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第二十三話 剣気解放

 対戦相手の彼には八つ当たりのようなことをしてしまい申し訳なかった。だがもう大丈夫だ、正気を取り戻した。


 試合が終わり一息ついているとやがて残りの試合も終了したようだった。


 気づけばこちらで勝ち残ったのは俺一人だ。次の試合の為に待機室替えが行われた。運営サイドの指示に従い誰かが来たのだろう、廊下につながる待機室の扉が開かれた。


 入ってきたのはヒメだった。


「オーマ、一回戦突破おめでとうございます」


 ヒメは祝いの言葉を口にしながら、長いすに座っていた俺の隣に隙間なく詰めて座ってくる。


「ん、お前もな」


「オーマの愛を感じました」


「気のせいだ」


「またまた~」


 いつも通りのヒメ。緊張などとは無縁そうだ。


「・・・・・・ところでヒメ、さっきクエストとやらが発生してな。指輪をおっちゃんに渡すことになった」


「それはオーマがおっちゃんに求婚するということですか?嫌です」


「違うに決まってるだろ。深刻な理由があっておっちゃんは指輪を手に入れなければならない境遇にあるんだ。きっと大切な女性にプロポーズするためには弟さんのプロポーズの背を押してからでないと無理な自己制約に縛られているんだろう」


 そう、結論付けた。


「変な境遇ですが、そんなものですか」


「ああ、きっと」


「別にいいですよ。もともとオーマが勝てばその指輪を自由にするのが当然の権利ですし、無理に貰おうとも思っていません」


「助かる」


 ヒメが協力してくれるなら確実だ。まあ、そこまでおっちゃんに義理立てする理由も無いのだが。


「でもそれは私が勝った場合にも同じことが言えますよね」


「・・・・・・・・・・・・ん?」


「申し訳ないですがオーマ、この件に関しては私は協力しません」


 そう、ヒメは断じた。


 その時、ヒメをリングに呼び出すアナウンスが響き、鉄格子が音を立てて上がっていく。


「ちょっと待て、それって―――」


「では行ってきます」


 そう言い残しヒメはリングに向かった。


 冷汗が頬を伝った。


 それはつまり、自力で優勝しろと?ヒメがいる中で?


 ・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし」







 準決勝第一試合。


 ヒメ 対 謎の老女


「お手柔らかにお願いします」


「剣気ふりまきながら言う言葉じゃないね。さっきとは気合いの入り方が段違いじゃないか」


「勝たなければいけないので。それに、あなたは強いですから」


「まあ、いいさ。勝ちたいなら本気で来な」


「はい」


 そして幕の開けたその戦いはもはや人間の領域には無かった。人間ってあんな動きできるもんなんですね。・・・・余波で壁に穴、空いちゃうものなんですね。そんな感想を人々の心に残し、一際輝く閃光が収まった時、神々の闘争は終焉を迎えた。


 立っていたのはヒメだった。



―――勝者、ヒメ選手!



「ふん、若いのにやるもんだ」


「愛の力です」


「・・・・・・あんたもか」


 老女は疲れた様にため息をついて、リングを後にしようとする。ヒメもまた逆の方向へ歩を進める。


「あんたが勇者なのかい?」


「いえ、勇者はオーマです。次の試合で勝つかっこいい方です」


「そうか」


 背中越しにそんなやり取りをして今度こそリングを降りた。





「ヒメ、お疲れ」


「はい」


「よく頑張ったな・・・」


――なでなで


 待機室に帰ってきたヒメの迎え、頭を撫でる。


「ええぇぇぇ」


「何だその反応」


「こっちのセリフです。何ですかこの夢の国対応は。滅茶苦茶嬉しいです」


「撫でたぐらいで大げさな。それでさっきの話なんだが」


「ああ・・・・じゃあ、向こうの待機室行ってきますね」


 言葉の途中でヒメは聞く耳持たずとばかりに身を離した。


「は?何で?」


「・・・・ここにいたらオーマの色仕掛けに落ちそうなので」


 ヒメはそのまま普通の扉の方から出て行ってしまった。


「色仕掛けて・・・」


 ばれてしまった。どうしたもんか。


 それとは別に珍しく疲れているように見えたからなのだが。気のせいだっただろうか。







「西コーナー、剣の腕は未知数!流浪の冒険家、オーマーーーー!!!!」


 先ほどは考え事をしていて目に入らなかったが結構な数の観客がリングの外、観客席から囲んでいた。それが俺の入場と共に歓声を上げる。勇者であることは隠している。わざわざ名乗ってまで負ける姿をさらす気はない。それでも歓声が上がるあたり興業としては成功しているのだろう。


「東コーナー、変な人ー!リン=クロスフォードーーーー!」


 リングの上に立つ俺の前には、


「ふっ、君も不運だな。僕と当たってしまうだなんて」


「・・・・・・」


「だが、安心すると良い。僕に負けたところで責めるものはいやしないさ。なんたって僕は愛の戦士!なんだからね」


 変な人が来てしまった。


―――変な人が現れた!


 金色の長い髪、常に微笑をたたえ、しかし先の戦いで受けた傷かその口元には血がにじんでいる。白を基調とした軍服のような身なり、金のひらひらがついている。そして変な言動。スルーしたいタイプの人間だ。


 よく考えればエンゲージリングをこんな形で得ようとする奴らに碌な輩がいるわけが無かった。自分で買えよ。



――試合開始!



 剣を構える。向こうはただ無造作にレイピアを手にぶらさげていた。髪をかき上げながらの余裕の表情だ。


「いつでも来ると良い。先手は君に譲ろう。僕からのせめてもの情けだよ」


「なら遠慮なく・・・」


 お言葉に甘え最低限の警戒をしたまま、彼のものに駆け寄り剣を振り上げる。振り上げられらた俺の剣に動じることなく爽やかな笑みを浮かべ続ける変な人。いや、こめかみがひくついている。


「『裂塊』!!」


―――21のダメージ!


「ぐはあっ!!!!!!!!」


 本当に何もせず吹っ飛んでいった。爽快感。いいな。この感じ。


「や、やるじゃないか―――あうっ!!!」


―――7のダメージ!


 ゆっくりと立ち上がってくる愛の戦士に最後までしゃべらせることなく追撃をくわえる。


「はあっ!」


「この僕が本気で―――ぐはあ!!!!」


―――20のダメージ!


 息つかせる暇もなく攻めたてる。吹っ飛んだ先、地面に転がった愛の戦士を再び『裂塊』で吹き飛ばす。


「あ、相手をするにふさわしいようだ。いいだろう君を―――ふばあ!!!!」


 追撃、追撃、また追撃。それにしてもタフだ。防御力が高いのか魔物と比べて与えるダメージが目に見えて減っている。しかもなかなか場外に出せない。これが実力ならまともにあたっていたら危なかったかもしれない。


「君を終生のライバルと認めようじゃないか・・・いざ尋常に―――がっはあ!!!!!」


 なんだろうこの感じは。爽快感と共に何かが溜まっていくような。そしてそれを一気に発散させたいような。そんな何かが。


「いざ尋常に・・・・勝負!!!!―――へぐあ!!!!」


――ピコーン!


 そしてそんな何かが満タンになった・・・・・・・らしい。変な音がした。


 そして溜まった何かがあふれ出る。だからそれをあふれ出るに任せるまま―――



「はああああっ!!!!」



―――解放する



 叫びが口から漏れていた。


 今までとは比べ物にならない踏み込みを持ってすぐさま相手の懐に入り込み、そして、斬る。


「げふっ!!」


―――32のダメージ!


 自分で斬っといてなんだが凄い威力だった。


「ぐっ、凄まじい剣気を放つじゃないか。見事な『剣気解放』だ。だが―――はあん!!!」


 斬る。


「ふふふ、なら僕も応えさせて―――へんぶら!!!」


 斬る。


 することは何も変わらない。斬る。その一念に剣を振りぬく。なのにその速さが威力が、鋭さが、段違いだと分かる。


 技でなくてもその一振り一振りが破壊的な攻撃力につながる。


「・・・こ、応えさせてもらおう。行くよ。『剣気解放』!!!」


 そして同じことが向こうにも出来るらしい。誰にでも出来るものなのか。とりあえず斬る。


「ここまで僕を苦しめたのは君が初めて――――ふぐっ!!!」


「とっておきの奥義で沈めてあげ―――はう!!!!」


「この時を、この時を待ってい――――へぶぅ!!!!」


 ダメージ量はさっきより下がったがそれでもやることは変わらない。ただ一念の下に。


「『裂塊』!!!!」


「ぐはああああああああああああーーーーーーーー!!!!!!!!!」


―――82のダメージ!



 そしてその何かが終息した時、愛の戦士はまだよろめきながらも立っていた。呆れるほどの頑強さだ。


「ふふふ、『剣気解放』には時間制限がある。僕より先に使ったのは失敗だったね。お返しだよ。受けて見よ!必殺の一撃!我が全身全霊を持って愛を貫く!真奥義「『緋炎豪覇』!!」――――はべらひ!!!!!!」


―――12のダメージ!


―――変な人を倒した!


「しゃべり過ぎだ・・・」


 そして愛の戦士はようやく気絶した。


 変なポージングを繰り返し中々技を繰り出さない愛の戦士にとどめを刺した。また技を覚えたらしく体が勝手に動いた。袈裟懸けと逆袈裟切りの二段攻撃、二撃目では剣身に炎をまとっていた。


 なにはともあれ勝ったらしい。


―――なかなかの経験値を得た!


―――技能『剣気解放』を習得した!


「はあ」


 無駄に疲れた。



―――勝者、オーマ選手!!!!






 しれっと観客席から観戦していたヒメと老女の二人。


「どうですか?私たちの勇者様は」


「弱いな・・・・だが」


「?」


「あれに剣を教えたのはお前か?」


「いえ、どちらかというとオーマの独学だと思います」


「ほう、にしては・・・・」


「どうかしました?」


「いや何でもないさ。それよりいいのか?次戦うのはあんただろ」


「はい~えへへ~」


「・・・・・・・」


 何を想像しているのか顔を緩めているヒメを老女は複雑そうな、呆れたような面持ちで見つめていた。





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