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第三十六話 激震

「金の山だな」


「・・・・・。」


 でかくて金ぴかのコウモリだが、倒してみるとものすごい量の金貨を落として逝った。身体全てが金貨でできていたのかという莫大な量、50万G。実際には数え切れないながら金貨袋でかき集めたところ、今の所持金:約50万G。金貨袋もまた異次元袋であった。


 拾いきれなかった金貨が地面に散らばっているが、拾うのが面倒だ。どうせ金に困ることはもうないだろう。


 そんなことを考えていると、地面に落ちていた金貨が浮き上がり吸い込まれるように金貨袋に入っていく。


「はあっ??」


 あまりにもあんまりな不思議現象にオーマは開いた口がふさがらなかった。金貨が物理法則に逆らったことにではなく、金貨が自動で収集されたという事実に対して。今までの苦労は何だったのか。


 今まで地面に這いつくばって、あくせくさもしい思いをしてまで集めていたのは何だったというのか!


「こんなことが許されていいのか?こんな、地面に落ちた金貨が勝手に懐に入るような世界が、本当に俺たちの望んだ世界なのか!?」


 やるせない思いが激情となってオーマの拳を握らせる。


「・・・・・。」


 そんなオーマを、何も感じさせない無垢で無情な瞳が見つめる。じーっと見つめる。何も言わずにただただ見つめる。


「・・・・・・・・」


 まあ便利だしいいか。


 ついでに『コウモリの翼』を一つだけ手に入れた。経験値は1手に入った。




 戦いの後、聖剣はもとの剣の姿に戻り無事鞘に納まった。


 他にも不思議と光源が保たれて、戦闘中は灯りに困ることは無かったりと、この辺やはり都合の良い様にできているらしい。


 そして、『おっちゃんLv98』


 HP満タンにしてみるとHP999という異常な成長っぷりだった。問題なのはどうしてそんな急にレベルが上がっているのか、だが。


「お前だろ。白状しろ」


「・・・・・。」(こくん)


 私だ。白状した。とアーシェが堂々と言ってのける。やはりアーシェによってここまで成長させられてしまったらしい。礼を言えばいいのか、文句を言えばいいのか。


「まあ、そこら辺は気にするだけ無駄か」


 とりあえず『魔法剣士』に転職する。一度経験したことのある職業への転職は無料。金はあるが金がかからない越したことはない。


 服装が一瞬にして黒いTシャツに変わる。ようやくおっちゃん臭さから解放された。


「・・・・・!」


 そんな俺を見て、なんてことをするんだ!とアーシェがショックを受ける。『魔法剣士Lv1』(HP48)になんの文句があるというのか。


 もしやアーシェはおっちゃん好きなのだろうか。生憎俺はおっちゃんと言うよりはお父さんだ。期待には添えない。



 現状確認。洞窟の奥深く、入り組んだ地形、一人で歩けば遭難間違いなし。


 戦闘の後始末が一段落し、これからの行動を考える。アーシェに連れてこられて来た場所だが、アーシェはもう何らかの誘導をしようとはしない。


「まさかとは思うが今の魔物を倒させるためにこんな所に連れて来たのか?」


 金欠の俺たちに気を使ってくれたのだろうか。言うほど金に困っているわけでは無いのだが。


「・・・・・。」(ふるふる)


 よせやい。照れるじゃねえかとアーシェが照れた様子もなく否定する。


 ・・・・違うな。翻訳をミスった。今のは、「違いますぜ、旦那」的な感じだ。


 しかしここで出来ることがあるということだろうか。人っ子一人いない洞窟で何をどうしろと言うのか。


「何をどうすればいいんだ?」


「・・・・・。」


 しばし待つが良い。さすれば道は開かれる。と意味深なことを言ってのけるアーシェ。さっきはあんなに急いでいた割には今度はのんびりしている。目的地はここで間違いないようだ。


 しかし、待てと言われて待つ馬鹿は世にいないという。先に進むことにしよう。道はまだ続いている。


「・・・・・。」


「・・・・・・・・・」


 一人先へ進もうとする俺を見ても、アーシェは何も言わない。止めはしないらしい。




 五秒後。



 行き止まりだった。





 仕方なくアーシェのところに戻って来たオーマは、腰をその場に落ち着ける。どうせこの後また大変な思いをさせられるのだ。今は体を休めておいた方が良い、そう考えることにした。


 そんなオーマの隣にアーシェがちょこちょこと近寄って来て同じく座り込む。腕が触れあう程度にくっついて。





 アーシェは生きていた。それは良かった。ヒメやガウェインが俺に対して何か企てをしていたとの考えは杞憂だったし、アーシェもまた俺の過去に関わる人物なのだと知れた。


 純粋に彼女は戦力になるし、感情論で言わせてもらえばアーシェを信用するのは難しくない。味方に引き入れて問題ないとさえ思う。アーシェは味方だと、感情がそう言っている。


 しかし、理性的に論ずれば、まず信用できない。何もしゃべらない相手の何をどう信用しろというのか。信じる信じない以前に信じるものがない。アンノウンの塊みたいなやつだ。得体のしれない相手を傍に置くことの危険性など理性がなくても判断できる。


 だが、それら含めてヒメとどっこいどっこいなのだ。そんなことを気にするぐらいならそもそもヒメと行動を共にしていない。記憶喪失の中、信用できないのは誰もが同じ。なら毒を食らわば皿まで。


「というわけで、仲間になるか?」


「・・・・・。」(こくん)


―――アーシェが仲間になった!


 恒例のファンファーレがあたりに木霊する。アーシェもアーシェで一切ためらいなく仲間になってるし。こういう話の早い所がこいつの長所であり短所なのだと思う。


「アルフレッドはどうすんだよ。探してたぞ。泣きそうになりながら」


「・・・・・。」


 アーシェは無言だった。今までもずっと無言だったのだが、今回に限って、それはずっと、不明瞭で、曖昧で、伝わりにくいものだった。


 わからない。


 アーシェからそんな感情を微かに受け取った時、それは起こった。




 ドゴォォーーーーーーーーーーーーーーーン!!




「・・・・・!」


「なんだっ!?」


 突然地面と壁が大きく揺れる。一度きりの衝撃の伝播。これが噂に聞く地震というものだろうか。


 地震。


 いわく、大自然の猛威。


 地震。


 いわく、うなぎ大暴れ。


 地震。


 いわく、神の怒り。


 要するに。


「・・・・・・・・・やばい」


 やばい。死ぬ。洞窟の中で地震とかまじで死ぬ。この揺れだ。もうじき天井が崩れ落ちるだろう。そうなっては生き残ることなど出来るはずがない。どうやら俺はここまでのようだ。ありがとうみんな。ありがとうこの世界。そして、さようなら。


「・・・?」


「・・・・・。」


 しかしそれきり洞窟が揺れることは無かった。天井が崩れるということも無く。


「地震じゃ、なかった・・・?」


「・・・・・。」(こくん)


 右手を上空につきだし、いつ来るかもわからない崩落に備えて物理障壁の準備をしているオーマは安堵の吐息を漏らす。


 ビックリさせやがって。どうやら俺はまだ生きていられるようだ。ありがとうみんな。ありがとうこの世界。そして、ただいま。


 ズオオオオオーーーーン!!


 オーマが一息ついたところで再び、腹に響くような重い振動が襲いかかる。


 くっ、やはりここまでのようだな。ありがとうみんな。ありがとうこの世界。そしてグッドバイ。


「・・・・・。」


「・・・」


 そしてまた何事もなく振動は止む。けれど。



 ズオン!!


 ドゴン!!


 グゴゴゴゴォォ!!



 繰り返し繰り返し、やたら強い衝撃が襲ってくる。


「もうなんなんだよこれ!?」


「・・・・・。」


 くいくい。


 どんな前兆も見逃すまいと天井を見上げるオーマの服の裾を、アーシェが引っ張る。


「なんだ」


「・・・・・。」


 わずかにオーマの意識がアーシェに向いたのを確認すると、アーシェは立ち上がりオーマのそばを離れて通路の中央に立つ。


「おいっ、今離れたら危ないだろ!」


 物理障壁で庇えなくなる。それを危惧したオーマが走り寄ったところで、ぴしっとアーシェが地面を指さす。


「地面・・・?」


 言われて下を向いてみると土で覆われた地面がひび割れていた。それが表面的なものなのか、地面の深部まで及んでいるかはわからないが、下手に刺激すれば崩れてしまうかもしれない。恐らくはこの幾度とない衝撃が原因だろう。


 それが・・・・、今オーマたちの立つ地面一杯に広がっていた。


「・・・・・。」


 それをオーマが確認した後、アーシェが槍を地面に突き刺す動作をする。だが実際には突き刺さない。俺にそうするようにと勧めているようだ。


「槍を、亀裂の入った地面に突き刺す・・・」


「・・・・・。」(こくこく)


「・・・・・穴が開く」


「・・・・・。」(こくん)


「・・・・・」


「・・・・・。」


「まあ、わかった」


 開いた穴の深さが気になるが、まさかこの地面の下にやたら広い空洞があって、穴に落ちたら死ぬなんてことはないだろう。せいぜい・・・。せいぜい・・・・。だめだ嫌な予感がする。絶対ろくでもないことが起こる。


「穴は開けない。オーケー?」


「・・・・・。」(ふるふる)


 えい。とアーシェは地面に槍を突き立てた。ぴしっ、ぴしっと、嫌な音が広がっていく。


 そして崩れ去るアーシェの足元。目の前で落ちていくアーシェ。手を伸ばそうとした自分にも訪れる浮遊感。


「知ってたけどな」


 薄く笑ったオーマはアーシェを追いかけるようにして、崩れ落ちる地面と共に落下していった。今だ振動を続ける洞窟の地下深くへと。




 落下の終わりは意外にもすぐだった。何か柔らかいものに受け止められ怪我なく着地に成功する。


 そんなことよりアーシェはどうなったと首を巡らせれば、すぐ後ろにアーシェがいた。同じく無事なようだ。


 アーシェが落ちた直後に追いかけて来たオーマを機嫌よさそうに眺めるアーシェ。


「勘違いしているみたいだが好きで追いかけたんじゃなく、嫌々巻き込まれただけだぞ」


「・・・・・。」


 左様か、とアーシェ。反論しないからこちらも更なる否定を繰り出すことができない。なんとなく負けた気分だ。


 アーシェから目を逸らすように、オーマは自分の着地を受け止めた何かに目を向ける。


「なに、これ?」


「・・・・・。」


 初めにふさふさがあった。ふさふさはもこもこと共にあった。ふさふさはもこもこであった。


 ふさふさの中に命があった。


「・・・生き物?」


「・・・・・。」


 知らない。そう無表情で語るアーシェの背後で壁が上下に揺れる。そしてゆっくりと横に流れ始める。段々速度を上げていくそれはオーマに風を感じさせた。


 ここまで来てようやく理解に至る。今オーマの足元にいるのは、黒くて、ふさふさで、もこもこな、謎の生物。そしてそれはオーマ達を乗せて走り出していた。


「どこへ行くんだ?」


「・・・・・。」


 アーシェは知っているものと決めつけて尋ねるオーマに、少しばかり悩んだアーシェはやはり無言でこう伝える。


 行けばわかるさ。と。


 洞窟はまだ、揺れ続けていた。








 黒い生き物が走る。目の前に群がる魔物をものともせず弾き飛ばしながら駆けるこの乗り物をラッシーと名付けよう。


 乗っていると何もすることがない程度に優秀な乗り物を得て、オーマは同時に考える時間を得る。


 これからどうすればいいのか。


 事態が急変を続けるからこそ改めて考える必要がある。気にするべきはアーリアのあの言葉だろう。


『救ってください。あなたが勇者であるというのなら。失われようとする命、その全てを』


 どうも俺は勇者として活躍することを魔族連中に望まれているらしい。明らかにおかしい望みを持つアーリアの狙いは一体なんなのか。


 『失われようとする命』とは何を指すのか。


 誰を、いつまで、どれ程。


 救えと言うのか。


 とりあえず目下は、セラの事件で死にそうになる奴を救えという指示になる。


 だが、クエストではない。アーリアはくえすとと言ったが、いつものクエスト発生の表示はない。つまり反抗することが出来る。


 救わないことが出来る。


 その意味がどうもオーマには引っかかった。


 気になるのはアーリアの接触だ。家族であるがゆえの気安さ。オーレリアに見られたそれはアーリアにおいては更に顕著であり勇者である俺に対して気を許しているようだった。


 にも関わらず敵対関係を続けているのは俺以上に魔王を慕っているからか、あるいは・・・今のこの状況でこそ為し得ることがあるからか。


 後者だとして、アーリアが告げた勇者への要求は、魔族にとって、目的を達成させるための何らかの条件。安易には頷けない。


 しかしその内容は、死に瀕している人族を救えという、勇者に対して至極自然なもの。むしろ反抗することこそ魔族が喜びそうなことである。


 普通、相手国に攻め入る戦で侵略国が勝利すれば、敗残国の領地と民は先勝国のものとなる。後の自らの財産。必要以上に民が減るのを防ごうとするのは当然かもしれない。しかし魔族が同様の考えをもっているだろうか。まあ、捕虜とした人間を労働力程度には考えているのかもしれない。


 だが、わざわざ一人を救うために、四天王が出向いて勇者に頼むだろうか。


 どう考えても裏がある。


 アーリアの接触は、俺にそう気づかせるためのものだ。なんらかのメッセージであることはまず間違いない。だからこそ悩む。このクエストを、達成するべきかどうか。





 ふと、そんなことを考えている自分を、外から見ている自分に気付く。その自分はこう問いかける。見殺しにするのか、と。


 よく考えたらそれは、危険な状況に陥っている人を、見捨てるかどうかの迷いであった。人の命の行方を決める。それはある意味殺すことよりも残忍な行為ではないか。それを勇者が考えるのは。


「違うよな」


「・・・・・?」


 脈絡のない問い掛けに、アーシェが首をかしげる。


「助けるかどうかより、助けたあと、どう自分に有利に持っていくかを考えるのが勇者だよな」


 晴れやかな表情でアーシェに同意を求めるオーマ。魔族の狙いはわからないが、少なくとも、死にそうな人を助けるかで迷う様な勇者ではだめなのだ。


「・・・・・。」


 しばしの沈黙の後、アーシェは首を振って訂正する。「考える前に助けるのが勇者」と。


 そんな意見は聞かなかったことにした。




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