第三十八話 本性
「なんだよこれ・・・」
貫いた穴を抜け、熱気を『結界』で押しのけながら突っ走る先、オーマは走りながら息をのむ。
そこは火の海だった。オーマが張っている結界の外で、あたり一面、燃え盛っている。およそ人のいられる環境でないことは一目瞭然だ。気になるのは、壁も地面も天井も、素朴な土から石造りに変わっていること。洞窟から別の場所に来たようだ。
だが炎は上がっているが、燃える様なものが何もない。何を燃料に燃えているのか。
「ガス・・・?」
「・・・・・。」(ふるふる)
考えている場合じゃないと、アーシェが急かす。げしげしとオーマの足を蹴ってくる。
「蹴るなよ・・・って、あっつ!?」
そこで初めて気付く足裏からの高熱にオーマは飛び上がる。靴を通り越して伝わる熱が足裏に激痛をもたらしていた。『結界』はあくまで周囲に張られるものであり、自身を浮かせるような効果はない。足はきっちり赤熱した地面と接していた。それはもう熱い。熱さに飛び上がったところで、すぐ着地することになるのでは時間稼ぎにもなりはしない。
「っ~~~!」
オーマは走り出す。後ろには戻れない。進むしかなかった。視界の右上に表示されたオーマのHPが30を切っている。今も減り続ける。ここへ入ってから20秒ほどか。一秒ごとにHPが1減るらしい。
「俺の命、あと30秒しかない!?」
魔法剣士が仇になった。こんなことならおっちゃんのままでいるんだった!
おっちゃんに転職を・・・。
――そんなことをしている場合じゃない
「・・・・・・・」
「・・・・・。」
――そんなことをしている場合じゃない
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・。」
――そんなことを
くそ。肝心なところで融通がきかない。
「『エリア・ヒール』!!」
――オーマは全快した!
――アーシェは全快した!
延命方法が見つかる。回復魔法が使えるなら俺にはまだ900を越えるMPがある。『エリア・ヒール』の消費MPは40、結界の維持と合わせてあと10分は余裕をもって生き延びられる。
問題はこの状況で戦闘になった時だ。まともに戦えるわけがない。ならば急いでこの場を脱出するほかない、全力ダッシュ一択。一瞬『凍原氷河』で凍らせてしまおうとも考えたが、あの究極魔法では効果範囲が広すぎて、この限られた空間では下手をすると自分たちが凍ることになる。だからといって他の氷魔法では焼け石に水どころか水蒸気爆発さえ起こしかねない。魔法の原理が明確でない以上実行は出来なかった。
そんなわけで制限時間内にこの火の海から脱出せねばならない。しかしここは知らない場所。十字路が多いが、どの方角へ向かえばいいかもわからない。とにかく、端を目指して一直線に突き進むことにしたオーマの後をアーシェが続く。
それからしばらく適当に探索していると、ふと視界の端に何かがちらつく。前方へ進んでいたところ、右方の横道の奥で水色の何かが揺れた気がした。あっという間に通り過ぎたその横道に引き返して覗き込むが、そこには何もなかった。
「シャル・・・?」
こんなところにその姿があるのはおかしいのだが、ある一人の女の子が脳裏に浮かび、オーマは完全に足を止める。
「・・・・・。」(くいくい)
それをアーシェに注意される。
「わかってる!」
嫌な予感とでも言うのだろうか。ふつふつと焦燥感がわきあがる。迷うことなく、その横道に方向転換する。
その先の光景に、またオーマは足を止める。通路の左側面にそれはあった。
「なんだ、これ?」
氷が、あった。
あちこちて火柱が上がり、今も、赤くどろっとした地面がオーマの足を炙っている中、その場所だけは透明な氷が鎮座していた。その瞬間、視界が赤く染まる。これはただHPが低下したことによるものだった。
「『エリア・ヒール』」
赤くなった視界に反応してオーマは回復魔法を唱える。戻った視界に、やはり不自然なほど輝かしい氷が冷気を放って存在していた。
「休憩ポイント、なわけないよな」
こんな不条理な火の海に、親切に人の通行を考えた施設があるわけがない。ならなんだ、この氷壁は。
「・・・・・。」
アーシェが氷に触れる。まだ壊せないと首を振る。
その時、また地面が揺れた。それも今までとは比べ物にならないほど大きく。地面の揺れに足がふらつく中、どさくさに紛れてアーシェが腰に抱き付いてくる。
その傍らでぴしぴしと氷が軋みを上げる。そして縦一直線に入った亀裂は、オーマの目線の高さで無数に枝分かれして、蜘蛛の巣状のひび割れとなる。見事な亀裂である。揺れがやんだ。
「ここも、か?」
「・・・・・。」(こくん)
時間が無いにも関わらず、火の海に氷という異様な光景に思わず呆けていたが、さっきのおさらいのようにあからさまにひび割れた壁があっては我に返らざるを得ない。
「全てを破壊してやる」
破壊に目覚めたオーマがひび割れの中心に十文字槍の先端を突きいれる。氷を砕く軽い感触のあと、一瞬にして氷壁に穴が開く。崩れ落ちる氷塊。氷の向こうには氷漬けにされた空間があった。熱を完璧に遮断しているが、逆に凍えそうなほど寒い。
その氷の部屋に、人が横たわっていた。冷気のためか酸欠か、意識が無いようだ。苦しそうに喘いでいるその容貌に覚えはなく全く見知らぬ女性である。胸と下腹部のみを隠す露出の多い格好だが手足がやせ細り頬がこけたその姿では痛々しいばかりだ。更に特徴的なのは、その片目が繰り抜かれたように窪んでいること。
これが俺が助けるべき誰かなのだろうか?
助けることを迷いはない。なのに一瞬躊躇したのは、頭の中で一瞬物騒な声が聞こえたからかもしれない。・・・・『殺せ』と。
「俺が背負う。アーシェは出口を探してくれ」
考えるのはそこまでだった。聖剣を槍から剣に戻して鞘に納めつつ、オーマは即座に役割分担を決める。オーマは要救助者を背負った上で『結界』とHPの維持を担当、アーシェは出口の探索とその他障害の排除を担当。
それを伝えると、アーシェも首を横には振ることなく頷いた。
「あと、この女とは目を合わせるなよ」
「・・・・・。」(こくん)
アーシェはもう一度頷いた。
アーシェに導かれて、火の迷宮を出口目指して探索する。
――アーシェは宝箱を開けた。
――ルビーアンクレットを手に入れた。
――アーシェは宝箱を開けた。
――3000Gを手に入れた。
――アーシェは宝箱を開けた。
――ラヴァランスを手に入れた。
「宝探ししてる場合か!!」
アーシェの行く先行く先、行き止まりに宝箱があった。当然その間もオーマのHPとMPががりがりと減っていく。文字通り命を削りながらの宝探しである。
とはいえアーシェがここの地理を知らないのでは、この結果を責めることは出来ない。ただ、明らかに何かありそうな巨大な柱に挟まれた大きな通路を無視して袋小路に進んでいるような気がするので、責めたくもなるのである。
「なあ、あっちじゃないか? あっちの方に何かあるんじゃないか?」
「・・・・・。」
――アーシェは宝箱を開けた。
――良さげな薬草を手に入れた。
「おーい」
アーシェに先頭を任せたのは間違いだったかもしれない。
穴が空くほど探索した後、ようやくオーマの言う柱の立つ通路へとアーシェが進む。しかしその先も行き止まりであった。正確には天井が崩れて道がふさがれていた。
「嘘だろ。八方ふさがりじゃないか」
アーシェの探索はそれこそ完璧で、行っていない場所はどこにもない。それがすべて行き止まりでは、出口がないということになる。どこかにひび割れがあったということもない。まずいことになった。
「戻りなさい・・・」
「・・・・ん?」
「・・・・・?」
かすれた女性の声が背後から聞こえた。振り返って見るもそこには誰もいなかった。
「?」
「この耳は飾りかしら?まともな頭があるのなら言うとおりにしなさい」
首をかしげるオーマの耳が引っ張られた。後ろに背負っている女性によって。そうだった。人を背負っていたんだった。
「気が付いたのか」
「いいから・・・わたくしの言うとおりに動きなさい」
「・・・・。戻ればいいんだな?」
「・・・・・」
背中の女性は頷くこともせず目を閉じて項垂れてしまった。
「アーシェ、行くぞ」
「・・・・・。」(こくん)
その後、彼女の指示に従って道を進む。
戻ってきて最初の分岐。
「左へ」
左に曲がる。
次の分岐に至る。
「引き返しなさい」
「は?」
オーマが足を止める。
「引き返せと言っているのがわからないのかしら?」
だめだこいつ、暑さで頭がやられてる。引き返したところで同じ場所に行くだけだ。
「・・・・・。」
オーマはそう思うも、アーシェが指示通りに引き返していく。
オーマも仕方なくそれに続く。
もとの分岐だ。
「左」
「・・・・・。」
「・・・・」
何も言わずに今度は戻って来た道を左に曲がる。
次の分岐。
「右」
指示通り右に曲がる。
「真っすぐ」
直進する。十字路が連続する。
「右」
右に曲がる。
「右」
右に曲がる。
「右」
「・・・・・」
右に曲がり、一度通り過ぎた分岐に戻ってくる。
「引き返しなさい」
「・・・・・・」
「左」
また一度通った分岐。
「左」
なにか通った軌跡に意味でもあるのかと思ったが何の規則性も無い。一度通った道を上塗りしているだけだ。本当に指示に従っていいのかと疑問が浮かぶ。そもそもアーシェは何故従っているのだろうか。
「そのまま真っ直ぐ進みなさい」
進みながら回復魔法を唱える。MPを消費してHPが回復する。
こうしている間にも限界は近づいている。背中の女性が俺たちを騙そうとしていないとどうして言えるだろうか。
次の分岐についた。道は左右に分かれている。
「真っすぐ進みなさい」
「・・・・・は?」
正面に道は無い。
「いい加減にしろよ?こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ!お前のおふざけに付き合ってる暇は―――」
「・・・・・。」
いよいよ反論を始めたオーマの目の前でアーシェが指示通りまっすぐ進み、壁の中へと消えていった。
「は?」
そこには壁があったはずだ。なのに、そこにはそれまで認識できていなかった通路が姿を現していた。
「生きたいのなら従いなさい。死にたいのなら止めはしないわ」
背中で嘲笑う様に女性が告げる。
「だー!もー!従えばいいんだろ!従えば!」
それから一分後、名も知らぬ女性の道案内によって、火の海を脱することに成功した。その女性が、オーマの首に手を回しながら常に薄く笑っているのが気味の悪い事この上なかったが。
「ったく、どうなってんだ、この場所」
炎立ち上る迷宮を脱し、ようやく人心地ついたオーマが愚痴をこぼす。今通って来た道はアーシェが天井を崩して埋めてしまった。炎が迫ってくることはないだろう。
そのアーシェは、女性を背中から降ろして肩で息をするオーマの背中をさすっている。
女性の方はオーマの後ろで壁にもたれ、足を横に流して座っていた。
「この遺跡はある魔女がねぐらに使っていたのよ。そこら中に術式が隠されているから、安易に入り込めば死ぬことになるわ。それこそ魔女に取って食われるかもしれないわね」
そう言って彼女はふふふと笑う。
「そう言うあんたはその術式とやらに通じていたようだが、魔女でも名乗るつもりか?」
「いいえ、わたくしは、ただ魔女の名を借りている盗賊といったところね。あの力も所詮借り物に過ぎなかったのだし」
そう言って彼女は自らの右目を押さえる。そこには、あるはずの眼球は無く落ちくぼんでいる。それはオーマが彼女を見つけたときに確認している。
目に関する借り物の力。思い当たるものがあった。
目を合わせるだけでその意識を交換するふざけた能力。
「ぐ・・・・っ!?」
そこに思い至った時、オーマに脳天が割れたかと思うほどの衝撃が襲い掛かる。目の奥で火花が弾ける。一瞬にして頭を駆け巡ったシグナルが頭を真っ白にリセットする。強烈な痛みの後におとずれたのは無であった。
「・・・・・?」
アーシェが心配そうにのぞき込む。すぐに意識を取り戻したオーマは、首を振る。そして覗き込んでくるその頭を撫でつつ、ある頼みごとをする。
「少し、二人で話したい。アーシェは少し向こうを見て来てくれるか?」
そう向こうを視線で示してアーシェに席を外すように言う。未探索のそこには敵がいるかもしれないがアーシェなら大丈夫だろう。
「・・・・・。」(こくん)
迷うことも無くアーシェは頷いてオーマに言われた方に小走りで駆けていく。それを見送ったオーマが口を開く。
「セラ」
「何かしら?」
オーマがセラと呼ぶと彼女は否定せず言葉を返す。
「お前は何がしたかったんだ?いや、何がしたいんだ?」
セラと呼ばれて返事をした彼女に背を向けたままオーマは尋ねる。目を合わせるようなことはしない。彼女を背負ってから一度たりともオーマは彼女と目を合わせていない。
「それはどういう質問かしら。聞いたところでわたくしに協力でもしてくれるの?」
「いや。俺は知らないことがあると落ち着かない性格なんだ。ましてやこれから運命を決める相手の心情くらい知っておくべきだと思うからな」
「そう。勇者でもないあなたが随分とさえずるわね。あなたごときがわたくしの未来を決められるとでも?」
「決められないとでも思っているのか?」
静かにオーマが聞き返す。そこには不思議と躊躇や迷いは感じられず、何かを覚悟しているようであった。それを遠くで聞いたアーシェが一瞬動きを止めるが、すぐにまた動き始めたため誰もそれには気づかなかった。
「・・・そうね。もうわたくしにあの力は無い。ただの無力な女よ、あなたに殺されたせいでね」
殺した覚えがない。アーシェのしたことだろうな。濡れ衣もいいところだ。もっともこれからすることを思えばどうでもいいことではある。
「御託はいい。さっさとお前が行動に至ったわけを話せ」
「理由。理由ね。なんだったかしら。そう、・・・そうよ。あの日、仲間が死んだの」
遠い過去を思い出すように、セラが声を虚ろにして話す。回想が始まるようだ。
「今でも信じられない。わたくしたちが敗北したあの日、勇者を待つまでもなく魔王軍を退けてやると気炎を上げての出征だったわ。順調だったはずなの。進軍していた魔族をみんなで協力して追い返し、さあこれから反撃だって、笑っていた。なのに・・・」
セラはいったん区切る。俺の反応を確かめているわけではなく、ただ、過去の出来事を噛みしめるように。
「その日が終わる前に、わたくしたちの前に突然一匹の龍が現れたの。赤い眼がわたくしたちを見下ろしていた。誰も反応できないでいるうちに、地面を撫でるように吐かれた炎が次々と仲間を炭に変えていったわ。生き残ったのはわたくしを含めた炎耐性を持っていた数人だけ。それでさえ半死半生の体、全滅寸前よ。なのにそれだけで、追撃は無かった。それはそうよね。生き残ったわたくしたちがどう足掻いたところで、あれには勝てないもの」
訥々と話すその声は震え、絶望にまみれていた。無力にも仲間を失った苦痛が伝わってくる。だからこそ、オーマも遮ることなく聞くことに徹した。
「龍が去った後、生き残りを集めたガウェインに連れられて、命からがら帰ってきて、でも、もう何もする気が起きなかった。その後のことはほとんど覚えてないの。でも、ふと我に返ったら急に死にたくなって、森に行ったら、魔女に会ったのよ」
魔女?この遺跡をねぐらにするという魔女のことだろうか。
「その魔女がわたくしにメをくれた。目を合わせれば体が入れ替わるそんな力。その力を手にして、そうしたらとっても良い事を思いついたの。ガウェインが弱かったから、皆死んでしまった。ガウェインじゃだめだった。だったらわたくしが皆をまとめればいいって、そう思ったのよ」
ようやく本題に入れるらしい。黙っていたオーマは口を開く。
「入れ替わる力なら敵と直接入れ替わって、敵を内部から崩した方がいいだろう」
「馬鹿ね。それは無理よ」
「何故?」
「だってあの眼を見たら、皆が死ぬもの。もう二度とあの赤い眼の前に立ってはいけないの」
「・・・・・」
オーマは二の句を継げなかった。驚きというよりも呆れが強かった。強迫観念。セラは一度の戦闘でそれを植え付けられてしまっていた。仲間が死んだ理由を、ガウェインが弱かったからと人の所為にしておきながら、一方で自分が龍の眼を見たせいだ、と思い込んでいる。
だからセラの眼は、敵ではなく味方に向くことになった。
「わたくしが皆を無理矢理まとめてしまえば全ての不満はわたくしに向く。魔王への恨みも、ガウェインへの不満も全部。ね、いい考えでしょう?」
その結果がこのあほな考えだったわけだ。必要悪による独裁。遠くの魔王より近くの悪人。より身近な共通の敵に対して一丸となれるように。それが望み通りに進んで、その先にあるのは。
「死にたかったのか」
「・・・・・ええ。あとはただ、わたくしが勇者に目を付けられるのを待つだけだった。勇者に殺されたかった。誰かの役に立って、死にたかった。なのに、何故あなたがわたくしを殺すの?何故あなたがここへ来るの?アルフレッドは?わたくしがしたことは全部無駄になったの?」
それまで自分に意識を向けて語っていたセラが、その矛先をオーマに向ける。
オーマの背後でセラは立ち上がり、よろよろと覚束ない足取りでオーマに近づく。オーマは背を向けて片膝をついた体勢のまま、動こうとはしない。
「アルフレッドは来ないだろうな。それが出来るほど豪胆には見えなかった。それに人を殺すやつとも思えない」
「知らないわよ!じゃあどうすればいいのよ!死にたいの!もういやなの!仲間がみんな死んだ!ガウェインに裏切られた!もうこの世界で生きる意味がないの!」
唐突にヒステリックになった。女心怖い。
「あと二つ、確認させてくれ。まず一つ、うちの仲間、金髪女子を狙った理由はなんだ」
「ガウェインに言われたからよ!あの女の体で暴れた方が早く勇者の目に付くって!それに・・・!」
「それに?」
「凄く、綺麗だったから」
「なかなか良い目をしている」
「でしょ!?とてもきれいな赤い眼をしていたわ!」
「赤い目?」
「ええ、最後にあの瞳だけは」
「?」
「繰りぬいておこうと思って!」
オーマは理解する。
「はぇ?」
セラの眼前を剣閃が通り過ぎた。尻餅をつき焦点定まらないセラの瞳が、なんとか目の前のオーマに向かった所で、剣を抜いて立ち上がっていたオーマが目を閉じたまま口を開く。
「ふざけたことを抜かすなよ」
それがきっかけだった。オーマの頭の回路が決定的に切り替わったのは。
―クエスト発生―
セラを●せ!
目の前の相手が、殺していい相手なのだと頭が理解したのは。頭に激痛が走った時からずっとちらついていたクエストに、抵抗しなくていいと理解したのは。
「確か、勇者に殺されたいんだったよな?良かったな。お前の目の前にいるのは正真正銘勇者だ」
「・・・・?・・・・?」
未だ事態を呑み込めないといった様子のセラの正面で、オーマはこれみよがしに聖剣を振り上げる。
「殺してやるよ」
「ああ・・・」
それを見てようやくセラは得心がいったと息を漏らす。ただただ疲れた様子で、けれど大きな安堵を込めてセラは目を閉じた。
「あなたって意外と優しいのね。マイケル」
オーマはそんな彼女に向かって振り上げた聖剣を躊躇いなく振り下ろした。
側面を駆け抜けるアーシェの足音を耳に入れながら。




