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第十四話 一段落


「さて、帰るか」


 今まで中にいた場所の上空を飛び瓦礫を見下ろしながら、つぶやく。どう考えてもやり過ぎた。今、俺の顔はさぞ青ざめていることだろう。

 今更、破壊の暴虐を後悔するような精神はしていない。だがこれをヒメに知られると非常にまずい。

 どうせ、クオウの方は大丈夫だろう。


 そう決めつけ、振り向き帰ろうとすると――


「オーマ?・・・降りてきてくれますか?」


 いま、一番聞きたくない声が背筋の凍るような確かな怒りを含んで聞こえてきた。何でここに?


「オーマ?」


「・・・・はい」


 俺は観念した。





 ヒメが城に戻ってきたのは、軍が落ち着き、軍を帰還させることを報告に来がてら、和平を結ぶきっかけを作ろうとしたのだが。



「何か言うことはありますか」


「申し訳ありません!!」


 土下座した。


「ないんですね。覚悟も決まっていると」


「え、いや、そういうことじゃなく」


「ひどい有様ですよね。まさか帰ってきて早々、城が爆発するとは思いませんでした」


「はい、すみません」


「私のことが嫌いになったんですか?」


「そんなわけない!」


「なら、事情を説明してください。私だってオーマが理由もなくこんなことをするとは思っていません」


「ヒメ・・・」


 残念なことにそんな深い理由はないんだ。ただの売り言葉に買い言葉というやつで。



――ガラガラ



 そのとき、瓦礫が崩れ、クオウが這いだしてきた。


「はっはっは。ひどい目に遭った。やるのう、オー・・マ」


 全身に傷を負いながらも、目立った外傷はない。ほんとに無事だったクオウは快活な笑い声をあげ歩いてきたがヒメの姿を見て歩みを止める。


「ヒメ?」


「なるほど、父様も一枚かんでるわけですね」


 底冷えするような冷気を漂わせ、ぞっとするような笑みをヒメは浮かべていた。




 その後、勇者の前に王二人の正座する姿があった。




「なるほど、つまり和平の申し入れに来たオーマに父様が喧嘩を吹っ掛けたわけですね」


「いや、喧嘩ではなく決闘で・・・ひいっ」


 じろりとヒメが視線を向けるとクオウが黙り込む。


「で、オーマも嬉々としてその喧嘩を買ったと」


「仕方なしだ!仕方なし」


「・・・はあー。それで結果はどうなったんですか。和平は結ばれるのですか?」


「ん?ああ、和平なら既に決定事項だ」


「え?」


 クオウが言うと、ヒメが驚く。


「ヒメのために、って即決だったぞ。こんなことなら、さっさと来るんだった」


「父様、本当ですか!?」


「ああ、ヒメを戦わせずに済むなら、多少の譲歩はやむをえまい」


「オ、オーマ、じゃあ?」


「ああ、俺たちの目的を果たせるんだよ」


「オーマ!!」


「おっと」


 ヒメが感極まった様子で抱き付いてくる。


「ありがと!オーマ、ありがと!」


「ああ。でも、ヒメが頑張ってくれたからだよ」


「そんなことないです。オーマがいてくれなかったら、きっとまた私は・・・」


 そんな風に喜びを分かち合っていると、


「あーごほん。どういうことか説明してくれるか、なあ、オーマよ」


 俺たちが抱き合っているところに、その背後から見えない炎を上げながら、クオウが笑顔で訊いてくる。ああ、そっくりだ。ヒメと。





「ほお、つまり、わしの娘を魔王がたぶらかしたというわけか。これは、もう一戦必要かもしれんな」


「クオウ、気持ちはわかるが、父親として、ここは泣く泣く認めてやるのがいい父親ではないか?」


「貴様が言うな!問答無用っ!」



――キンッ



 クオウが剣を抜くや振りきった剣を同じく剣が受け止める。


「父様、ならその一戦、私が受けて立ちましょう」


 ヒメの聖剣が。


「オーマを認めない父親など要りません!」


「な、なんだと!!?!?」


 驚愕するクオウ。


「そこまで魅了されておるとは!?くっ、やはりヒメを送り出すべきではなかった。今すぐ正気に戻してやる!」


 今にも戦いを始めそうな二人。


「まてまてまてまて!」


 慌ててヒメと瞬間移動し距離を取らせる。


「せっかく和平が成立するってのにお前らが戦ってどうするんだよ。ヒメ、落ち着け」


「そうはいきません。これは私の人生をかけた争いです。オーマは黙って見ていてください」


「――そうだ!貴様は黙っておれ!」


 遠くからクオウも言ってくる。


 俺、当事者だよな。




「だいたいこれ以上お前らが戦ったら、城がぼろぼろになるだろ。さっきまでお前が怒っていたのは何だったんだ?」


「それは・・・気を付けます」


 気を付けて済む問題なら戦うことをやめろ。


「それに、クオウも勘違いしてるぞ」


「勘違い?」


 そう根本的な誤解。


「俺がヒメをたぶらかしたんじゃない。――ヒメが俺をたぶらかしたんだ!」


「なんと!?」

「オーマ!?」


「ヒメに何か要求されたら一も二もなくそれを叶える。それだけ俺はヒメに惚れこんでいる!」


「あの、オーマ?恥ずかしいのですが」


「主導しているのはヒメだ。だからクオウが案じるようなことは何もない。それともヒメのことが信じられないのか?」


「ぐ」


「娘のことが信じられないというのか!?」


「ぐうぅ。ヒメ!今のは本当なのか?」


「え、え~・・・」


 ヒメがどうするべきかとこちらを窺ってくる。ああ、と万感の思いを込めて頷く。からかう気持ちも含めて。


「う~~」


 俺が頷くのを見てヒメは顔を赤くして、


「ほ、本当です!オーマは私のいうことをきいてくれます!私にめろめろなんです!・・・わ、私もですけど」


 そう、言い切ってくれた。最後に嬉しい言葉をつけ足して。


「ヒ、ヒメ・・・。わかっているのか?そやつはユーシアの仇なのだぞ」


「それでもオーマは償ってくれます。私と共に万人の助けとなってくれます!」


「なぜ、そこまで・・・」


 クオウの気持ちはわからないでもない、いやわかり過ぎるほどだ。もしアーリアに好きな人が出来たとしたら・・・その相手がイーガルの仇だったら殺してしまうかもしれない。いや・・・・・・・・・・・・・絶対に殺すべきだ。


 ・・・やめよう。仮定は何も生み出さない。


 だが、俺にとってもこれは譲れない問題なのだ。だから、これだけは言っておかなければならない。


「だから―――お義父さん!娘さんを俺に下さい!」


「やれるかっ!!」


 断られた。クオウは逃げていった。だがこれは消極的賛成というやつではないだろうか。胸に達成感を抱きながら、


「やったなヒメ」


「やったんでしょうか」


 ヒメの心情も複雑な様だ。父親の立ち去った方向をただ見つめていた。





「それにしても、これ、どうしましょう」


 目の前にあるのは見渡す限りの瓦礫の山だ。奇跡的に人的被害は無かったようだが、これを直すのにどれくらいかかるだろうか。

 それを見つめるヒメに、俺は申し訳なさを募らせる。


「悪かった。俺が直すから安心してくれ」


 そう言って俺は瓦礫をもとの城に戻すため魔力をこめる。すると何ということでしょう、瓦礫は一つずつがひとりでに動き出し、組みあがっていくではありませんか。


「凄いです。こんなこと、どれだけの魔力制御ができれば・・・」


「大したことじゃない」


 確かに一つ一つ組み立てていたらさぞ大変だったろうが、俺がやったのは、


「このあたりの時間を巻き戻しただけだ」


「・・・え?」


 ヒメはそれを聞いてしばらくしてからようやく反応する。驚きという名の反応を。


「時間を戻すなんてこと・・・できるのですか?」


 信じらないと言おうとして、ヒメは改める。二人だけの今、わざわざそんな嘘を言う必要はないのだ。


「できてしまうのだ、これが」


「無茶苦茶じゃないですか」


「そうでもない。あくまで時間を戻せるのは物だけだ。生き物や生き物に取り込まれた物の時間は戻すことができない」


「それでも、ありえないはずです。魔力で時間を戻すなんて聞いたことがありません」


「俺も何故できるのかわからんが、できるものはできる」


 そうこう言っているうちに、王の間は再びその威容を取り戻した。


「ほえー。でもなんで最初から直さなかったんですか?」


「何でだろうな」


 ヒメが怖くて、逃げることしか頭になかったとは言えない。


「とにもかくにも、これで一件落着だな」


「はい、後は逃げた父に和平の日程を決めさせてその日を待つだけです」


 途端めまいがする。やっぱりこうなるか。


「ヒメ」


「はい?」


「少し休ませてもらってもいいか?」


「もちろんかまいませんが、オーマ?」


 ヒメが振り返るとそこには顔面蒼白のオーマが今にも倒れんとばかりに、ふらふらしていた。


「オーマ!?」


「悪い・・・」


 慌ててヒメが駆け寄り支えると力が抜けたようにオーマがもたれかかってくる。


「な、なんでこんなに。まさか、父ですか?父の所為ですか!?」


「ち・・がう。さっき・・・の・・魔法だ」


「魔法って時間を戻した?」


「ああ、魔力・・・消費が・・とんでもなく・・・てな」


 息も絶え絶えにそういうとそこでオーマは力尽きた。


「何が、大したことない、ですか・・・」


 ヒメは呆れたようにいいながら、オーマの体を優しく抱きしめた。




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