魔王の角(Ⅲ)
翌日の夜、ヒメ達が行軍を終えたのだろう、また魔王の角を通じて呼ばれる。
「なるほど、オーマ様とまだつながってるんすね」
瞬間移動した途端聞こえてくるシャルの確認の言葉。
「こんばんは、オーマ」
「ああ。で、何かわかったのか?」
「いえ、なにぶん研究施設が都合できなくて」
「まあ、そりゃそうか」
こちらで用意したいところだが、流石に魔族に魔法を研究する必要がない以上、施設などない。
「それでも、わかったこともあるっす。この『魔王の角』は本来の力が失われいるらしいっす。おそらくオーマ様本体から離れた影響っすね」
「まあ、体から離れた髪の毛が伸びないようなもんだろう」
「そうっすね。ですけど、多分、それをアイテムで補うことが出来るっす」
「つまり・・・アイテムでオーマの頭皮を再現してまた伸びるようにすると?」
「そのたとえはやめろ」
「オーマが言い出したことなのに・・・」
「それで、そのアイテムなんすけど、まず、うちには用意できないもので・・・」
ちらっちらっと、こちらを見てくる。
「まさか、俺を使い走りにするつもりか?」
「と、とんでもないっす!当てがあるなら、もちろんうちも同行するっす!」
「俺が行くこと前提じゃねーか」
まあ、別に構わないのだが、随分厚かましくなったな。うちの魔術研究部門、部長は。
「それで、そのアイテムは何なんですか?」
「はい『竜王の鱗』と、『ボスっぽい熊の生き血』、『首領的豚の皮』っす!」
「ふむ・・・・・・」
「・・・・・やっぱり心当たりないっすか?」
「いや、ある」
「あるんすか?」
「ああ、全部うちの宝物庫にあったはずだ」
「魔王城の、宝物庫!いったい他に、どんなレアアイテムが・・・!」
ヒメが目を輝かせていた。
「お前は絶対入るなよ」
「何でですか!」
探索するからだ!
「だいたい、お前が欲しいなら、いくらでもやる。だから探索せずに俺に言え」
「オーマ・・・」
「ヒメ・・・」
「あの、抱き合う前にアイテム用意してくださいっす」
「ふん、空気の読めん奴だ」
「シャル~」
ヒメが大好きなおもちゃを奪われた子供のような目でシャルを見る。
「なんなんすか!むしろ人前でそういうことする方が悪いっすよね!」
「ちゃんとキスは遠慮してるよ?」
「それ以外も遠慮してくださいっす」
「まあ、いいだろう、用意してやる。待っていろ」
「お~、やっぱりパトロンは景気がいいに限るっすね」
「ちょっと待った。何だパトロンって?」
「え?後援者のことっすけど・・・?」
「・・・・いただけないな。俺は魔族側に来いと言った。それにお前は応えた。つまり既にお前は俺たちの仲間だ。だからこれは仲間としての協力だ。決して一方的な支援などではない」
「は、はあ」
「じゃあ、行ってくる」
そう言って俺は、魔王城、宝物庫に向かった。
「ええと?」
「まだ分からない?」
「は、はいっす」
「つまりね、仲間のために好きでやってることだから支援だなんて他人行儀に言わないでくれって」
「オーマ様・・・・・良い人っすね」
「うん」
「そんな風に解釈する姫様も姫様っすけどね」
「あと、仲間としてこの借りは必ず返すようにって。いわゆる貸しってやつだね!」
「むしろ、そっちが本題じゃないっすか!?」
「さて、『ボスっぽい熊の生き血』、『首領的豚の皮』はあった。ほれ」
赤黒い液体の入った瓶と、緑色をしたぶつぶつのある皮をシャルに渡す。
「ありがとうございましたっす!」
何故かシャルは礼儀正しく頭を下げてきた。そういうのをしなくていいと言ったつもりなのだが、伝わらなかったらしい。
「で、もう一つの『竜王の鱗』だが・・・悪い、切らしてた」
「・・・切らすものなんだ」
「だが、心当たりはある。これから全員で向かうぞ」
「おー!」
「シャルがいつになくやる気です・・・」
「ヒメ、悪い、今日はあまりいちゃいちゃできないかもしれない」
「はい、構わないです。仲間の為、ですもんね」
「あ、ああ・・・?」
その通りだが、やけに機嫌がいいな?
「ほら、早く行こう?シャルもオーマに掴まって」
「こうっすか?」
ヒメが俺と手をつなぐのを見て、シャルもおずおずと同様に手をつないできた。
「ああ、じゃあいくぞ。魔族領、竜王の巣へ」
「・・・・・え!?何すかその物騒な場所!」
「す、すごいっす!何すかここ!宝の山じゃないっすか!」
ついて早々、シャルは目を輝かせていた。
「オーマ、オーマ!ほら『竜の卵』ゲットです!」
ヒメも。
「ああ、後ろから親が追いかけて来てるから倒しとけよ」
「あ・・・ほんとです。オーマどうしましょう、罪悪感が!」
「今更だな。気になるなら返しとけ」
そういう罪悪感は俺の部屋を探索するときにも感じてくれ。
「そうします」
痛い、痛いとドラゴンの攻撃をその程度で済ませヒメは『竜の卵』を戻してきた。
「さっさといくぞー?」
「あの、二人とも?あまり離れないでくださいっす!迷子になったらどうするんすか!主にうちが!」
「なら離れるなよ・・・」
そのあたりから拾ってきたのだろう、腕一杯にアイテムを抱えて叫んでいた。
「と、いうわけで、あれが、竜王こと、ドラさんだ。魔族なら話が通じるんだが残念ながら魔物だ」
巣の最奥、眠りながらもその威容を見せつける、真紅の竜王の姿を指しながら言う。
「で、どうするんですか?」
「もちろん力づくで奪い取る。準備はいいか?」
「は、はいっす」
「もちろん」
「なら、戦闘開始!」
「姫流抜刀術『唯壱の型』―――」
「『灼熱球』圧縮―――」
―――
「―――斬空」
「―――五連!」
「・・・・・・・俺の出番はなさそうだな」
ヒメの斬撃が飛んだかと思うと、シャルの強力無比な魔球少女の名に恥じぬ魔球が五つドラさんに命中する。
そのままドラさんは寝起きのおたけびを上げながら空間の狭間のようなものの吸引力に耐え切れず、吸い込まれ消え去った。
――ドラさんを倒した!
――ドラさんは『竜王の鱗』を落として逝った!
「瞬殺か・・・・」
「オーマ!やりました!」
ヒメがピースしてくる。
「おう、おめでとう」
「あとは、うちに任せるっす!明日中には『魔王の角』の真の姿をお見せするっすよ!」
「おー、頑張れよ。じゃあ帰るから二人とも掴まれ」
二人が手をつないできたのを確認して、リアン軍、陣内にぱっと戻る。
「明日もまた来てくださいっす~!」
そう言ってシャルは一目散に部屋を飛び出していった。
「さて、ようやく二人きりになれたな、ヒメ」
「うん・・・」
「キス、していいか?」
言いながらヒメの顎を軽く持ち上げる。
「してくれないとやだよ?オーマ・・・・」
言いながらヒメは目を閉じる。
そんなヒメに俺も鼓動の音を高くする。
「―――ん」
一瞬で雰囲気の変わった俺たちは、思うままに唇を触れ合わせた。




