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吸血鬼お姉さん(Ⅱ)

 オーレリアの妖しげな術により身動きの取れなくなったヒメ。このピンチをヒメは一体どう切り抜けるのか。


「あの、お仕置きといいますけど、私怒られることしたかな~と・・・」


「自覚無し。減点3」


「何を採点されているんでしょう!?もしかしてあれですか!嫁姑バトルというやつですか!?」


 そうこうしている間にオーレリアの背後で漆黒の雷球がばちばちと音を立てていた。ためにため続けて放たれるタイプの術だ。彼女の怒りを表していたりするのだろうか。


「義姉を義母扱い。減点20」


「・・・・・・・・」


 百点満点だろうか。減点が割と常識的な範囲で大きい。沈黙は金。


 黙りこんだヒメとは逆に、そこで初めてオーレリアは立ち上がり動きを見せる。そして柔らかな雰囲気そのままにヒメに近づきヒメの顔に手を触れる。唐突な接触にヒメが身を固くする中、彼女は焦らすようにゆっくりとヒメの肌をなぞり唇をねっとりと弄る。


 女同士で特に嫌悪もないが、なんと言うか・・・・・エロい。


「この状態になってること自体、まずいと思わないかな~。私の心ひとつで君を魔物に凌辱させたり、君を人質にオーマに死を強要したり~。やれることはいっぱいあるんだよね~。オーマを守りたいならさ~この状況が駄目なことには気づこうよ~?」


 ヒメの顔中をぺたぺた触りながらオーレリアは問題点を指摘する。


 確かに言われてみればまずいのかもしれない。だがそれは相手が見も知らぬ相手だったならの話。今ヒメの目の前にいるのは。


「そんなこと、お義姉さんはしませんよね?」


「・・・・・・・」


 そんな問いかけにオーレリアは笑顔と無言で返す。


 それに対しヒメも笑みをもって返す。


 そんなヒメの頬をオーレリアは左右にむにょーんと引っ張る。


「いひゃいれしゅ」


 ぱっと手を離すとヒメの頬はふよんと元に戻った。


「君が私たちの何を知ってるの?私たちが裏切らない?君にとってそう判断できることが何かあった?」


「オーマが信頼している人たちを私が信頼しないはずないじゃないですか」


 雷球が輝きを増す。


「自分が死の瀬戸際にいること、自覚してるのかな~」


「してないです」


 きっぱりはっきり言ってのけられる。こうまで言われるとオーレリアもいっそ雷球をぶつけてやりたくなるのだが。


「うん、もういいよそれで。問題はオーマの方だから」


 オーレリアは雷球を消す。どうせこれに怯えてくれる相手でもないのだ。


「合格ですか?」


「不合格だね~」


「再試験を!!」


 それを聞き入れたのかそうでないのかオーレリアは話を続ける。オーレリアの手は今度はヒメの耳をふにふにと弄りはじめる。くすぐったい。会話よりむしろそっちに熱心な気がするのは気の所為であってほしい。


「守りたいっていうから忠告してあげる。オーマを一人にしちゃ駄目。オーマの悪癖であり弱点は一人で解決しようとするところ。今回なんていい例だよ。いくら魅力的だからってのこのこ一人で魔族のお姉さんについてきてさ~。やりたい放題だよ」


「困ったものですね」


 うんうんと心の中で頷くヒメ。オーレリアについていったことではなく、一人で何でもやろうとすることに対してである。そんなヒメにオーレリアは最早何と言っていいか分からないという目を向ける。


「君も、何を、一人で、のこのこやってきてるのかな~?もう一人いたよね~魔法使いの女の子~、何で一緒に来ないの~」


――つんつん


「あう、あう」


 額をつつかれてなす術もないヒメ。これが・・・お仕置き・・・!


「うちの最高戦力の二人がそんな単独で突っ走るような馬鹿じゃ困るの、わからない?」


「わかります。ごめんなさい」


 自分がちゃんと戦力として計上されていることにこっそりヒメは安堵する。


「はあ~。現在オーマを中心とした勢力の最大の弱点はどこでしょう」


「オーマです。守ります」


 そんなヒメの回答にオーレリアは再び呆れた視線を向けてくる。


「君なの。君が最大の弱点なの。聖剣を持たない。催眠魔法で眠っちゃう君が一番狙いやすいの。今だって私がその気になれば簡単に殺せちゃうの。それが一番困るの」


――つんつん


「あう、あう」


「オーマは生き返るし、オーマの仲間が死ぬのも構わない。四天王の一人や二人消えようがそれすら構わない。その中で君の立場、自覚してる?君が傷つくと約一名の士気がどんぞこに落ちて一発で終わるのわかってる?」


 弱点。そうか、弱点は自分だったのか。これはしまった。怒られても仕方がない。全く自覚していなかった。


「それは、今理解しました。はい。でも誰も消えてほしくないです」


 一応理解はした。だがヒメに限らず身近な誰かが傷つけば約一名の士気は確実に落ちる。それも確かだ。

 オーマの仲間も、魔族の皆さんも、リアン城の皆も、誰一人として死なせない。それがどれだけ大変なことなのか正直わからない。でも分からないほど大変なことだからこそ、オーマと成し遂げたい。


「オーマを守りたいなら、まず最低限自分の身を守らないと話にならないの。君とオーマは絶対に離れちゃ駄目。わかった?」


 そのためには自分とオーマがまず無事でいなければならない。当然だ。当然だからこそ、時として見えなくなる。でもオーレリアはそれを言ってくれる。それはつまり。


「お義姉さん公認でいちゃついてオーケーということでしょうか?」


「そういうこと」


 なんと合っていたらしい。面倒になって投げたのでは、とは思わないでおく。


「それと最低限連携しなさい~。何なのあのゾンビーズとの戦いは。二人して別々に戦って何の利点があるの~」


――つんつん


「あう、あう」


 なんか、お姉ちゃんだ。私たちを心配してくれている。姉がいたらこんな感じだったのだろうか。だがそんな義姉妹の心温まる雰囲気に流されず言っておかなければならないことがある。


「ゾンビを操ってたのオーレリアさんですか?」


「そうだけど?」


 あっさりと魔族が魔物を操れると言う真実が明かされる。だがそれよりも優先して言うべきは。


「ゾンビはやめてください。苦手です」


「減点5」


「何故に!」


 女の子として当然の訴えだと思ったのに。


「それとね。もう一つ。オーマの暴走のことだけど」


「あ、私も聞きたかったです。あれってよくあることですか?」


「それが今まで一度もないんだよね~」


「え?」


「原因は間違いなく大切な子が傷つけられたからだろうけど、いつもなら冷静かつ冷淡に最大火力を以て殺すだけだろうに」


 それは暴走していないだけでやることは同じなのではないか。


 大切な子。あの状況ならクロちゃんのことだろう。結局オーマとクロはどういう関係なのだろう。家族として紹介されなかったということは家族では無いのだろうが。


「でも今は制御が効かなくなっている。なんでだろうね~」


「・・・・・・・・」


 それについては・・・何故なのだろう。一番に思い当たるのは記憶の有無だが・・・。

 どうしてか、それが理由ではない気がした。


「暴走させたくないなら、本気で、誰一人傷つくところを見せない方が良いよ」


「難易度高いです」


 傷つくってどの程度をいうのだろう。やっぱり戦闘不能だろうか。それならまだ防ぎようはある。とはクロちゃんが傷つくのを見過ごしてしまった手前、言う気にはなれない。


「そう言う意味でも君は弱点だから。とにかくオーマから離れない。わかった?」


「・・・はい。そう言えば私オーマの傍にいるって言ったのに離れてました。これじゃダメですね」


 そんなようやく自覚してくれたのか落ち込むヒメを見てオーレリアは肩をすくめる。そしておもむろに手をヒメの装備の下、隠された双丘へと這わせた。


「うひゃい!?・・・・・な、何故に!?」


「ん~?スキンシップ?アーリアとしたんでしょ?私ともしてよ~」


 腕を上げることすら出来ないヒメにオーレリアの魔の手が襲いかかる。身をよじりたくても、それすらも敵わず、ただなすがまま。


「ちょ・・・あんっ・・・のですね・・・立場逆です!・・・・私がしたいんです!」


「残念、それはちょっと私の趣味と合わないかな~。どう?身動き取れない状況で好き放題やられる気分は~?」


「~~~~。あまり喜べるものではないです!」


「そう?私は結構楽しい~。女の子がなすすべもなく羞恥に悶える様って・・・いいよね~」


「同感ですけど!!んっ・・・・だ、誰の許しを得て・・・こんなこと・・・・うう」


「オーマ~」


「!?」


「ってアーリアから聞いてる」


「それ多分私怨が入ってます!騙されないでください!!」



 正確にはオーマの命令は「ヒメをよろしく頼む」


 アーリア的解釈は「親交を深めろ」


 ヒメいわく「過剰な愛撫は仲良くなるため」


 結論「親交を深めるためにオーレリアさん、ごーです」

 ↑new



「まあ、そうだろうね~。でも、オーマって聞いた瞬間、嬉しそうになってなかった?」


「なって・・・・ないです!」


「下、行ってみる?」


「行きません!!」


 まとわりつくオーレリアの手が、胸を離れどこか危険な場所へ移動する前に、最後の力を振り絞りヒメは彼女ごとその手を振りほどいた。


「あ・・・解けました」


 ヒメを縛っていた何らかの力が消えていた。


「そう長くはもたないか~」


 ピンチは終わりを告げた。


「もう・・・・行っていいでしょうか」


 無駄に疲れた感がある。S極とS極はくっつかない。が自分でも言う様にあくまでスキンシップである。親交を深める行為を怒る気はないしこれで仲良くなれたのなら何も言うことはない。だが名残惜しいが忠告通り、今はオーマのもとへと。


「あ~待って待って、まだ最後の手段があるから~」


「・・・・・・・・・」


 あれ、今までの話、オーマの傍にいるようにという忠告じゃなかったっけ?ん?


 何故かまだ足止めされるらしかった。








「オーマの・・・・話・・・?」


 オーレリアが切り出した最後の手段。それは最も効率的にヒメのゲージを削っていった。


「うん、折角できた義妹とオーマの話とかしたかったんだよ~。格好いい武勇伝とか、恥ずかしい話とかいろいろあるよ~」


「・・・・・・・」


 オーレリアのそのあっけらかんとした誘いにヒメは悔しそうに歯噛みする。まさかこんな手があったなんて。完全にこちらの手を封じられてしまった。これではなす術がない。抗うことが出来ない。


 オーマは見栄っ張りなところが有る。普通の話なら後々してくれるだろうが、恥ずかしい話となると大幅に削られたり改竄されかねない。


(それでも・・・。私は、オーマを・・・!)


「あ~。今回逃したらきっと私話す気なくなっちゃうな~。今だけのチャンスだったのにな~。きっとアーリアやイーガルは話さないだろうな~」


「ぐ・・・・う・・・・」


 ヒメは戻りたそうにしている。着実にダメージを受けていた。削られているのがどういうものなのかは余人には察することはできない。


「実はオーマを殺してるって言うのも嘘で、ほんとは娘と遊んでもらってるだけなんだけどな~。本当は時間いっぱいあるんだけど、行くっていうなら止められないしな~」


「・・・むすめ・・・・本当ですか?」


「本当だよ~。これでも一児の母だからね。楽しませてあげたかったんだよね~。ほら、オーマって子供に好かれる性質だから~」


 ヒメは一歩、オーレリアの方へ踏み出した。そしてそれを見てオーレリアは思う。


(ああ、これはなんというか・・・ちょろい)


「・・・そういうことなら・・・・・・私・・・オーマを信じてます」


「ん~?」


「女の子なら確実に落としてくれるって!!」


「ん・・・・」


「だから、是非オーマの話を詳しく!!」


 ヒメはオーレリアの前に膝を屈した。話をする気満々だった。


(なんか・・・まあ、いいか~。確かにオーマなら落としちゃうかも・・・だし・・・・)


「・・・・・・・」


(・・・・・・・・・・・洒落にならないなあ)


 母親として中止すべきか珍しく本気で悩むオーレリアであった。結局、まあ良いかと放置することにした。










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