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第十四話 一瞬の決着

「うりうり」


「ほおをつつくな」


 ご機嫌なヒメ。俺がすべてを許したと勘違いしていないだろうか。


 断じて違うのだが。こんな甘々な空気を許した覚えはないのだが。


 さて、どうしよう。




「ふなっ!!!?」


 ヒメを離れさせる方法を考えていると、今になってクロが起き出した。あれだけのことがあってまだ寝ていたのだから驚きだ。


「やっと起きたか?」


「うん、なんか・・・このまま寝てたらオーマくんが油揚げに攫われそうな気がして・・・」


「油揚げに攫われるのか、俺は」


「私が油揚げなのでしょうか」


 クロのとんちんかんな言葉に俺とヒメはそれぞれの感想を漏らす。


 脱力してしまうがタイミングとしては助かったと言わざるを得ない。甘々な空気はある程度消え去ってくれた。


「あれ・・・・ここ、どこ?・・・何か、悪い夢を見ていた気がする・・・」


「クロちゃんおはよ」


 起床した相手への挨拶をしながら、地面に寝ていたクロに手を差し伸べるヒメ。やっと離れてくれた。ヒメを引き離すためには本気で生贄を用意することから考えた方が良いかもしれない。


「ひうっ」


「あれ?」


 クロは転がるようにヒメから離れた。そして俺の後ろに移動しヒメを警戒するように唸る。


「がくがくぶるる」


 唸るというか震える。後ろにいるのに目をつぶっているのが予想できる。警戒になっていない。


 そんなことは頭にないとばかりに俺の背中にひっつくクロ。


「お前、クロに何した」


「別に、何もしてないですけど・・・」


 絶対嘘だ。


 次の犠牲者が俺にならないことを祈るばかりだ。






 で、だ。本来真っ先に考えるべきだったことに意識を向ける。


「結局、この岩は何だったんだ?」


 といっても、だいたい予想はつく。これだけの岩が、たとえ土砂崩れかなにかでも普通なら土砂やら樹木やらがまとめて押し寄せそうなものなのに、岩だけが俺たちに向かって降り注いだ。


 つまりシャルを攫った奴の罠だ。と考えるのが妥当。


「・・・・・・・んへ~」


 しかし、俺の言葉は現状確認の会話の糸口にすらならず消え去る。


「・・・・・・・なにこの甘ったるい空気?」


 ようやく気を取り直したクロの疑問の声にも反応は無い。


「・・・・・」


 ヒメがまたくっついてきていた。さっきのがまだ尾を引いていた。ヒメがさっきからずっと有頂天だ。本当に何がどうなってこうなった。


 とはいえそんなヒメにいつまでも流されてもいられない。俺は俺で考えるべきことを考える。


「・・・・なあ、ヒメ?」


「はい、なんでしょう?」


 名前を呼ばれると反応する。


「この岩壁、向こう側まで貫通させることってできるか?」


「できま・・・・!・・・・・・・・・・・・・・・・・せん」


「何だ今の間は」


「こっちの道は諦めるしかないです。先へ進みましょう。山頂へ辿りつけば反対側に山を下りる道があるはずです」


「・・・・・そうか」


 そういうことらしいので、また山頂を目指す。




―――ぴとー


 右にヒメ、後ろにクロをくっつけて歩く。


 歩きにくい。それはそうと心なしかさっきから魔物が現れない。まるでヒメを邪魔しないよう気を付けているかのように。あるいは今のヒメを邪魔することが何を意味するのかを察して・・・。


 勿論そんなもの勘違いでしかないので、ヒメを引き離して有事に備えられるようにする必要があった。流石に罠の後、警戒を強めるべき場面でこのヒメは許容できない。


 と、いうわけで。


「ヒメ、いい加減離れろ。それ以上続けてたら嫌いになるぞ」


 さっき選択しそびれた言葉を何気なく口にする。


「ええええ!?!!??!?!?!!?!?!?!?」


 ヒメがあり得ない程驚いていた。


「驚きすぎだろ」


「オーマ・・・世界を破滅に導くつもりですか!?」


 何でそうなった。


「そんな気はさらさらない。邪魔だ。くっつくな」


「はい・・・」


 ヒメがしゅんとしてしまった。とぼとぼと俺から離れる。


「ごめんねヒーちゃん。次はわたしの番だから」


 後ろにいたクロがヒメがいた場所に移ってくる。


「お前に譲らせるためでもない!」


「ええええ!?!?!!?!?」


 だから何でそんなに驚く!?




「ほら行くぞ」


 両腕が空き歩きやすくなった。


「・・・・・・・」


 しかしヒメはまだしゅんとしたままだ。さっきまであれだけにこにこしていたのが嘘のようだ。


「・・・・・オーマくん、撤回するなら今だよ」


 クロも恨みがましそうに言ってくる。俺は間違ってない。はずなのだが・・・。


「・・・・・・・・」


 しゅーん。


 落ち込んでいるヒメとクロを見ていると、間違いを犯してしまったような気分になるのは何故だろうか。


「・・・・・・・はあ」


 変な奴らだ。









「やがて月日は流れ、俺たちは次第に疎遠になっていった。


 俺は一体、どこで選択肢を間違えたのだろうか・・・。


 もう一度やり直せるなら、俺は・・・・



                           」



「変なモノローグ入れるな!やり直しもしないからな!」


「むう」


 ヒメも余裕がありそうだった。






 そんな勇者一行のものとは思えない空気の中、俺たちはようやく、山頂にたどり着く。


 そして、目にしたのは。


「はっ・・・やるじゃねえか」


「ふん・・・そっちこそ」


 少し離れた位置で大の字に倒れ込んでいるシャルと・・・・知らない少年。


 何だろう、この・・・・力を使い果たしたライバル同士の決闘後のような雰囲気は。


「あ、オーマ様・・・助けに来てくれたんすか?」


「おせーぞ、オーマ!何ちんたらしてるんだよ」


 向こうは俺を知っているらしい。倒れているその容姿はアーリアに似ている。白のパーカーに半ズボンと、服装も含めて、とても。一方で粗野な口調やどことなく荒っぽい雰囲気は男であることを主張をするが。


「あー、イーくんだー」


「は?クロ?何でここに?」


 クロとこの少年も知り合いらしい。というか・・・イーくん?あれ・・・。


「何でもなにも、オーマくんのいるところがわたしの居場所だもん」


「相変わらず行動力無駄にあるな」


 親しげに話すクロと少年の二人。魔族ゆえの知り合いか何かか。ここでクロを密偵か何かだとは想像もしないあたり、俺は余程クロの間抜けっぷりを信頼しているらしい。


「はあ。・・・で?何でシャルを攫ったんだお前は?」


「・・・・・・は?お前を倒すために決まってんだろ」


 ぴしっとオーマを指さす少年。寝たまま。


「はあ、まあそうなるよな」


 わざわざ人質をとって俺をおびき寄せたのだ。ここで倒すつもりなのだろう。


 戦闘態勢に入り聖剣を抜く。


 もちろん倒されてやるつもりはない。


「やっとかよ」


 そう言って、少年は飛び上がるようにして立ち上がった。


「三対一で随分と余裕っすね」


 同じく立ち上がるシャル。お尻についた土ぼこりを手で叩いて落とす。


「あれ、わたしは?」


 自分が外されたことは自覚してるんだなクロ。


「・・・お前まだ戦えんの?」


 少年が問うたのはシャルに向けて。クロの疑問は聞いていない。


「まだまだ戦えるっすよ」


「ふうん、まあ・・・・いいけど」


「そっちこそ、もうへとへとじゃないんすか?」


「俺が?ありえねーな。俺の専門は接近戦だし、それにこれは戦いじゃない―――」


「!?」


 突如現れた複数の気配。俺たちを囲むように魔物の群れがそこら中に存在していた。隙間なく埋め尽くすように並ぶ狼のような魔物。


「虐殺だ」


「おい!魔族って魔物操れないんじゃないのかよ!」


「・・・・・・」


 話が違うとばかりにヒメに問いかけるが返ってきたのは沈黙のみ。


「おーい・・・ヒメー・・・?」


 さっきから剣も抜かず、鎧も纏わずぼーっとしてるヒメに声をかける。


「あ、はい!何でしょう?」


「・・・・・・・いや、敵なんだが」


「オーマ様、またヒメ様に何かしたんすか?」


 シャルがおかしな雰囲気を察して尋ねてくる。


「またって何だ、またって」


「・・・・・オーマ、これを倒した後で少し話したいことがあります」


 俺たちの言い合いに構うことなく、ヒメは告げる。その雰囲気に今までとは違うものを感じるが、今とやかく言う時ではない。


「ああ。倒してからな。数が多いし、連携して―――」


「必要・・・ないです」


「え・・・・?」


 数歩前に進み出るヒメ。


「待っててください。すぐ、終わらせます」


 何故だろう、今一瞬、ヒメの後ろに夜叉が見えた気がした。


「へえ、言ってくれるじゃねえか。まあただの寄せ集めだが―――」


「ああ、寄せ集めだったんですか。納得です」


「は?」


「え?」


「ほえ?」


「な・・・!?」


「みんな、戦う気はないみたいですよ?」


 見れば、現れた狼の群れはもれなく地に伏していた。命乞いをするかのように、くぅーんくぅーんと鳴いて。


 圧倒していた。そう、ヒメが前に出た時点で勝負は決していたのだ。


「・・・・・・・」


「良い子たちですね・・・・・・・どうします?」


「ヒメ=レーヴェン・・・」


 少年は睨むような目をヒメに向ける。


「はい?」


 名前を呼ばれヒメが応える。


 そのあとに、ことは起こった。


「ふざけんな!!」


「っと・・・」


「!?」


 オーマの正面を突風が吹きつける。


 何も見えなかった。ただ、今の状況を述べるならば。


 いつの間にかヒメに接近していた少年の蹴りと、ヒメの掲げた剣とが空中でぶつかっていた。何らかの力が働いているのか剣と少年の足は接触することなくしかし確かに互いを押し合っている。


「ちっ」


 少年は防がれたと見るや直ぐにもとの場所に戻っていた。


「何すか、今の・・・」


「俺に聞くな」


 シャルの疑問にすげなく返す。俺にだってわからない。速すぎた。それを容易く受け止めたヒメもまた想定の埒外。




「・・・・・」


 またヒメを睨む少年。


「お前たちがアーリアを倒したってのは本当みたいだな」


 たち・・・?俺を入れるな。


「はい、オーマと私で倒しました」


 俺を入れるな!




「だがな、あいつは・・・俺たち四天王の中でも最弱なんだよ。だから・・・」


「だから・・・?」


「次、いじめたら承知しねえからな!!!」


「―――っ」


 ヒメが衝撃を受けた。何故かふらつくヒメ。


 しかしそこは「アーリアを倒したからっていい気になるな」とでも言う所ではないのか。


「あ、安心してください・・・。次はちゃんと可愛がります・・・」


「オーマもわかってんのか!!」


 え、俺もか!?ていうかそれでいいのか!?


「まあ、・・・・うん・・・わかった」


 断る理由は無かった。



「けっ、覚えとけよ!オーマ!」


 ぴしっとこちらを指さす少年。


 何で俺・・・。


 そう捨て台詞を残しその少年は狼の群れと共に背後の崖を飛び下りその場を後にした。


「結局何だったんだ・・・」


「さあ?」


 と、シャル。さらわれたというのにケロッとしたもんだ。


「ん、まあ無事でよかった。遅くなって悪かったな」


「良いっすよ。でもお二人が遅れるって何かあったんすか?」


「ん~まあ、あったっちゃ~あったんだが・・・」


「?」


 結局、攻撃を一度防いだだけで敵を退かせてしまったヒメを見やる。


 ヒメはこちらを見ずに、剣をしまった。


 とりあえず難は去った。



「・・・・オーマ、いいですか?」


「ヒメ・・・」


 ヒメが話しかけてくる。


――後で話したいこと。


 嫌な予感がする。


「・・・ごゆっくりっす~」


「あ、おい」


――ずるずる


「あれ?シーちゃん?わたしもオーマくんとイベント起こしてもいいと思わない?思わないー?」


「思わないっすね~。ってシーちゃんってうちのことっすか?」


「うん!」


 気を利かせたのか何を察したのかシャルがクロを連れて山頂を下っていく。多分そのあたりで待っててくれるだろう。


 今はそれよりも・・・。


 目の前のヒメのことだった。


 ヒメが記憶を取り戻してから明らかに流れがぐだぐだになっている。


 そろそろヒメと決着をつけなければならない。


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