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第十三話 暴露

 暗闇の中、最後の段差を降りる。


 二人を下ろし、魔法で明かりを灯す。


 そして浮かび上がるのは堅牢な鉄格子。その先に広がるだだっ広い空間。そして。


「嘘・・・」


「・・・・・!」


 ヒメもアーシェも驚いているのが伝わってくる。


 そこにあったのは・・・・俺が殺した、魔王軍に殺された、リアン国中から集められた大勢の・・・人間。


「父・・・・さま・・・?」


 そして、クオウも。


「父様!父様っ!!」


「・・・・・。」


 しかし、クオウは反応しない。まるでこちらのことが見えていないように。


「・・・っ!ラルフ!エバ!ベネット!フェリシア!ジェフ!返事をして!」


 ヒメが誰だそれはというような知らない名前を羅列するが、誰も反応しない。というか、これだけ人がいるのに見分けられるのか。


「無駄だ。聞こえない」


 鉄格子を境にここも封印している。


「・・・・っ!!どういうことですかこれは!父は殺したってあなたが!」


「確かに殺した。だから、ここにいる」


「何を・・・・?」


「禁呪『黄泉の骸』」


「よみの、むくろ?」


「ああ。予め張られた結界の中で死んだものを、現世に留まらせ復活させる魔法だ。ここにあるのはここ数日で結界内で死んだ者の肉体と魂。離れようとする二つを無理矢理繋ぎ止めてある」


 生きていたわけじゃない。だが、死んでもいない。そんな状態。


「じゃあ、生き返るんですか」


「ああ」


「・・・・本当ですか?」


「明日には生き返る」


「明日?」


「ああ」


「そう・・・・・です・・・か」


 ぺたんと、ヒメは腰が砕けたかのように座り込む。


「何で魔王がそんなことをするんですか」


「予防策・・・だな」


 俺が死んだとき、ヒメが独りにならないように。


「どういうことですか?」


「・・・・・それはともかく、大変だったんだぞ。大陸全土を覆う結界を張って、三日三晩魔力を送り続けて保つんだからな。褒めてくれ」


 魔王形態への封印解放からの莫大な魔力での『黄泉の骸』の発動。そして、維持。こんなことできるのは俺ぐらいだろう。


「そんなことしなくても、殺さなければいいじゃないですか!だいたい私が魔王城から出なければ何もしないって!」


「そんな約束はした覚えがないな。まあ、それで済むならそれでも良かったんだが・・・」


 結局、勇者は誕生してしまった。


 別に考えもなく魔王軍による虐殺を行ったわけでは無い。

 当初の目的通り勇者の誕生を阻止する理由もあったし、アーシェ達勇者が見つかってからは、二人から魔王軍を引き離す意味もあった。もっとも、二人がリアン国への救援ではなく魔王城へ行ったのは嬉しい誤算だったわけだが。


 そしてもう一つ、俺はヒメが狂ったのは勇者だったからだと推測している。だが、それが間違っていたなら、ヒメはただヒメとして俺を殺したことになる。だから――


 ヒメへの取り返しのつかない決別とするために。ヒメが俺を殺す事態になっても悲しまないように。まあ、それだけなら関わらずにいれば良かったのだから、それが出来なかったのはやはり、俺が弱かったからだ。




「昨日、お前はここに来て、こいつらを見つけてしまった。見ただけで、生きていたと勘違いしたんだろうな。お気楽なことに俺への確執が薄れてしまった」


 ヒメが俺に好意なんて抱いた理由、その推測。


「で、あやふやになった状態で俺に告白されたお前はあっさり、情にほだされたと」


 あくまで推測なわけだが・・・。


「そんな覚えないです」


「記憶は消しておいたからな」


「いつの間にそんなことしたんですか」


「昨日お前が俺の部屋にいたときに」


 俺の部屋にいた記憶自体はあるはずだ。


「・・・・・・。」


「・・・・・!」


 思い返すように黙り込むヒメ。何故かアーシェも反応する。


「ほんとちょろい」


 ちょろすぎて心配になる。もし、これでヒメが他の男になびくようなことがあれば、俺はきっと、そいつに死よりもつらい拷問を味あわせた後で世界を滅ぼすだろう。

 世界平和の為にも是非ヒメには俺だけを好きになってもらいたい。まあ、こんなことをしている俺が言えた義理ではないが。


「ちょろい言わないでください!」


 否定ではなく拒否。自分でも否定しきれなくなったか。


「じゃあ、今も俺を殺したいと思うか?」


「え?」


「殺されたと思っていた人間たちがみんな生きていた。そんな事実があっても、お前は俺を憎み殺すことが出来るか、と聞いている」


「・・・・・。」(ふるふる)


 できない、と否定するアーシェ。お前には聞いていない。


「・・・・・それは、だって殺すわけには、いかないじゃないですか・・・あなたが生き返らせてくれるんですから」


「なら、俺が死んだ後でもこいつらが生き返るとしたら?」


「・・・・・・・・・」


 断言せず・・・・か。


「ほらな」


「う~~~~~」





「まあ、その考えが全くの勘違いなわけだが」


「え?」


「まさかお前は、魔王である俺が本当に親切でこいつらを生き返らせると思っているのか?」


 どこか、なし崩し的に柔らかくなっていた空気を凍らせる。こいつは、いや、こいつらは、俺の心の中にあっという間に入り込む。だから追い出す。


「どういう・・・・意味ですか?」


 警戒したように聞いてくるヒメ。その反応は、正解だ。


「また、殺すんだよ。お前の目の前で」


 笑いながら言う。魔王らしく。


「あ・・・え?」


「お前、こいつらのこと大好きなんだろ?だから殺す。死んでも生き返らせてまた殺す。何度も何度も何度も、な。それを見たら、反抗的なお前も従順になるだろう?」


「嘘です、そんなの、だって・・・」


「嘘?なんでそう思う。今、お前の目の前にいるのは誰だ?」


「・・・・あ・・・」


 信じられないと言う様に見上げてくる。むしろ何を信じていたというのか。俺は魔王だ。


「可哀想にな。お前が俺に逆らうせいで、そいつらは無駄に苦しむことになる」


「そんな・・・」


 未だ狼狽するヒメの目の前で牢内に向かって手を伸ばす。放つのは簡単な攻撃魔法。突然の行動に流石のヒメもアーシェも反応しきれなかった。


 だが、放たれた光弾をほとんど意識がないはずの牢内のクオウが、素手で弾き飛ばしてしまった。

 相変わらずだな、あのおっさん。


「で?大人しく俺の物になる気になったか?」


 畳みかける。ヒメを追い詰める。今更だ。ずっとしてきたことだ。


「わた・・・・しは・・・」


 ヒメの瞳がためらいに揺れる。迷っているのか。こいつは本気で俺みたいな外道に従おうというのか?そんなこと。


 俺は絶対に――――――嫌だ。



 たとえそれが・・・・自分でも。


「もっとも、そうなったらそうなったで、こいつらを生き返らせる必要もなくなるがな」


「っ!!!!!」


 その言葉にようやくヒメの瞳に憎しみが再びともる。良い目だ。


 俺はしゃがみ、ヒメの顎をくいと軽く上げる。


「とってつけたような面従も薄っぺらい恋心もいらない。俺が欲しいのはお前の心からの服従だ」


「もう、いいです。私がどうかしていました」


 服従か背反か、どちらにも取れるその言葉をしかしヒメの目は後者だと主張する。


「そうか、なら――」


 俺は再びクオウたちに手を向ける。


「やめて!!」


「・・・・・!」(ふるふる)


 今度は流石にヒメも反応する。


 だが、それよりも速くアーシェが割り込んでくる。いいタイミングだ。


「させないってか。まあ、お前が明日勝てば良い様に進めてやる。そいつらを生き返らせることも、そのまま解放することもな」


「!!」


 ヒメの意識がアーシェに向かう。そう、それでいい。お前はただ、勇者側でいればいい。


「・・・・・。」(こくん)


 受けて立つとばかりにアーシェが頷く。


 こいつもやっぱり勇者だな。


「だがその分、そうだな、お前が負けた場合の条件に、一つ俺の言うことを何でも聞くというのを足すとしようか」


「・・・・・。」(こくん)


 普通に頷かれてしまった。


 それにしても、


(一気に持ってかれたな。アーシェが男じゃなくてよかった)


 危うく世界が滅びるところだ。






「・・・・・」


「・・・・・。」(じー)

「・・・・・」


 背中から殺意を感じる。ヒメは力が戻ったのだから本気で殺そうとするなら手もあるだろうが、クオウたちを生き返らせるため躊躇っているのか。


「さて、もう用は済んだ。解散だ。あーそれとヒメ、飯作って――」



――キッ



「――ください、お願いします」


 ヒメに睨まれた。それでも要求を引っ込めはしない。


「・・・・・。」(こくん)


 アーシェもまたお願いしますと頭を下げる。いや、頷いただけだが。


「まあ、ああああちゃんの為に仕方なく作ってあげます」


「・・・・・」








「凄く美味しいです」


「・・・・・。」(こくん)


「だろ。超うまいよな」


「何で、あなたが自慢げなんですか」



 やっぱりヒメの作ったご飯は美味しかった。また腹が痛くなったような気がするのはやはり気のせいだろう。アーシェもアルフレッドも平気そうにしていたのだから。


 ちなみに俺に毒や薬の類は効かない。せいぜい腹が痛くなるぐらいだ。もっともこれはただの気のせいだけどな。


「おかわり有るか?」


「まだ食べるんですか・・・」


 ヒメは呆れていた。





「・・・・くさいです」


 眉を顰めながらヒメが言う。


「傷つくんだが」


「ああああちゃん、温泉に行きましょう」


 温泉のことも把握してるのか。


 言われてみれば、今までずっと同じ服装で俺もアーシェも旅をしてきたわけだ。


「・・・・・。」


 こっちを見るな。行きたきゃ、勝手に行け!


 だが・・・・くさいだろうか?


「・・・・・。」


――くい


 袖を引っ張られる。そしてやっぱり一緒に行こうと言わんばかりの目。


「いや、流石にそれは無理だから」


 食事後のつるの一声によってアーシェはヒメに連れられて温泉に向かった。




「僕たちはいかないんですか?」


「・・・・・。」


 何を言ってるんだこいつは・・・。


 行かせるわけがないだろう?


「オーマさん?」


「『瀑布』」



――どばーーーーー



 大量の水が俺たちに降りかかり消えていった。



――ぽたぽた






 各自解散し、俺は俺で用事を済ませた後。


「さて」


 寝るには早いがどうせすることもない。自室に戻ろうとしたところで。


「何でいる」


「・・・・・。」


 扉の前にアーシェがいた。半袖半ズボンの楽そうな格好だ。風呂上がりだからか、おろした赤髪が新鮮だ。


「部屋は二階のどこ使ってもいいぞ」


「・・・・・。」(ふるふる)


「いや、離れたくないってお前な」


「・・・・・。」



――ぎゅっ



 アーシェは俺の服の裾をつかみ、



―――じー



 そして、その後ろのヒメ。


 言わずもがな、ここにはヒメに合うサイズの寝間着はオーレリアの物しかない。変なところで少女趣味のあのお姉さんのラインナップから選ばれたのはフードに猫の顔があしらわれた、大変可愛らしい着ぐるみのようなもの(尻尾付き)。


 流石に俺のところに向かうとも思っていなかったのか・・・・恥ずかしそうに頬を赤くして俯くヒメがまた可愛い。


 が、そんなことはおくびにも出さず。


「アーシェはともかくヒメは何だ」


「魔王がああああちゃんに何かしないように見張ります」


「ああそう」


「・・・・・。」


 しょぼんとするアーシェ。あくまで俺視点だが。


「あ~ヒメ、そいつのことはアーシェって呼んでやれ。その名前好きじゃないんだと」


「そうなんですか?」


「・・・!・・・!」(こくこく)


「じゃあ、アーシェちゃん?」


「・・・・・!」(こくん)


「ふふ、よろしくね」


「じゃ、ふたりで仲良くやってくれ」


 二人を置いて俺は自室に入ろうとして。



――ぐいっ



「・・・・・。」(ふるふる)


 置いてかないでとアーシェが首を振る。


「はあ、ヒメは本当にいいのか?」


「アーシェちゃんが望んでるんです。大人しく従ってください」


「はい」


 ヒメに言われては逆らえなかった。







――がさがさ



「またか、またなのか!」


「・・・・・?」


「何を急に叫んでるんですか?」



――がさがさ



 ヒメではない。そもそも昨日は何も無かった。


 つまり、今俺の部屋を探索しているのは・・・。



――がさがさ



「そこの勇者、探索をやめろ」


「・・・・・。」(ふるふる)


 断られた!?大抵のことは従うくせに!



――がさがさ



――ああああは『魔王のTシャツ』を手に入れた!


――ああああは『魔王のTシャツ』を装備した!



「はやっ!」


 何だ今の見つけてから装備までのためらいの無さは。上の半袖のシャツは脱いだらしく手に持っている。全く見えなかった・・・。いや、見るつもりはないが。



「・・・・・。」


 俺のぶかぶかのシャツを着て嬉しそうにしている。ちょっと可愛いと思ってしまった。


「・・・・はあ、もう、それで勘弁してくれ」


「アーシェちゃんには甘いんですね」


「何だ?ヒメも甘くしてほしいのか?」


「話しかけないでください」


「・・・・・・・・・」


 そんな無茶な。







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