第九話 黒の卵
「まあ、折角なんで・・・」
しばらく海沿いを東に向かって歩いていると、
「シャルと―――」
「クロの―――!」
「魔法講座ーーーー!!!」
「「わーぱちぱちぱち」」
唐突に何か始まった。
「何これ」
何故かシャルとクロが自分をデフォルメしたかのような人形をそれぞれ持っていた。
「よくぞ聞いて下さったっす!これから始まるのは魔法知識ゼロのオーマ様に送るクロでもわかる簡単魔法講座!要するに空いた時間を使ってオーマ様に魔法の手ほどきをしてあげるっす」
人形は腕をや口を開いたり閉じたりしているが、基本本人が隠そうともせず普通にしゃべっている。
「クロも手伝うよ~!」
「お前は、堂々とばかにされてることに気付け」
「さてさて、記念すべき第一回目は・・・・どうするっす?」
「俺に聞くな」
「はいは~い、魔法ってなんなの~!」
「そのレベルっすか・・・」
「いや、あきれるなよ、教師」
「いや、初心者レベルっすからいいんすけど、魔族って魔法のエキスパートっすよね?なのに何でそんな事聞くんすか・・・」
「そんな、エキスパートだなんて・・・」
普通に照れているクロ。
「前向きだな・・・」
「じゃ、始めるっすよ」
「おー」
後ろ向きでこちらを向きながら歩くシャルたち。転ばないか少し心配だ。
「てか、お前らいつの間に仲良くなった?」
「ゲストには優しく教えるっすよ」
「やった」
「まさかレギュラーですらはないとは」
タイトルまで出張っているのに。
「魔法とは、MPを消費して使われる術や呪文の総称っす。その威力や汎用性の高さから、戦闘、サポート問わず、様々な場で活躍するっす」
「は~いMPが何か分からなくて後全部聞いてませ~ん」
「オーマ様?質問はあるっすか?」
「スルーしてやるなよ・・・」
「はあ、仕方ないっすね」
「MPとは、主に魔力総量を示すっす。多ければ多いほど強い魔法や連続での魔法行使が可能になるっす。Mはマジック、マインド、マジカル、などの略、Pはパワー、ポイントの略、っすね。あわせてマジック・ポイントや、マジカル・パワーなど呼ばれるっす。まあ、人によって様々なのでまとめてMPというっす。他にもEP、PP、などもあるっすよ」
「????」
「理解できていないらしい」
「はーい、次行くっすよ~」
なかなか、厳しい。
「魔法は基本『攻撃型』『回復型』『戦闘補助型』『補助型』の4つに分類されるっす。この4つはテストによく出るので覚えておいてくださいっす」
「テスト?」
「魔法使いを名乗るために合格しなければならない試験があるっす」
「へー面倒くさそうだな」
「そうでもないっすよ?意外と簡単っすから」
「そうなのか。というか、さっきからクロが頭から煙出してるぞ」
「??・・・・・?・・・・・!!!!・・・・?」
「何で今の段階で・・・・。『攻撃型』は言うまでもなく、攻撃魔法を指すっす。炎で攻撃したり毒や痺れの状態異常もこれっす。『回復型』もわかると思うっすけど、味方を回復する魔法全般っす。状態異常回復もそうっす。まれに攻撃や、補助の性質を持つものもあるっすけど、回復が含まれる時点で、全て『回復型』っす」
「ふむふむ」
「あうあうあうあううあううあうあうあううあううあ」
「もう、お前は考えなくていいから・・・。なあ、シャル、素朴な疑問なんだが、回復魔法ってそもそもなんだ?」
「? だから、味方を回復する魔法っすよ?」
「いや、そうじゃなくて・・・どういう仕組みで傷が治るんだ?」
「どういう・・・?魔力が白い光に変わって、白い光が傷を治す・・・っす?」
「だから、その白い光がどういう働きで傷を治すのか・・・・」
「?」
「ああ、いや、やっぱりいい」
「・・・・・・どういう、働き・・・・・?」
考え込むようにシャルが俯く。その真剣な眼差しは邪魔をするのが躊躇われるが・・・。
「続けてくれ」
「あ・・・・はいっす」
きっと、また常識の違いというやつだろう。こんな時は考えるだけ無駄だ。
「『戦闘補助型』は戦闘時のみ使用可能で、味方のステータスを上げたり、逆に敵のステータスを下げたり、が基本っすね。まあ、『攻撃型』でも『回復型』でもない魔法、ってのが分類法っすね」
「ステータスねえ」
「どうしたっす?」
「いや、何でもない」
そもそも、ステータスを上げるって何だ?攻撃力を上げるとして、どうやって上げるのか?
きっとこれも聞いたところで、意味がない事なのだろう。それにもしかしたら理解を進めていくうちに分かるかもしれない。
「『補助型』はいつでも使える、先の3つに分類されないもの全てを指すっす。要するに、その他っすね。さっき使った『瞬絶』や、昨日魔王が使っていた『瞬間移動』などがそうっす」
「なるほど・・・」
「まあ、最初はこれぐらいっすかね。というわけで第一回、シャルとクロの魔法講座も終わりが近づいてきたっす」
「・・・・・・きました~」
クロが復帰した。
「最後にオーマ様の魔法を分類して終わりにするっす。オーマ様?オーマ様が覚えている魔法を順番に挙げていってくださいっす」
「あ、ああ。えーと・・・・」
――魔法――
『炎撃』『ボルケーノ』『大魔球』『灼熱球』『炎煌灼熱球』
『アイスランス』『瀑布』『ブリザード』『大瀑布』『凍原氷河』
『雷撃』『ライン・ボルト』『轟爆雷』『ライトニング』
『石つぶて』『クエイク』『岩砂盾壁』『グランシェイク』
『瞬絶』『ウィンドフライ』『風牙瞬絶』『風陣結界』
『物理障壁』『魔術障壁』『結界』『遠隔結界』
『催眠魔法』『凍結魔法』『麻痺魔法』『石化魔法』
『分身Ⅰ』『分身Ⅱ』『分身Ⅲ』『分身Ⅳ』
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「これ、魔法名を言ったらいきなり発動したりしないよな」
「発動する意思がなければ大丈夫っす」
そうか、なら左上から順にあげていこう。
「『炎撃』」
「?」
「『攻撃型』っすね。初心者御用達の炎属性の初級攻撃魔法っす」
初心者とかあるのか。
「『ボルケーノ』」
「??」
「『攻撃型』っす。『炎撃』の上位版っすね」
「『大魔球』」
「???」
クロ、お前はもういい。十分頑張ったから。
「『攻撃型』っす。『ボルケーノ』の上位版っすね」
「『灼熱球』」
先ほど港で撃ってしまった魔法。
「『攻撃型』っすね。炎系攻撃魔法の最上位っす。高威力なのでくれぐれも使用には気を付けてくださいっす」
「ああ、わかった。気を付けるよ。次は・・・『炎煌灼熱球』」
「へ・・・・?」
「へ・・・?」
シャルのとぼけた声につられるように俺もそんな声を出してしまう。
「?????」
そして、ただただ、クエスチョンなクロ。
「炎煌・・・・灼熱球?」
「あ、ああ、何かおかしかったか?」
「おかしいなんてもんじゃないっすよ!」
シャルの肩がふるふると震える。そんなにおかしかったのだろうか。ジョークを言ったつもりはないのだが。
「なんでかつて炎の賢者しか使えなかった究極魔法を使えるんすか!?」
「究極魔法?」
って、言われても。
「かつて、炎、氷、雷、地、四属性の攻撃魔法を極めた四賢者、そして彼らのみが使えたという究極魔法、炎の賢者の『炎煌灼熱球』、氷の賢者の『凍原氷河』、雷の賢者の『エルド・ブレイカー』、そして、地の賢者の『森羅万象』。そのうちの一つを何でオーマ様が使えるんすか!?」
「あ、『凍原氷河』も使えるぞ?」
「何で、っすか!!!!」
「いや、使えるものは使えるんだし、いいんじゃね?」
むしろ今は覚えていないだけで他の二つも使える気がするのは何故だろう。
「そんな無茶苦茶な・・・」
「お前がいうには、俺の魔力は出鱈目なんだろ?だったらそれにあわせて、使える魔法も出鱈目になってるんじゃないか?」
「そうっすね。そう考えるのが楽っすね」
いや、そんな遠い目をされても、わからないものはわからないでいいじゃないか。俺はそれでいくつの謎を乗り越えたことか。・・・避けただけともいう。
「それにしても、究極魔法・・・ね」
本当に、何故俺はそんなものを使えるのか?シャルが驚くということは勇者だからでは済まない事らしい。
「要するに、オーマはやっぱりシャルに魔法を学ぶ必要があるってことですよね。究極魔法をよくわからずに町で撃たれていたらと思うとぞっとします」
「ヒメ・・・起こしたか?」
起きたらしいヒメがそう口を挟んできた。
「い、いえ、気にしないでください」
「そうっすよね!魔力も魔法も滅茶苦茶だからこそ、うちが頑張らないとっすよね!」
「ああ、そういうことだな。これからも協力頼む」
「よろしくお願いします、シャル」
「はいっす!」
「??????」
結局他の魔法については聞けなかった。おいおい聞いていくことにしよう。どんどん聞かなければいけないことが溜まっていく。
「それで、ヒメ、魔法で運ぶという手が・・・・」
「すぴーーすぴーーー」
「また、眠ってしまったか」
「いやいや・・・」
「????????????」
未だクロはぷすぷす煙を上げていた。




