魔法使いの弟子(Ⅱ)
研究に使う素材が足りない。最初にそのことに気付いたのは、しばらく前のことだった。
どこかで足りない素材を調達する必要がある。シャルは外出することにした。
素材調達はダンジョンでの採集が基本だ。シャルは近所のダンジョン(迷えずの森)で目的の物が採れないだろうかと、邪魔になる魔物を皆殺しにしながら採集を行っていた。
「人の獲物を横取りするな!」
すると何故か怒られた。
その冒険者いわく魔物はクエストを受けてから倒すもの。報酬の横取りになるから、魔物を倒したいならお前もクエストを受けてから倒せとのこと。
しかしこちらが望んでいるのは魔物ではなく素材だ。気に食わないことではあるが、そう言うのなら魔物をやらずひっそり採集すればいいだけのこと。シャルはステルスしつつあたりの採取ポイントを荒れ野にするがごとく刈り尽くしていた。
「人の果実を横取りしないで!」
すると何故か怒られた。
いわく採取はクエストを受けてから行うもの。依頼者の命に関わる。あなたもクエストを受けてから採取しなさい。
そもクエストとは何ぞや?と更に尋ねてみるとそのお姉さんは丁寧に説明してくれた。
要約するとクエストというものはギルド本部で受けられる仕事のようなものらしい。
仕方がないのでギルド本部を訪れる。
しかし受付を訪ねてみるとクエストはギルドを設立しないと受けられないと言う。
仕方がないのでギルドを作ろうとする。
しかし一人では設立できないと言う。
そこでシャルは気付いた。
なんて過ごしにくい世の中なんだろうと。
一瞬暴れてやろうかとも思ったが良識的なシャルはそんなことはしない。
クエストを受けた者に採取する権利が与えられる。なら、クエストを受けたものの代理として採取すれば問題ない。
シャルはしばらくギルド本部に張り込み、該当クエストを受諾したギルドを確認し、後をつける。そしてダンジョンに入るや闇討ちして、不幸にも戦闘不能となった彼らの代わりに採取を行う。採取した内、彼らが受けたクエストに必要な素材を適当な冒険者のアイテム袋に入れてその場を後にする。
それをいくつか繰り返して、その日の素材不足は解消された。
シャルはるんるん気分で住居に戻った。
――同日、ある魔法使いが指名手配された。
いわく、『有難迷惑な辻斬りを捕まえろ!』
犯人の特徴、水色の髪。
また別の日、素材が足りなくなったシャルは町にギルド狩りに出かけた。
しかし途中で知らない人に話しかけられ、あれよあれよと言う間に町の外に連れ出される。そのまま襲い掛かられ、仕方がないので返り討ちにする。その後何とはなしにアイテム袋を探ってみるとなんと目当ての素材が入っていたので相場よりかさ増しした金額を金貨袋に入れて素材を拝借する。
その後も襲撃が続いたので同様のことを繰り返すと、その日の素材不足は解消された。
シャルはうきうき気分で帰還した。
――同日、ある魔法使いが指名手配された。
いわく、『金払いの良い強盗犯を捕まえろ!』
犯人の特徴、水色の髪。
また別の日、素材が足りなくなったシャルは町にナンパ待ちに出かけた。
しかし誰も襲ってくれない。仕方がないので目当ての素材を手に入れるクエストを探すが、今回の素材がレアな為に該当クエストを受けるギルドが見つからない。
困ったので一人でもギルドを設立できるようギルド本部長なるものを探すが、それが誰なのか皆目見当もつかない。町のものに聞こうとするが、何故か目が合うと逃げられる。
避けられるようなことをしただろうか。
まさか臭うのだろうか。
しばらく地下遺跡にこもっていたせいで身だしなみに気を遣っていなかった。
次から気を付けよう。
諦めてその日は帰ろうとしたところでその日初めて声を掛けられる。
「お前が、あの水色の魔法使いか?」
それがシャルとガウェインの初邂逅だった。
特に印象深いわけではない。
いわく、彼と勝負して、勝ったら必要な素材をプレゼントしてくれるとのこと。負けた際のデメリットは無し。
その提案を受けた。
勝った。
無事、その日の素材不足は解消された。
シャルは感謝の気持ちを抱いて家に帰った。
――同日、ある魔法使いの指名手配が解除された。
いわく、「あれには手を出すな」
特徴、水色の髪。
さらに別の日、また素材が不足した。
仕方がないので親切な人を探しに町に出かけた。
その人はいたがもう戦う気はないらしい。落胆して帰ろうとするシャルにガウェインは声を掛けた。
「一緒にクエストを受けないか。サポート枠というものがあってな、ギルドに入っていないものでもクエストに参加できるんだ」
シャルはおおおと顔を輝かせた。
――先日、ある制度が追加されていた。
「クエスト攻略に必要な協力者を、ギルド内外に関わらず要請できる」
こうして、シャルは正攻法で素材を集めることが出来るようになった。
――それから数日、多くのギルドがある魔法使いを迎えては追い出し、迎えては追い出した。




