十.ノンストップ・イースフル その三
「阿久竹よ。お前には最後まで走りきってもらう。立ち止まることは許さん。たとえ1人になってもだ。よいか?」
「・・・はい。わかりました。」
「よし。ならばお前たち、イースフルは好きに行動してよい。許可する。」
「よろしいのですか?」
「お前たちの考えは正しい。まともに戦っても勝ち目がない。それは前々から私自身が思っていたことだ。もし、イース・アタックの他の支部が文句を言ってきたら私が黙らせる。その責任は私がとる。だからお前たちは好きに行動するがよい。」
「ボス・・・。ありがとうございます!」
「うむ。では検討を祈る。話は以上だ。」
そう言ってイースレイは電話を切った。
イースレイ・・・阿久竹の上司で正体不明の超お偉いさん。イースレイは誰よりもイースフルを信頼する偉大なアホであった。
イースレイの話が終わると、メンバーは次々と無言で通信手段を切っていった。そんな中、メンバーの2人が阿久竹と弥生に言葉をかけた。
「阿久竹。弥生。気付いてやれなくてすまなかった。許してくれ。」
「阿久竹さん。弥生さん。何があっても俺は2人についていきます!」
草壁と笹岡はそう言うと通信手段を切った。
笹岡翔梧・・・イースフル随一のダメな子で熱血タイプ。彼は阿久竹と草壁、弥生の3人を兄と姉のように慕っていた。
メンバー全員が電話を切った後、阿久竹は空を見上げた。
天気は雲1つない蒼天だった。
その時彼の頭の中にあるセリフが思い浮かんだ。
「あの蒼空、極はいずこであろうのう。」
蒼天を見た阿久竹は某名作漫画に出てくる軍師のセリフをそのまま呟いた。
このセリフを言った軍師のような人物に阿久竹は一生なれないだろう。
足元にも及ばないだろう。
でも一歩でも近づきたいと思った。
彼はその軍師のようにこの後すぐに死ぬ運命ではない。
彼はまだまだ生きるのだ。生きて人生を楽しむのだ。
阿久竹次郎は決意を新たにアジトに向かい足を踏み出した。
その様子を隠れて見ていた梅林弥生の頬に熱いモノが流れた。
阿久竹次郎・・・イース特殊部隊『イースフル』のリーダー。イースの未来のために彼はこれから先もアホな作戦を考え続けるのであった。
同時刻とある遊園地にてAWCO福岡支部長の補佐官、春波灯音は3人のパイロットを出迎えしていた。
「お疲れ様でした。今日も見事な働きでしたね。」
そういって彼女は3人をねぎらった。
百﨑夏希
秋空一歩
千石冬夜
彼らはAWCO福岡支部の切り札、巨大人型ロボット『アウトサイダー』のパイロットたちである。
彼らはイースたちの追跡作戦をものともせず(気づきもせず)に悠々と基地に帰還してきていた。
「灯音さん。お疲れ様です。わざわざありがとうございます。」
3人のリーダーである女性、夏希が代表で答えた。
ちなみに彼女がリーダーに選ばれた理由はジャンケンで負けたからである。
「皆が無事で何よりです。支部長がお待ちですのでこちらへどうぞ。」
そう言って灯音は3人を奥の部屋へと案内した。
案内した部屋は会議室で部屋の真ん中に円卓のテーブルがあった。
そこに1人の男が座っていた。
男の名前は黒帯鉄心。AWCO福岡支部の支部長である。
案内された3人と灯音は席に座った。
「ご苦労だったな。では反省会を始めるとしよう。」
「「はい。」」
鉄心の言葉に全員が返事をして反省会を始めた。
とは言えそれは形だけの反省会でいつも適当な世間話をして終わる。
イースフルは彼らになめられていた。
AWCO福岡支部にとってイースフルは自分たちの手柄を立てさせるためのカモに過ぎなかった。
現にイースフルを撃退する功績を称えられ、AWCO福岡支部の予算は大幅に上がり、鉄心の発言力も日本国内で大きなモノとなっていった。
また、イースの日本侵略の起点が福岡になっているということで、日本の戦力を九州に集結させる計画も検討されていた。
より厳しさを増す福岡という地で戦うこととなったイースフル。
彼らを待ち構えるのは希望か?それとも絶望か?
イースフルの運命やいかに!
第一章 完