魔王の角(Ⅱ)
ここは、リアン軍の中だろうか?ヒメに割り当てられた部屋だとは思うが・・・。
「と、いうわけで、オーマの角が狙われてます」
ヒメと改めて結ばれて初日、その夜、俺は角の魔力反応に呼ばれて、ヒメのもとに瞬間移動した。
そして、その驚愕の事実を伝えられる。
「・・・・そうか」
どう反応しろと言うのか。
「『魔王の角』は私のものです。シャルにも誰にも渡しません」
「そ、そうか」
そう言われると嬉しく感じてしまう。
「なので、オーマからもシャルにそう伝えてください」
「・・・・・まあ、構わないが?」
「じゃあシャルを呼んでくるからね」
「ん」
ヒメが部屋を出ていった。
しばらくしてから二人分の足音が聞こえてくる。
「あああ、あの、姫様?これから会うのはオーマさんなんですよね?」
「うん、そうだよ?」
「なななな、なら、なんで、そこの部屋から魔王級の魔力が漂ってきてるんすか!?」
「あ、やっぱりわかるんだ」
「わかる!?今、わかるとおっしゃったすか!?本当に、本当に、魔王がいるんすか!?」
「大丈夫、大丈夫、オーマは優しいから」
同時に言い争う声が聞こえてくる。そうか、シャルと言うと、あの魔球少女か。少し牽制した程度だが、そこまで恐れられているなら、気分はいい。
そう、あれが普通の反応だ。
「オーマ~?シャル連れてきたよ~」
「おかしいと思ってたんす、普通の人間が『魔王の角』なんて持ってるわけないって、でも、まさか、本人だなんて、本人からもらったなんて思うわけないじゃないっすか!」
ヒメの後ろに隠れながらこちらの様子を伺っている。震えながら。
「・・・・・・・」
どう接したもんか。
「ほら、睨んできてるっす!今にも襲い掛からんとばかりに品定めしてきてるっす!」
「そんなことないから、今はただ、どう接しようか迷ってるだけだから」
「信じられないっす!」
なんか、哀れだ。
ヒメも善意から言っているんだろうが、にこにこしているのが逆にシャルの恐怖をあおっている。
それはともかく、俺の心情をばっちり当ててくるヒメ。そこまでわかりやすいだろうか。だが、それもまた嬉しい。
「今は私に心情を読まれたことでにやけてます。ほら、見てください。あのにやけ顔を。可愛いですよね」
「舌なめずりしてないっすか!?食べる気満々っす!ちょっと姫様の感性分からないっす!」
とはいえ、これ以上放置するのも可哀想だ。さっさと本題に入ろう。
「俺は、オーマ=サタン。魔王だ。恐れるのもわかるが、俺はヒメに心底惚れている。お前を攻撃することは無い、安心しろ」
「・・・・・・は?」
「そんな、オーマ、惚れてるだなんて・・・・」
そうヒメは頬を染めて、
「事実だ」
「私も・・・だよ?」
にへ、と照れた笑いを浮かべる。
「知ってる」
「オーマ・・・」
「ヒメ・・・」
「むにゅう」
ヒメが抱きついてきた。
「ふっ」
「何すか、これ・・・・・いえ、わかったっす。要するに、同類なんすね・・・」
ヒメの壁が消え、全身を現すことになったシャル。だがもう隠れる気は無いようで。
シャルの表情に恐れだけでなく、呆れが混ざってきた、いい傾向だ。
「さて、本題だが、・・・・えー俺の角についてだっけか?」
ヒメが脇から抱き付いて来た態勢のまま話を進める。
「!? そうっす!それっすよ!是非、うちに研究させてほしいっす!きっと新発見がいくつもあるっすよ!それが今の世界に百年も二百年も先の魔法技術をもたらすっす!」
今まで、あれだけ恐れていたのに、この話になると急に積極的になった。
「・・・人族には、だろ?それを魔王の俺に言うのか?」
「あ、あう・・・」
「ふむ、・・・まあ、和平が成る以上、ヒメの為に人族の発展を目指すのはやぶさかではない」
「オ、オーマ?」
「そして、その技術が魔族にも返ってくるというなら、なお、良い話だな」
「は、はいっす!和平の上に、人族と魔族の共同開発を行えば、名目だけでなく、実もともなった平和につながるっす!」
「ああ。だが、それだけだと、こちらがただ貴重な素材を提供するだけになる。こちらとしても、欲しいわけだ。優秀な、魔法使い、そして魔法技術者が・・・」
「あ・・・」
ヒメが理解したように声をもらす。そう、
「俺の角の研究をしたければ、シャル、お前が魔族側に来い。お前の知識、俺のために使え」
迂遠ではあるが明確な難題。ただ断るよりも、この方が、この手の輩は引き下がりやすい。
だが、
「はい!もちろんっす!オーマ様!」
「「・・・・・え?」」
俺とヒメ、二人の驚きが被る。
様・・・づけ?
「なら、善は急げっす!早速『魔王の角』の解析に取り掛かるっすよ!」
「ま、待て待て待て。いいのか?魔族だぞ?人族の敵だろう?」
「そ、そうです!もっと考えて!」
ヒメも続く。お前は人のこと言えないだろう。
「でも、姫様は信用してるんすよね?」
「はい・・・」
そして、そのヒメが原因だった。
「なら、いいっす。それにそんなことで、このチャンスを逃すわけにはいかないっす!これは世紀の大発見になるっすよ?」
「あー・・・・そう」
悪い、ヒメ。ここまでだとは思わなかった。
「あうー・・・・」
ヒメは泣く泣く『魔王の角』を渡すことになるのだった。
「オーマ~・・・」
「そんな顔するなって、角は流石にもうやれないけど、愛ならいくらでもやれるから」
「オーマ、キザです」
「いやだったか?」
「ううん、嬉しい」
「ヒメ・・・」
「オーマ・・・」
「あの、早く渡してくれないっすか?」




