第二十話 一度しか言わない、こともない
「おい小娘」
――がっ
「むーーーいーのかなーーー?ぼくにこんなことしてーーーー!」
こんなことも何もアイアンクロ―してるだけじゃないか。
「オーマ!めっ、です」
「えー・・・・」
「・・・・あの、オーマ?やっぱりさっきの勝負・・・私の負けなんですか・・・?」
俺の不満そうな声に、涙目になって聞いてくるヒメ。ぐっとくる。
そんなヒメの前に手を離さざるを得なかった。
「いや、間違いなく、お前の勝ちだよ」
「それじゃあ、えへへ、オーマは私のものになったんですよね?」
「ああ」
照れたように表情を緩めるヒメに、俺の心まで緩んでいく。だが、それでも一つ、確認しておかなければならないことがあった。
「・・・・あー、そのー、俺の方も聞きたいんだが、結婚・・・、本当にしてくれるのか?」
「はい!いっぱい可愛がってあげます!」
「ヒメ!」
「オーマ!」
――ひしっ
「分かってたけどね!そうなるって!でも今はこっちを気にしてほしいな!」
謎の少女が何か叫び出した。少し静かにしていてほしい。
「・・・・・ん?」
そこで違和感。
ここで、真っ先に何か言いそうなクオウが何もしない。いや、クオウだけじゃない、ラルフもアルフレッドも動いていなかった。
確かな反応があるのは俺とヒメ、アーシェとこの少女。
「何だこれ・・・?」
「みんな・・・固まっている?」
つまりアルフレッドも、クオウも、ラルフも皆立ったまま、動かないでいた。
「・・・・・。」(つんつん)
大変です!全く反応がありません!とアーシェ。
相変わらず物怖じしないアーシェがアルフレッドをつついているが微動だにしない。
「少し、意識を奪っただけだよ」
こともなげに言われて驚く。ここにいるものは一線級の者ばかりだ。それを一瞬で、ある意味戦闘不能にまで追い込んだのだ。
「俺たちに気付かせもせずに・・・か」
「えっへん」
だが、それでも敵意や殺意の類は全くといっていいほど感じない。
そして、不思議なことに俺達自身もまったく危機感を感じていなかった。これは・・いつだったか、アーシェを倒した後、復活後を狙おうとした時に感じた互いに戦えなくなる不思議空間か・・・。
「それで、ヒメ?このちんちくりんが何だって?」
「ちんちくりん・・・・」
俺の的を射た表現に何故か少女は消沈する。
「・・・・・。」(なでなで)
気にすんなよ、そんなこともあるって、とそれを撫でるアーシェ。
「うう、ありがとう、ああああ、じゃなくて・・・・アーシェの方が良い?」
「・・・!・・・!」(こくこく)
わかってるじゃねーか!と言わんばかりのアーシェ。
「オーマ、ダメですよ。この子のおかげで、私たちはすれ違わずに済んだんですから」
すれ違い?それを俺が殺される未来だとして、それを避けられたのはこいつのおかげだと。
「・・・・どういうことだ?」
「ふふーん、説明してあげよう!!!・・・・・・・やっぱりやめる」
「おい」
なんだその躁鬱の激しさは、説明責任は果たせ。
「お兄ちゃん?世の中には、知らない方がいいこともあるんだよ」
ふざけているのかと思ったら、そうでもないらしい。少女の面差しは明らかに沈んでいる。
だいたい、そのお兄ちゃんってのも何なんだ。
「なら、説明できることだけで良い。言え」
「う~何で命令なの!そこはお願いします、だよね!」
「お願いします、さっさと教えろ」
「もー、そこまで言うなら仕方ないなー」
今ので良かったらしい。
「なら、頼む」
「うん。あ・・・・でも、その前に―――」
「ん?」
「名前・・・付けてほしい」
「は・・・・?名前?お前のか?」
「うん、お兄ちゃんにも、お姉ちゃんにも」
いきなり難題を押し付けられた。ヒメと顔を見合わせる。まさか最初の共同作業が名づけになるとは・・・・。
そして、お姉ちゃんとはヒメのことだったらしい。ヒメの・・・妹?
「お前・・・名前がないのか?」
「ううん、そういうわけじゃないよ?でも、つけて、ほしい」
「「・・・・・・・・」」
やはりヒメと顔を見合わせる。何か事情があるらしい。
「案・・・・あるか?」
「・・・・タママなんてどうでしょう?」
少し考えてヒメが答える。
「タママ・・・。ちなみに由来は?」
「なんとなくです」
「なんとなく?」
「はい、玉の間で初めて会ったから玉間、たまま、タママ、なんて安直なことは考えずに、なんとなくです。あ、玉子の方がいいでしょうか?」
「・・・・少し待て。考えておく」
「却下されました!?」
目を><にするヒメ。
あ~これを見るとヒメって感じがする。
「はい、お願いします」
そして俺の言葉に応える少女。
「何で今更敬語なんですか!?」
「それは置いておいて、聞きたいことを選んでね!」
「置かれてしまいました!?」
あ~ヒメは今日もヒメだなあ。
なんて、幸せをかみしめて見たりする。
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
久しぶりの選択肢だ。今度こそ、正しいものを選ばなくては。
唐突にお前がほしいなんて言ってしまったのは俺の黒歴史だ。いや、あれはあれで良かったのかもしれないが。
聞く質問は決まっている。意を定めて、口を開く。
「もういい」
「「え???」」
「・・・・・?」
だから、何でだよ!なんでそんな心にもない回答が飛び出すんだよ!てか、本当に良いのか!?何も分からないままだぞ!?もう一度よく考えろ!俺!
「えっと、お兄ちゃん?今なんて?」
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは、記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
こ、今度こそ!
「そもそもヒメは今どういう状態だ?記憶が戻ったわけじゃないのか?」
良かった!まともに質問できた!
「えっとね~。お姉ちゃんには、ただ教えただけだよ?お兄ちゃんと前の世界でラブラブだったこととか、お兄ちゃんがこの世界でしようとしていたこととか、もちろんクオウたちが本当は生きていることも含めて」
「何故、それらのことをお前が知っている?」
どれも、今の世界では俺しか知らないはずのことだ。
「お兄ちゃんのことは何でも知ってるよ」
「なるほど。ストーカーか」
「・・・・・・・・」
そこで黙るな。目をそらすな。ひゅーひゅー吹けない口笛を吹くな。
いや、もうこの際、それは良い。それよりも。
「つまり、なんだ・・・・聞いただけで・・・・このヒメ?」
「うん、あっさりだったよ。ほんと、お姉ちゃんって・・・」
「「ちょろいよね」よな」
「ちょろい言わないでください!!!オーマだって私に一目惚れだったって言うじゃないですか!人のこと言えるんですか!」
そんなことまで聞いているのか。あの時は確かに俺たち二人しかいなかったはずなのに。
「だいたい、オーマの行動の方がおかしいんです!本当に嫌われようとしてたんですか!?あれだけ好き好きオーラ出して!?好きになるに決まってるじゃないですか!」
決まってるのか・・・・。
「それでこの子の話聞いたら、あ~私だ~、って思っちゃいましたし!牢の結界を斬ってみたら普通にみんな生きてるし!だったら―――」
「さて、次に行くか・・・」
「うなぁーーーーーー!!!」
ヒメがあらぶっておられる。
「・・・・・。」(こくん)
わかるよヒメ、その気持ち、とアーシェ。
何でお前がわかるんだよ。
結局、ヒメはそのあらぶる感情の向け先を決められず、むすっとした表情で俺の背にくっついて来た。可愛い。
まあ、何はともあれ、ヒメが未だ敬語主体なことの理由はわかった。その上で記憶がなかろうと関係ない。今のヒメも大好きだ。
次は―――
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは、記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
「もういい」
だから、何でそんなに淡泊なんだよ!もっと喰らい付けよ!一度きりのチャンスかもしれないんだぞ!
「えっと、お兄ちゃん?今なんて?」
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは、記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
今回の選択肢は親切設計らしい。何度も挑戦可能だ。
「お前は一体何者だ?」
「・・・・・・それは、名前が決まってからでいい?」
「・・・・・わかった。」
本当に申し訳なさそうに言う少女。余程深い事情があるのか・・・?
もうヒメの生き別れの妹程度の想像はできているが。
いや、むしろ、俺の・・・?
「それじゃあ~つぎつぎ~」
それはないか・・・。
さて、次は・・・
~選択肢~
・お前の正体は?
・ヒメは、記憶が戻ったのか?
・何故、俺から聖剣を奪った?
・俺たちを取り巻く異常の真実は?
・もういい
「お前は一体何者だ?」
それ、さっき聞いたじゃねーか!
「・・・・・・それは、名前が決まってからでいい?」
そして、同じ返答を返す少女。
「・・・・・わかった。」
本当に申し訳なさそうに言う少女。余程深い事情があるのか・・・?
もうヒメの生き別れの妹程度の想像はできているが。
いや、むしろ、俺の・・・?
いや、その考察もさっきしたからな!
「それじゃあ~つぎつぎ~」
それはないか・・・。
・・・・・・・・・・。
それからしばらく、何故か俺は同じ質問をし続けることとなった。




