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第八話 魔族

 シャルには別行動で船を探してもらうことにした。俺とヒメはこの魔族に事情聴取だ。


 とりあえず魔族をなだめる義理もないので怯えるままに拘束させてもらった。ヒメが。自らの腕で。


「でだ。何故港を襲ったのか、魔王軍の動き、魔王の居場所、いろいろ教えてもらおうか?」


「オーマ・・・・くん?」


「え?」


 また名前を呼ばれた。こいつは俺を知っている?そもそもこの名前はヒメがつけたもののはずだぞ。


「オーマ君!やっと見つけた!こんなところで何してるの!」


「・・・・お前、誰?」


「ひどいっ!」


 いや知らないものは知らない。そんな顔をされてもな。


「わたし!クロ!オーマ君の心の友!」


「人違いだ」


「何で!?」


「~~~~~かわいい」


 約一名ほのぼのしている。


「てか後ろの人こそ誰!」


 彼女の後ろで拘束している(抱き付いている)ヒメ。


「ヒメだろ?」


 何当たり前のことを聞いているんだこいつは。


「何で当たり前のことみたいな言い方なの!?」


 テンション高い。なんか一気に残念になったな。黙っていれば、ってやつか。


 それにしても、自分の状況を把握しているのだろうか。俺に気付いた途端、完全に安心した顔になっている。




「つまりだ・・・・もしかしてお前は、いや、あくまで仮定だが、万に一つの可能性の話なんだが、ああ、ありえないとはわかっているんだ、わかっているんだが、俺の・・・・・知り合いなのか?」


「もしかしなくてもそう!何でそんなに懐疑的なの!?」


「いや、信じたくないし」


「何で!?」


 涙目になってるし。


 俺も俺で流れるようにからかってしまう。これは本当に知り合いである可能性がわずかにだが存在しているのか。


「・・・・なら、俺のフルネーム言えるか?」


「え?・・・オーマ君はオーマ君だよね?」


「ダメだこれは」


「何で!」


 姓名でもわかれば手がかりになると思うのだが。まあ、その前にこいつにいろいろと聞ければ話が早いんだが。


「あの・・・・オーマ?記憶のことは言わないのですか?」


 ふと、ヒメがだらしなく顔を緩ませたまま、問いかけてくる。


「ああ、言いたくない」


 なんとなく。


「そうですか」


――なでなで


「記憶?・・・それよりもほんとにさっきからこの子はなに?やたら頭を撫でてくるんだけど?」


「ヒメだ」


「だから、それで説明しようとしないで!」


 俺もいまいちつかみきれてないのだから仕方ない。


「で、お前、どこに住んでるんだ?俺の住んでいた場所は知っているのか」


「何でそんな事聞くの?わたしたちずっと昔からの付き合いだよね。おうち近くだよね」


「そうだったか、で、どこだ」


「・・・・・・どこだっけ?」


「はあ?」


「えーと、自分の家が分からないと、言うことですか?」


「うん」


「何で!?」


「だって、いつもオーマ君についていってたら、オーマ君が連れて帰ってくれるもん。むしろオーマ君のいるところがわたしの家だよ」


「頭痛い」


「ふふん」


 何故自慢げなのか。 


「家族は?」


「お母さんと二人暮らし!」


「俺の家族は?」


「オーマ君の?えっと、アーちゃんにイーくん、オーちゃんにりゅうじいにあとカーちゃん!」


「誰だよ、それは・・・」


 あだ名はやめろ。あと最後母ちゃんみたいになってるじゃねえか。


「血は繋がってなくても、みんなオーマのこと大事に思ってるよ!」


「・・・・・そうか」


 記憶は無くてもそう言われて悪い気はしない。が、分からないことに変わりはない。しかも全員血がつながってないとか・・・複雑そうな家庭だ。





 意外にもあっさり、俺のルーツを知るものが現れた。


「で、現在の魔王軍の動きを教えろ」


「さあ?知らな・・・・・い、言えないかな~」


「・・・・・・・・」


 役に立つかは分からないが・・・。













 船を探してきたシャルの、


「全滅っす」


 との報告で、航路を諦め、陸路を行くこととなった。一方で不思議なことに港には怪我人や死人は出なかったらしい。


 というわけで、更に南東に進めばもう一つ港があるらしいのでそちらを次の目標地点に定めた。




 クロの言から俺達が知り合いだったと仮定する。そうすると人族と魔族が親しい関係にあったことになる。それは、あり得るのだろうか。


「そもそも人族と魔族ってなんで戦ってるんだ?」


「魔王が急に宣戦布告してきたんです」


「そのまま本当にこちらの領土を侵してきたっすから、戦争になっちゃったっすね」


「つまり、もともと人族と魔族は仲が悪いわけでは無い?」


「それは、どうでしょうか」


 ヒメが否定の意味合いを込めながら口をはさむ。


「遥か昔から、人族と魔族は戦い続けてきたと言われています。魔王の宣戦布告が無かったとしても、またいずれ戦うことになったかもしれません」


「いや、そういう大局的な話じゃなくて、んー、この際はっきり聞くと、人族の俺と、魔族のこいつクロとが気が合うからと言って仲良くなることはあるのか?ということなんだが」


「さあ?」


「どうなんでしょうね」


 帰ってきたのは、どちらともつかない、曖昧なものだった。


「よくわかんないけど、わたしとオーマくんは仲良いよ?いつもぎゅ~って抱きしめると何も言わずに家に送り届けてくれるんだよ?」


 その言葉に思わず俺たちは顔を見合わせる。


「・・・・・・・・」


(それ仲良いって言うんすか?)


「・・・・・・・・」


(厄介払いじゃ・・・)


「・・・・・・・・」


(オーマとぎゅ~・・・いいな)


 言葉に出さずとも考えていることが伝わるような気がする。そして一人、変なことを考えているやつがいる。



「ずっと傍にいてって言うと、いやな顔一つしないで家に送り届けてくれるし」


 続くクロの言葉に。


「・・・・・・・・」


(いてくれてないじゃないっすか・・・)


「・・・・・・・・」


(やっぱり・・・)


「・・・・・・・・」


(私も送り返されちゃうのかな)


 やはり一人変なことを考えているやつがいるような気がするんだが。




「この前なんか、久しぶりに会ったら、じっとわたしの顔を見つめて、誰お前、って言ってくれたんだよ」


「・・・・・・・・・」


(忘れられちゃってるっす・・・)


「・・・・・・・・」


(忘れられてる・・・)


「・・・・・・・」


(忘れられちゃってる・・・)


 一つになった。



「あ、ごめん。ちょっと嬉し涙が・・・。それでねそれでね―――」


「ああ、もういい。わかったから」


「ん、そう?」




「なあ、シャル、ヒメ」


「言わなくても大丈夫っす。オーマ様はひどい人だったんすね」


「いや、俺もそう思ったけど・・・」


「でも、本人は幸せそうです」


 というわけで憐れみから一緒に連れていくことなった。




「まあ、それはともかく、もう一つ可能性がある。俺は魔族かもしれない」


 ことが事なのであっさり軽めに言ってみる。


「・・・・・・」


「またまた~見たまんま人族じゃないっすか」


 まあ、それもそうなんだが、俺も人間であるという自覚があるのだが。


「で、単刀直入に聞くが、俺は魔族なのか?」


 クロに向かって聞いてみる。


「・・・・・さあ?オーマ君はオーマ君だよ」


 が、答えは適当だった。




「その魔族の言葉を信じるのも早計だとおもうっすけどね」


「それもそうか」


「あれ、扱いがひどい・・・」


 嘆く自称俺の心の友。


「ヒメはどう思う?」


 先ほどから黙っているヒメに振ってみる。


「・・・・・オーマが魔族。・・・・・・ありです」


「何の話だ」


「・・・・・保留で良いと思います。どのみちオーマの記憶が戻らないことには確証は持てませんし」


 確かに、嘘という可能性も十分にある。だが、何となく、こいつ――クロが嘘を吐いているようには俺には思えない。しかし、だとすると・・・


「記憶が戻ったら俺はお前らの敵になるかもしれない」


「裏切らないでくださいね?」


「いや、もしもの話で・・・」


「オーマに裏切られたら私は泣きます」


「人の話聞いてくれ」


「そもそも、もしそうだとして、どうするんですか?私たちが分裂したら、それこそ思う壺かもしれないのに」


「それはそうだが」


「それなら今のうちに、仲間として取り返しのつかないところまで引っ張り込んじゃった方が良いと思いませんか?」


 そう言ってヒメが俺の左腕を抱き込んだ。


「ヒメ!?」


「たとえオーマが魔族でも私たちの味方でいてくれればそれでいいんです」


「なるほどっすね」


「納得するなよ・・・」


「むうーオーマのスケベ」


 そしてヒメに触発されたのかシャルが右腕に、唸りながらクロが正面から腰に抱き付いてくる。

 何のハーレムだよ。


「ええい、離れろ!」


 振りほどく。


「あ・・・・・」


「え?」


 すると、どうしたことかヒメがバランスを崩した。そのまま足で踏ん張ることもせず体を傾けていく。


「ヒメ!」


 地面に倒れる前に急いで抱き留めた。


「あ、ありがとうございます」


 少し照れたように笑うヒメ。だが、問題はそこじゃない。


「お前、どうした?」


 ヒメがふらつくなんてありえない・・・ことも無いかもしれないけど。


「えへへ、ちょっと疲れちゃいました」


「・・・もしかしなくても、俺の所為だよな」


 地上から見ていただけの俺でもわかる。あの灼熱球を消すことが容易ではなかったことが。今まで余裕そうに振る舞っていたから大丈夫なものだと思ってしまっていた。


      赤赤赤赤赤赤赤

  オーマ 赤  ヒメ 赤   シャル 

HP116 赤HP224赤 HP220

MP915 赤MP395赤 MP562

Lv 24 赤Lv 98赤 Lv 53

      赤赤赤赤赤赤赤         所持金 387G


 確認してみたらヒメの欄だけやたら赤赤しかった。真っ赤なんだが。これ、もしかして相当危険なのか?


「お前、ステータス真っ赤だぞ」


「あはは、ばれちゃいました」


「ちなみに真っ赤なのは何でだ?」


「HPが危険域に入ったことを知らせてくれてるっす。要するに死にそうなので早く回復しろーってことっすね」


「へえー」


 聞いていたクロがよくわかっていなさそうな相槌を打つ。その点に関しては俺も同様だ。

 死にそうな割に俺たちよりHPあるぞ?シャルはぴんぴんしてるぞ?


 だが、それでも。


「ったく、そういうのは早く言え。シャル?リアンの港に宿はあったか?」


「あ、はい、あるっすよ」


「なら、今日はそこで・・・」


「オーマ!!」


 突然ヒメが声を荒げ、俺を制止する。


「ヒメ・・・?」


「ダメです。私の為に無駄な時間を使わないでください」


「無駄じゃない。必要なことだ」


「これぐらい、少し休めば戻ります。それより、今は一日も早く進むべきです。ただでさえ船を使えなくなっているんです」


 ヒメの焦る気持ちもわかる。だが、だからこそ止めるべきだ。


「だめだ。少し休憩して―――」


 なのに。


「オーマ、・・・・・お願いします」


 ヒメの懇願に満ちた眼差しに、何故か逆らえなかった。


「・・・・分かった」


「ありがとうございます。オーマ」


「ただし!ヒメはこれ以上歩かずに、休んでいろ」


「え?」


 俺は体を屈める。


「ほら、乗れ」


 つまり、おんぶしようと。


「・・・・い、良いんですか?」


「ああ。できれば揺れない方がいいんだろうが、それは我慢してくれ」


「は、はい、それはもちろん・・・・でも、迷惑じゃないですか?」


「もともと、俺の失敗から出た遅れだ。少しは償わせてくれ」


「私は、気にしてませんよ?」


「俺が気にするんだ。それとも嫌か?」


「い、いえ」


「なら、早くしろ」


「・・・・では、行きます」


「おう、どんと来い」


「・・・・・」


 ふわりと、ヒメが俺の背に乗り、首もとで腕を交差させる。


 軽い。


「重く、無いですか?」


 ヒメの足を抱え、立ち上がる。


「いや・・・めちゃくちゃ軽い」


「そうですか?えへへ、オーマの背中あったかいです」


 ヒメの鈴の音のような声が耳をくすぐる。これは、やばい。


「態勢、辛くないか?」


「はい」


「じゃあ、行くぞ」


 ふと、じ~とこちらを見つめるクロとシャルが目に留まる。


「何だ?」


「いえ、別に?」


「怪我人じゃないけど、次はわたし!」


「お前を背負う理由は無い」


「やっぱり?」


 わかっていたなら言うな。


「でも、こういう時こそ浮かせて移動させる魔法とかないのか?」


「あるっすよ?」


「あるのかよ」


 なら、何で言わないんだよ。


「なら、今からでも・・・」


 ヒメを魔法で運ぶか、と続けようとしてシャルに視線でヒメの方を見るよう促される。


「すぴーーーすぴーーー」


「もう寝たのか?」


 ヒメが寝息を立てていた。


 休んでいろとはいったがここまでリラックスされるとは。


「早すぎる。ううん、あれこそオーマ君の背中の魔力!!」


 クロのテンションは相変わらず高い。


「どう見ても寝たふりっすけどね・・・」


「ん?何だって?」


「いえ、別に」


「すぴーすぴー」


「ったく、しょうがねーな」


「嬉しそうっすね」


「オーマ君のスケベ」


「誤解だ・・・・」


 多分。



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