第二十六話 魔王パーティ
シロの話によれば今日が勇者召喚の日だ。
魔王城の外で俺たちは立ち会う。
アーシェの記憶を奪っておく必要があった。つまり、勇者になる前に。そしてその後は赤の他人として見捨てるということになる。
「・・・・・。」(こくん)
「まあ、おおむね事情は理解しました。もちろん大丈夫です!」
それでもアーシェとアルフレッドの二人はあっさり快諾してくれた。そんな二人の対応をいつから俺は嬉しく感じるようになっていたのだろうか。
俺が守りたいと思う存在がまた増えてしまっていた。
「なら、これから記憶を奪うことになるわけだが」
そう言ってアーシェ達に確認を取ろうとすると。
「・・・・・!」
アーシェに手を突き出され止められる。
「ん?」
「・・・・・。」
そして、その手を傾け、今度は握手をするように手を差し出してきた。
「ふむ」
とりあえず応えるように握手をしてみる。
「・・・・・・?」
「・・・・・。」
アーシェはしばらくそれを見つめていたかと思うと、わずかに微笑んで見せた。
「はっ!?」
「・・・・・?」
「お前、今、笑って・・・?」
「・・・・・?」
なにが?というように首をかしげるアーシェ。気のせいだったのだろうか。アーシェの表情はいつもの無表情だった。
それはともかく。
「気は済んだか?」
「・・・・・。」(ふるふる)
済んでいないらしい。
首を振ったアーシェは視線でヒメとシロ、そしてアルフレッドを呼んだかと思うと、握手していた手を、俺の手を両手で挟むようにしてから、数回上下に振った。
「あ、なるほど」
納得したように、こちらに近づいたヒメがそこに手を重ねる。
「じゃあ僕も」
と、アルフレッドが更に手を重ねようとして、
「その前にぼくね!」
と、シロが割って入ってヒメの手の上に自らの手を重ねた。
「え、はい・・・?」
そしてよくわからないといった風にその上にアルフレッドが手を重ねた。
「・・・・・・」
無言でシロがこっちに視線を向けてくる。
ああ、よくやった。なんて、視線で返す。まあ、手が触れたくらいでどうこう言うつもりはないが。
俺たちの重ねられた手。それをアーシェはどやーといった雰囲気で見せつけてくる。
少し前にアーシェが宣告した光景。本当に実現した。
「でも、別にお前の手柄ってわけでもないよな」
「・・・・・!」
「オーマ、いじわるいっちゃ駄目ですよ。気持ちはわかりますが」
――がーん
といった風情のアーシェ。
「それでも、アーシェ達が居なければこの結末はなかった。ね?アルフレッド」
「そうだと良いですけど・・・・えと・・・君、誰?」
見ず知らずの少女に赤毛の少年は今更なことを言う。
「細かいことは気にしない~」
「細かいかな?でも何もして無いなんて言ったら僕なんて・・・・・・はあ」
「そういや、あのドラゴンどうしたんだ?」
「ドラさんですか?今は巣に帰ってもらってます。呼んだら来てくれると思いますが・・・呼びますか?」
「いや、いい」
ドラゴンを使い走りにするとか。
「それで、いつまで続けるんだ。これ?」
「・・・・・。」
「リーダーが何か言わないと締まりませんね」
と、ヒメ。
「リーダー誰だよ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・。」
「・・・・・・・・・・」
リーダー不在だった。
「じゃあ、もう、アーシェでいいから、なんか締めろ」
「・・・・・。」(ふるふる)
アーシェは首を振る。そして俺に視線を向ける。
「だ、そうですよ、オーマ?」
「・・・・・・俺をリーダーにするということは、このパーティが俺のものになるということなんだが?」
「何を今更・・・」
呆れたようにシロが呟く。
「各自お兄ちゃんとの関係を挙げるように!ぼく、妹!」
「お嫁さん・・・・ぽっ」
「ええと、家族にさせてもらいました」
「・・・・・ぺっと」(ぼそ)
「・・・・・・・・・・おい待て、最後。そんな言葉に貴重なセリフを使うな」
「もう既に、お兄ちゃんのもので構成されています!リーダー!」
ものの意味が違うと思うが。
「ああ、もう・・・好きにしろ!」
「好きにするのはオーマですよ?」
「そうだな。だったらこのパーティは全部俺の目的のために使わせてもらう。チーム目標は―――」
そこで全員の視線が重ねられた手に向かう。
「俺たちの平和な世界をつくるために!全員俺に力を貸せ!」
「はい!」「うん!」「・・・・・。」(こくん)「はい!」
そして、俺は手を振り上げた。
「良い事なんですけど、とても魔王とは思えませんね」
と、最後にアルフレッドが余計なことを言ったのを最後に、二人の記憶を奪った。俺がアーシェから。シロがアルフレッドから。
気を失った二人をどうするか、考えていなかったことに今更気づく。「ぬぐぐ」とシロがアルフレッドに押しつぶされそうだ。だから何であいつは鎧を着てるんだよ。
クオウあたりにでも預ければいいだろうか。だが、説明が面倒だ。
「・・・・・・ん!」
――くいくい
悩んでいると、袖を引っ張られた。
「?」
振り向く。
――ばっ
「お?」
振り向いたところを抱えていたアーシェを奪い取られた。
そこにいたのは・・・・見知らぬ少女だった。
蒼の髪に、蒼の瞳。アーシェを彷彿とさせるような、無表情。足は裸足、体には茶色く薄汚れた布を身に着けている。にもかかわらず、少女から放たれる蒼光の粒子が神秘的な雰囲気を感じさせる。
「ふえ?」
その少女はアーシェを小脇に抱えたまま、シロのもとにも近づきアルフレッドを受け取り肩に担ぐ。小柄な体躯に似合わない怪力だ。
そのまま立ち去ろうとする少女を、
「待ってください、二人をどうするつもりですか」
ヒメが止める。
「・・・・・・」
ヒメの言葉に少女はしばらく考えるように立ち止まっていたかと思うと、また何も言わず背を向けたまま歩き出した。
その合間に俺の手が熱くなるような感触を覚える。いつの間にか握っていた手のひらを、目の前で広げる。そこにあったのは。
「待っ――」
「ヒメ!・・・いい。彼女に任せよう」
「え、でも・・・」
「大丈夫だ」
そのまま少女は人間二人を抱えてままその姿を消した。青い炎のカーテンに包まれて。
オーマの手に握られていたのは、『竜王の鱗』だった。
気を取り直し、アーリア達に会いにリアン城へ。ヒメとシロ、そしてカリンと共に瞬間移動で訪れる。
「さて、どこにいるのか・・・」
アーリア達を探そうと視線をめぐらせる。が目に映るのは廃墟ばかり。
「・・・・・オー・・・・マ?」
「うん?」
「これ・・・」
リアン城の残骸を見てしまったヒメが怖かった。
「・・・・・すみませんでした」
「はー。今更言ってもしょうがないですね」
それでヒメは矛を収めた。
「オーマ・・・か?」
途方に暮れていたところで、聞き覚えのある声が聞こえ、振り返った。
「・・・・・・・生き・・・てた・・・・・・・・・・のか」
そこに立っていたのはイーガルだった。ぴんと耳を立て肩を震わせていた。
「イーガルか。・・・・よっ」
気軽に手を挙げてみたら、
「っ!!!!!!!!」
瞬間世界が流れた。
「ふざっけんな!!!!!」
イーガルに思いっきり殴られていた。もちろん転ぶ程度では済まず、体が吹っ飛ばされる。
「オーマ、とんでっちゃいました」
「きっと大事な話があるんだよ」
「うむ。男とは拳で語り合うものなのじゃ」
「何考えてんだ!!!!!てめーは!!!??」
「ちょ、ま――――ぶほぉ!」
そして絶え間のない追撃。
「単独行動!?自己犠牲!?あー勝手にしろ!オーマの自由だ!だがな!アーリア泣かせてんじゃねーよ!!!!!!!!!!!!」
容赦のない顔面へのぐーぱんち。
ああ・・・・・・・
これは・・・・自業自得だな。
「俺は死ぬけど後頼む!?俺はここまでだ!?アーリアになんてもの背負わせてんだおめえは!!!!」
「ぐうぉっ!」
とんでもなく鋭い一撃。そして次の瞬間には逆方向からの一撃。
「何で、そういうのを俺に任せねーんだ!」
いや、だってお前だと絶対途中で頭に血が上るだろ。などとはもちろん言わせてもらえない。物理的に。
「オーマがどう考えてるかは知らねーけどな!お前は間違いなく俺達家族の中心なんだよ!どれだけ心配したと思ってんだ!!!!」
「ほん――――悪かっ―――――ぐはぁっ」
「なのにけろっとして帰ってきやがって!無事ならさっさとそう言えよ!!バカ野郎!」
そして何度目だろうか空中に打ち上げられる。
「ちょっと反省して来やがれ!!!!!!」
最期とばかりに勢い凄まじく放たれたイーガルのアッパーは、勢い凄まじく俺を空へ飛ばした。
「はあ・・・・はあ・・・・・はあ」
そして落下する。傍らには怒りからか急激な運動からか息を荒げるイーガル。
隕石でも振ってきたのかというほどの地鳴りを響かせて地に埋まるオーマの胸を、
「ほんとに・・・心配させんじゃねーよ」
イーガルはとどめとばかりに軽く叩いた。
「悪い。心配かけた・・・・」
苦笑いしながらオーマは謝罪する。
「俺はいーんだよ。とにかく、二度とアーリアに心配かけるな。あんな顔させるな」
「・・・・・」
そうしたいところだが、さて、どうなることか。
「そこは嘘でも頷けよ・・・ったく」




