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第二十四話 取捨選択



「その上で、これからどうするか、だ。最重要は勇者の誕生を阻止することだよな」


 聞いた話をまとめる。


 勇者が生き返るのは、聖剣――シロ――を所有しているから。そのシロは今は俺の手の内だ。

 ヒメが俺を殺そうとしてきたのは勇者召喚の儀式によって強制されたため。その勇者召喚の儀式は行われていない。

 今は比較的に安定していると言える。俺の命を脅かす勇者が存在しない。


 勇者さえ、誕生させなければ・・・・・もう、誰も死なない。


 ならば今、勇者の誕生をどう阻止するか。


「あ~それなんだけどね。明日には勇者が誕生するんじゃないかな?」


・・・・・・・・・・・・・・・


「は!?」


 そんなあっさりとしたシロの暴露に唖然とする。

 今までぼかされていた事実をあっさりと。確かにシロはこの件を曖昧にぼかしていた。だが、明日とは・・・。


「そろそろリアン国の異変がイースに伝わっているはずだからね。勇者召喚の儀式は今度はイースで行われる」


「まじか・・・・」


 一日足らずでイースまで行く方法は無い。瞬間移動はイースを範囲に含まないからだ。


 それはつまり、いきなりの手詰まり・・・。


「・・・・聖剣はどうなるんですか?シロちゃんはここにいますよね」


「ぼくが失敗した時の予備としてイースにも聖剣はある」


「なっ・・・・・」


「・・・・・!」


 聖剣、シロのような馬鹿げた存在がまだ他にあるというのか。その真実に、かつて二人目の勇者が現れたときのように驚愕する。どれだけ用心深いのか。このシステムを作り上げた存在は。


「そして、もしかしたらその時召喚されるのはアーシェかもしれない。まあ、ユーシアの可能性も高いけどね」


「兄様が・・・」


「・・・・・。」


 アーシェが、ユーシアが、本当に勇者になる。


 そうなった場合、アーシェは俺を殺そうとは思わないだろう。そうするとアーシェは望まない行動を強制されることになる。あの時のヒメのように。


 そして、それはユーシアでも同じことが言える。あいつは今、ヒメを人質にとられている為に俺を攻撃するわけにはいかないのだから。


「それは、もう防げないのですか」


「アーシェについては方法はあるよ?お兄ちゃんが前にユーシアにやったことと同じことをすればいい。右腕を切るとか。ぼくの力が働かないよう出来るだけ離れてね。でもそれじゃ・・・・だめだよね?」


「当然だ」


「・・・・・。」


 家族を傷つけるような方法は絶対に認めない。


 それでも放置すればアーシェをやはり苦しめることになる。さらに言えばまた別の勇者が現れるのでは意味がない。


「・・・・・・・・・」


 沈黙が下りる。八方ふさがりだった。


「そこでね、お兄ちゃん。お願いがあるんだ」


「・・・・・何だ?」


「うん・・・・・・お兄ちゃんにはね、この世界を――――」



「―――捨ててほしい」












「それは、この世界を諦めて、再び時間を巻き戻すということですか?」


「うん。流石お姉ちゃん。察しがいいね」


「ヒメやアーシェ、アーリア達を見捨てろと?」


「ううん、そうじゃない。お姉ちゃんとアーシェは連れていく。他は、あと二人ぐらいなら、一緒に連れていける」


「はあっ!?」


 俺はもう何度驚いているのか。予想外のことが起こり過ぎている。


「それはつまり、複数人で時間移動ができるということですか?」


「うん」


「・・・・・?」


 どうやって、とアーシェが尋ねる。


「えっと・・・・なんて?」


「どうやって、だとよ」


 まさか、俺がこれからは通訳を務めるのだろうか?俺じゃなくてもだいたいわかるよな?


「ぼくとお兄ちゃんとで記憶を奪う。それを時間が戻った先の世界で返す」


「・・・・・なるほど。お前、頭いいな」


「えっへん」


「・・・・・?」


 どういうこと?と聞いてくるアーシェ。


「アーシェの今までの記憶を奪う。俺はそれを持ったまま時間を巻き戻り、それを次の世界のアーシェに返還する。そうすると今のアーシェが、記憶だけはその世界に一緒に移動することができるわけだ。そういう力が俺にはある」


 とシロの説明に少しだけ付け足す。


「・・・・なるほど」


 ヒメが頷く。


「実行可能なことは、さっき俺の記憶が戻ったことで実証済みだしな」


 あれは違う時間軸のことだったはず。シロに記憶を奪われたのは。


 時間跳躍について整理すると、まずユーシアに殺されて、一回、ヒメの狂化に端を発してユーシアに殺された二回、俺の誘拐と虐殺によるヒメの暴走で三回、この後にシロに記憶を奪われ、アーシェ達と出会い、俺の自演による魔王死亡で四回。そして、今さっき、記憶が戻されたこの世界は五番目の世界となる。


 自分で気付けなかったのは、冷静でなかったからだろうな・・・。もっと早くに気づいていれば・・・・少なくとも―――は、もう言っても仕方ないよな。ヒメは今、ここにいてくれる。


 それだけじゃない。情報の共有を一瞬で行えるこの価値は大きい。


 そう・・・ヒメといきなり、いちゃいちゃすることだって可能になる!


「?」


 ぐっと拳を握るオーマをヒメが不思議そうに見ていた。




「・・・・・。」


 話は聞かせてもらった、とばかりにアーシェが額を突き出してくる。


「いや、まだいいから。だが、ヒメとアーシェはこの案に賛成できるのか?」


「え?あ、はい」


「・・・・・。」(こくん)


「お兄ちゃんは納得できない?」


「いや、それが正しいことはわかってる。だが、結局はこの世界のヒメやアーリアを見捨てるということだろ?」


 もう二度も、三度もアーリア達は殺されている。俺が守り切れなかったばっかりに。それが一回増えるだけだと言うには、余りにも・・・・重すぎた。


「そうだね、でも・・・」


「わかってる。言わなくていい。俺も賛成だ」


 できることなら、全てを守りたい。だがそれを言う資格は・・失敗した俺には無い。


 それでも・・・たとえ、今救うことが出来なくても、いつか必ず、皆を救う。そのための・・・。


 割り切らなければならない。でなければ本当に何もかも失ってしまう。ようやく見えた希望の光なのだ。


「・・・良かった。そうと決まれば今日は寝るね・・・・・・ちょっと力を使い過ぎたから・・・・・おやすみ」


 そう言ってシロは姿を消した。聖剣に戻ったのだろうか?随分唐突だった。


「寝た・・・のか?」


「そうみたいですね」


「・・・・・。」


「とりあえず、明日のこと考えるか・・・」


 猶予はどれくらいだろうか。とにかく、時間切れとなるまでに出来ることはしておきたい。




「いろいろしなくちゃなあ」


 シロからの状況説明を終えて、放り出すように体を後ろに倒す。


「わっ・・・いろいろって、なにをですか?」


 くっついたまま一緒に倒れてきたヒメが問いかけてくる。


「なにって、クオウたちへの説明とか、和平交渉とか」


「二、三日でそんなことできるわけないじゃないですか」


「いや、出来る出来ないの問題じゃ・・・」


「そんなことより、今日は一日中いちゃいちゃしたいです!」


「それは、また・・・・心躍るけど」


「ですよねっ!」


 投げ出すことが決まった。


「・・・・・。」


「いや、あ・・・アーシェ、悪い・・・」


 必然、アーシェと共にいるわけにはいかない。


「・・・・・。」(こくん)


 一度頷きはしたものの寂しそうにしょぼんとするアーシェ。


「本当にごめんなさい、アーシェちゃん。次は三人で、ううんオーマと二人で寝てもいいですから」


「譲るな」


 この際、もう断言しておくべきかもしれない。アーシェをこれ以上傷つけないためにも。


「アーシェ、俺は、今後一切、お前を恋愛対象として見ることは無い。だから、お前がいくら俺を好きになろうと、全て無駄になる。俺は―――ヒメが好きだ」


「オーマ・・・」


「・・・・・。」(ふるふる)


 そんな俺の宣言に、しかしアーシェは、関係ないと首を振る。


「そうか・・・。なら、好きにしろ。俺は忠告したぞ」


「・・・・・。」(こくん)







 シロが眠ったためか、しばらくしてクオウら三人は思い出したように動き出した。今更だが彼らの動きを封じる必要はあったのだろうか。彼らにも協力してもらえるならしてもらいたかったが。

 とはいえ今シロが眠っている理由を推察するに、魔力不足による顕現時間の逼迫だろう。

 そうすると事態共有に時間がかかってしまうのが問題となるのか。


 ヒメも、いまいち肝心な説明をしていなかったらしく(ラルフいわく、黙って私についてこい状態)、当然のように説明を求められた。


 そんな中を、アーシェとアルフレッドに任せて抜け出してきた。見捨てる世界で、その行動が無駄になることはアーシェも承知していただろうが、引き受けてくれた。でもあの無口にそんな役目が果たせるだろうか、少し心配だ・・・アルフレッドが。




 そして、オーマとヒメは今、二人きりでオーマの私室にいた。





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