第二十二話 呪われし存在
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは、記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・勇者とは何だ?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
質問が増えたな。
「なら、勇者とは何だ?どうすれば本物の勇者と言える?」
「・・・・・・魔王を倒すためだけに行動する最低最悪の神の使者。その使命を果たすためなら命を捨て心を捨て望まぬ戦いすら強いられる、最凶であり最狂の呪われた存在。それが勇者」
聞いた限り、魔王よりおどろおどろしいんだが・・・。
「待ってください。勇者様は魔族から私たちを救ってくれる救世主ではないのですか?」
「・・・・・・・・あくまでぼくの見解だから。でもお姉ちゃんたちがどう思おうと、勇者はお兄ちゃんを絶対に殺す。それだけは確かだよ」
「・・・・・・・あ」
「・・・・・。」
勇者二人が黙る。いや、元勇者に偽勇者か。
二人の頭をぽんと叩く。
「オーマ・・・・・?」
「・・・・・?」
「お前らは違う。少なくとも今は。だからそんな気にすんなって」
「うん、今はお姉ちゃんもアーシェも勇者じゃないから、殺されることは無い。その点は安心して!お兄ちゃん」
「・・・・・・もしかして、なんだが・・・俺はあの状況では全く死ぬ必要がなかったり・・・?」
勇者がいなかったというなら、そもそも俺が死んだときという仮定すらいらず、つまりヒメに、アーシェにあんな態度を取る必要もなかったということで・・・・あれ、俺の行動って必要あったか?
「そういうことだよ。お兄ちゃんのばーかばーか!」
「ぐっ!」
自分でもばかなことだったと理解してしまったために言い返せない。
「でも必要があるなしじゃない。お兄ちゃんには生きていてほしい。それが間違いなくここにいるみんなの願いだよ?」
「はい」
「・・・・・。」(こくん)
そう言ってくれるのは嬉しい。嬉しいんだが・・・。俺の頑張り・・・・。
「ま、ありがとな」
「はいー・・・・」
「・・・・・。」
二人の頭を撫でると、二人ともくすぐったそうに目を細めてくれた。
「・・・・・いいなー」
「・・・・・・・」
そんなことを言われたら、撫でないわけにはいかない。ふっ、分身の真の使い道が発揮される時が来たか、と、分身をつくろうとして、
「オーマ、私はもういいので・・・」
「・・・・・」(こくん)
「ああ、そう?」
しかし、ヒメとアーシェが譲った。
俺は少女に歩み寄る。
「これで、満足してくれるか?」
「ふぇ?」
俺はしゃがんで少女の頭にポンと手をのせる。
片手間に思えるが、謝意は本物だ。
「今のこの状況は、お前が頑張ったおかげなんだろ?だったら、本当に―――ありがとな」
「お兄ちゃん?」
「おう」
そして軽く撫でる。
「~~~~~!!」
少女が俺の腰に抱き付いてくる。
「おおう」
その勢いに逆らわず、しりもちをつく。
その状態のまま、俺からも抱きしめ、撫でる。
「・・・・ふぁーーーーーん!!!」
そして、少女は堰をきったように、泣き出した。俺の胸にすがりつく。
「・・・・・・・・ぼくっ、いっぱい頑張ったよ?・・・・・いっぱい頑張ったんだからね!」
この少女が一体何を見て、何をしてきたのか、俺は全てを知らない。だが、知っている分だけでも俺は、ただ抱きしめたいと思った。
「おう。よく頑張ったな」
――なでなで
「ぐす、・・・・ひっく・・・もう、死んじゃやだ・・・・」
「おう、俺だって死にたくない」
「お姉ちゃんもだからね!!」
「はい、もちろん死にも、死なせもしません」
「アーシェも!」
「・・・・・。」(こくん)
「もう、ぼくを一人にしないで!」
「ああ、悪かったよ」
「お兄ちゃんのばかーーーーーーうわーーーーーーーん!!!!!!!」
「もう、いいのか?」
しばらくして、少女が自分から離れる。
「うん!補給完了!」
「何を補給したんだ、何を・・・」
「で、本題に戻ると、俺を殺すのが勇者の使命だとして、勇者はどう誕生するのか・・・だ」
「勇者とは勇者召喚の儀式によって喚ばれたものの呼称だよ」
「勇者召喚・・・・・『勇者召喚の書』・・・・とかあったよな?」
「あ・・・うん。そう、それ。ぼくいわく、悪魔の書。次見つけたら問答無用で封印してね」
「え・・・・?それって我が国の国宝の一つじゃ・・・・」
「まあ、リアン国の宝物庫で見つけたからな」
今も俺の部屋にしまってあるはず。後で封印しておこう。
「・・・・・・・・・」
「そんな目で見るな。仕方ないだろ」
「別に良いですけど」
何か言いたそうにしていたが納めてくれたらしい。
「じゃあ、アーシェはただ聖剣を拾っただけで、勇者召喚の儀式をしていないから、勇者ではない?」
「うん、そういうこと」
「ってことは、俺はもう殺される心配がないってことか?」
もし、そうなら、ユーシアから続く俺の苦難はようやく安らぎを迎えたことになる。
「ううん、それは違う。アーシェちゃんが勇者じゃないってだけで、本物の勇者は別に誕生するから」
だが、もちろんそうもいかないらしい。
「ああ、言ってたよな、時間稼ぎでしかないとか・・・」
「いつ勇者は誕生するのですか?もうすでに誕生していたりするのですか?」
「さあ・・・・どうだろ」
それまで断言してきた少女の言葉が曖昧になる。特に意味は無いのかもしれないが・・・こいつにも知ることが難しい事なのかもしれない。
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは、記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・勇者とは何だ?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
「そもそも、俺たちの周りで、いったい何が起こっているんだ?何故俺は時間を遡って生き返る?勇者が狂暴化する?何で勇者は殺しても死なないんだ?・・・・いや、待て、アーシェが勇者でないなら何故、ああ何度も復活する?」
「何でそれを一つの質問として聞いちゃうかな・・・。まあ、それを話すなら、ぼくについて話した方が早いかな・・・。ねえ、お兄ちゃん、僕の名前考えてくれた?」
「あ、ああ・・・・」
どうしよう、全く考えていない。
「じゃあ、お願い。その名前をぼくに下さい」
「・・・・白」
思わず口をついて出て言葉は何故か妙に馴染み深さのようなものを感じさせた。
「シロ?」
「ああ」
「シロ、しろ、シロ・・・・」
馴染ませるように繰り返す少女。
「どうだ・・・?」
「由来を聞きましょうか?オーマ?」
そこでヒメが聞いてくる。根に持ってるなー。
「何となくだよ、何となく。悪いか?」
「私の案は却下したくせに・・・」
「ああ、そうだよ、俺だって名づけのセンスなんて無いさ」
「・・・・・。」(ふるふる)
俺が自嘲すると、アーシェが、シャツの裾を引いて、首を振ってくれる。
「おお、そうだよな!お前はアーシェって気に入ってくれてるもんな!」
「・・・・・。」(こくん)
「アーシェちゃんの名前をオーマが!?」
正確には名前ではなく愛称だが。
「“シロ”。うん!ぼくも嬉しい!」
「そうか、それは良かった。ふ、どんなもんだヒメ」
「う~~~~」
「じゃあ、教えてくれるか?お前の、シロの正体について」
「うん」
そう言って、シロが指さした先は・・・俺が佩いていた聖剣だった。ヒメから受け取ってから見様見真似で鞘を呼び出し、仕舞っていた。
「まあ、そうだろうな・・・・」
予想は出来たことだ。俺やヒメとの接触のタイミングを考えれば。どちらも聖剣を持っていた時だった。
「正確には『魔王殺しの聖剣』。それがぼくの正体」
「名前物騒!!!!」
「最初はただの『聖剣』だったんだよ?でも魔王さん達を倒し過ぎてこんな称号を貰っちゃった、てへっ」
「何それ、怖すぎる」
「うん、ぼくもそう思う。でもぼくはこれ以上お兄ちゃんを傷つけたくない。だから、『魔王殺しの聖剣』じゃなくてシロって呼んでほしい」
それが俺たちに名づけさせた理由だったらしい。確かに魔王殺し、魔王殺し、言われたんじゃ何よりもまず俺の気が休まらない。
「シロちゃん、ですね」
「・・・・・。」(こくん)
そしてアーシェも頷く。
アーシェ、お前は本当に呼ぶのか?呼ぶ機会があるのか?
「ああ、わかった、シロ。・・・・・・ところで、聖剣って性別があるのか?」
「無いよ?」
「じゃあ、お前が少女の姿をしているのは?」
「・・・・・・お兄ちゃんが喜ぶから?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
「えへっ」
「爆弾投下すんな!!!!少女趣味だと思われたらどうする!」
「えーお兄ちゃんが聞くから~」
「だいたい、俺はヒメ一筋だ!」
「オーマ・・・・」(ぽっ)
「・・・・・!」
アーシェが泣きそうな顔でこちらを見てくる。アーシェの表情についての言及も全て俺主観によるものだ。決して事実と同一ではないことをここに明言しておく。その上で今更だが、アーシェの気持ちをどうするべきなのか。いや、応えられないことは決定しているのだが。
「いや、あ、お前は・・・・家族ってことで勘弁してくれ!」
「・・・・・。」
しょぼんとしている。
「いや、でも本当に気持ちは嬉しいというか・・・・お前がいてくれて良かったって言うのは本心で・・・これからも一緒にいてくれるとありがたい・・・んだが・・・」
しどろもどろな俺の言い訳にアーシェは、
「・・・・・。」(こくん)
心なしか嬉しそうな・・・それでいて、とても寂しそうな笑顔を向けてきた。
(頼むからそんな顔するなーーーー!!!)
「ああ、もう、どうすんだ、これ・・・」
「・・・・修羅場が出来てるねー。はい!はい!アーシェの家族の立ち位置は何処ですか!」
「・・・・・!」
そうか、そっちの問題があったか!とアーシェが目の色を変えた。
「火に油を注ぐな!」
「え~でも気になるし~」
「ぐっ、他人事だと思って・・・!」
「え?ぼくも当事者になって良い?はい!お兄ちゃん!ぼくもお嫁さんに!」
「おい?」
「しなくてもいいから、妹にしてくれると嬉しいかな~って。」
「はあーお前もうずっとお兄ちゃんって呼んでるじゃねえか」
「既成事実ってやつだね」
「あの、オーマ?」
「いや、ヒメ?俺はお前だけを愛してるからな!」
何か疑われる前に宣言しておく。基本ヒメは俺の言葉を無条件で信じてくれる。
「あ、ありがとう・・・・ございます・・・・・」
今度はいつものような顔を真っ赤にして、か細くなっていく声で礼を言ってくれた。
「って、そうじゃなくてですね!私は別にアーシェちゃんやシロちゃんをお嫁さんにしても構いませんよ?」
「は?」
「え?」
「・・・・・!」
俺たちの視線がヒメを向く。驚愕の表情と共に。
「お前、それ、もう、俺に飽きたってことか!?」
「うわ~お兄ちゃん捨てられちゃった・・・・」
「・・・・・?」
チャンス・・・・?とアーシェ。
やばい、涙でそう。
「ち、違います!オーマとはずっと一緒にいます!!そうじゃなくて、別に、オーマが喜ぶなら私は多妻でも構わないと言ったわけで」
「それって、嫉妬すらしてくれないってことか!?まさか既に倦怠期!?」
「これは想定外の事態!」
「・・・・・!」
もしかして、チャンス?とアーシェ。
「あー!!!!もう!オーマ!!!」
「は、はい!」
ヒメの怒声に硬直していると、ヒメの顔が眼前に迫り、
―――ちゅ
キスされた。
「!?」
「流石・・・・お姉ちゃん・・・・」
「・・・・・。」
期待させやがってからに。と、アーシェ。
「~~~~~~!!!!!!」
そして一番恥ずかしがっているヒメ。
少しずつ言葉を紡ぎ出す。
「その!その・・・・オーマのこと好き過ぎて、仕方ないです。だから、そんな心配はしないでください」
いつも目を見て話すヒメが恥ずかしさのあまりか視線を逸らして言う。
「あ、ああ、わかった」
返事にそう口にするのがやっとだった。
これは・・・・にやける。こういうのを飴と鞭と言うのだろうか。
「ファーストキス・・・オーマに上げちゃいました」
唇に手を当てぽーっとするヒメに、
「え?いや、まあもらったけど・・・・」
今朝既に・・・・更に言うなら捕まえてきたときに無理矢理・・・・。
「あれはノーカウントです!」
「そうなのか」
俺の表情から考えを読み取ったのか。相変わらずの以心伝心だった。
「でも、だったら何で、アーシェを妻にしてもいいなんて言うんだよ」
「オーマだって可愛い子が一杯いたら嬉しいですよね!」
あ、これアーリアをいじりまくった時の顔だ・・・。
「いや・・・・別に・・・。ヒメさえいてくれたら、それだけで」
「~~~~~~~~!!!」
ヒメが悶えている。
「それでも、プラスα、何か感じるものが!」
「いや、ヒメとの愛だけで最大値に達してる。恋愛面はそれ以上必要ない」
「なんで、そんな、嬉しくなるようなことばっかり、言うんですか!私を、どうしたいんですか!」
俺をがくがく揺さぶりながら訴えてくる。涙目になってる。
以心伝心と言っても大事なことはあまり伝わっていないらしい。
「そんなの決まってるだろ?ヒメには俺しか見えないぐらい俺のことを好きになって欲しい」
勇者の件がなければどれだけ時間がかかろうとヒメを落とすつもりだった。あんなことをしたんだ、できるとも思ってはいなかった。だがそうするべきだと思っていたから。
「俺はもうその状態だしな。世界で一番愛してる、ヒメ」
「うにゃああああああああああああああーーーーーーー!!!!」
ヒメが突然奇声を上げた。
「・・・・・?」
アーシェが名前を呼ばれたかと反応してるぞ。
「何で、そんな恥ずかしいことをさらっと言うんですか!」
今度はぽかぽかと叩いてくる。本当の実力を知っているからこそ、こういう時どれだけ手を抜いているかが分かる。俺の為に。あーなんでこうも可愛い反応をするのだろうか。
俺が攻めてるようで実はヒメに絡めとられているような気がする。ヒメはあれだ、底なし沼だ。浮き上がれる気がしない。
まあ、それでいいかと思える程度には諦観しているが。
叩いてくるヒメの腕を捕まえ、耳元でささやく。
「俺はお前のものなんだろ」
「ひうっ」
耳元でささやかれたヒメはビクッとする。
「興味がないって捨てられたら敵わないからな。必死でアピールしないと」
「どこが必死なんですか~~!!」
「うんうん、やっぱこうでないと~」
「・・・・・。」
楽しむようにオーマたちを見物する二人。
アーシェは思う。もともと、わかっていたことだ。ヒメに敵わないことは。あのオーマの顔を見ていれば。だから、今はそれでいい。
「お姉ちゃーん!!お兄ちゃんだって、ものすごく恥ずかしがってるよ~~!」
「あ、こらっ」
「・・・・・。」
そう、そこ、いまだ、カウンターを!っとアーシェも続く。
「もともとお兄ちゃんだってお姉ちゃんのこと好き過ぎるんだから、お姉ちゃんに攻められたら直ぐに慌てだすよ~~~!!」
「・・・・本当ですか?オーマ・・・。」
上目づかいで不安そうに見上げてくる。目じりからは今にも涙がこぼれ出しそうで。そんな表情を今は一時もさせたくなくて。
「ああ、そうだよ。本当、俺もいっぱいいっぱいだから」
「・・・・。なら・・・・良いです。一緒なら・・・・・嬉しいから」
俺の言葉に小さく安堵の息を漏らす。
「ヒメ・・・・」
その唇に、今度は俺の方から口づけする。
「オーマ・・・・・」
ヒメが潤んだ目を向けてくる。俺の理性をがんがん削り取っている。
「いや、流石にこれ以上は・・・ほら、二人の目もあるし」
「・・・・そうですね。あの、今夜、一緒に寝てもいいですか?」
「お、おう」
積極的な所も本当に相変わらずだった。




