちはまたしても大きな声を上げた。

 この兵器が完成すれば技術力が圧倒的に高いアース人たちの勝利は確実となるのだ。


(アウトサイダーの様な強力なロボット兵器たちをイースに侵攻させられたらイースは瞬時に滅ぼされてしまう!)


 阿久竹は既に真っ青な顔をさらに青くした。


「た・・・隊長殿。」


 横で絶望のあまり震える部下の様子に気づかずに阿久竹は必死に打開策を考えていた。


(考えろ・・・考えるんだ阿久竹次郎。・・・ダメだ思いつかない。もうあの作戦を実行するしかないのか?)


 阿久竹はブツブツと独り言を言いながら必死で打開策を考えていた。

 一方テレビでは仙水がさらに話を進めていた。


「完成間近といいましたが実用化にはまだ数年かかります。それまでは油断せずに防衛に徹したいと思います。ただ防衛に徹するだけというのは悔しいと思いますが、国民の皆様方は辛抱のほどよろしくお願い致します。」


 仙水は会場の記者とカメラに向かい深く頭を下げた。

 頭を下げた後さらに言葉を続けた。


「ちなみにゲートだけを作っているわけではありません。新型のパイロットスーツやロボットの開発も同時に行っております。スーツの方はもう間もなく完成しますので、すぐに軍の全員に配布する予定です。これによりイース人が毒ガスなどのバイオ兵器を使ってきても問題ないでしょう。」


「なんだと!」


 阿久竹はこの言葉を聞いて大声を上げた。もう人として最低と罵られようがイース米散布作戦を実行しようと考えた矢先にこの発言である。


(ダ・・・ダメだ。イース米を粉にして散布する作戦はもう通用しない。・・・国民全員に食べさせる作戦は最低過ぎてさすがに出来ない。)


 以降に仙水が少し何かを喋っていたが阿久竹はもう考えることが出来なくなっていた。

 そして寺内がこう会見を締めた


「国民の皆様。私はここにアース人の勝利を約束します。では皆様ご清聴ありがとうございました。」


 阿久竹はすぐにテレビを切った。


 今日のテレビの会見内容はイース人にとってはまさに悪夢のような出来事であった。

 阿久竹、そしてイース人全員が更なる絶望の淵へと叩き込まれたのであった。

仙水に「勝てまぁす!」と言わせるつもりでしたけどさすが止めました。

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