第十七話 驚愕の真実
ケルベくんと戦いを続けるオーマ一行。
それを少し離れた木の上から眺める二つの影があった。
「どうすんの、あの女」
「ん~どうしようかな~」
「めっちゃ邪魔なんだけど」
「邪魔だね~」
一人は先ほど山頂にてオーマ達と邂逅した少年。
一人は、まだあどけなさの残る幼き風貌の少女。木の枝に座る少女はオーマたちの戦闘を楽しげに見ながら投げ出した足を揺らしている。
「あいつら引き離さないとどうしようもないだろ」
「だね~」
圧倒的戦闘能力をもってケルベくんを前線で抑えるヒメ=レーヴェン。その上で多分のダメージを与えている。
それを眉ひとつ動かさずむしろ見世物でも見て笑うかのような少女に少年は不信感をあらわにする。
「・・・お前、何考えてんの?」
「え・・・?何も?」
「何か考えろよ!」
「えー、ぼくに全部丸投げされてもなー。まあ・・・・中途半端に考えて何とかなるレベルじゃないからね。お姉ちゃんはこっちで何とかするよ」
「信用できねー」
「そこは信用しよーよ。家族なんだからさ。・・・・・さて、じゃあ帰ろっか」
少女は軽やかに立ち上がり、改めてオーマ達の方を見やる。もうすでに戦いは終息し、彼らは集まって何かを話している。
「・・・・・・・ふっふっふ、せいぜいい束の間の休息を楽しむがいい・・・・・・勇者どもよ・・・」
少女の手が少年に触れると同時、二人はそこから姿を消した。
「・・・・・・・」
「どうしたヒメ?」
戦闘が終わってあらぬ方向を見ているヒメに尋ねる。
「ああ、いえ何でもないです」
「そうか。それはそうと・・・・案外いけるもんだな」
「見かけ倒しでしたね」
「いやいや、ヒメ様がいる状態を普通だと思わないでくださいっす。なんとなくズルしてる気分になるレベルっす・・・」
「皆お疲れ様ー。わたしの為にありがとう!」
「・・・・・」
「・・・・・」
俺とシャルが無言でスルーする言葉を、しかしヒメは見逃さない。
「クロちゃん、ありがとうと思うならご褒美を用意してください」
「え、・・・・・・えっと・・・」
「出せないんですね。なら体で払ってもらいます」
「あ・・・あ~れ~」
ヒメがクロを抱きしめに行った。仲がよさそうなのはなによりだが。
「あれ、本当に王女なのか?」
「・・・・・・・」
シャルは無言で目をそらした。
結局、山越えで一日を終えてしまった。
ヒメには迫られるし、強い魔物には襲われるし散々だった。
今は山のふもとでキャンプ中。既に周囲は暗闇に包まれている。
「随分遠回りになったっすね。予定より一週間は延びちゃうっす」
目的地、魔王軍にたどり着くまであと・・・10日、ぐらいだろうか。
確かに先ほど下ってきた山を見ればその峰は東西にどこまでも連なっている。別の山越えの道は遥か先ということなのか。面倒な地形だ。
「その分犠牲者も増えるわけだよな・・・急がないと」
焚火を囲んで話し合う。ここにいる誰の所為でもない遅延だが、この遅れは多くの犠牲につながる。ヒメだって、兄は悪運が強いとか言っていたが心配しているに決まっている。
「それより、今日一緒に寝る組を決めましょう!もちろん私がオーマと一緒です!」
心配してるんだよ・・・・な・・・?
「だめーオーマくんと寝るのはわたし!」
「ちょっ、それじゃうちがヒメ様とになるじゃないっすか!」
「む、シャルのその言い方傷つく・・・」
「存分に傷ついてください、そして気づいてくださいっす・・・」
「オーマ!今日は誰と寝ますか?よりどりみどりですよ!」
「その言い方だと、俺が本当に・・・・」
いや、言わないでおこう。本当に事実化しそうでいやだ。
「はあ・・・・・」
見ればシャルが必死に首を振っている。ヒメと一緒にさせるなと。
そして、クロはこちらに期待の視線を向けている。こっちはあまりヒメのことを気にしていないらしい。むしろ記憶にないのかもしれない。
次の町に着いたらテントをもう一つ買うのが最優先だな。
もともと、今の二つはシャル所有のものだ。俺の分を買うのもいいだろう。
とにもかくにも今夜のことだ。
~選択肢~
誰と寝る?
→ヒメ
シャル
クロ
あえて一人で
何だよ、この選択肢。ともすれば人生を左右しかねないな。
それでも選ぶなら。
「ヒメと寝ることにする」
その瞬間、ぱあとヒメの顔に花が開く。目を細めて嬉しそうに頬を染めるヒメは本当に可愛い。
それが何で俺なんかにこんなにも好意を寄せてくれるのか。それを知りたいと思った。
「ふう、良かったっす」
「オーマくん、なんでぇ~」
安堵するシャルと、不満を言うクロ。分かってくれクロ。お前の為でもあるんだ。
それはそうと―――
「シャル、拘束魔法とかってあるか・・・?」
「あるっすよ」
「そうか、食事が済んだら教えてくれ」
「はいっす」
「何に使うんですか?」
ヒメが不思議そうに聞いてくる。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ちなみに食事は山で存分に狩った狼の肉の煮込み料理だった。魔物の肉でも食えるのかと聞いたら、シャルがあっさり「毒抜きすれば大丈夫っす」と言った。毒あるのかよ、と驚く暇もなくヒメが「教えてください!」と食いつき、シャル指導の下で、ヒメが調理した。とりあえず料理に剣を使うなと言いたい。料理自体は癖もなく、とても美味しかった。「存分にたくわえがあるので毎日作りますね」の言葉は、有難いやら恐ろしいやら。
何気に俺たちは、朝、昼を抜いてぶっ通しで動き続けたわけだが、空腹は感じなかった。一体どうなっているのか。よく持ったものだ。
食材も買っておくべきか。1500Gが手に入ったおかげで夢が広がった。ありがとう、みーちゃん。ケルベくんも。
オーマ ヒメ シャル
HP186 HP724 HP228
MP999 MP609 MP623
Lv 35 Lv 99 Lv 55
クロ
HP 1
MP 0
Lv 1 所持金3815G
ケルベくんを倒しレベルが上がったためにHPもMPも満タンな俺とシャル。相変わらずどういう仕組みなのか。
相変わらずといえばクロが今にも死にそうなんだが・・・。赤くなっていないなら大丈夫なのだろうか?まあ、これから休んで回復するだろう。
そうして、今日一日も終わりを迎える。
夜・・・テント。
「さて、聞かせてもらおうか。記憶の内容について」
待望の、俺が失った過去について。クロから情報を得ることも出来るだろうが今はヒメの方を優先する。
「それはいいですが・・・何を話しましょう?」
「まず、俺の正体を・・・」
「・・・・・・・・」
ヒメがよくわからない顔をしていた。答えられないという意思表示だろうか。
「少しずつ話すってんならお前が決めるしかないだろう」
「ふむ・・・」
話すところと隠すところを考えているのかヒメが黙り込む。
「・・・・・・・」
俺とヒメの間にどんな過去があったというのか。それをこれからヒメが語る内容から探っていく。
ヒメが嘘を吐くかは分からない。だが俺に知られたくないといったあの時のヒメを考えれば可能性はある。嘘の常とう手段は真実の中に虚偽を混ぜていくこと。だから俺はヒメの語る真実の部分だけを掴みとればいい。
「オーマは・・・・」
そこでヒメが意を決したのか口を開く。一字一句聞き逃すまいと俺もヒメの言葉に集中する。
「・・・ロリコンだったんです」
その口から語られる驚愕の真実(?)に俺は・・・
「・・・・なんだロリコンって?」
意味が分からず首をかしげるしかなかった。




