十五. 温泉街の悪夢 その二
旅館組合で2人は木で作られた入湯手形を購入し、入浴するための温泉宿を探して温泉街を歩いて回った。(入湯手形1枚で3つの温泉に入ることができます。)
少し歩くと六華がとある温泉宿を指さしこう言った。
「隊長殿!自分の直感で申し訳ありませんが、あそこの温泉宿が良さそうな気配がするであります!」
「お、おう。それじゃあ、あそこの温泉宿の温泉に入ってみるとしよう。」
「入ってみるであります!」
阿久竹は六華が直感という名の催促により決めた温泉宿に行くことにした。
宿の入り口で入湯手形にスタンプを押してもらい、入浴場へと向かった。
男湯と女湯で別れる時に、湯からあがったら宿の待合室にいるように六華に指示をした。
阿久竹は脱衣所で服を脱ぎ、温泉場に行くと白い温泉があった。
(湯が白いな・・・にごり湯ってやつだっけ?まあいいや。)
阿久竹の他には誰もおらず、彼は1人のんびり湯船につかることが出来た。
(あー疲れがとれる。はあー極楽極楽ですなー!)
そう考えながら白い湯船につかっていると彼は昔考えた、とある作戦を思い出した。
その作戦は人としてやってはならないモノだと思い止めた作戦であった。
そう真っ白そうなネーミングとは裏腹にどす黒い悪意を秘めた恐るべきバイオ作戦。
作戦名は『イース米作戦』である。
イース米はアース人が食べる米と味も見た目も変わらない。ぱっと見ではまず見分けがつかないだろう。
しかしイース米はアース人にとって毒である。
食べさせると麻薬と似た症状を発揮する。中毒性も強い。一度食べさせると禁断症状が出てしまうのだ。
このことを阿久竹が完全に把握したのは『鳥黐作戦』の時である。
ホームレスが作戦中に鳥黐に集まってしまったのは、前日に鳥黐を食べさせてしまったからであった。
イース米はアース人にとって中毒性があることを阿久竹は知っていたのだが、作戦実行までの時間の無さと焦りとから、ホームレスにイース米を原料とした鳥黐を食べさせることで彼らに無理やり手伝ってもらったのである。
この時、阿久竹はアース人が食べられるようにイース米を中和(解毒)しておけば結果は変わったかもしれない。
※詳しい内容は『二.アース人vsイース人』を参照のこと。
「阿久竹失敗した理由わかってんじゃん!」とかそういうツッコみは止めましょう!いいね?
阿久竹の考えた『イース米作戦』の内容はシンプル極まりない。
イース米をアース人の食べる米に混ぜる。加えてイース米を粉末にして世界中にばらまく。ただそれだけである。
しかし効果は絶大だろう。ハッキリいって全世界が阿鼻叫喚になる。少なくともアースの日本は滅ぶだろう。想像するだけでまさに悪夢である。
(イース米を世界中にばら撒くだけの在庫はある。イース米は麻薬と違い、まずばれないだろう。気付いた頃には既に手遅れ。中毒症状でまともな思考ができないだろう。その隙をついてイース人の全戦力をつぎ込む。・・・最低だ。最低最悪な作戦だ。戦争に卑怯も糞もないと言うがこれはさすがに出来ないな。)
阿久竹はこの作戦を考えた自分自身をけなしていた。
しかし阿久竹は知らないが、彼の他に同内容の作戦を考えた人物がいた。
その人物は『イースレイ』である。
イースレイは阿久竹とは違いこの作戦を実行しようとした。しかし、実行直前になってこの作戦を止め別の作戦へと切り替えたのだ。
作戦を止めた理由はこうであった。
「アホ過ぎた。私自身が勝ちを急ぎ過ぎたのだ。戦争に美学を求める奴はアホだと私は思っているが、それ以上に私がアホだった。だから止めたのだ。」
自分の黒歴史ともいえる作戦を思い出し阿久竹は少し憂鬱になってしまった。しばらく憂鬱になっていたが、気合を入れ直し自分の両頬を両手で思いっきり叩いた。そして湯船に頭を沈めた。
(しっかりしろ阿久竹次郎!『イース米作戦』も立派な作戦だ!ただ間違えている作戦なだけだ!別の作戦を考えるんだ!憂鬱になってる暇なんてないぞ!)
そして湯からあがり、脱衣所で服を着替えた。
宿の待合室に向かうと既に六華が待っておりコーヒー牛乳を飲んでいた。
「遅いであります隊長殿!待ちくたびれたであります!」
「スマン、スマン。それより良いモノ飲んでるな。俺の分は無いのか?」
「こちらであります!」
そういって六華は阿久竹にコーヒー牛乳入りのビンを渡した。
「サンキューな。」
ビンはキンキンに冷えており、ひんやりして気持ち良かった。
阿久竹は先ほどの嫌なことを心の奥底に飲み込むかのようにコーヒー牛乳を一気飲みした。
「おお!さすが隊長殿!良い飲みっぷりであります!」
「よし!じゃあ次に行くか・・・いやちょっと待ってくれ。」
そう言って阿久竹はそそくさと、とある場所に急ぎ足で向かった。
その様子をみた六華は軽くため息をついた。
阿久竹はトイレで用を足していた。
スッキリしている彼であったが同時に凹んでいた。
(俺は・・・俺はやはり最低だ・・・。こんな作戦普通思いつくか?まるで悪夢だ。)
阿久竹は用を足しながら、とある作戦を思いついていた。
しかし作戦内容があまりにも最低過ぎたので凹んでいたのだ。
(この作戦は保留にしよう。成功率も低そうだしな。アハハハハ。)
阿久竹は自分のアホさに呆れながら待合室に戻っていった。