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第四話 魔王勇者会談




 さて・・・、ひと段落したわけだが。



(勇者チョロ! なんだよこの甘々な空間は! もっと警戒しろよ! 疑えよ! お気楽すぎだろ!? 襲うぞ!)


 少しして冷静(?)になってくると、あまりのトントン拍子に逆に不安になる。もしかして俺は騙されているのか?とヒメの顔を見ると、座った俺の上でゴロゴロと甘えて胸に顔をうずめている。時折顔を上げてふにゃと笑うのがめちゃくちゃ可愛い。


「・・・・。」


(ああ、だめだ、破壊力すげえ・・・)


 自らの懊悩を打ち消すかのように、話を切り出す。


「そろそろ、話良いか」


 ヒメはぴょこんと顔を出し、頷いた。




 俺たちはオールド砦の一室に移動していた。いつまでもMy天使を地べたに座らせているわけにもいかない。だからといってどこの馬の骨ともしれぬ輩が使った寝床にヒメを座らせるわけにもいかなかったので、ベッドの上に座って壁にもたれかかった俺の懐にヒメが収まるという形で落ち着いた。


 流石に鎧を着られていては抱き心地が悪いので装備は外してもらっている。ワンピース一枚越しに触れるヒメの肢体は柔らかく一日中触れていたいと思ってしまうほどだ。


 そんな状態で本題である和平締結について話すのもあれだが、その前にまず聞きたいことがあった。


「今更だがお前は何で一人で戻った来た? シャルとやらに止められたのではないか?」


 気持ちをきりかえ魔王モードになって尋ねる。彼女と出会ってからずっと、頭の緩い自分でしかいられなかった。仮面をかぶるつもりで無理矢理冷静を装う。


「シャルなら一人で逃げたよ」


 何か思うところでもあったのか先ほどから敬語が取れている。


「逃げた?勇者を残してか?」


 意外、というか無責任に感じて聞き返す。ヒメを置き去りとは何事だ。


「正確には『逃げてもらった』かな。オーマに脅かされて怯えきってたから。可愛そうに」


 いまだ俺に寄り添う形のヒメが、つんつんと抗議するように俺の胸をつつく。


「・・・気づいていたのか。なら、なおさら何故一緒に逃げなかった」


 ヒメには気づかれないようにしていたつもりだったのだが。気づかれていたらしい、炎を見せて脅していたことに。


「あれ、言わなかった? 話が途中だったからだよー」


「そういうことじゃない、魔王である俺に襲われるとは思わなかったのか?」


「全然。オーマも襲わないよね」


「今は襲わない・・・。だが、さっきは――」


 俺から戦闘を始めるつもりはなかった。だがそれをヒメは知らなかったはずだ。


「分からなかっただろ、って?」


 俺の言葉を予想しかぶせてくるヒメ。その通りだったため無言で続きを促す。


「んっとね。別に襲われてもいいって」


「おまっ!?それは・・・」


「ち、違うよ。そういうんじゃないから!痴女にゃにゃいから!!」


 焦って噛んでるし。でもそういう知識はあるのか。とか考えていたからだろうか、その後の誤魔化すように早口だった言葉を聞き違えたのは。


「ただね、オーマに負ける気がしなかったというか・・・」


「すまない、なんと言った?」


 ともすれば、それは俺のプライドを大いに傷つける言葉だった。


「だから・・ね、オーマが本当に魔王だったとしても、勝てちゃうかなって。シャルにもそう説得したら納得してくれて」


「・・・・・。」


 沈黙が下りる。それは何か?精神的にではなく、事実として俺より強いと、そういうことか?周囲もそれを認めていると。何を根拠に。ユーシアでさえ最初のころはまるで相手にならなかったのだぞ。


「・・・どうしてそう思った?」


「ん~?勇者としての勘?」


 少し悩みながら抽象的に答える。だが勇者として、というだけで俺には十分に理由として通じる。しかし、俺としてももっと具体的な情報が欲しい。


「もっと具体的に」


「え~」


 本当に困ったように言う。


「強いて言うなら――」


「言うなら?」


「オーマが鈍かったから?」


「は?」


「だってオーマ、最初に会った時、呼んでも全然気付かなかったよね。二回目の時も」


 盲点だった。まさか俺に原因があったとは。そうかユーシアに負けたのもそのせいか。ってそんなわけあるか。だが――


「くっ、否定できない」


「でしょ。それより――」


 ヒメが勢いをつけて飛びついてきた。


「過去より今と未来!もうオーマは私のものだし、オーマも襲わないって言ってくれたし。問題なし!」


「まあ・・・、そうなのか?」


 抱きしめ返す。誤魔化されたか。


 魔王として勇者を倒す方法により近づきたい。だが同時に疑問も浮かぶ。俺はヒメを倒したいと思うのだろうか。ないだろうな。疑問はすぐに霧消し、俺も納得した。




「さて、このままこうしている訳にもいかない。どうするか」


「このままじゃダメなの?」


「ダメだな。今も戦争は続いている」


「そうだった」


 ツッコミたいところではあるが、スルーする。勇者が止まることで時間的余裕はできたが、急ぐに越したことない。


 撤退の件でヒメにした要求「お前が欲しい」は逆になってしまったが、まあ、ヒメは和平に協力するだろうし、良しとしよう。ヒメの協力という武器を以て人族と和平を結ぶ方法を考える。


「まず、俺が魔王軍を撤退させるため魔王城に戻る。撤退させるといっても数日はかかるだろうから、その間にヒメは人族の町や村に戻って魔王軍に大きなダメージを与えたと触れ回ってくれ」


「ふむふむ、魔王を倒したーとかですか?」


 なんてこと言い出すんだこの娘は。


「いや、それはいきすぎだ。人間の反撃の理由になるのはまずい。まあ事実通りに『あたり一帯の魔族を倒したら魔王軍は撤退していった。』でいいだろ」


「なるほど」


「そこで、俺から和平を申し入れる。人間には魔王軍が勇者に恐れをなしたと思われるだろう」


 実際その通りだが。そう思わせることで、勇者の存在を大きくする。彼女がいるからこその勝勢なのだと。


「停戦に際してこちらができるのは領地の返還だけだ。有利になった人間側はそれだけでは渋るだろう。そこでお前の出番だ」


 ヒメと目を合わせる。


「反撃の要であるお前が消極的だと周知させる。『これ以上、戦いたくない』とか言ってな」


「はい」


 ヒメが真剣な顔でうなずく。ここへきて甘々な空気はなくなっている。その程度には自国のこと、自国民のことを大切に思っているのだろう。


「ヒメの不戦の意志があれば、人族が和平を拒否することは難しくなる。お前の意志がどれだけ影響を与えるかによるが。この点お前はどう思う?」


「信用はまったくないと思います。城にこもりっぱなしでしたし。でも」


「でも?」


「信用がないぶん、すぐに投げ出すと思われていても不思議はないです」


 と寂しそうに口にする。その姿が小さく見えて、思わずその頭に手が伸びる。魔王の仮面?そんなものは初めから無かった。


「はぅ」


 頭をなでてやるとヒメの小さな声が漏れる。


「俺は知ってるから。ヒメが頑張ったこと、仲間を心配してたこと、皆のこと考えていること。そして人族の存亡と恋とを天秤にかけたこと、戦争中であることを忘れてたことだって」


「えぇっ!?」


 人族のために大勢の魔族を倒したこと、シャルを逃がし一人で魔王に立ち向かったこと、民を憂いていること、俺の告白を真摯に受け止めてくれたこと、大事なことを忘れるほど甘えてくれたこと。


 すべてが愛おしいから、冗談交じりに、でもまっすぐに伝える。


「俺は味方だよ。できればもっとヒメのことを知って、それでもずっと味方でいたいと思っている」


「からかってませんか?」


「ノーコメントだ」


 伝わってなかった。


「でも嬉しいです」


 寂しそうだったその顔は既に笑顔に変わっていた。





 改めて話を続ける。ここからは重要な話になる。


「勇者であるヒメの主張を心配した人族は和平を承諾する。あとはすんなりいけば和平締結。それからは後々詰めていこう」


「了解ですっ!」


 我ながら雑な作戦だ。こういうことはアーリアの十八番なのだが、だからといって事情を説明するわけにもいかない。勇者と恋仲になったから安心して和平結ぼうぜー、なんて言ったらどうなるか。


 ・・・・・泣くだろうな。


 


 敬礼なんかしてくるヒメに、魔王にそんなことをして何か思うところはないのだろうかと思いながら、心を一段引き締める。


「これで作戦会議は終わりだ。と言いたいところだが」


 終わらせるわけにはいかなかった。魔王としてではなく。ヒメのものとして。


「だめなのですか?」


「ああ、今話した作戦は魔族のために俺が望む流れだ。本来、和平を結びたいのは俺たちの方なんだ。今、有利は人族側にある。ヒメが望むなら魔族を滅ぼすことだってできる。俺を手伝わせることでそれは確実になるだろう。だからこそ頼む。それを踏まえたうえでヒメにこの作戦を認めてほしい。俺のために」


 俺の願い出にヒメの空気もまた改まったものになる。


「なぜそれをばらしたのですか?私は反論する気はありませんでした」


「俺がお前のものになると誓ったからだ。俺はお前のために動く」


「魔王軍にオーマにとって大切な人はいますか」


「ああ。いる」


 アーリアやイーガルだけではない。他の四天王も、俺が家族と定めた者たちが。俺が守ると決めた大切な存在だ。


「その人達を、私のためになら、裏切れるのですか?」


「・・・・・裏切りたくない。だから頼んでいる」


 正直、そこが一番の悩みだ。魔王として。ヒメのしもべとして。相反する事態は絶対に起こる。その時俺はどちらを選ぶのか。


「なら命令します」


 しかし気づく。やはりヒメは。


「私の命令に従いたくないときは、従わなくて構いません」


 当然のことであるかのように、淡々と紡ぐ。言ってくれるかもしれない、とは思っていた。だが――


「いや、それではそもそも俺たちの関係に意味が―――」


「意味はあります。オーマが私のものになってくれている。それが一番私にはうれしいです!そんなオーマが苦しむことを私はさせてくありません!」


 はじめは一目惚れだった。表面しか見ていなかった。だが今では、


「ヒメは優しいな」


 内面にも惚れ込んでしまっていた。勢いそのままにヒメを抱きしめる。


「ひゃわ」


 ヒメも嬉しそうに受け入れてくれる。


「ヒメが好きだ。大好きだ。だからヒメは絶対に俺が守る」


 何の脈絡もなくそんな決意を口にしていた。


「当たり前です。ふふふ、このままオーマを骨抜きにしてしまいます」


 冗談交じりにヒメが茶化す。そんな恐ろしい言葉も俺は構わないと思えた。


「私も、ちゃんと話してくれたオーマが大好きです」



作戦は決定した。





「何か意見はあるか?」


 決定したところで作戦を見直す。


「はいっ!」


 勢いよく手を挙げるヒメ。


「はい、ヒメ」


「魔王城に私も行きます!」


 はっきり言うヒメ。俺は、


「無いなら、俺はひとりで魔王城へさっそく向かうぞ」


「無視されましたっ!」


 目をバッテンにしてショックを受けるヒメ。


「ちゃんと聞いてください。魔王城に私も行きます」


「はあ?」


(何言ってんだこいつ?)


「何言ってんだこいつ?みたいな目で見ないでください!」


 伝わっていたようで何より。


「いやいや。魔王軍の本拠地だぞ。ヒメの敵地そのものじゃないか」


「ついさっきまではそうでした。今は違います。オーマは私のもの、つまりオーマのものは私のものです!魔王城がオーマのものなら私にも入る権利があります」


 何だそのガキ大将主義は。


「魔族に襲われるぞ」


「オーマが守ってくれますよね」


「お前の役割はどうする」


「それは私たちに魔王軍の撤退が確認できてからでも大丈夫。ですよね?」


「くっ」


「作戦を認めた貸しもあります」


 それをここで言うのか。


「ということで行きましょう」


「はあ」


 俺は諦めてため息をつく。ほんの少しの意趣返しの為に俺の上に座るヒメを両手で抱え上げると、そのまま魔王城に瞬間移動した。




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