十二. 17歳、バンブーの戦闘妄想
前回までのあらすじぃぃぃぃぃッ!
百﨑夏希
秋空一歩
千石冬夜
なんと『アウトサイダー』のパイロットである3人は阿久竹の編入した『九頭龍新和高校』の生徒だったのだ!しかも3人とも阿久竹と同じクラスであった!
それはまさに信じられないほどの偶然だった!まるで漫画だった!フィクションの世界だった!イッツ・ア・ミラクルだった!
そう!まさにこの世界に神がいるなら、それは文才が無く、構成力も無く、行き当たりばったりを信条にする神だろう!
そうとしか思えないほど偶然にも敵同士が接触しているのだ!
以上!終わり!解散!
「何か用か?話があるなら短めに頼むぞ。俺は今から帰るつもりだからな。」
阿久竹は近づいてきた2人より先に声をかけた。
先に話しかけたことが功を奏したのか、2人は若干戸惑っているようだった。
「ああ、すまない。昨日の件で聞きたいことがある。少しいいかな?」
千石冬夜は申し訳なさそうに話かけた。その後ろに隠れるように秋空一歩は阿久竹の様子を窺っていた。
「・・・場所変えていいか?ここじゃ話したくない。」
阿久竹は場所変えを要求した。千石の一言で皆が静まり、こちらに聞き耳を立てたのがわかったのだ。
「構わないよ。場所は下駄箱でいいかな?今だと人が少ないからな。」
千石も皆が聞き耳を立てたのに気付いたのか、今度は阿久竹だけに聞こえるように小声で話した。
3人は教室を出て、下駄箱へ向かった。
阿久竹は下駄箱へ行く途中に2つの行動をした。
1つは草壁への連絡であった。
阿久竹は着ている学生服のボタンの1つを超小型カメラ内蔵型のボタンに変えており、また襟の部分には超小型通信機を忍ばせていた。
そのどちらか1つを起動させればもう片方も起動し、かつ、草壁に連絡がいくようにしてあった。
今回は椅子から立ち上がるときに肩を揉む仕草をして、襟の通信機を起動させた。
(ちなみに草壁も同高校に編入しており、2年4組に所属している。)
2つ目は戦闘準備であった。
マヌケなイメージが付いてしまっている彼だが、こと戦闘力にかけては高い。
腐っても軍人である。一般人に負けるなどまずありえなかった。
しかし阿久竹は2人が強いことがわかっていたため警戒した。
この教室で初めて彼らと会った時から2人が強いことがわかっていた。
阿久竹は2人が敵対組織『AWCO』の人間(軍人)であることを知らないが、長年の経験より直感で2人が強いことがわかったのだ。
もちろん直感だけで物事を理解するほど阿久竹も馬鹿では無い。
クラス全員の身辺は調査しており、2人が格闘技を習っていたことも考慮しての理解だった。
阿久竹は普段からハサミやカッターをポケットに入れているのだが、彼はそれがポケットにキチンと入っているか念のため確認した。
(この2人は強い・・・。万が一にもありえないが戦うことになったらマズイな。2対1ではまず勝てない。とはいえ黙って敗れるわけにはいかない。)
学校で戦うことなどありえないと思っていたが、阿久竹は警戒を怠らなかった。
(すぅーーー!はぁーーー!すぅーーー!はぁーーー!)
阿久竹は気づかれないように独特な呼吸法を実施した。この独自の呼吸により自身の眠れる筋肉を呼び起こしたのだ。
加えて肩をならした。ゴキゴキという音が肩から鳴った。
身体準備が整ったので、次に戦闘イメージを膨らませた。
2人の攻撃のかわし方とカウンターを考えた。
挟み撃ちにあった時の対処と逃げる算段も考えた。
仲間を呼ぶセリフも考えた。
勝った時の決め台詞も考えた。
負けた時の言い訳も考えた。
戦いが周囲にばれた時の言い訳も考えた。
女の子からの声援を受け止める際のポーズも考えた。
今日の晩飯も考えた。
学校帰りに買う食材も考えた。
夜見る映画のことも考えた。
木曜洋画〇場を見ようとも考えた。
しかし既にあの枠が無くなっていることも考えた。
あのアホな予告が2度と見れないと落ち込むことも考えた。
そもそも今日が水曜だということを忘れていたことも考えた。
風呂に浸かっているときの下手な鼻歌も考えた。
寝る前の妄想も考えた。
将来設計も考えた。
家は平屋で犬を飼い、美人の奥さんにかわいい子供。
自分は国のために働く軍人。
まさに完璧だった。完璧なまでの戦闘イメージだった。
天才としか言えないイメージだった。
(よし!では行くか!)
阿久竹は2人とともに意気揚々と下駄箱に向かった。