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第十八話 虚々実々

 『曙光』。宙に浮く光源。オーマの魔法によって灯された薄明かりがテント内を照らす。


「・・・なんだロリコンって?」


 そんな俺の素朴な疑問にヒメはこともなげに解答をよこす。


「ロリコンとは小さい女の子が好きな危ない性癖の持ち主を指します」


「・・・・・・・つまり、なんだ・・・俺がそのロリコンで・・・小さい女の子が好きだったと・・・」


 テントを照らす光が今はオーマの頬を伝う汗を光らせている。


「はい」


 ヒメは慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。そんな見るものすべてを惹きつけるような笑みで、なんて残酷な事実を告げるのだろう。


 さて・・・いきなりとんでもない事実が語られたわけだが。


―――ふーーーっと長く細い息を吐く。そして天を仰ぐ。


 取りあえず落ち着こう。そう、何も恐れることは無い。俺は無実だ。そう、そうに決まっている。


「・・・・・・・嘘だよな」


「・・・・・・・・・・」(にこにこ)


「頼むから嘘だと言ってくれ!!!!」


「ロリコンのオーマはハーレムを作ろうとしました。各地から選りすぐりの幼女を集め自分好みに教育する。その行いからついたあだ名はロリコン大魔王。そう、オーマは魔王と呼ばれる人間だったんです・・・」


 無情にもヒメは続ける。


「・・・・・・・・・・そ、んな、ばかな・・・」


 うすうす知りたくない過去があるのではないかと思っていた。だが、それが、まさかそんな、こんなにも胸をえぐる・・・残酷なものだったなんて・・・。魔族どころか・・・こんなのって・・・。


 魔王討伐を目指す俺が、魔王と呼ばれていた。なんて皮肉だろうか・・・。


「しかし、やがて、その行いは心無い村人によって密告され、人知れずロリコン大魔王は討伐されました・・・」


 心無いって・・・むしろ善良な一般村民だ。


「・・・・そうか・・・だが、それでよかったのかもしれないな・・・」


「ですが、神は、ロリコンでもいいじゃないかと、その者にチャンスを与えました」


「何でだよ!ほっとけよ!大人しく死なせてくれよ!」


「そうは行きません。なんと生き返ったオーマには勇者としてハーレムを作る使命が与えられたのです」


「何でそんな使命!?」


 魔王を倒す使命でいいじゃないか!


「というわけでオーマ?」


「ん?」


「第一号は私で良いですよね?」


「何の!?」


「オーマハーレムの」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・?」


 ヒメは何か変なことを言っただろうかと、不思議そうに見ている。


「いいわけあるか!!!」


「あの・・・私がいないハーレムは流石に認められそうにないのですが」


「そういうことじゃなくて!!!」


 何をあからさまな嘘にむきになって反抗しているのだろうか俺は。


「・・・はあ。嘘だよな」


「え?割と真実ですよ?」


「嘘だよな・・・!」


「は、はい、嘘でした」


 半ば強引に否定した俺の言葉に対して、ヒメが返したその一言。その一言に俺は救われた。良かった、本当に良かった。ロリコン大魔王なんて存在しなかったんだ・・・。


「よかった・・・・・世界はこんなにも美しい・・・」


「なんかオーマのテンションおかしいですよ?」


「誰の所為だよ!」


「ちょっとしたお茶目じゃないですか」


 ・・・・真実に紛れさせるどころか嘘ばらまいてきやがった。


「・・・で、どこまでが嘘なんだ」


「ロリコン大魔王以外全部です」


「そこだけ真実なのか!?」


「はい、ロリコン大魔王が勇者として召喚されたのです」


「・・・・・・・」


 もう、何も信じない・・・。全部嘘だ・・・。


「ああ、オーマがやさぐれてしまいました」


「てか、お前はどう関係してくるんだよ・・・なんでそのロリコン大魔王を知っている」


「ん・・・・・んー・・・そうですね・・・。オーマが女の子を集めているときに幼女の私と出会いました。一目惚れしてくれたそうです。それからずっと私のこと可愛がってくれました」


「・・・・・・被害者じゃねーか!!だいたい王女のお前とどうやって会ったんだよ!」


 誘拐だとしたら立派な犯罪者だ。相手が王女なら極刑も免れない。多分。


「そこです。私の王女という立場からオーマと私は引き離され、私は記憶すら封印されてしまったのです。悲劇です」


「まあ、嫌な過去だろうしな・・・」


 お姫様をそんな危険人物に近づけさせたこと自体大失態だ。それを考えれば当然の処置か。


 どうやって記憶を消したのかは、例のごとく考えない。


「その記憶がついこの前ようやく戻りました。感動の再会です」


「待て、何でそれであの反応になる!普通は嫌うだろ!?そのロリコン大魔王!」


 ・・・・・あれ、でもそう言えば最初は斬りかかられたんだっけか。


「嫌うわけないじゃないですか。だって、私、大好きですよ?オーマのこと」


 それが何故かこうなった。


 その照れながらもはにかむヒメの表情に、こちらが恥ずかしくなってしまう。それにしても臆面もなくそんな言葉を口にしたり、愛情表現して来たり、命令を求めてきたり・・・あのにらんできたヒメからこうなったんだとしたら・・・・隠しきれないレベルで犯罪臭がする。


 もしかしてあの時の俺を睨むヒメは、当時のヒメの最後の正気の沙汰だったのでは。


「今ではあの時攫われて良かったと思っています」


 やっぱり誘拐だったし!!!


 え、どうすんのこれ・・・本気で犯罪者・・・なのか俺?


 いやいや、ヒメの話を本気で聞くべきではない。話半分、話半分で聞いておこう。ぎりぎりセーフと思っとこう。


 そういえばヒメの父親のクオウはヒメに手を出さないよう警告してきた。そんな過去があったればこそ過保護になっていたとすれば辻褄があう。まさか、本当に?


 いやいやいや、意思を強く持て。確かにヒメの幼少期とか想像したら天使がいるけども。手を出すなんてこと・・・手を出すなんてこと!


 そもそも俺って何歳だ?何だかんだ若いんじゃないか?ヒメとだっていけるんじゃないか?


――オーマは混乱している!


 自覚してる!


 そんなオーマを見ていたヒメの瞳が光る。


「ということで・・・オーマ?」


「何だよ・・・」


 千々に思考が乱れるオーマにヒメはさらなる追撃を仕掛ける。


「もう、手を出しても問題ないですよ?」


「俺がいつ手を出そうか機を窺ってたみたいな言い方するな!」


「オーマ・・・私・・魅力ないですか?」


 あるから困ってるんだろうが。


「それとも、幼くない私には興味は惹かれませんか?」


「それ肯定したら危険なことになるだろ!」


 肯定しても否定してもいけない危険な質問だ。


 そんな問答にしびれを切らしたのかヒメが近づいてくる。


 テントの中で互いの距離などほとんどない。ヒメが座った状態から二回手をついて移動すれば、直に密着することになった。


「・・・どきどきしませんか?私はしています」


「そんな報告はいらん」


 オーマの肩に顎をのせるようにして、首に腕を回し抱きつくヒメ。悔しいことに胸は高鳴っていた。首筋にヒメの吐息が触れ、あたりをヒメの香りが満たす。


「オーマのこと考えると胸が痛いくらい高鳴るんです。オーマがそうさせたんですよ?だから責任、取ってください」


 その言葉を証明するように密着させられたヒメの胸からどくんどくんと早まった鼓動が伝わる。


「あー」


 それにとうとう限界が来た。


 もう、いいや。悩むのがアホらしくなってきた。だいたいそのヒメ本人が喜ぶんだからいいじゃないか。なんて考えが頭をよぎる。その考えには俺も本心では賛同している。でも。


「一つ、確認させてくれ」


「何ですか?」


「多分、俺には好きな人がいた。そうだよな」


 ヒメの戯言を取っ払って残ったのは、それを確認したいと言う気持ちだった。


「・・・・・」


 ヒメは無言だ。だがその反応に確証を得た。


 さっきまでの動揺が嘘のように冷静になる。だがそれは興奮を覆う薄い膜でしかない。きっかけひとつで暴走を始めるだろう。何度か体が勝手に動いた時のように。


「記憶喪失になって、お前みたいな超絶美少女に好意を向けられ告白までされているにも関わらず、それに応えることを拒絶した。心の中で何かが引っかかった。ずっと胸に穴が空いているような感覚がしていた」


「・・・・・・」


「その理由が、お前なんだよな」


 確認の言葉。それが事実なら、俺は納得する。


「違います」


 しかしヒメの回答は否定だった。


「何で、否定するんだ?」


 たとえ事実が違っていたとしても肯定していればヒメの望みは叶った。


「違うからです」


「本当に違うんだな」


「はい」


「わかった、なら、離れろ」


「・・・はい」


 ヒメが体を離す。今までで一番、素直な反応だった。


「・・・・・俺は、そいつのことを裏切りたくない。記憶が戻るまで、あるいは戻った後でも俺はヒメのことを考えることは出来ないかもしれない」


「・・・・・・そんなに好きなんですね」


「ああ、そう・・・・なんだと思う。だから・・・ごめん」


「謝らないでください。多分、私、今、世界で一番幸せです」


「何でだよ」


 ヒメの笑顔はまぎれもなく本物だった。今の言葉に喜ぶとしたら、当の本人だけではないのか。何故否定したはずのヒメが喜ぶのか。なにより、嬉しそうにしているのになぜそこに寂しさを俺は感じ取ってしまうのか。


「だって、私の目標はその人以上に私のことをオーマに愛してもらうことですから」


「でも、俺は!!」


「良いんです。それで。その上で私はオーマに見てほしい。知ってほしい。だから私は――――」




「―――寝取ります」


「は?」


 その時の俺は、おそらく間抜けな表情をしていたことだろう。


「私がオーマを寝取ります。オーマはその人のこと、忘れないでください。忘れずに想い続けてその上で私を選んでください。いえ選ばせます」


 一瞬呆気にとられ、次に沸いてきたのは苦笑だった。


「・・・・お前、ほんっとに自分勝手だな」


「王女ですから」


「王女を何だと思ってるんだ」


「さあ、何なんでしょうね」


 そう言ってヒメは微笑んだ。






 振り返ってみると、完全に丸め込まれた形だ。ヒメの言葉はそのほとんどが嘘にまみれていた。真実が紛れていたとしてもそれを認めると俺が犯罪者になる危険がある。



「はあ、結局真面目に話す気はないわけだな、次はちゃんと説明しろよ」


 そんな俺の今日限定の降参宣言にヒメは顔を輝かせる。


「じゃあ、これからはめくるめく―――」


「・・・『影縄』」


「・・・・ほ?」


 瞬間、ヒメの周囲から漆黒の縄が襲い掛かっていた。




「オーマって縛って楽しむ趣味がお有りで?」


「そんなものは無い」


 黒いロープのようなものでぐるぐる巻きになっているヒメが尋ねてくる。


「その割には覚えがある状況な気がするのですが・・・」


 拘束魔法、『影縄』という。シャルが挙げたものとは違ったが、効果は同じらしい。魔法欄でそこにたどり着くまでに、またぞろ知らない魔法が並んでいた。あれを把握しきる日は来るのだろうか。


―――ころころ


「・・・・・」


 そんなことを考える俺のところに、ころころと転がりながら近づいて来たヒメを、ころころと転がし返す。あまり自由を奪えてないような気がする。


「だいたいお前、魔王倒すまで待つんじゃなかったのかよ」


「我慢できないって言ったじゃないですか。オーマがこんな風にしたんですから責任取ってください」


 そう言うなら記憶について洗いざらい話せばいいものを。


「さて、寝るか」


「オーマ!私今抵抗できません!オーマの手のひらの上です!」


「お前・・・体目当てで襲われてもいいわけ?」


「オーマになら」


「そうですか・・・」






 聞き流すことにして、ヒメに背を向け自分も毛布をかぶった所で、ヒメが声をかけてくる。


「ちなみにオーマ?」


「なんだ・・・?」


「この拘束魔法を躱さなかったのは相手がオーマだからです。普通なら避けてます」


「そう言うアピールはいいから早く寝ろ」


「ちなみに簡単に解除できたりします」


 ぱさりと音がする。振り向けば、ヒメは自由になっていた。中途で切れた黒い縄が無惨に散らばっている。


 あれ・・・これって。


 理解するより早くヒメが近づいてくる。寝取るとか言い出した奴が近づいてくる。


「おい、ちょっと待て、ストップ!」


「近くで寝るだけなら・・・良いですよね?」


「・・・・・・・・」


 だめな気がする。するんだが・・・もっと直接的な被害を避けるためには了承するしかなかった。








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