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第十一話 逃げられない戦い

「これで、全員か?」


 食堂に集まったアーリア含め全員をリアン国の城(焼け跡)へ瞬間移動で送り届け、アーリアに確認する。


「はい、あとはカリンさんとヒメさんだけです」


「さっさと捕まえて戻ってくる」


「はい」


 瞬間移動で魔王城に戻る。


 ヒメは食堂に来なかった。なので、後回しにしていた。というか、今朝から俺を避けていた気がする。




「で、だ・・・」


 目の前であたりを警戒するようにきょろきょろ見回しながらうろつくヒメに背後から話しかける。


「!!!」



――ダッ



 俺の声に肩を震わせたかと思うといきなり逃げ出した。


「ちょっ」


 常人並のスピードでのろのろ走るヒメを見送る。俺、何かしたか?昨日なんか魔王相手に普通に話していたじゃないか。今更何だ。


 とはいえ今は時間がない。理由を聞くのは後回しだ。



「捕まえたぞ」


 エントランスへと逃げたヒメの、今度は正面に回りヒメの両腕をつかむ。


「~~~~~~~放してください!!!」


 余程嫌なのか、必死に暴れるヒメと瞬間移動しようとして―――


 覚えのある感覚に思わず視線が動く。


 扉が開いていた。魔王城の正門だ。立っていたのは


「・・・・・。」


「オーマさん・・・・。」


 アーシェとアルフレッドだった。


(何でこのタイミングで!)


「う~~~!」


 思わず固まる。そこにあるのは嫌がるヒメを無理矢理押さえつけている俺の姿。


「いや・・・・これは・・・・。」


「・・・・・。」


 何を考えているのか同じく固まっているアーシェ。


「見損ないました・・・・オーマさん」


 アルフレッドも冷たい視線を向ける。むしろ俺に何を見ていたのか。




(って、呆けてる場合じゃない。今はとにかくヒメを向こうへ・・・)


 瞬間移動の魔法を使おうとして、



 失敗する。


(え・・・・)


――ここで逃げるわけにはいかない。


(これは・・・)


――ここで逃げるわけにはいかない。


(まさか・・・)


――ここで逃げるわけにはいかない。


(あの時と同じ・・・なのか?)


――ここで逃げるわけにはいかない。


(逃げられないやつなのか!?)




「・・・・・。」


「・・・・・。」


 ただただ沈黙が続く。




 いつまでもヒメを捕まえている訳にもいかず、手を放す。


 するとヒメは数歩下がっただけで、立ち止まった。アーシェ達に気付いたのだろう。


 何を見て判断したのか、ヒメはアーシェに勇者の確認を取る。


「もしかして、あなたが勇者様、なのですか?」


「・・・・・。」(こくん)


「じゃあ、私を助けに来て下さったのですか?」


「・・・・・。」(ふるふる)


「「え?」」


 俺とヒメが驚きの声を上げる。いやいや、じゃあ何しに来たんだよ。と驚く俺に構わず、アーシェはピッと指をさす。俺に向かって。


「え~と、取り戻しに来ました。オーマさんを」


 その意をアルフレッドが代弁するのだった。






「あのな・・・・」


「・・・・・。」


「お前、勇者だよな」


「・・・・・。」(こくん)


「こいつがヒメだってことはわかるか?」


 ヒメを指し、聞く。


「・・・・・。」(ふるふる)


 否定するアーシェ。ああ、そういうことか。


「そうか。じゃあ、改めて言う。こいつが、ヒメだ、ヒメ=レーヴェン。お前らが助けようとしていたリアン国の王女だ」


「どうも、ヒメと言います。どうぞよろしくお願いします」


「・・・・・。」(こくん)


「いえいえ!そんなおそれ多い!あ!僕はアルフレッド、こっちはああああ。こちらこそ、よろしくお願いします!」


 素っ気なく、いや、いつも通りに頷くアーシェに、気後れしながら自己紹介をするアルフレッド。


「アルフレッドさんにああああちゃんですか、良いお名前ですね」


 にこっと二人に笑うヒメ。さらっとアーシェをちゃん付け。


「・・・・・。」


 そして落ち込むアーシェ。その名前嫌なんだもんな。


 何故か魔王城の玄関で和やかに挨拶が行われていた。


「つまりだ。アーシェ、お前が優先すべきは俺よりヒメ。分かるか?」


 そう、ヒメだと知らなかったからこそ、助けに来たことを否定してしまったのだろう。ここまで言ってしまえばアーシェも気が付くはず。


「・・・・・。」(ふるふる)


「それが、何があったのか、ああああの中ではオーマさんの優先順位がダントツ一番になってます」


「何でだよ!」


「・・・・・。」(すりすり)


 アーシェがすり寄ってくる。待て、本気で分からん。俺はアーシェをこっぴどく振ったはずだ。何故?



――じとーーー



「あーそういう関係なんですね」


 ヒメがじとっとした目で見てくる。


「待て!誤解だ!俺はヒメ一筋だ!ってか俺と勇者がそんなことになるはずがないだろう!」


 ヒメとのことは置いて、とりあえず否定する。俺も俺で何をむきなっているのか・・・・。


「もう、信じません!」


 ぷいっと顔を逸らすヒメ。可愛い。


「アーシェ、俺はお前が嫌いだといったはずだ。」


「・・・・・。」(こくん)


 そこはちゃんとわかっているらしい。


「なら何故、取り戻すなんて話に――」


 俺の言葉は遮られた。


「―――っ!!?」


 不意打ちによって。 


 目の前に広がるアーシェの顔。目を閉じた幼い顔立ち、なのにどこか女性らしさを感じさせるしとやかな肌。柔らかなまつげ、そして唇。


 アーシェの唇が俺の唇に触れた・・・・。


「――!?」


「!?」


「おお」



 驚きに身を固めた俺からアーシェがゆっくりと体を離す。


「・・・・・・・好き」


 それだけが全てだ、とばかりに一言つぶやいて、しばらく見つめ合った後、また俺の唇に触れる。お前しゃべれたの!?


「・・・!?・・・!?」


 完全に混乱に陥れられた俺は、それに抗うことが出来ず、ただ受け入れることしかできない。




(魔王様、大丈夫ですか?)


 そこに、アーリアから、連絡が入る。まだ帰らない俺を心配したのだろう。


(どうやら俺はここまでらしい。後のことは頼んだぞ。)


(はい?魔王様!?いったい何が―――)


 意図的に精神通信を遮断する。いま、いろいろとそれどころじゃない。




「な!おま・・・ば!?」


「言葉になってませんよー」


 ヒメが面白くなさそうに言ってくる。それに言い訳したくても、


「ちょ、止め―――っ!!」



――ちゅう



 俺の胸に手を当て、さっきから間断なく浴びせられるキスの嵐。なんだ、何がここまで、アーシェを積極的に!?


「まあ、無粋かと思いますが説明させていただきます」


 俺を助けるわけでもなく話し始めるアルフレッド。


「昨日、オーマさんに振られたああああはショックのあまりこう思いました、手に入らないなら、力尽くで自分のものにしてしまえばいいと」


(短っ!理由短っ!)


 つーか、それまんま俺と被ってるじゃねーか!そんなところまで似なくていい!


「もう、ぶっちゃけ、王女様を助けるよりオーマさんに傍にいてもらうことの方がああああにとっては大切になってますね」


「無責任過ぎる!」


「殺意がわいてきました。魔王に」


「ヒメ、ちが―――ちゅぱ!――――俺は――ちゅーーーー―――お前のことだけ―――んちゅ。―――助けてーーー!」


「・・・・・んぁ」







「いい加減にしましょうか」


 笑顔のヒメの冷気を孕んだ声に。 


「・・・・・。」


 びくっとしてしょぼんとするアーシェ。上目づかいで俺を見上げてくる。


 俺はぜいぜいと息を荒げていた。威厳も何もあったもんじゃない。


 ひとまず、アーシェをどけ、息を整えることに集中する。そして、考える。今の事態からの最善の計画を。


「そ、そこまで言うならいいだろう。なら、決闘で結着をつけようじゃないか」


「決闘ですか?」


 アルフレッドの確認の言葉に、


「ああ、勇者と魔王らしく正々堂々雌雄を決しようじゃないか」


 どの口が言うのかと心中で突っ込んでおく。いや、先に死なない、とか卑怯な手を使ってきたのは勇者だ。


「どの口が言うんでしょうか」


 言わないでくれ。


「オーマさんて魔王だったんですか」


「言ってなかったか?」


「無いですね~」


「嫌いになってくれたか?」


「・・・・・。」(ふるふる)


 だろうよ。もう、どうでもいい。







 折角なので雰囲気を重視して、魔王城、玉の間へ。


 使うのは魔王軍編成の時以来だ。記憶の中ではユーシアと戦った場所でもある。


「さて、条件確認だ。お前が勝ったら、俺はお前の下に戻る」


「・・・・・。」(ふるふる)


「何だ?」


「戻るだけじゃなく、ずっと傍にいてほしい、と」


 また、アルフレッドの通訳が入る。


「・・・わかった」


「・・・・・。」(こくん)


「俺が勝ったら、俺の―――手下になれ」


 ものになれと言いそうになって、変える。


「・・・!・・・!」(こくこく)


「何でそこで嬉しそうなんだよ」


 一緒にいられれば何でもいいのかお前は。


「私、ほとんど関係ないです」


「申し訳ありません・・・・」


 向かい合う俺とアーシェに対して、ヒメとアルフレッドは離れたところで立会いをしている。


「分かっていると思うが復活してから再挑戦は認めないぞ」


「・・・・・。」(こくん)


 ここで断れたらどうしようかと思っていたので、安心する。


「・・・では、始めよう。ヒメ!開始の合図を」


「何で私なんですか・・・」


 ぶつぶつ言いながらも俺たちの間に立ち手を前に出してくれる。


「ヒメ、お前の為に勝ってみせる」


「大人しく殺されてください」


 つれない。アーシェも相も変わらず無表情だ。ここは嫉妬する場面じゃないのか?それとも嫉妬しているのだろうか。何となくアーシェの顔を見つめると、その顔は心無しか赤く染まった。


「3・・・2・・・1――」


「はじ――」

「待った!!!!」


 始まろうとした決闘を俺が制止する。


「な、何ですか?」


「アーシェ、お前、体調がよくないだろ。」


「・・・・・?」


「ああ、確かに。」


 アルフレッドも同意する。なら事実だろう。


「さらわれたオーマさんを救出する強行軍に続いて、ここまでドラさんの背で一睡もできずに飛んできたうえ、まったく休まずここに乗り込みましたから・・・」


「最初の厚かましいほどの前準備はどうした?」


「・・・・・。」(ふるふる)


「オーマさんに会いたくて居ても立ってもいられなかったと」


「はあーーー」


 何だその乙女全開な理由は。


「・・・・・・一日休め。逃げたりしないから」


「・・・・・。」(こくん)


「はあ、何で俺が敵に塩を送るようなことをせねばならんのだ」


「・・・・・!」


 すると、アーシェが飛びついてくる。


「今度は何事だ?」


「・・・・・。」(すりすり)


「ああ・・・・、もう僕に言わせるの勘弁してください。僕にだって人並みの羞恥心はあるんです」


 アルフレッドが立ち去っていく。


「何だ?何を言ったんだこいつは!」


「・・・・・。」(すりすり)


「仲がよさそうで何よりです」


「ヒメーーー!!!」


 すたすたとヒメも玉の間を後にする。


「ちょ、ま!アーシェ、ここで待ってろいいな!」


「・・・・・。」(こくん)


 こういう時は素直なのか。変な所での我がやたら強いだけで。


 アーシェを置いて、足早に立ち去ったヒメを追いかけた。





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