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第二十七話 共有

「何の音だったの?イーガ・・・・・ル?」


 そこへやってくる、耳と尻尾を寂しそうに垂らしたアーリア。まるで魂でも抜けたかのような様相に心が痛む。


「魔・・・・・王・・様?」


 そして俺を目にするや、ピン!と立てられる耳と尻尾。


「あ~オーマに、カリンだ~」


 そして先ほどの大震動に様子を見に来たオーレリアに龍爺。


「よう」


 イーガルに引っ張られ何とか地中に埋まっていた体を引っこ抜いて起こす。


 俺の姿を視認してから数秒。アーリアの小さな瞳から大粒の涙がこぼれ出した。


「魔王様ぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 そして放たれる、四天王のひとりによる全力タックル。


 俺はそれを全力で受け止めた。


「ぐすっ・・・・・・よ、良かったです、本当によく、御無事で・・・・ふぇえ」


「おう、心配かけて悪かったな。てか俺達家族泣きまくりだな」


「全部お兄ちゃんの所為だけどね」


「なのじゃ」


 そこへヒメと一緒に傍観に徹していたシロとカリンが話しかけてくる。


「本当に馬鹿なことしたなー」


「それがわかっただけ成長ということですな」


「龍爺・・・」


「全く、勇者から逃げろなどという命令が無ければすぐに飛んで参ったのですがな」


「全く~アーリアとイーガルが泣いて鳴いて大変だったよ~?」


 遠吠えでもしていたのだろうか。


「俺は泣いてないだろ!」


 オーレリアのからかうような言葉にイーガルは慌てて否定を返す。


「あれは泣いてたようなものだよ~。ね~」


「ええ」


「へえ・・・?」


 多分俺も今、意地の悪い顔をしていることだろう。素直に嬉しい。


「お、お前らだって!深刻な顔してたじゃねーか!!」


「あー認めたー」


「ほう?ではイーガルは深刻な顔もせずまったく気にしていなかったと?薄情ですなー」


「こ、こいつら・・・!」


「はは、ほんとに、皆・・・悪かった」


「いいんです。こうして無事に帰って来てくれましたから。もう、死ななくて良いんですよね?」


 俺の腹部に頭をぐりぐりと額を擦りつけながらアーリアがそう言う。


 そうだ、と言いたいところだが。


「悪い、まだ片付いていない。だから、協力してほしい。頼む、力を貸してくれ」


 そう言ってアーリアを抱き留めたまま頭を下げると。


「ほっほ、何を今更」


「だねー・・・面倒くさそうだけどー」


「ちっ。しゃーねーなー」


「もちろんです」


 そう、快諾してくれた。



「お帰りなさい、魔王様」


「ああ、ただいま」





「なあ、シロ・・・・・連れていけるのあと二人だけか?」


「うん。それともアルフレッドの記憶、捨てちゃう?」


「それは・・・あんまりだな」


「魔王様?」


 流石に聞こえてしまったのか、先ほどからずっと抱き付いたまま離れないアーリアが聞いて来た。


「いや、後で説明する」






「とーこーろーでー」


「そちらの見覚えのないお嬢さん方は一体どなたで?」


「もしかしてー」


「愛人ですか・・・・!?」


 今気づいたかのように、アーリアがシロを見て俺の体から離れ後ずさる。何だろうか、その、まるでシロみたいな小さい子供が俺の恋愛対象に入るかのような反応は。


「いや、違うから。新しい家族だ。まずはこっち。名前はシロ。いや、シロ=サタン、だな」


「よろしくね、みんな!」


 シロが元気よく敬礼をする。


「何だ、家族ですか・・・・って、お子さんですか!?」


「違う!妹だ、妹!だいたいこんなでかいのが生まれてたまるか!」


「あ・・・・・・う・・・・・・・そうでした」


 何故かアーリアは項垂れてしまった。


「ぶーぶー生まれるかもしれないじゃん」


 シロは何を言ってるんだ?



「ほーう、つまり―――?」


「ちっちゃいのなら、生まれる当てがあると~?」


 龍爺とオ-レリアがものすごくにやにやしていた。構ったらだめなやつだ。




「あーごほん。で、こっちが俺の・・・・まあ、恋人のヒメ=レーヴェンだ」


「た、ただいまご紹介いただきました。ヒメ=レーヴェンと申します。オーマさんとは清く正しく交際させていただいたおります。こ、今後とも何卒親密なお付き合いの程、よろしくお願いします」


 あれ、なんかヒメがかたい。そういやさっきから黙り込んでたな。


「ほうほう」


「オーマがね~。いつの間にーって感じだけどー」


 二人が品定めするようにヒメを見つめてくる。


「は、はい!つい先日オーマさんに攫って頂き、アーリアちゃ・・・アーリアさんとは既に親しくいただいて、・・・それで、その・・・・」


 ヒメが珍しくうろたえている。緊張してるのだろうか。てか、攫って頂きってなんだ。


「誘拐とは・・・マー坊も大胆なことをなさる。それほど激しい想いなのでしょうな~」


「ふーん。つい最近か~ということはまだまだ付き合いが浅いんじゃないの~?それにオーマは魔王だしね~ちょっとやそっとの覚悟で務まるものじゃないけど~?」


 なんだ、これ。だからこいつらとは会わせたくなかったんだ。てかそういう役目はカリンじゃないのか。


 当のカリンはイーガルに撫でるよう強要していた。けんもほろろな対応だったが。


「だ、大丈夫です!オーマのこと大好きですから!その、オーマが望むなら私―――」


「へー」


「ほー」



―――にやにや



「ストップ、ヒメ。気持ちは嬉しいけど言う必要ないから」


「で、でも、この気持ちは是非知ってもらうべきだと!」


「いや、本当、もういいから」


 そこでアーリアが、


「はい、本当にあの二人には構わなくていいので。それより何か話すべきことがあるのでは?」


 と、間に入ってくれたため、この場はこれで収まった。


 何故かアーリアは精神的に打ちのめされていた。どうしたのだろうか。





「事情説明したいんだがお前ら今はどこに住んでるんだ?」


「ん、適当に民家に住んでる。食糧豊富なもんだ。おかげで空腹の心配はない。まあ、今は人族に町や食料の取引をするためにいろいろ整理してるけどな」


 そうイーガルが答える。こいつが食料関係の仕事を任されるに至った流れを一応知っておきたい。後で龍爺にでも聞こう。


「そうか、ならこの人数が入れるところに案内してくれ。そこで話す」


「わかった」






「人族が見当たりません」


 俺の右側を歩くヒメがあたりを見回しながら言う。


 ちなみに左側はアーリアが俺の腕に抱き付くようにして歩いている。さっきからずっとこれだ。


 心なしか、無言の警戒がアーリアからヒメに向けて放たれているような気がしないでもない。


 それに対してヒメは、むしろ微笑ましげな視線を向けるばかりだ。娘に嫉妬されても困るのでそれでいいのだが・・・。そういうものなのだろうか。


 そんな中で出たヒメの疑問に俺が答える。


「今は見逃しがなければ全員魔王城だ。そう命令した」


 それはつまり皆殺しにしたということで。


「そうですか」


「何か言いたいことがあるのか?」


「いえ、それでもオーマは全員を生かそうとしてくれていたんですよね」


「ん、まあ」


「それだけで、十分です」


「そうか」



――にやにや



 そして、後方をあいつら。シロとカリンまで加わっている。家族仲が良いようで何よりだよ。



 前方は、イーガルに案内されて。そして、到着。城下町入口の宿屋のような場所だ。


 道中には声をかけてくる魔族が大勢いて、中には十人倒したとか二十人倒したとか自慢してくる子供もいた。ヒメの前でなんてことを言うのだろうか。流石のヒメもこれには怒ったようで、「二度と無いようお願いしますね」と底冷えする笑顔で言われてしまった。


 一度の過ちが様々な悲しみを生み出しているらしい。影響力があるというのも考え物だ。


 それでも、かつてユーシアやヒメに倒された連中が、今はこうして勢ぞろいしている。それだけが救いではある。


 侵攻中の犠牲者は人族と同じように『死消滅来』で魔王城の牢屋へ送られていた。アーシェから逃げようとした際にその魔族たちは俺がこちら側へ送り届けておいた。それ以降の犠牲者は知らない。今も結界は張り続けているから、向こうの牢屋に行くと思うが。

 そういえば、この状況で真っ先に飛んできそうなやつがいたような・・・・ま、気のせいか。


「兄は・・・どうなったのでしょう・・・」


 牢屋にはいなかった。ならまだこっちで生き延びていると考えるのが普通だが。あのユーシアにこの包囲網を回避できるだろうか。答えは否だろう。


「アーリア、ユーシアは捕まえられたか?」


「いえ・・・それが見つかりませんでした」


「ん・・・・・そうか」


 申し訳なさそうに答えるアーリア。


 ユーシアだけは殺さず、捕えておくように頼んだ。理由は言うまでもなく、ヒメが勇者になるのを避けるためだ。

 その際、勇者になる可能性があるから警戒するようにとは言い含めたが、それが捕まりもしていない。


 ちょっと信じられない。


 殺されても、捕まってもいない。なら今、ユーシアはどこで何をしているのか。


「ヒメ・・・悪い。ユーシアは諦めてくれ」


「あっさり言わないでください・・・・・でも今回は仕方ないですね」




 入るは町唯一の宿屋の、酒場になっている一階。


 そして、アーシェとアルフレッド以外の家族がそろったこの場で、俺は説明をすべて終えた。


 最初の世界で四天王が全滅したこと。俺がユーシアに殺されたこと。次の世界でヒメと和平を目指したがヒメが狂い始めたこと。三つ目の世界で勇者の誕生を阻止しようとしたこと。そのための軍の行動だったこと。アーシェとアルフレッドのこと。俺が発動していた『死消滅来』のこと。そして自分が死ぬことで作るはずだった未来のこと。そしてシロが教えてくれたこと。


 その全てを包み隠さず伝えた。ところどころ誰かが何か言いたそうにしていたが、最後まで聞いてくれた。





「さて、事情説明も済んだところで、これから作戦会議を始める!」


「結論ー」


 と、オーレリア。


「オーマが悪い」


 と、イーガル。


 会議を始める前に弾劾裁判が行われるらしかった。


「アーリアもですな。唯々諾々と従うだけが参謀の役目ではありますまいに」


「うう」


「いや、アーリアは俺の命令に従ってくれただけで・・・」


「そうだねー逆らわないと分かったうえでアーリアにだけ頼むんだから、相当悪辣だよねー」


「うっ」


「様子がおかしいのはわかってたけどよ、何かあるなら絶対話してくれると思ったんだけどな・・・」


「ううっ」


 そう、みんなに責められる俺を見て、


「案外オーマの立場って低いの?」


 ヒメの率直な感想が何気にぐさっとくる。


 シロに尋ねた言葉だったが、シロも、さあと首をかしげる。


 それに答えたのはカリンだった。


「信頼あってのことじゃ。自分で正誤の判断ぐらいできるじゃろう、とな。要するに皮肉を言わねば収まらんのじゃ」


「ああ、わかります、流石に身勝手ですよね。自分から死のうとするなんて」


「うむ、まったくじゃ」


 四面皆敵だった。


「も、文句を言っていても始まりません!本題に戻りましょう」


 との、またしてもアーリアの助け舟によって俺たちは本題に戻る。


 では本題とは何か。


 簡潔に言えば「次の世界でどう行動するか」それに尽きた。




「戦力を確認します。まず、魔王様を筆頭に、私たち四天王を含めた魔王軍。人族からは、ヒメさん、ここにはいない、アーシェさん、アルフレッドさん―――」


 俺たちがアーシェとしか呼ばないので、ああああの名は自然消滅した。


「そして、聖剣のシロさん」


「はーい」


「わらわは?わらわは?」


「魔王軍にでもはいってんじゃねーの」


 疑問を呈すカリンをイーガルが適当に流す。


「ふーむ、さようか」


 言わずもがな戦力にはならない。そういう意味ではアルフレッドもなのだが。


「問題点は・・・一つ、リアンでもイースでも勇者が誕生すること。一つ、魔王様をつけ狙う勇者が不死身であること。一つ、勇者が誰であれ、必ず私たちの敵となること。一つ、ヒメさんの顔を立て、人族には危害を加えられないこと」


「あ、最後の問題点は省いていいです」


「いいのか!?」


 いやいや、良くないだろ。大事な物どうなった。


「なら、省くのではなく、付け足してください、人族だけでなく、魔族の方も被害を出さないように、と」


「はい、ではそうしましょう」


 え・・・?と固まっている俺の方をヒメが向く。


「オーマの大切な物は私にとっても大切な物です。オーマ、一緒に頑張りましょうね」


「・・・・ああ、そうだな」


 そうだ。ヒメはこういうやつだった。


 ヒメがそういってくれるなら、俺もそう考えなければいけないんだろうが・・・。


 ・・・・・・ユーシアがなぁー。





「ではそう考えると・・・もう勇者がただひたすら邪魔ですね。さっさと消えてほしいものです」


 いつものように、アーリアが進めていく。


「そんな中で私たちの目標は一つ。魔王様を死なせないこと、です」



「はい」

「うん」

「のじゃ」

「ですな」

「ああ」

「ん~」


「ちょっと待ってくれ」


「質問は後でお願いします」


 アーリアが素っ気ない。アーリアも根に持っていたりするのだろうか。

 魔族の平穏を目指していたはずが、いつの間にか俺の平穏を目指していたらしい。


「そこで私が提案できるのは二つ。一つは勇者誕生前の和平条約の締結、です。聞けば電撃的な和平締結の流れだったとか。ならそれを最初期に行おうというものです。幸い、記憶、時間、どちらも手の内ですし」


 妥当なところだ。俺も冷静だったなら、この行動をとっていたかもしれない。その場合、いきなり魔王が人族の王女に和平を望みに行くという奇行ではあるが。


「ただ問題なのは、それによって人族が調子に乗り、増長・・・最悪勇者召喚の儀式を行いかねないということ、そしてこちらでも和平のたいみんぐから魔族の皆さんの不満がたまるということ。まあ、こちらはいくらでも対応が取れますが」


 ちらっとアーリアがヒメに視線を向ける。


「もちろん、その場合は私も頑張ります」


「・・・・・・具体的には?」


「あーーえーー・・・・。どうしましょう?」


 前にヒメは国民からの信頼が薄いと嘆いていた。生粋の箱入り娘には酷な話だ。


「話にならないですね」


「アーリアちゃんが冷たい!」


「安心しろ、仕事中はいつもこんなもんだ」


 基本なんだかんだでアーリアの独壇場だ。慣れたもので四天王の他のメンバーも口を挟まない。


「と、いうことで、次の案です」


「見限られました!?」


「ははは」


 苦笑いするシロ。






 そして―――



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