第五話 窮地を乗り越えて
そして目が覚める。
目の前にアーリアがいる。ならすることは一つしかない。
「アーリア、撫でてもいいか?」
「懲りませんね。嬉しいですけど」
「まあ、別に大丈夫みたいだし?」
二度の危機を迎えて未だ無事だという現実が危機意識を低下させていることは否めない。
だがそれよりも可愛すぎるアーリアがいけないと思うのだかどうだろうか。
「随分と毒されておられるようですね」
――なでなで
そして、そんなことを言いながらも相変わらず気持ちよさそうにふにゃっとするアーリア。和む。
「・・・・・次も大丈夫とは限りません。もっと命を大事にしてください」
「これぐらいアーリアを可愛がれるなら安いもんだろ」
「そう言ってもらえると嬉しいですけど・・・・私としてはやっぱり心配なんです」
「全くですね」
「ひぃ!?」
同じく倒れていたはずのヒメが突然会話に参加する。
「何で私には過剰にびっくりするんですか?心外です」
「妥当です!」
「私だってアーリアちゃんを可愛がりたいです!」
――なでなで
「んふふ~~~」
撫でられた途端先ほどの警戒が嘘のようにほんわかした空気を醸し出すアーリア。
「心休まるな~~~」
「そうですね~~」
『あのな』
「また、魔王か・・・」
「邪魔しないでほしいですね」
「にぅ~~~~」
『・・・・・・・・くぅっ』
魔王は歯噛みして悔しがっていた。仮面の所為で表情は見えないが。
「というか、兄を返してください」
今思い出したかのようにヒメが言い出す。勿論忘れていたなんてことはない。多分。
『ふっ返してほしくば、魔王城までやってくるのだな!もっとも~?無事に辿りつければの話だがな!は~ははっはっはははは』
なんか急にテンションが高くなった魔王。
「そうですか。兄は魔王城ですか。ならあなたを消してさっさと向かうことにしましょう」
――――
そう言って撫でるのを止めて立ち上がり、音もなく剣を抜くヒメ。
『え、ちょっ、ごめんなさいでしたー』
魔王は姿を消した。
「・・・・・・・アーリアおいていったな」
もらってもいいのだろうか。
『一時避難だ。アーリア帰るぞ』
しかし、すぐに魔王は俺たちの背後に現れた。
その言葉にアーリアはため息を吐く。
「仕方ないですね。では最後に」
アーリアは名残惜しそうに立ち上がり、
「ぐっ!?」
一瞬で俺は組み伏せられていた。
「オーマ!」
ヒメが慌てるが、俺に突き付けられた白銀の短剣に二の足を踏む。
「私のことは敵と思ってください。これから何度もあなたたちを襲うことになります」
そうアーリアは言う。だが、
「魔王に命令されて・・・・仕方なく・・・・なんだろ?」
「え?」
「アーリアはこの行為に躊躇いを持っている」
「それはそう・・・・ですが」
アーリアは一度、「気は進みませんが」とはっきり口にしている。それが魔王の為だとも。ならば。
「今、決めた。絶対にお前を魔王から引き離してみせる。俺はお前を敵だとは思わない」
突然勇者になって、とりあえず流されるままに行動していたが自分の目的があるに越したことは無い。その目的が、今目の前の少女に関して決定した。
「俺は、アーリアを助けたい。いや、そんな大層なものではないかもしれない。俺はただアーリアにそばにいて笑っていてほしいだけなんだ」
だから、決めた。
「~~~~!!」
『・・・・・・はあ』
「だから、アーリア、少し、待っててくれ。今は無理みたいだが、そんな顔させないように、いつか、してみせる」
それは俺が勇者として、周囲に流されずに決めた、初めての目標だった。
「卑怯です。それは・・・・。攻撃しにくいです」
「実は、それが狙いだったり?」
組み伏せられる痛みに顔をしかめながらもなんとか笑みを浮かべる。
「でも、私はためらうつもりはありません。だから―――」
「ああ、俺の方で勝手に助けるさ」
「そうですか・・・・なら、お待ちしております」
「おう」
次に訪れる痛みにまた俺は気を失った。
「・・・・・・」(にへ~)
「アーリアちゃんが凄い顔してる」
『・・・・・裏取引の現場を目の前で見せられた気分だ』
「はっ、すみません。ぼーっとしていました」
「ぼーっと、というよりは悦に入ってた感じだったけど」
「うるさいです。あなたにどうこう言う権利は無いです」
「あれ?急に冷たく?」
「最初からこうです。さて・・・・、あなたが残ってしまった以上、決着をつけるのは今、ということなのでしょう」
『え?帰るんじゃないのか?』
「決着をつけてからです」
「あの・・・決着って、何の?」
「あなたが魔王様の傍にいるにふさわしいかどうかです!!!」
「あ、お断りします。魔王とかどうでもいいので」
「オーマ様の傍にいるのにふさわしいかどうかです!!!」
「いいでしょう。受けて立ちます!」
『いや、いいんだけどな・・・』
そして。
「気が付きましたか?オーマ」
「ヒ・・・・メ・・・・」
「全く、気持ちはわかりますが、アーリアちゃんのことよりまず自分を心配してください」
「はは、面目ない。で、あいつらは?」
「今はいないようです。私も、倒されてしまいました」
「・・・・・そうか、ヒメでも勝てないか」
「ごめんなさい」
「いや、謝るのは俺の方だし。それにしても、何が目的だったんだろうな?」
「・・・・さあ」
――オーマたちは三度危機を乗り越えた!14000の経験値を得た!
「・・・・・は?」
「?」
――オーマはレベルアップした!
HPが5上がった!
MPが0上がった!
攻撃力が3上がった!
防御力が2上がった!
魔力が0上がった!
精神力が3上がった!
素早さが2上がった!
器用さが1上がった!
幸運が18下がった!
――オーマはレベルアップした!
HPが4上がった!
MPが0上がった!
攻撃力が4上がった!
防御力が4上がった!
魔力が0上がった!
精神力が3上がった!
素早さが3上がった!
器用さが1上がった!
幸運が1上がった!
何かいきなりレベルアップし始めた。それにしても焼け石に水だな、幸運。
(以下略)
そして、かなり長く続くレベルアップ報告。
10回はレベルアップしたぞ・・・。そこから先は数えていない。
頭が重い。
だがそれでは終わらず。
―――新しい魔法『ブリザード』を覚えた!
―――新しい魔法『曙光』を覚えた!
―――新しい魔法『魔術障壁』を覚えた!
―――新しい魔法『凍結魔法』を覚えた!
―――新しい魔法『風牙』を覚えた!
・
・
・
魔法の習得報告が続く。そしてようやく、 ・
・
・
・
―――新しい魔法『ライトニング』を覚えた!
―――新しい魔法『吸魔の法』を覚えた!
―――新しい魔法『ダムドブレイズ』を覚えた!
(お、終わった!)
もはや何の魔法を覚えたのか分からないまま、頭の中を文字が通り過ぎるのをやり過ごした。
とにもかくにも正真正銘これで終わりらしい。ほっとした。
気分が悪い。少し休ませてもらおう。
――ヒメはレベルアップした!
HPが21上がった!
MPが12上がった!
攻撃力が13上がった!
防御力が17上がった!
魔力が3上がった!
精神力が4上がった!
素早さが11上がった!
器用さが9上がった!
幸運が0上がった!
――ヒメはレベルアップした!
・
・
・
・
・
ああ、そうですよね・・・。
――ヒメはレベルアップした!
もう、やめてくれ・・・・。
なんか酔ってきた。
もう、無理。
うっぷ
体をよじる。
てか、ヒメのレベルアップ・・・長すぎないか?
「――――」
そして、俺は本日何度目になるだろうか、また倒れた。
「オーマ!?」
最後に俺の方へかけよってくるヒメの姿が見えた。
起きたと思ったオーマがまた倒れてしまった。
なのでアーリアちゃんに倣って膝枕をしてみる。
「どうしよう」
しかしオーマは全く目を覚まさない。
あまりにも唐突な不調だった。魔王たちに何かされたのだろうか。
「お困りの様っすね」
「え・・・?」
「ふふん、ここはこのシャルにお任せ下さいっす!」
突然現れた漆黒のマントをまとった水色の髪の魔法使い。
「・・・・・・・・・・・・・ああ、さっきからつけてきていた・・・」
「な!気づいていたっすか!?」
「ああ、うん、まあ」
気づかれていないと思っていたのだろうか。思っていたのだろうなー。
それにしてもこのタイミング。
「今更出てくるんだ」
「うっ」
「さっきどう見てもピンチだったと思うんだけどな」
魔王に何度も不意打ちを食らって。
「と、とにかく!今はこの人を起こすっすよ!『癒しの息吹』!」
オーマの体が光に包まれる。状態回復魔法。
――オーマの酔いが治った!
「ん・・・・・」
オーマの表情が軽くなった。そこは感謝しておこう。
「それで・・・あなたに一つ聞きますが、ここに来たのは父に言われてですか?」
意識して笑みを浮かべて尋ねる。ちょっとイラッとしそうだから、表情に出さないようにしなければ。
「ちちちち、違うっすよ!?たまたまっすたまたま!」
なのに、何故か彼女は慌てて否定する。違うのならそこまで怯える必要もないだろうに。
「そうですか、ならいいのですが・・・」
父のことだから、私の為に要らぬおせっかいをすると思ったのだが杞憂だったらしい。
そうこうしている間にオーマが目を覚ました。
目を開く。俺は何回倒れたら気が済むんだよ・・・。自嘲交じりに。
「オーマ、大丈夫ですか?」
目に入るのはヒメのこちらを窺うような視線。
それにしてもこの視界。また膝枕か。役得だな。
「ああ。でもいったい何が・・・?」
「オーマ、いきなり気絶したんですよ。それで、こちらの・・・えーと?シャル?」
「はいっす!このシャルロット=ウィーチがお助けさせていただいたっす!」
そして、胸を張っているのは、漆黒のマントに身を包んだ・・・アーリアより少し背が高い程度の小柄な少女。水色の髪から一本だけ立っているアホ毛。
「ん?・・・ああ。さっきつけて来てた・・・」
「まさか、気づいてたんすか!?」
気づかれていないとでも思っていたのか。
「ん~まあ助けられたみたいだな。さんきゅ」
彼女が何かしたのか、気分の悪さは消えていた。
「いえいえいえ、どういたしましてっす。けど、もちろんただじゃないっすよ」
「なに?」
あまり金銭の消費は避けたい。俺の睨むような視線に、シャルロットは慌てて言葉を重ねる。
「といっても、難しい事じゃないっす。ただ一緒に旅をさせてほしいだけっす」
「同行したい、と。俺たちが魔王討伐の旅をしているとしても?」
「・・・・!・・・はいっす」
少し驚くも肯定する。
「何でそこまで仲間になりたがる」
「うちより強い魔力を持つ方なんて初めて会ったっす。そのくせ、魔力の使い方が滅茶苦茶未熟でこれはうちが育ててあげなければ!と」
「うん、大きなお世話だ」
「そう言うと思ったから、様子見することにしたんす~!」
「なるほど。ま、構わない。戦力は多いに越したことはないからな。ヒメもそれで構わないか?」
「オーマが良いなら私に文句はないです」
「い、いいんすか?」
「何か問題が?」
ヒメがにっこりと笑みを浮かべる。
「いえいえ、とんでもないっす。きっと役に立って見せるっす。」
「ああ、よろしくな」
「シャル、よろしくお願いします」
「シャル?シャルロットだからか?」
「はいっす、ぜひそう呼んで下さいっす!」
というわけでシャルが仲間になった。
ファンファーレのような音が聞こえた。




