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リトライ魔王の勇者攻略  作者: 京洛紫音
外伝―シャルの章―
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魔法使いの弟子(Ⅲ)



 平原を一人歩くシャル。


「後10個、どうするっすかねー。あれの完成までもう少しなんすけど」


 ぶつくさ独り言を漏らすのはシャルの癖の様なものだ。いつも一人でいるから、というよりはそうした方が無言でいるよりも他者と意思疎通できると気付いたための習慣だった。


 しかしそんな些細な努力に関わらず、周囲は邪険にシャルを追い出す。いくつものギルドがシャルを嫌い協力を拒絶した。フレンドリーファイアの何が悪いのか。もともとシャル一人で一撃一掃できる魔物の群れを、格下のメンバーを連れてぺちぺち殴る無意味さにシャルは苦慮していた。


 先のギルドだって、『シャル先行敵全滅』作戦を否定して共闘を強制するから、仕方なく適度に強化して援護してやって、それでも崩れる有様だから被害を最小限に味方ごとファイアしたのだ。それを批判されてはシャルの居場所はない。


「いっそ、旅にでも出てみるっすかねー」


 今探している素材が首尾よく集まったとしても、以降の必要となる素材で同じ思いをするのは苦痛だ。あるいはこの辺りでは手に入らないかもしれない。ならばもっと魔族領に近い場所を拠点とべきなのかもしれない。


 魔族領に近づくほど魔物は強くなるが、その分、採取やドロップによる実入りも多くなる。問題はそのあたりが魔王軍との戦場になりつつあることだ。


 少し前、『世界征服宣言』なるものが魔王によって発せられた。


 場所は遥か南、魔族領奥深くから、リアン国およびイース国の全国民に対して一斉に行われた宣言。物理的音ではなく、頭に響くテレパシーの形で行われたそれは、シャルに戦意を失わせるには十分な威力だった。恐らく少し魔法に詳しいものならシャルと同じ考えに至るだろう。現にシャルの古巣である魔術の学び舎も、生徒教師を合わせて誰一人魔王に対抗する声明を出してはいない。


 勝てないと悟った理由は単純、シャル自身、自分を十人集めても『世界征服宣言』と同じことが出来ないからだ。度胸とか技術とかそういう問題ではなく、ただ一つ魔力量が足りないという点で。


 正面の相手にテレパシーを試みるぐらいなら消費MPはわずかで済む。しかし遠く離れれば離れるほどにその消費MPはどんどん増えていく。人数もそうだ。一人二人なら問題はないだろう。だが、三人四人・・・十人ともなるとその消費MPは甚大となりシャルのMPだと空になる。


 その上で魔王の宣言を見る。


“どこにいるとも知れぬ遠距離のしかも不特定多数の人間に一斉に呼びかけた”


 その事実だけでシャルは戦意を失った。あの宣言を脅しとして行ったのなら成果は確実にあっただろう。


 何らかのからくりがあるのだとは思うが、そうであっても魔王のMPは無限にあるのかと疑いたくなる。


 臆病と言うなら言えばいい。魔王討伐に行きたきゃ行けばいい。ただ自分は絶対に行かない。




 そういう理由で魔王軍に近づくような真似はしたくない。だからと言ってここから西にいった所でむしろ素材のレア度は下がるばかり。


「本当にどうしたもんっすかね」


 平原から森へと背景が変わる間もシャルは悩み続ける。


 本当にどこかにいないものか。都合よく素材を渡してくれる、いや、贅沢は言うまい、一緒に素材を集めてくれる優しい人は。


「ぎえやあああああああああ」


 そんな時だった。調子はずれな叫びが聞こえてきたのは。


 悲鳴を聞いて走り出すシャル。困っている人がいたら助ける。当然のことだ。物心ついた時からこの志を曲げたことは無い。




 森の目印を頼りに進む。ここの目印は古の魔力が作用しており、通る者の目的地を読んでその指し示す方向を変える。途中で目的地が変わろうと、目印通りに進めば問題なく目的地にたどり着ける。便利な目印の裏に隠された遺跡もあったのだが、今は昔の話である。


 閑話休題。走りついた先、小さな男の子――と言ってもシャルよりは少し背が高い――が尻餅をついて怯えていた。その正面にはこの森に似つかわしく無い、禍々しい瘴気をまき散らす、人型のアンデッドが。


(あ、うちが昨晩暇に飽かせて作ったやつ)


 アンデッドとはいえもちろん人の死体は使っていない。生きている魔物を使った。いくつ使ったかは覚えていないが、なんていうか、キマイラとか、鵺とかそんなものを目指して創ってみたらどろどろした人型が出来てしまった。生命の神秘だ。


 まあゴミなので、捨てるつもりだったし、今すぐ返してしまおう。


「汚物は昇天だー」


――ぞおおおぶつしゅよおおおおおおおおおーーー


 叫びを上げてアンデットはターンした。経験値は入らない。





「き、消えた?」


「危ないとこだったっすねー大丈夫っすか?」


 人はこれをマッチポンプというのだが、元凶であることをおくびにも出さず、さも命の恩人のように振る舞うシャル。


「あっ、うん。ありがとう」


「ならよかったっす。くれぐれも今あったことは人にしゃべっちゃダメっすよ」


「それはまたどうして」


「どうしてもっす」


「姉さんにも?」


「もちろんす」


 ガウェインがうるさいのだ。冒険者を襲うなとか、魔物を生み出すなとか。人の勝手ではないか。


「わかった。師匠」


「師匠?」


「うん!おいら師匠の強さに惚れた!いや、惚れたっす!是非弟子にしてくれっす!」


「ごめんなさい」


 踵を返すシャル。変な人とは関わりたくない。


「待ってよ!弟子にしてくれたら、何でもするから!」


「何でも?」


 足を止めるシャル。


「うん!料理洗濯家事全般!なんでもござれだよ!」


「あー、じゃあ試験っす。弟子をとるにしてもその資質を見ないといけないっすからね」


「うん!」


「『闇中草』10個、耳を揃えて持ってくるっすよ。――特徴は」


「わかった!行ってくる!」


 そうシャルの言葉を遮ると少年は一目散に森の奥に走っていった。


「・・・・・・・。ま、期待しないで待つっすか」








「皆にお願いがある!」


 迷えずの森を狩り場とする盗賊団のアジト、そこにいた複数の者に少年は呼び掛ける。


「お、珍しいでやんすね。弟君が頼みごとなんて」


「任せるがいい」


「仲間に頼られたとあっちゃあ、このアリ姐さん力を尽くさないわけにはいかないねえ」


 仲間の面々が心強く応諾してくれる。


「『闇中草』を10個、都合してほしいんだ!」


「あ、そりゃ無理でやんす」

「無念」

「おっと用事を思い出した」


「って、なんでやねん!」


 びしぃ!


 少年のツッコミ。


「ナイスつっこみでやんす!」


「「「「イェイ、イェイ、イェーイ」」」」


 三人の盗賊と代わる代わる手を打ち合わせていく。


「そのノリどっから持ってきたのよ」


 そこへ冷めた目をしつつ一人の女性が歩いてくる。荒事が日常の盗賊稼業において、頭一つ抜き出た統率力を発揮しながらも仲間には人情味溢れる笑顔を見せる盗賊ギルドのリーダー。そして少年の姉でもある。


「あ、姉さん。えっと、シーファちゃんから?」


 姉の顔を見て即座に笑顔を浮かべながら、少年は質問に答える。すると姉さんは額に手を当てて「またあの子は」と頭を抱える。


「それでどうしたの?『闇中草』とか聞こえたけど」


 姉さんは気を取り直した様子でもう一つの疑問を尋ねる。


「姉さん、おいらどうしても『闇中草』10個が欲しいんだ!」


 少年は特に迷いもせずお願いをする。師匠も人に頼るなとは言っていない。


「詐欺の香りがするわ。何があったかわたくしにきちんと言いなさい」


 少年の両肩に手を置き心配そうに追及する姉。


 事情を話したら頼みを聞いてくれると思う。でも師匠には誰にも言うなと言われてしまった。


「姉さん!どうしても、必要なんだ」


 話せないなら誠意を見せるしかない。真摯な表情で姉に頼み込む。


「くっ、まぶしい」


 真剣な瞳を向けてくる弟の前に姉は即座に膝を屈した。







「師匠!戻ったっす!って、あれいない。そういや待ち合わせしてないや」


「師匠ーどこっすかー」


 少年は師匠を探し森を目印通りに進み始めた。










 少年がそれに気付いたのはありふれた日の買い物中だった。


「―――――」


「―――――?」


「――――」


 女の子が一人、数人の男に囲まれて会話している。それだけなら冒険者のありふれた町、そう不思議な光景ではないだろう。


 ただ、その相手が問題だった。男たちは一目見てわかるならず者たち。もちろん少年にとって関わりのある者たちではない。その彼らが女の子の逃げ道を塞ぐように囲みながら会話しているのだ。


 危険だと思うのが一般的だ。


 女の子は自らの状況を不審がる様子もなく何か頷くと、男たちに先導されるままその後をついていく。


 少年は思った。


(誘拐?)


 義憤に駆られて少年はその後を追った。もし誘拐だとして、女の子を一人助け出すくらいできるつもりだった。その少年の甘い考えは、特に意味もなく打ち破られる。




―――あたり一面、燃えていた。


 何が起こったのか、頭では理解している。


 人目につかない暗い路地。


 ある一人の女の子――水色の髪が目立つ魔法使い――を、数人の冒険者が囲み、襲い掛かった。


 その瞬間、ひとりでに爆発が起こり、襲い掛かる大半を吹き飛ばした。


 残った冒険者たちも、女の子が後退しつつ放つ魔法によって接近する前に次々と迎撃されていく。


 そして全滅。


 残るのは、一人だけ立つ魔法使いの女の子と、倒れ伏した冒険者たち。


―――それは蹂躙であった。


 少年はその光景をただ呆然と見つめていた。


 赤い炎を背景に立つ少女を瞳に映しながら、ただ素直に凄いと思った。


 あんな力が欲しい。あんな風に戦いたい。


「かっけえー」


 それが、ある少年がある魔法使いに憧れた経緯である。




 そんな彼女は冒険者のアイテム袋を漁ると立ち去っていった。


「強盗あっち!?」







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