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第三十四話 やったか

――オーマの攻撃!


――しかしかわされてしまった!


「ちっ、またか」


「・・・・・。」


 何度剣を振っても赤い軌跡を残して嘲笑うように躱していく黒いコウモリ共。攻撃が当たらないことにも苛立つが、群れによる攻撃も鬱陶しく、避けきるのはほぼ不可能。攻撃の点が小さく防ぐのにも難儀する。『おっちゃん』ゆえの耐久力の高さで回復さえ忘れなければ負けることは無いだろうが、苦戦は必至。こういうちょこまかした相手に慣れていないことを自覚させられる。その上。


「お前は何を傍観してるんだよ」


「・・・・・?」


 その一方でのんびりとことこと周辺を歩いているアーシェ。何故か攻撃しない。たまに槍を頭上でくるくる回した後、先端を前に突き出し、決めポーズを取る。まるで買いたての槍を振り回す初心者の様だ。


――アーシェは力をためている。


 さっきから少しずつ赤いオーラを発し始めたアーシェであるが、何もしないのでは事態は好転しない。


 オーマは敵へと向き直る。コウモリへの対策として思い浮かぶのは二つ。


 心の眼でも開いて攻撃を命中させるか。魔法で一網打尽を狙うか。


 心の眼を開眼させる心当たりはないから、実質一つだ。広範囲魔法辺りが妥当だろう。しかし、洞窟の中で下手に魔法を使えば、放散することなく自分に返ってきてしまう。ので火力は控えめに。


「『ブリザード』」


 取り敢えずその辺りが妥当だろうと中級魔法を唱えてみる。オーマの周囲を渦巻き始めた猛吹雪がコウモリの接近を許さない。と思いきや。


――ヒキコウモリの群れの攻撃


――オーマに13のダメージ


――オーマに27の追加ダメージ


「いたい、冷たい、いたい」


 コウモリ共がブリザードに構わず突っ込んできた。見ればコウモリに噛みつかれた左腕が小規模ではあるが凍っている。


 加えてコウモリ達の体が漆黒から青へと変化を遂げている。どうも氷属性に変わったらしい。氷属性の魔法を使った直後の変化に、嫌な予感がした。


「『炎撃』」


――ヒキコウモリの群れは炎属性を吸収した!


――ヒキコウモリは炎属性を得た!


――ヒキコウモリの群れの攻撃


――オーマに12のダメージ


――オーマに22の追加ダメージ


――オーマに17の燃焼ダメージ


「いたい、熱い・・・・あづっ!」


 噛みつかれた後、発火する傷口。一瞬で燃え上がった炎は、傷を塞ぐ以上に破壊を進める。


 これを受けて再びコウモリを確認すれば、コウモリの色が青から赤に変わっていた。やはり魔法によるダメージを無効化した上で、その属性を自分の攻撃に変えているようだ。剣による攻撃は容易く回避し魔法は無効化。かなり厄介だ。


 だがこちらも勇者。手筋は豊富。ならいろいろ試すまでだ。


「我が手に集え、魔の黒炎」


 手に持つ剣が赤い炎を迸らせる。これだけならまだ炎属性の攻撃だ。しかしその燃え盛る剣身を左手でなぞれば。炎は黒き揺らめきを示す。


 『炎撃』を聖剣に纏わせた魔の一撃。炎なのか聖なのか魔なのかよくわからないこの攻撃なら。


「『黒炎斬』!!」


 横薙ぎ一閃、振るわれたその軌道だがまたもあっさりとコウモリに避けられる。直撃はさせられない。だが空振った黒の剣は漆黒の炎を撒き散らす。それは後退するコウモリの群れに易々と追いすがり、飲み込んだ。黒い炎がコウモリを焼く。

 

――ヒキコウモリの群れに471のダメージ!


――ヒキコウモリの群れは闇属性を吸収した!


――ヒキコウモリの群れは闇属性を得た!


――ヒキコウモリの群れは慌てている!


 ダメージを与えることに成功する。おそらく無効化するのは魔法限定なのだろう。魔法剣技となるとダメージは受ける。その上で属性は吸収する。魔法と魔法剣技、なにが違うのかはわからないがそういうものだとして、その結果を受け入れる。


 そうするとむしろ属性を変えられることを利用すべきだ。属性を吸収するたびに色が変わることから考えて属性自体は直前の一つのみを残すものと考えられる。


「『炎撃』」


 再び炎の球を形成、射出する。


――ヒキコウモリの群れは炎属性を吸収した!


――ヒキコウモリは炎属性を得た!


――ヒキコウモリの群れの攻撃


――オーマに12のダメージ


――オーマに25の追加ダメージ


――オーマに14の燃焼ダメージ


 ダメージは甘んじて耐える。そろそろHPがまずいかもしれない。視界の端のステータスを確認する。


 オーマ    アーシェ

HP734  HP800

MP865  MP450

Lv 98  Lv 78


 余裕だ。余裕過ぎる。なんかおかしい。だが後回しだ。



 狙い通り炎属性となったコウモリ群。


 そして炎に対しては氷属性が弱点となる。


「我が手に集え魔の氷槍」


 イメージは『アイスランス』を聖剣に纏わせた姿・・・。あれ? 剣に槍を纏わせるという、意味が分からんことになった。どうしたらいいんだろう。


「・・・・・。」(つんつん)


 頭に疑問符を浮かべていると背中からアーシェがつついてくる。


「なんだ?」


 振り返って見ると視界が溢れ出る何かによって真っ赤に染まる。アーシェから真っ赤なオーラが迸っていた。


「おま、なんでそんな赤々しいんだ?ピンチなのか?」


「・・・・・」(ふるふる)


 なに、どうということはない、と首を振りながらアーシェがオーマの手から聖剣を取り上げる。


「どうするつもりだ?」


「・・・・・。」


 まあ見ていると良い。とアーシェが左手に聖剣を掲げる。するとどうしたことだろう。聖剣はアーシェの手の内で姿を変える。柄が長くなり刀身は収縮する。やがて刃が左右に分かれ十字状の先端となる。


「こ、これはまさか・・・伝説の十文字槍!?」


「・・・・・?」


 伝説?と首をかしげるアーシェがその十文字槍を返却する。受け取ったオーマもやはり首をかしげる。


「ていうか、何で槍に変わったんだ?聖剣どうなった。どういう仕組みだ」


「・・・・・。」(ふるふる)


 知らない。らしい。その割にどこか得意げ。


 とにかく何をすればいいかは分かる。これに氷の力を纏わせれば良いわけだ。再チャレンジしよう。


「我が手に集え魔の氷槍」


 イメージするのは手に持った槍に氷の力を染み込ませる様。そこからはいつもと同じだ。体が勝手にやってくれる。


 氷塊が宙に浮かぶ。オーマの手はそれを真っ二つにするように槍を横に払う。砕け散る氷塊、同時に槍が冷気を纏うのを感じられた。だが、黒くはない。ただ透き通る無色透明の輝きがその刃の冷たさを証明してくれる。


 そして準備が整えば後は使うだけだ。


「『氷月花』!」


 そして敵へとその氷の槍を放つ。両手で槍の柄を掴み、慣れないはずの槍を突き刺すという動作をぶれなく行う。引き戻すことを考えず一心に放たれた突きは、その線状を一瞬にして氷結させた。


 そしてコウモリを数体巻き込みながら氷は砕け散る。氷の破片が花びらのように舞い散る中、体の一部を失ったコウモリ達が地に落ちていった。


――ヒキコウモリの群れに999のダメージ!!


――ヒキコウモリの群れの様子がおかしい。


 今度は属性吸収は起こらなかった。つまりは。


「やったか」


「・・・・・。」


 倒したと判断して槍を収めようとして、鞘に戻せないことに気付く。鞘に入らない武器に途方にくれるオーマに対し、アーシェは槍を持ったまま様子がおかしいヒキコウモリの群れへと視線を向けている。真っ赤なオーラを発しながら。


 その目の前で異変が起こる。


――ヒキコウモリの群れが集まりだした。


 コウモリが一ヶ所に集まり始めた。互いに重なりあうように隙間を埋めるようにくっついていく。そしてある機を境に突如として膨れ上がる。


――集いしコウモリが新たに戦う敵となる、光差さぬ道となれシンパシー合体!!


「は?」


――ブラックダストコウモリが現れた。


 やたらでかくて黒光りする巨大コウモリになった。分厚い羽を羽ばたかせ空に浮かんでいく。


「ん?」


 その時オーマの背後から赤き閃光が駆け抜ける。


――ブラックダストコウモリに999のダメージ!


 一突。空中でアーシェの持つ槍が巨大なコウモリに突き刺さる。しかしそれだけでは終わらなかった。


 999

 999

 999

 999

 999

 999

 999

 999

 999

 999


 槍を引き抜いてからの猛攻撃。オーマの頭の中を表記の追いつかぬダメージ群が埋め尽くす。アーシェの槍の乱舞。それと共に舞い散る赤と黒のしぶき。神経の細い者なら食欲減退しそうな光景を、オーマは冷めた目で眺める。


「・・・・・お前もか」


 乱舞の後、アーシェは着地すると、コウモリに背を向けてとことことこちらへ歩いてくる。その背後で黒でかコウモリが四散する。後に残ったのは合体する前のコウモリの群れの死骸であった。一悶着あれど結末は同じ。


「やったか」


「・・・・・。」


 オーマの言葉にアーシェの物言いたげな目が向けられた。


「何だその目は」


 その時どこからともなくコウモリの鳴き声が聞こえてくる。


 キーキー


 コウモリの死骸が地面を埋め尽くしている中、生き残りだろうか、一つの鳴き声が響く。


 キーキー


 寂しげに響くその鳴き声がやがて重なって聞こえる。


 キーキー

  キーキー


 二つに。


 キーキー

  キーキー

 キーキー

  キーキー


 四つに。


 キーキー

  キーキー

 キーキー

  キーキー

 キーキー

  キーキー

 キーキー

  キーキー


 八つに。


 キーキー キーキー

  キーキー キーキー

 キーキー キーキー

  キーキー キーキー

 キーキー キーキー

  キーキー キーキー

 キーキー キーキー

  キーキー キーキー




 死んだコウモリが生き返っているわけでは無い。死骸はそのままそこに存在している。しかし数を増やす鳴き声が、その数の増加を何よりもはっきりと知らしめる。


 集まっているのだ。この洞窟中の全てのコウモリが、その一匹の鳴き声を頼りにたったひと所、この場所へ。


 あたりをコウモリが埋め尽くし、黒い靄を形成するように飛び交っていたかと思うと死骸が横たわる地帯に更に過密に集まり始める。多分また合体する気だろう。今のうちに攻撃するのが得策か。


 そう考えて槍を構えたオーマ。その手をアーシェが押さえる。


「今度は何だ」


「・・・・・。」(ふるふる)


 攻撃しちゃ駄目と首を振るアーシェ。


「合体を待つのか?」


「・・・・・。」(こくん)


 アーシェは頷く。それが礼儀。らしい。


 確かに一度大きくなってもらった方が相手はしやすいかもしれない。だが。


「そんな礼儀は知らん!」


 アーシェの手を振り払ってオーマは槍に魔力を込める。合体を待つ礼儀などオーマには無かった。けれどその些細なやりとりがもたらした猶予で十分だったらしい。


――集いし夜のコウモリが、新たな合体の扉を開く!光差さぬ道となれ!アクセルシンパシー!


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリが現れた!


 でかい。その上金ぴか。趣味が悪い。更には胴体部分が大きくなりすぎて飛べない御様子。


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリは催眠音波を発した!


 オーマが相手を評している間に、人には気づくことのできない音による攻撃がコウモリから発せられる。知らされるまで気づくことは出来なかった。たとえ気づけたとしても防げたかどうかは怪しい。


――オーマは眠ってしまった


――アーシェは眠ってしまった


 少なくとも今、どうすることも出来ず二人は眠らされてしまった。


 洞窟の通路が埋まるほどの体躯を持つ巨大なコウモリは、赤い目を光らせて、体を前に傾け二つの鉤爪で勢いよく地面を蹴る。もはや飛ぶことの出来ないその体は、地上を駆けることを選択したようだ。


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリの体当たり!


 その巨体がオーマとアーシェをまとめて吹き飛ばす。巨大なエネルギーの衝突に立ったまま眠る二人は対処することが出来なかった。


――オーマに233のダメージ


――アーシェに396のダメージ


 二人は地面を転がる。睡眠中におとずれた衝撃に二人はすぐ飛び上がるように起き上がった。けれど衝撃による苦痛に呻く。


「う、ご、ぐふ」


「・・・・・。」


 けれどその痛みが気付けとして十分に目を覚まさせた。


「とにかく、回復だな・・・・『エリア・ヒール』!」


――オーマは全快した!


――アーシェは全快した!


「・・・・・。」


 かなりのダメージであるはずなのに、それを一瞬の間にあっさり全快させるオーマ。その恩恵を存分に享受したアーシェは既に反撃を選択していた。


 地を蹴ったアーシェは槍を振りかざし巨大なコウモリの腹へと叩きつけようとする。


――アーシェの攻撃!


――ミス!ダメージは与えられなかった!


 しかしアーシェの攻撃は金色の腹に弾かれる。攻撃は通らなかった。


「・・・・・?」


 突きが跳ね返された反動をいなし危なげなく着地したアーシェではあるが、やはりどこか納得のいかないところがあるらしく憮然とした印象を受ける。


「物理も通らないか。硬そうだな」


「・・・・・。」(こくん)


「どうしたもんか」


 そう考えている間に敵も動く。


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリは催眠音波を発した!


――オーマは眠ってしまった


――アーシェは眠ってしまった


 ZZZ

  ZZZ


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリの体当たり!


――オーマに260のダメージ


――アーシェに332のダメージ


――オーマは目を覚ました!


――アーシェは目を覚ました!


「くそっ」


 眠りに強制的に落とされ、即座に痛みと共に起こされる。ダメージはともかく精神的に不快極まりないコンボにオーマは苛つきながら回復魔法を唱える。


――オーマは全快した!


――アーシェは全快した!


 一方でアーシェは何とも思っていないようだ。再び反撃を行う。とはいえ同じ攻撃は行わず、構えた槍にばちばちと雷を奔らせる。そして一瞬その行方を見失うほどの突撃を行う。しかし。


――ミス!ダメージは与えられなかった!


 再びアーシェの攻撃がコウモリの金色の腹に弾かれる。


「・・・・・。」


 その反動は凄まじいものだったらしく何度かステップして勢いを殺すことを強いられる。かつ、今度も通らなかった槍技にアーシェは黙り込む。ショックでも受けているのだろうか。だがそんなことを気にしている場合ではない。また再び眠らされてしまう。その対策をしないと・・・。


ZZZZ


 そう考えているうちに自覚もなく眠らされ意識を失ってしまう。


 そしてジャイアント・スター・ヒキコウモリは眠っている二人を相手に攻撃をする。しかしこちらも今度は体当たりではない。知能のない魔物といえど二度攻撃したにも関わらずけろりとされてしまうと、別の方法を取ろうとするのである。


 地面に巨大コウモリを中心とした魔法陣が生まれる。眠っている二人をよそにジャイアント・スター・ヒキコウモリは一匹詠唱を続ける。安全に長い詠唱を終え、ジャイアント・スター・ヒキコウモリは魔法を発動する。


 魔法陣から闇が溢れだす。零れ出した闇はオーマとアーシェ、二人の姿を呑み込んでしまう。しかしそれでは足りぬと闇から生え出た四本の腕が二人の消えていった闇ごと握りつぶそうと手を伸ばし、ぐちゃ、と押し潰す。


――オーマに3のダメージ。オーマは眠り続けている


――アーシェに409のダメージ。アーシェは眠り続けている


 魔物が使うにしては高位の闇魔法。ダメージを与えるとともに眠りに誘うこの魔法は、ダメージを与えた上で二人を眠らせ続ける。


 連発できれば眠り耐性の無い相手なら封殺出来るのだが、魔物にとっては残念なことに一度使うとMPを大半使い切るという限定されたものであった。


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリの体当たり!


――オーマに254のダメージ


――アーシェに361のダメージ


――オーマは目を覚ました!


――アーシェは目を覚ました!


 結果、二人を倒しきれずにターンを渡すこととなった。


「『エリアヒール』」


――オーマは全快した!


――アーシェは全快した!


―――キーーーッ


 絶望を与える闇魔法を使い、絶望させられたのは逆に使い手の方であった。


 可能な限りダメージを与えたというのに、次のターンまでに蓄積されることなく全快させられる側の気持ちは如何ほどであろうか。


「しかし、どうしたもんか」


 今度は反撃せず突っ立ったままのアーシェに、こちらも攻め手に欠けていることに気付かされる。魔法も試して見たいところではあるが金ぴかコウモリの攻勢は激しく、回復以外の行動がとれない。


 ピコーン


 その時なにやら間抜けな音がアーシェの方から聞こえてくる。聞き覚えのある音は、確か『剣気解放』が使えるようになったという合図のはず。


「・・・・・。」


 くいくい。


 そのアーシェが近寄ってきて『おっちゃんのランニングシャツ』の裾を引っ張る。


「何か考えがあるのか」


「・・・・・。」(こくり)


 しかし、一人で出来ることなら言う前にやってしまいそうなアーシェ。ということは俺にもしてほしいことがあると言うことだ。


「・・・・・。」


 今こそ俺たちの絆の力を見せるときなんだぜ。とか言ってる気がしないでもない。だが、どうしろという具体的な指示は無い。やはり体に任せるままということになるのだろうか。


 そんな相談時間が敵に行動を許してしまう。


――ジャイアント・スター・ヒキコウモリの催眠音波!


 けれど、今回ばかりはオーマたちの反応が違った。


「『剣気解放』!!」


「・・・・・!!」


 二人が剣気を解放した。二人とも装備しているのは槍なのだが、槍気解放とならないのは気にしてはいけないところだ。案外アーシェはそっちを使っているのかもしれないがどちらにしろ無言では分からない。


 ともかく二人が行ったスキルが今この場でどのような効果があるかと言えば、全ての状態異常を無効化するというものである。もともとダメージのない催眠音波なら完全に無効にできるのだ。


「今度はこっちの番だな」


「・・・・・。」(こくん)


――キーーーッ


 ジャイアント・スター・ヒキコウモリは不満そうに金切り声を上げる。


 HP満タンで攻撃する機会を迎えたオーマ達が次にすることは相手の防御を貫く攻撃を繰り出すことである。そして、その為の状況づくりは既に完了していた。


 十分に絆が深まった二人が互いに剣気解放状態であること。


「・・・・・。」


「俺たちまだそんなに仲良くないと思うんだ」


「・・・・・。」(ふるふる)


 そんなことないよ、と首を振ったアーシェは槍に再び雷を迸らせる。そして肩の上に掲げて、ジャイアント・スター・ヒキコウモリに向けて投げてしまう。しかしジャイアント・スター・ヒキコウモリの腹にぶつかったところでやはり貫くには至らず、弾かれて地に落ちる。


 けれど、それでもよかったようだ。周囲が暗転した。


 気付けばアーシェとオーマ、そして敵だけが存在を示す一切の暗闇の中にいた。協力奥義の発動である。


「いくぞ、アーシェ」


「・・・・・。」(こくん)


 頷いたアーシェが手を掲げると、上空に一本の槍が現れる。黄金の光を発し、煌々とその存在を示す槍が、一つ、二つ、三つと増えていきジャイアント・スター・ヒキコウモリを取り囲む。いくつかの槍の現れた位置は本来洞窟の壁が存在しているはずだが、そんなものないとばかりに槍ははっきりとその存在を示している。


 オーマの番。やはりいつものように体が勝手に合わせる。分身の魔法を唱え分身オーマの姿がアーシェが作り出した槍の傍に、一人、二人、三人と現れていく。


 何人ものオーマがそれぞれに槍を持つ。もともと持っていた聖十文字槍と合わせて両手に槍。非常にバランスの悪い分身オーマたちは自身で魔力を発しアーシェの作り出した雷槍と、聖剣が姿を変えた聖槍とを、一つの神槍へと変える。


「これで終わりだ」


 隣り合わせに準備を済ませたオーマたちは、最後に片手を宙に突き出し自らの魔力を分身に送り込む。


「数多の雷槍、降り注げ」


「・・・・・。」


「・・・俺だけ恥ずかしいだろ、なんか言えよ」


「・・・・・?」


 どこか決まらないやり取りを挟みつつ、オーマとアーシェが同時に掲げた手を振り下ろす。


「『アマツミカヅチ』!!!」

「・・・・・!!!」


 それを合図に、オーマの分身が凄まじい溜めと共に空を蹴る。その速度は雷のごとく、自身の体さえ一つの槍として無数の分身は一気呵成にただ一つの敵を貫かんと宙を駆ける。


 天駆ける一筋の雷は魔物の硬き黄金の鎧を容易く穿ち、その身を内から焼き焦がす。しかしそれだけでは終わらない。無数に続く神槍が同様の運命を一つの個体にもたらし続けるのだ。だからもう、最後の槍が敵を貫くのを見るまでもなかった。


 黒く染まっていた背景が色と形を取り戻す。洞窟の中、オーマとアーシェは佇んでいた。


 勝利の余韻にオーマは何とはなしに、アーシェの方を向く。


「・・・!・・・!」


 隣でアーシェが片手を挙げてぴょんぴょんしていた。何かして欲しそうに見える。


「・・・・・たく」


 オーマは自らの手をアーシェの手を叩き合わせた。






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