第四十二話 克クエスト心
頭が、痛い。
閉ざされた氷の部屋でセラを見つけた時、クエストが発生した。
『セラを●せ!』
●の部分がぼやけて見えた。頭の中に浮かんだ文字に目を凝らすというのも変な話だが、よくよく注意して読み取ればそれが「倒」の文字であることがわかる。なのに、そこから意識を逸らすたびに、それが「殺」の文字に見えて仕方がないのだ。
それにつられるように、どこからともなく殺意が湧き上がる。セラを殺せと体が疼いて仕方ない。狂気が囃し立てるのではない。理性が説得してくるのだ。あいつはヒメを狙った。アーシェを死なせるところだった。あの能力は危険だ。勇者の敵だと。殺しても構わないと。何よりも俺自身がそう思っていた。
荒れ狂う魔力は今すぐ解き放てと主張してくる。今もそうだ。目の前の二人を、セラを殺すことを邪魔する二人を吹き飛ばしてしまいたくなる。思うままに戦って、ねじ伏せてしまいたくなる。
けれどそんな衝動は簡単に抑え込める。そんな理性的な殺意よりも、ヒメを傷つけたくない気持ちの方が、アーシェを傷つけてしまった後悔の方が、どうしようもなく大きいのだ。
オーマの前に二人の人間が立ち塞がっている。ヒメとアーシェ。オーマの仲間でありながら、オーマの知る限り最も悪質な組み合わせを前にして、オーマの頭痛がいよいよもって酷くなる。
ヒメ達が戦意を見せたためか、先ほどから頭の中にへばりついていたクエストが変化する。
勝利条件
1ターン生存
敗北条件
オーマの戦闘不能
だそうだ。
笑ってしまう。生きていれば勝利だ。逆を言えば1ターン以内に生きていられない可能性があるということだが、目の前の状況を前に否定も出来ない。アーシェはやる気満々って顔だし、ヒメは多少の致命傷は不可抗力ですって顔してる。
「・・・・・。」(まんまん)
「多少の致命傷は不可抗力ということで」
これだ。
1ターン生存。ターンがどういう単位かは知らないが今の俺にふさわしい目標であることはなんとなく分かる。
セラを殺すためにはそこで寝ているセラのもとに辿りつく必要があるが、それが出来るほど目の前の二人組は甘くない。少なくともどちらか一人は落とさないとその隙は生まれない上に、そのどちらか一人落とすという目標も遥か彼方の超難易度。
勝てるわけがない。勝てるわけがないから、別の目標で誤魔化しているのだ。
要するにこれは、絶対に勝てるはずがないと見くびられた結果の救済措置なのだろう。
救済。
救い?
気にくわない。何故救われる必要がある。何故勝てないと決めつけられる。何故勝手に目的を決められる。何様だ。
それを選ぶのは俺だろう。
――頭が痛む。
――殺せ
――頭が。
――セラを
――痛む。
――勇者の敵を
――消えろ。
――殺せ
――セラを。
――クエストを。
――消せ
――知ったことか。
――俺は、俺の意思で行動する。
「・・・・理解、できないな」
一つ大きく深く呼吸をしたオーマは、厳しい表情を改め、ごく普通に、ごく普通の調子で話し始める。
「何故セラを殺すことを邪魔する?」
「?」
それがおかしいことにヒメは気づく。ヒメとの開戦が予期させるこの場面でオーマが平常心を保つということに違和感がある。普通ならもうちょっと怯えている。アーシェちゃんがいつ戦えるのかと、わくわくテカテカぴょんぴょんしていればなおさらだ。
「・・・・・。」(わくてかぴょん)
引っかかりを覚えているヒメに構わず、オーマはいつもと何も変わらず話しかける。
「お前らだってセラの能力の危険性が理解できないわけじゃないだろ。アーシェ。お前は自分の体を奪われてなんとも思わなかったのか?自分の体を殺す羽目になったんじゃないのか?」
「・・・・・。」(たしかにな!)
「ヒメ、お前だって危うく体を乗っ取られそうになったはずだ。それに俺の体に他人が入ってそれを許せるのか?言っとくが俺は許せないぞ。自分の体を使われるのも、ヒメの、誰かの体を奪われるのも」
オーマが説得を始めたことにヒメが驚いた顔をするが、内容自体に驚きは無かったようだ。すぐに言葉を返す。
「確かに自分のモノを取られるのはあまり気分のいい話ではないです」
「だったら―――」
「だから殺すというのは、流石に性急過ぎませんか?」
そしてすぐに否定を返す。ヒメの答えはオーマにとっておよそ予想のつくものであった。ありふれた答えだからこそオーマも一度はそれを考えている。その上での結論だ。セラは殺さなければならない、と。
「本当にそう思っているのか?」
「・・・・・。」
「失ってからじゃ遅い。今見逃して、次また俺たちを狙わない保証がどこにある。その時もまた無事に済むと言い切れるのか?」
「はい」
「は?」
ヒメは言い切った。それはもうきっぱりと。
「誰が何度襲い来ようと私が全部守ります」
ヒメは当たり前のことのように答える。
「その時は、お前がセラを殺すと?」
「いいえ。殺しません。捕まえます」
「捕まえてどうする。あの穴だらけの牢屋にでもいれるか?またすぐ逃げ出すぞ」
「その時はまた捕まえればいいんです」
「繰り返す気か」
「繰り返します。何度だって」
躊躇いが無い。セラの危険性を理解してなおそれなら、本当に愚かだ。超人にでもなったつもりか。
いくらヒメが強くても、それでもただの人間だ。一度なら何の問題も無いだろう。二度になっても余裕かもしれない。それでも三度四度と続けば、いや、今回の件に限らず百、二百と繰り返せば、いずれ失敗は起こる。人間であるならミスは必ず起こる。その失敗からヒメを守りたい。取り返しのつかない傷を負って欲しくない。そう思うのは押し付けだろうか。
「何故そうも殺しを避ける?犯罪者への対応として特に問題のある行為でもないだろう」
この国の法律では犯罪者に人権は無い。法的な加護が失われるというのなら、例え殺したとしても罪にはならないということだ。力がありさえすれば、殺しは犯罪者に対して最も手っ取り早い対処法だ。
勇者であるなら尚更だ。家捜しOK、実力行使OK。なら悪人を殺したっていいではないか。今までだって散々敵を斬り伏せて来ただろう。
「常識に縛られるな。勇者とはこういうものだ。そう教えてきたのはヒメだろ? だから、そこをどけ」
「常識を持て。倫理観を持て。そう教えてくれたのがオーマでしょう。危険だから殺すのどこが常識なのですか?」
「・・・・・」
「・・・・・・・確かにすぐに結婚に踏む込んでくれないオーマの常識は邪魔です。けれど、その常識を決して捨てようとしないのが今のオーマじゃないですか。それなのに益体もなく殺意をまき散らして。今のオーマはオーマらしくありません。変です。変態です、変態さんですっ。ほら、アーシェちゃんも何か言ってあげてください」
「・・・・・。」
好きな人が変態さんだった・・・。でも構わない。受け止めて見せる。的なことを言っている。
「私は、誰にも死んでほしくないです」
「俺はお前らに傷ついてほしくない」
「わ・・・・」
ヒメは言葉を失う。アーシェは・・・・ぴょんぴょんするのを止めていた。わくわくテカテカは継続している。
ヒメは、常識で殺しを否定する。オーマは、情で殺しを肯定する。そこには決して交わらない溝がある。どちらかが撤回しなければ埋まらない溝が。
「退く気はないか」
「オーマが退いてくれないのなら」
オーマに最後通告のように問われ、ヒメは気を取り直して構えを取る。慣れない左手だが二対一と言う状況ならさして枷にはならない。
「アーシェもか?」
「・・・・・。」
そう言ってくれるオーマは人殺しになんかさせてたまるか。
「そうか―――」
オーマの、決裂を予感させる嘆息にヒメとアーシェは身構える。
「―――なら、やめるか」
「・・・・・・・。へ?」
そこへ容赦なく下されたのはオーマのあっさりとした降参であった。
俺が十文字槍を聖剣に戻し、鞘に納めるのを見ながらヒメが信じられないと目を丸くする。それを見て少し気が晴れた思いだ。
「アーシェー、ちょっとこっち来い」
ぽかんと間抜けな顔をするヒメをよそに、オーマがアーシェを手招きをする。少しは躊躇ってもいいものをアーシェは迷いなく砂の上を駆け寄ってくる。その目は両目とも開かれており、血がついていることを除けば重大な瑕疵はないように見える。ごみを拭う様に目の下をこすってやるとくすぐったそうに目を閉じる。
「治ってるのか?」
「・・・・・。」(こくん)
頷いてアーシェはヒメの方を指す。ヒメが治したということだろうか。改めて回復魔法をかけてみるも効果がない。それを無事と取っていいものか悩むが一先ず安心しておこう。
「で、ヒメのその腕は?見せかけってことは無いよな」
「や、これは、その、ちょっと無茶をしたというか」
「見せてみろ」
オーマはヒメの側へと歩み寄り、ヒメの右肩のもともと短い袖をまくり上げる。その拍子に痛みが走ったのだろう、ヒメがびくりと顔をしかめた。心配するより先に珍しいものを見たという感想が先に立つのは先行するヒメのイメージの所為だろう。
「なんだかお医者さんごっこでもしてるみ痛い!痛いです!強く押さないでください!」
「お望み通りのごっこだろ。じっとしていろ」
「うう。オーマがひどい」
涙目に文句を言うヒメの右肩が痛々しく腫れ上がっている。回復しようとするがこちらも効果なしだった。体力満タンだ。処置の仕様がないとか手遅れとかいう意味でないことを祈るばかりだ。
「治らないし」
「イベントによる負傷なので」
「どういう意味だ」
「明日には治ります」
「本当だろうな」
「宿屋の力を舐めてはいけません」
宿屋にどんな期待をかけているんだこいつは。医者に行け医者に。
未だ左手で刀を持つヒメであったが、そろそろ状況の変化を理解したのか、刀をゆっくりと鞘に納めていく。
「それよりも何でオーマは、退いてくれたんですか?」
「あのまま行ったらお前らと戦うことになるだろ。そんなのお断りだ」
「・・・・・。」
愛の勝利とはこのことか。とアーシェが誰かさんの言いそうなことを言う。残念ながら愛ではなく恐怖によるものだ。最凶の二人組から逃げたかっただけだ。
「でも理性が飛んでたんじゃ・・・」
「いや、別に飛んでないけど。流石にアーシェを傷つけられたときはむかついたけどな」
「ならなんで?」
「その傷ついたアーシェを攻撃するわけにはいかないだろ」
なー。と同意を求めるようにオーマはアーシェの髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「そんな当たり前みたいに・・・・」
「当たり前だからな」
ヒメの猜疑の目をどこ吹く風で躱しながらオーマは魔法を発動する。地面に向かってアイスランス。砂の地面に刺さった氷槍を抜いてヒメの肩に当てる。
「ちめたい」
「なんか違うな」
ごつい氷槍はどう見ても冷却用の氷には見えない。小さく調整できたらいいのだが。
「取り敢えずこれで冷やしとけ」
そう言ってオーマは無骨な氷槍をヒメに差し出す。
「何か騙そうとか考えてません?私の手が塞がった隙にとか」
「考えてないから」
疑り深いヒメにオーマは苦笑する。その邪気のない笑みがいつものオーマに感じられたから、ヒメはオーマに差し出された氷槍を受け取ってぽっきりと折り砕いた。
「折るか?普通」
「持ちにくかったんです!」
「俺もそう思うけど」
ヒメは氷によって濡れた手のひらをオーマの手のひらとくっつけながら、上目遣いでオーマを見上げる。
「じゃあ結局なんだったんですか。オーマの暴走じゃなかったんですか?この前みたいな」
この前というのは俺がネクスタの町人相手にぶちギレしたときのことだろう。あれは、そういやあの時は何でキレたんだっけか。
「違う。今回はただの演技だ」
と、嘘を吐く。
「演技、ですか?アーシェちゃんを攻撃してまで?」
やはりいぶかしむヒメはオーマがアーシェを攻撃していたことを責める。
「・・・・・!」あれが全部演技だったなんて、嘘だと言ってよ!ハニー!と、アーシェ。
「アーシェなら俺の攻撃ぐらい大丈夫だと思ったんだがな。まあセラの行動を読み切れなかったことも含めてすまなかったな、アーシェ」
「・・・・・。」
心配無用ぜよ。夜明け近いぜよ。と、アーシェ。
「演技なのはわかりました。けど理由をちゃんと話してください。なにがどうしてそうなったのかちんぷんかんぷんです」
「どうしたもこうしたも、な」
頭の中で適当に組み立てる。この場にそぐう都合の良い嘘を。
「とりあえずセラの言っていたことなんだけどな。入れ替わりの力、今は持っていないそうだ」
「はあ、そうですか・・・」
「反応薄いな」
「いや、だって・・・えぇ」
まだ心の都合をつけられていないらしい。動揺したヒメというのも面白い。
「俺たちを油断させるための嘘の可能性もあるが、左目が無くなっていたからな。他者と目を合わせることで発動する力だ。目に力が宿っていてもおかしくない。その場合、妄想の類になるがセラは精神を入れ替える力を、左目ごと誰かに奪われたのかもしれない」
「・・・・・。」
ふむふむ。なるへそなるへそ。とアーシェは言う。うすうす感じていたがさっきからこいつふざけてるな。
「奪われたということは、つまり入れ替わる力を持った奴がセラ以外にいるということになるんだ」
「ああ、そういうことですか」
そこまで言えばヒメもわかったらしい。
「全員が信用できなくなりますね」
「そういうことだ」
いつ、誰が、どこで入れ替わられたとも知れない状況。誰かを信用してしまえばその裏で闇に葬られていく本物がいるかもしれない。警戒心の塊の普段の俺なら全てが疑いの対象となる。
「それにその時一番近くにいたやつなんかは、以前に会った時と態度が一変してたからな。その上喋らないから入れ替わっていてもまず気付かない」
「・・・・・。」
おおー、確かにちょー怪しい。とアーシェが感心した様子だ。お前のことだよ。
「アーシェちゃんのことですか」
「ついでにほど近い位置で、一人で行動するなと言い付けておいたはずの誰かさんが一人でガウェインと戦ってるしな」
「あー。魔力感知できましたもんねー」
言われて気まずそうに他所を向いてしまうヒメ。お前のことだな。
「アーシェの態度はヒメと似ているし、強さもヒメのものと遜色ない。中身がヒメじゃないかとも思ったぐらいだ。だから、セラを殺す―――暴走したふりをして、アーシェがどう動くかを観察した。キスでもしてきようものならヒメだしな。そうしたら予想以上に速やかなあの反抗劇。まるで疑われていることに気付いて逃げ出したかのように見えた。だから追撃した。納得したか?」
「いろいろあったんですね~」
「・・・・・?」
私悪くない?
「好き放題連れ回してくれたこと以外はアーシェは悪くなかった。疑ったことも俺が悪い。恨んでくれて構わねーよ。ついでに人の言いつけを守らない、誰かさんもな」
「・・・・・。」
まったく、困った誰かさんだ。と、アーシェ。
「さて、ヒメ。俺はどうすればよかったんだろうな?」
「う、あー、えー」
「どうすれば、いいんだろうな?」
「・・・・・あの、これを」
おずおずとヒメはアイテム袋から何かを取り出し差し出してくる。黒い丸まった何か。
「これは?」
「お詫びの印です」
丸まったそれがぽろっと崩れその形を現す。
――オーマは『ガウェインの靴下』を手に入れた!
「お前の気持ちはよく分かった」
「許してくれましたか」
「許せねえよ!逆効果だ!いやがらせだろ!」
――オーマは『ガウェインの靴下』を捨てた。
「えぇ!?そんなわけないです!集めればレアアイテムと交換できるんです!多分『ガウェインの戦斧』とか!」
「ガウェインの装備を剥ぐな!集めるな!」
「むう、また常識人ぶりだした。それに一人じゃなかったんです余?ホントですよ?」
「どーだか」
「今もほら、リーナちゃんがいますし」
そう言ってヒメが視線で自分の頭上へとオーマの意識を促す。
「や、こっちにふらないでください」
「リーナ?」
じろりとオーマの目がヒメの頭上にいるリーナに向く。
「えっと、いやあ、えへへ」
視線にたじろぐようにリーナは曖昧な笑顔を浮かべる。そう言えば今まで会話に混ざらなかったなと、ヒメは思う。ヒメと同様オーマの言いつけを守っていないことを後ろめたく思ったのだろうか。
「休んでろって言っただろ」
「おじさんのピンチに駆けつけたんですよ」
「敵側に駆けつけるな。袋叩きにする気満々だな」
「誤解ですー!」
ヒメの頭の上で否定されてもな。と言いながらオーマもそこまで怒ってはいないようだ。オーマの意識が逸れたのを見てヒメはまとめにかかる。
「じゃあ・・・オーマは別に激昂して暴れまわっていたわけじゃないんですか」
「ああ」
「ええー」
リーナがよく言いますねという目でオーマを見るがそれをオーマは無視する。
「じゃあ私は・・・いつオーマにキスすればいいんですか?」
「しなくていい」「しなくていいです!」
「・・・・・。」私もしたかった。
「むう、ちゃんと覚悟してたのに」
「はあ」
退いて正解だったと思うオーマであった。
捨てられた『ガウェインの靴下』が点滅しながら消えていく。アーシェがそれを見送る。消えるということは大切な物じゃないということだ。わざわざ拾う必要もなかった。
「するとさっきの常識云々のくだりも私を本物かどうか判断するためのものだったんですね」
「ああ。あんな皮肉めいた返しは多分ヒメにしか出来ないだろ」
「皮肉じゃないです。愛です」
「で、お前はアーシェのことを本物と判断しているんだな?」
「え、あ、あ~そうですね、多分」
「わからないのか。友達じゃないのか」
「友達じゃないですよ」
「・・・・・!」が~ん!そりゃないんだぜ。アーシェが無表情でショックを表す。
「友達というか、恩人です。実は付き合いが短かったりします」
「恩人?」
「オーマに手籠めにされそうな所を助けてもらいました」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・。」
オーマが凍結した。再起動した。
「またそういう嘘をつくだろ?やめてくれよ。ならなんでこんなに俺に懐いてるんだよ」
オーマがアーシェを意味もなく持ち上げる。オーマに抱き寄せられアーシェはほんのり頬を染める。
「アーシェちゃんなんてもろオーマ好みのロリじゃないですか」
「だから?」
「・・・・・。」(勝てなかったよ)
「・・・・だから?」
「三人で寝ました」
ヒメが意味の通じない言語を話す中、リーナが確信を持ってアーシェの立場を証明する。
「私が保証しますよ。アーシェさんは町の入口で出会ったアーシェさんと同一人物です。波長が一緒ですから」
「まあ、それならいいけどさ」
もともとそんなこと疑っていないのだから、取り立てて追及する必要もない。
「私もおじさん好みですか?」
あれ、おかしいな。さっきまで理解できる言葉だったのにな。誰か話を変えてくれないかな。
「・・・・・。」
ところでこの妖精は何だ?何なのだ?とばっさり話題を変えてしまうアーシェ。流石だ。俺はお前のことを信じていた。よっ器がでかい。
「妖精だなんて~。えへへ~。そんなに可愛いですか~?」
「妖精って悪口じゃないのか?」
喜びを見せるリーナを見てオーマがヒメに尋ねる。オーマの知識では妖精は悪質な悪戯を引き起こす害虫だ。いや害精か。
「多分褒め言葉ですよ。可愛いですから」
「見た事あるのか?」
「・・・・妖精ってアーシェちゃんが言ったんですか?」
話を逸らされた。
「そうだが、ヒメはアーシェ語がわからないのか?」
「むしろなんでわかるんですか?」
笑顔で聞き返されてしまった。俺にだって分からない。
「私はラキュリーナ・ヴァン。リーナって呼んで下さい」
リーナには確かにアーシェ語は通じているようだ。
「・・・・・。」
その名、心得た。我が名はア―――。
そこでアーシェはちらりと俺の方を見る。
「?」
「・・・・・。」
アーシェだ。
「・・・・・。」
オーマのペットだ。
「ぶふっ」
「ペット、ですか」
リーナの目が細められる。
「おまえ何言ってんの!?いつからお前俺に飼われてたんだよ!?」
「・・・・・。」
家族にしてくれたあの時から・・・。ぽっ。
「だからそれがいつだよ!!」
あと、家族とペットは似て非なるものだ!
「オーマ」
「なんだよ!?」
「今のオーマ、最高にオーマしてます!」
「意味が分からん!」
ヒメのテンションの高さに、オーマは投げやりに返すしかなかった。




