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第八話 四天王

「・・・・・!!」


 目が覚めた。朝だと思う。といってもあたりは真っ暗だが。


 何か嫌な夢を見ていた気がするが、思い出せない。


 思い出せないものは仕方がないと頭を切り替える。例の擬似太陽を打ち上げるため、起き上がろうとする。が、うまくいかない。


(両腕が・・・重い?)


暗闇に何も見えないまま異常の正体を探る。


――むにゅん。


 右肘から何か柔らかいものを押し潰す感触が返ってくる。


(ん?なんだこれは。今まで感じたことのない感触だ。・・・だが不思議とずっと触れていたくなる)


 よく調べようと態勢を変えると、


――ぺたっ。


 今度は左腕の方から柔らかいものに触れる感覚が返ってくる。


(この何の反発もない、それでいてわずかながらに感じる柔らかさ。これには覚えがある。これは、アーリア・・の・・・)


 ここへ至りようやくオーマも気づき、同時に昨夜の記憶がよみがえる。


「そういやそうだった。てことは、こっちは」


――ふにょん。


「・・んぁ・・・・お~ま~・・んー・・」


 誤って、再び腕が触れてしまう。ヒメは反応し、しかしなぜか先ほどより強く腕に抱き付いてくる。


――むにゅーー。


「・・・・・。」



 三十分のち、アーリアが目を覚ますまで、俺はベッドを離れることができなかった。




 アーリアは夜目が効く。アーリアは俺に声をかけると同時、引っ付いているヒメに気づき引っぺがしてくれた。俺はこれ幸いとベッドを抜け出す。起きたばかりを装ってアーリアにおはようと言いながら、擬似太陽をようやく打ち上げた。


「珍しいですね、私の方が先に起きるなんて」


 アーリアは仕事時を除いて、よく眠る。俺より早く眠り俺より遅く起きるのが普段だ。しかし寝入りも寝起きも良いため、怠惰なイメージはない。


「ああ、まあそんな日もあるだろう」


 何事もなかったと誤魔化す。何もなかった、何も。

 アーリアは俺と話しながら、ヒメも起こしてくれていた。こんなところでも働き者だ。


「ふぁ~。ふふぁりとも、はやおひだね~」


 欠伸をしながらも、肩紐が外れワンピースがずり下がっている様は正直色っぽい。


「お前は何を言ってるんだ」


 ヒメの奇声に疑問を呈す。


「ふにゅーーおやすみ~~」


「寝ないでください」


――むにゅーん。


 アーリアがヒメの頬を引っ張る。伸びる伸びる。


「いひゃい、いひゃい」


 アーリアはいつもこうやって寝起きの悪いイーガルを起こす。だから特にヒメに他意があるわけでは無い。無いはずだ。


 ヒメが目を開けた。


「アーリアちゃんだーー」


 アーリアを認めたかと思うとひしとアーリアを抱きしめる。


「ひっ!?」


――もふもふもふもふ。


 これはまずい。アーリアのためにも緊急の対処が望まれる。


「ヒメ!待てっ!!!」


「ふにゃ!」


――ピタッ


 止まってくれた。


「よし、そのままだぞ、そのまま」


 硬直するヒメから何とかアーリアを救出する。可哀想にガクブル震えている。折角慣れてきたところに手痛いしっぺ返しだった。


「うう~~~、魔王様~~~」


「あーよしよし、怖かったな」


「私は悪魔か何かですかっ!」


 ようやく目が覚めたのかヒメからツッコミが返って来る。


「胸に手を当てて考えてみろ。それに魔族にとっての勇者って、悪魔みたいなものじゃないか?」


「確かにっ!」


 目を><にして叫ぶ、寝起きだからかテンションおかしいな。


「でもフォローしてくれたっていいじゃないですか!昨夜のことは嘘だったんですか!?遊びだったんですか!?」


「今それは関係ないだろ!」


 変なところへ話が飛んだ。


「昨夜のことってなんですか!?私が寝たあとに何かあったんですか!?」


 アーリアまで加わり狂騒が大きくなる。


「いや、あったといえばあったが、アーリアの気にすることじゃない。あ、アーリアに関係がないってわけじゃなくてだな」


 涙目になっているアーリアにしどろもどろに返す。勘弁してくれ。




 そんなときだった。イーガルがノックもせずに俺の部屋に入ってきたのは。


「オーマー、こっちにアーリア来てるかー?何か撤退の・・・・」


 イーガルは入るなり硬直する。そして、


「アーリアを泣かせんじゃねーぞ」


 それだけ言って出ていった。


「「「・・・・・・。」」」


 鍵、つけようかな。





「ほら、これもってけ」


「これって・・・え゛」


 ヒメに渡すのは魔王城にあったアイテム。エリクサー十数個。体力、魔力の回復はもちろん、万病を癒すという霊薬だ。聞いた話では一年に一度、世界のどこかで一輪だけ咲く花からとれる蜜だそうだが、なぜか大量にあった。


「いいの?」


「ああ」


「じゃあ、ありがとう。大事に使わないで大切に一生、保存しておくね」


「使ってくれ。頼むから」 


 言ってることがおかしいぞ。


 ここは人族の町のはずれ。これからはヒメと別行動になる。ヒメにはこれから、例の作戦の為に勝利の噂を流してもらったりする。しばしの別れだ。


「じゃあ、あとは頼んだぞ」


「はい!それではオーマ」


「?」


――ちゅ


「!?」


「お別れの挨拶です。にへ~」


 口づけをしたヒメはステップを踏むように離れた後、俺に笑いかける。


「では、行ってきます」


「・・・おう」


 振り返って去っていくヒメの後ろ姿に、何とか返事をして、見送った。





 魔王城へと戻り、


 食堂には今、俺と四天王が集っていた。話しているのは、突如出された撤退命令のことだ。アーリアを問い詰めに来たところを俺が引き受けた。



「で~、魔王様はなんで、いきなり撤退なんかさせたの~?」


 のんびりとした声で訊いてくるのは、四天王の三人目、女性の吸血鬼、オーレリア・ヴァン=サタン。

 黒いドレスをまとい、妖艶な雰囲気をただよわせる。あと、胸がでかい。ヒメとは対照的な銀の長髪は、静かな輝きを持ち、月を連想させる。瞳にともる炎のような赤は、口調通りのんびりした彼女の性格とはギャップを感じるほど激しく色を放つ。

 見た目は俺より少し上、位だが正直年齢不詳だ。吸血鬼は望めば体の年齢を若く維持できるらしい。ちなみに俺は会ったことがないが子供がいるそうだ。


「まあ、そう言いなさるな。マー坊にも何か考えがあるのじゃろうて」


 そうなだめるのは四天王最後の一人、龍爺=サタンだ。

 節くれだった体に白髪。一番の年長者で老人の姿こそとっているが、正体は龍だ。俺も存分に頼りにしている。

 いつも俺たちを見守り、目を細めてしわを深くして笑う姿は、まさしく好々爺といったところだ。怒ることはほとんどないが、かなり昔、悪戯であご髭を引っ張て見たところ、ブチギレされた。あのときはヤバかった。何がいけなかったのか。


「その考えも、今説明なさる。のう、マー坊」


 尋問するのはオーレリアと龍爺、前線に出ていた二人だ。


「ああ、そのつもりだ。と言っても深い理由はない。単にこれ以上続ければ負けると確信した。だから撤退させた」


「筋は通るけど~、負けるって根拠が気になるかな~。私たちが出向いてたのに負けると思ったんだ~?」


 と責めるようにオーレリアが言う。当然だ、俺自身そんなこと言われても信じられなかっただろう。勇者に負けた俺でなければ。

 そう、実際に負けてしまったのだ。我が軍は。


「お前たちもアーリアから聞いているだろう。勇者が現れた。あれには勝てる可能性が低い。魔族への犠牲を考えればここで退くのが上策だ」


「ほう、勇者ですか。遥か昔、当時の魔王を殺し、人魔戦争を終結させたのは勇者という存在だったそうですが。ふむふむ、それで、マー坊はご自分でその者を確認されたのですかな」


 感嘆の声をもらす龍爺。彼の実力は俺に次ぐ二位、さらに彼の見識は俺をはるかに超えるだろう。その龍爺にとっても俺がそこまで言う勇者の存在は意外だったのか。

 勇者は以前にも現れたことがある。その事実には驚いた。人間の単なる実の無い伝説だと思っていたが。


「ああ、昨日な」


 以前の世界のことをみんなに言うつもりはない。あれを無かったことにするために俺は行動を始めたのだから。


「へ~。それはそうと魔王様~」


 オーレリアは俺の話に、態度を変えることもなく続ける。この件についてはもういいのか?こいつも同じ目的のため、すべての魔族を救うべく集ったはずなのだが、能天気すぎないか。


「今日の朝~アーリアともう一人、女の子を侍らせて三人でお楽しみだった~っていうのは、ほんと~?」


「えっ!?」


 アーリアが反応する。


「もしかして、その女の子が~勇者だったりしない~?」


 す、鋭い。ほわほわしてるのに、予想外の鋭い質問だ。むしろこの質問が本命だったのかというほど、こちらをじ~と見つめる。てか、誰に聞いた。


「イーくんが動揺してた~。で~訊いてみたら、三人でいちゃいちゃしてた~って」


 イーガルだった。目を向けると、イーガルは顔をそらす。アーリアを心配するのはわかるが、言いふらさないでほしかった。


「いちゃいちゃなんかしてませんっ!!」


 さっきまで黙って聞いていたアーリアが口をはさむ。真っ赤になっている。しかし、アーリア、それは誘導尋問だ。


「ふーん。私たちに内緒で~魔王様の部屋に~女の子を連れ込んだのは否定しないんだ~」


「うぐっ」


 アーリアは昨日かららしくない。体調が悪いのだろうか。


「もしかして魔王様~、その女の子にたぶらかされた~?」


「い、いや・・・。」


 半分事実なだけに、否定しづらい。


「ほっほ、黙ってしまうということは図星・・・ですかな」


 龍爺の薄く開いた目が鋭く光る。


「ちっ、違う!これは間違いなく俺の意志だ!」


 誤解されては堪らない。何としてでも戦争は止めなければならない。しかし既にオーレリアと龍爺二人の反応は――




――ニヤニヤ


 想定外のものになっていた。




「は?」


 なんだこの空気は?詰問のとげとげしい空気は雲散霧消し、和やかな空気がとってかわる。


「そっか~。ついにオーマもそういうことに興味を持つようになったか~」


 オーレリアはしみじみとつぶやく。


「ええ、ええ。いつまで朴念仁なままでいるつもりか恐れておりましたが。ついにマー坊にもおなごに現を抜かす年頃の感情が。ほっほ、涙が止まりませんな」


 そういって龍爺は本当に涙を流している。


「お前ら、何を?」 


 今まで魔王軍の進退について話し合っていたじゃないか。問い詰めてきたじゃないか。

 俺の戸惑いを無視して、二人は続ける。


「アーちゃんも、頑張らないとね~。強敵出現だよ~、しかも勝負がつきかけてるし~」


「~~~~っ!!!」


 アーリアは言葉にならない声を上げる。いや俺とアーリアはそういう関係じゃないから。


「ほっほ、わしもアーリアを応援したいのですがな。それで、そのおなごは本当に勇者なので?」


「ああ、そうだよ。」


 俺は諦めの境地で答える。

 ああ、わかっていたよ。こうなることは。こいつら相手に真面目な話をしようとした俺が馬鹿だった。


「ほう、では禁断の恋、というやつですな。心躍るのう。もちろんマー坊のことも応援させていただきますとも」


「がんばれ~、おーまー」


「もう、お前ら黙ってろ!とにかく魔王軍は人間領から手を引く。和平は軍の総意だ!いいな!」


 まったく・・こいつらは・・・。


 二人はいまだニヤニヤしていた。俺は無理矢理、事情説明を終了した。


「して、その勇者は、今いずこに?保護者として一度会っておきたいですな」


「私も会いたい~」


 無視して食堂を立ち去った。





 オーマが食堂を出ていったあとをアーリアがイーガルを引っ張りながら追いかけていった。しかし食堂では二人の会話がまだ続いていた。


「からかい過ぎたかな~」


「まあ、ああでもしませんと、面倒くさいやり取りをさせられたでしょうな」


「オーマの決断に逆らうわけないのにね~」


「まったくですな」


 一言命令すればそれで十分なのに。


「それはともかく、勇者、ですか」


「結局、一度も否定しなかったね~。恋、しちゃったか~」


「人を見る目はあると思いますが、恋は盲目と言います」


「私たちがフォローしないとね~」


「ええ、そのためにも早く紹介してもらいたいものですな。ほっほっほ」


「ね~」


 その後、二人は別々に、食堂を出ていった。自らのやるべきことを確信しているかのような確かな足取りをもって。








「たくっ、あいつらは何かにつけて俺をからかいやがる」


「あの、申し訳ありません。イーガルも叱っておきますので」


 後からついてきたアーリアが本当に申し訳なさそうに言う。


「あ~いや、お前らは良いんだよ。イーガルには口止めもしてなかったしな」


 正確には呆然として口止めする暇もなかった、だが。


「それより、和平を結ぶためにも、お前らのこと頼りにしてるぞ」


「はい!」


「おうっ!・・・でも俺がすることなくね?」


 きびきびと答えるアーリアは全軍を統率する立場と実力があるが、イーガルは・・・


「お前の料理はみんなの力だよ。今朝の飯もうまかったぞ」


「そうです、イーガルはえらいです」(なでなで)


「しゃ、しゃーねーな。お前らがそこまで言うなら。仕方なくやってやるよ」


 相変わらず、ほのぼのさせてくれる奴らだった。




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