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人間は狼にとって狼である

「危うく精神を持っていかれるところでした・・・。分身でさえあの威力、流石です」


 不覚にもしばし我を失っていたアーリアが目を覚まし、行動を再開する。次はオーマ関連とは別のもう一つの目的。目的地はオーマの収容されていた牢のすぐ隣、シーファの牢である。


 ちなみに最初の目的は、とある少女いわく『お兄ちゃん分の補給』。


 しばらく『お兄ちゃん分』とやらが欠乏していたため、アーリアの禁断症状が出ていたらしい。アーリア自身に自覚はないのだか、他の皆も揃って頷いていたからそういうものらしい。


「さて」


 隣の牢屋。即到着。


「オーマー、アーリアー。どこいったーん?うちをおいていかんといてー、暗いよー、怖いよー、寂しいよー、うふふ、ふふふふふふふ」


 五分ほど完全無視を食らっていたらしいシーファがどこかおかしくなっていた。牢屋の中で鬱屈している。


「何をいじけてるんですか。鬱陶しい」


 アーリアがさらっと毒を吐く。それを聞いたシーファは悲しむでもなく逆に表情を輝かせてこちらの方を向く。毒がこたえないらしい。無意識にアーリアは一歩退いた。


 アーリアは人族が嫌いだ。


 もともと、アーリアは人間嫌いの弟と違い、人族に対して偏った見方は持っていなかった。そもそも人間と関わることが無かったこともあって、人族に対する認識を形成する機会がなかったのである。


 また、敵とはいえそれだけで全てを拒絶するほど蒙昧では無かった。尊敬する人物の教えと本人の知識量がそうさせたのだが、ともあれ、敵である事実を除けば人間を無差別に嫌悪することはなかった。


 ただそれも、その尊敬する人物が蔑まれることさえなければの話である。アーリアにとって大切な人を傷つけようとするのなら、それはもはや嫌いを通り越して悪である。


 人間は悪であった。


 そんな中、彼女は出会う。


 ヒメと。


 多くは語らない。結果だけを言えば、アーリアは人間を更に警戒するようになった。特に、気安く無神経に無遠慮に近づいてくる人間を。


 シーファなどその良い例であった。


 アーリアの声を聞いて嬉しそうな顔をしたシーファは今度は拗ねたように唇を尖らせる。


「一人虚空に話し続けたうちの気持ちわかる!?返事ないし、もう帰ったかと思ったやんか!寂しかったやんか!」


「そのまま永遠に壁と会話してればいいです。誰も止めませんよ」


「お願いやからここから出して!」


 アーリアの警戒心は接し方に表れた。アーリアは人間に対して、毒舌で接するようになっていたのだ。


 とはいえそれが誰かに不快感を与えたかと言うとそうでもなく、特にヒメなどはこの変化を喜んでいて、「必死に壁を作ってて可愛い」などと言われた日には総毛だっておぞましさを感じたほどである。


 アーリアは心の機に聡い。だからこそ、ヒメのそれが本気であることがわかった。本心からの好意だった。そんな好意の押し売りにアーリアはそれはもう、うんざりした。


 けれど。


 敵であることは互いに同じだった。ヒメにとっては仇でさえあった。なのにヒメはアーリアのことを、そして、アーリアの尊敬する人物のことを、愛した。


 ほんの一歩間違えば殺しあっていたその中で、それでも確かにそれはあったのだ。


 アーリアは人族が嫌いだ。


 けれど。




「そもそも自力で出られるでしょう。私の手を煩わせないで下さい」


「あ、ばれてた?」


 シーファは牢の中で立ち上がり、鉄格子の隅に設けられた格子戸、その錠部分に手をかざし、一言『解除』と発声する。


 するとかちゃりと音がして錠が外れた。盗賊の専売スキルである罠や鍵を解除する能力らしい。それをギルド本部が知らないはずがないだろうにこの牢屋に入れたという不手際。あの鉄の手枷も魔法を封じるものではあっても特技を封じることは無いらしい。予めシーファは手枷を外していた。


「その方法で勇者を脱走させるつもりだったのですか」


「あー、まー、そーなると思ってたんやけど、無視されたわ。あっはっは。泣けてくる・・・」


「本当にこの町は、いえ、人という種族は狂っていますね」


「え、何、うちの所為で人間が狂人扱いされてる?」


「ええ。本当に、狂っています」


 それがアーリアの現時点での観察結果である。アーリアの考察はオーマに話した分では終わらなかった。もっとも一言付け加えるだけだ。


 『全てが、勇者を育てるために動いている』と。


 治安の悪化が勇者を鍛え。


 セラという悪者の存在が勇者を活躍させる。


 攻め込んでくる魔族たちを勇者が討ち果たせば。


 この町を救った英雄の誕生だ。



 どんな逆境も、死ぬことのない勇者にとっては踏み台なのだ。そんな逆境を町は望まれたかのように作り出す。


 この町での出来事に、アーリアは一つの仮定を生み出す。セラは本当に悪人なのかと。人と容易に入れ替われる力を得て、することが穴だらけの軍隊編成? 有り得ない。人間として有り得ない。


 しかしそれが操られての愚行だとしたら。


 結末が定められた、愚かな独裁だとしたら。予想されるのは不本意に集められた冒険者たちが一丸となってセラを裁く未来。穴だらけの軍は、明確な敵を得て強固な革命軍となる。その中心に立っているのはきっと勇者なのだろう。ばらばらの冒険者を束ねるための人柱としての役割をセラが押し付けられたのだとしたら。


 勇者の呪いが、勇者を育てるために敵を作ったというのなら。


 既にセラは追い詰められている。後は勇者がセラを殺すだけだ。作り上げられた悪者を、勇者が倒す。


 本当に狂っている。


 問題はその狂いが、もともとのものなのか、勇者という存在に誘発させられた狂いなのか。


 そんな異常な舞台に最も敬愛する人物を送り出すことが、アーリアにとってどれだけ苦痛だったか。


 だから確認した。心を読んだ。けれど、オーマ様の心は変わらない。


 それが、ヒメという人物のためなら、多少つかえるところはあるもののアーリアは飲み込める。しかしそれが狂わされて無理矢理定められた心なら、勇者の呪いに縛られているのなら、何としてでも変えなければならない。それが結果として魔王様を死なせないことに繋がる。



 もう絶対に。オーマ様もヒメさんも、勇者なんかに滅茶苦茶にされてたまるものか。




 その上で、それらすべてが仮定に過ぎないから、アーリアはもう一つ確認作業を入れる。


「では、シーファさん。契約通りお願いします」


「いやいやいや、まだガウェイン無事って分からへんやん」


「無事に決まってます。オーマ様が動いてるんですよ?何を言ってるんですか?」


「あんたこそ何言ってんの!?それ勇者の功績やし!」


 契約。簡単にその内容を言えば、シーファの心配するガウェインやフィブリルの安全を魔族が保証する。その代わりにシーファにもこちらの要求を飲んでもらうというものだ。オーマはスパイを疑ったが別にスパイというわけでは無い。取引だ。隠しはしたが。


「じゃあ、行きましょうか。黒幕に会いに」


「ちょ、待って、ストップ!尻尾丸見え!」


 言われて後ろを見てみれば尻尾が服からはみ出ている。丸見えだ。これで人間の前に出れば速攻で魔族だとばれるだろう。


「・・・・・危うく全面戦争に突入する所でした。ありがとうございます」


「そこまで!?」


 アーリアはごそごそと自分の尻尾をいじっていたかと思うと、背中に沿わせる形でパーカーの内に覆い隠す。多少もっこりするが誤魔化せる範囲内だ。


 オーマ様と話すといつも尻尾が外に出るのは何でだろう。イーガルはそんなことないのに。


 そんなことを考えながら尻尾は上着の内に入れ、耳はフードで隠す。尻尾はホットパンツと下着、共に穴が開けてありそこから通している。これがアーリアの人間風変装スタイルである。人間にばれたことはない。見せたことが無いから。


「それで、さっき不穏な言葉が聞こえたんやけど、黒幕って何?」


「この町でのいろいろな出来事、人為的なものとして、全て同一人物が行ったとすれば、それができるのは一人しかいないんですよ」


「それが黒幕?」


「ええ。ギルド本部長、その人です」


 セラを唆すこと。セラを放置すること。勇者を脱獄させること。魔族が襲ってくるよう隙を見せること。そして治安を悪くすることさえ。


 その人なら為し得る。


「それは無いとおもうけどなあ」


「会えばわかります」





 地下牢からの階段を上って、天井につけられた扉をシーファが解錠する。


 そして扉を開き、抜け出たのはギルド本部の受付、その内側であった。


「「「・・・・・」」」


 三つの視線が同時にこちらに向けられる。女性三人。うち一人はアーリアよりも小柄な女の子。地下牢から出てきた二人に、視線は当然ながら警戒するものである。


 その疑心の目をそよ風がごとく受け流し、アーリアは微笑む。


「お話があって参りました。ギルド本部長さんを出していただけますか?」


 そうアーリアは用件を告げた。


「「「用件はカウンター越しにお願いします」」」


 異口同音。


「・・・・?」


「「「用件はカウンター越しにお願いします」」」


「えっと?」


「規則ですので」


 にこやかにどうでもいいことを主張する受付ガールズに、アーリアも調子を崩される。


「その規則要りますか?」


「要ります」


「そうですか」


「アーリア。そういうもんやから」


 戸惑うアーリアをシーファが受付から連れ出し、カウンターを回って改めて対峙する。


「ご用件をお伺いします」


「・・・・その、高いんですが」


 アーリアが面した中央のカウンターはアーリアの頭より高い位置にあり、向こう側に誰がいるのか見えない。対峙している相手もこちらのことが見えていないだろう。


「ご用件をどうぞ」


 カウンターの向こうからくぐもった声が聞こえてくる。どうやら相手は橙の髪の女の子らしく向こうもカウンターに背が届いていない。


「高いんですが」


「もーしゃーないなーアーリアは」


 シーファがにやけながらアーリアのことをカウンターに届くように抱っこする。


 カウンターの向こうでも、つり目で気性の荒そうな女性が女の子のことを抱っこしていた。互いに抱っこされながら向かい合う幼児二人。


 絵面が酷い。早く済ませないとお互いにただではすまない。そう感じさせる危機的状況。見れば目の前の女の子も同様のものを感じているらしく目が合うや否や互いに頷きあった。


 探りあいをしている場合じゃない。早く済ませよう。



「そういや、うちって何すればええの?抱っこするために呼ばれたん?」


「ギルド本部長さんはどちらですか」


「留守にされています」


 素早く答えたのはきりっとした表情の、落ち着いた空気を纏う女性。だが、彼女は嘘をついている。アーリアの目は彼女を無視して幼女に向かっていた。橙の髪が特徴的な子供。その表情は気弱で大人しそうに見えるが、目の奥に鋭さが見える。


「クエストの依頼をしたいのです」


 彼女に向かって用件を告げる。


「魔族の方はクエスト発注は出来ませんが」


「依頼するのは私ではなく後ろの人なので問題ないです」


 あっさりと見破られた魔族という正体。けれどアーリアもまたそれを予想してシーファを連れてきている。


「ああ、そういうこと」


 シーファが自分の役割に頷く。


「わかりました。依頼内容をお伺いします」


 警戒が見てとれた。それも当然だろう。魔族がわざわざ人族の機関を用いて何かしようというのだから。それでもまともに対応するのは職務に忠実だからか。


「依頼内容は『魔王の救出』。勇者に狙われている魔王様を何としてでも救ってください。期限は手遅れになるまで、難易度は最大を設定してください」


「報酬は何を用意できますか?」


「一億G、並びに魔王城に眠るレアアイテム数十点。敢えてアイテム名は言いません」


「大討伐クエスト級・・・」


「冒険者心をくすぐるなぁ」


「なるほど、ですが内容が内容です。受けてくれるギルドはまず無いと思いますが」


「ですから依頼するギルドを指名させてもらおうと思います」


「ギルドを限定したところで確実に受注されるとは限りませんが」


「構いません」


「わかりました。ではどちらのギルドを指名なさいますか?」


「『白の剣』」


「・・・・・・・」


 それまで滞りなく進んでいた確認作業がそこで初めて一時停止する。『白の剣』の実在を調べているわけでは無い。彼女が知らないはずがないのだから。


「そのギルドは活動が絶えて久しく、実働が危ぶまれますが」


 ギルドは余程の悪事を働かなければ消滅することは無い。たとえ何の活動を行わずとも。ただ、一つ存続の条件としてギルドリーダーが存在していることが必要である。


 『白の剣』とは、かつてギルドという枠組みそのものを作った勇者が結成した史上初、最古のギルドである。その名は勇者の愛剣に由来したらしい。そんなギルドが今も存在している。それがどういう意味を持つか。普通なら代替わりを繰り返しての存続と考えるだろう。


「ですが今もギルドリーダーは存在しているのですよね。なら、伝言をお願いします」


「お聞きします」


「『妾の肉を食ろうた借りを返してもらうのじゃ。痛かったのじゃ』と」


「・・・ぶっ。・・・・・す、すみません。繰り返します。『妾の肉を食ろうた借りを返してもらうのじゃ。痛かったのじゃ』と、『白の剣』のギルドリーダーに伝えればいいのですね」


「はい」


「承りました」


 どこか辛そうに視線を彷徨わせる女の子に、アーリアはやはり推測が正しかったことを悟る。彼女が現『白の剣』のギルドリーダーであると。さらに言えば彼女こそ全ギルドを統括するギルド本部のその長である。


「報酬の授与は成功が確認できてから行います、それで構いませんね」


「はい、後はこちらの紙面の各項目に記載をお願いします」


 そう言って彼女は抱っこされたまま下降しカウンターの下から紙を取るとゆっくりと上がってくる。何をしているんだろう、自分も含めて頭が痛くなってくる。


 そうして渡された紙は、主に依頼人の立場を証明をするためのもののようだ。ほとんど未記入で構わないという意味の分からないものだが、とりあえずシーファに書かせれば良い。


「あ、あの」


「はい?」


 紙に目を通すため視線を落としたアーリアに、女の子は話しかけてくる。


「・・・いえ、なんでもありません」


「そうですか。では、シーファさん、後はお願いします」


「え、もうええの?」


 アーリアはシーファの手からするりと抜け出すと、軽く着地しそのまま外へ向かおうとする。


「依頼者名・・・可憐な白狼、アーリアちゃん☆っと」


「何してんですか」


 ぱしんっ


 聞き逃すことのできないふざけた名前に思わずアーリアは振り返ってシーファの頭頂を急襲する。


「痛い!暴力反対!」


「自分の名前を書いてください!何私の名前を出してるんですか!」


「いや、この方が受けいいと思うねん。皆アイドル好きやし」


「知りませんよ!」


 わざわざ『白の剣』を狙い撃ちしているのに他のギルドの反応など本当にどうでもいい。


 人間というのは、本当に・・・。


 頭を押さえながら今度こそ立ち去ろうとするアーリア。


「待ってください」


 それを引き留めたのは、件の少女であった。


「あなたの名前はなんというのですか」


「名を尋ねるときは自分から名乗る。人間の常識と聞いてますが」


「シイと言います。あなたは?」


「奇遇ですね、私の名前もシイと言います」


「そう、ですか」


 困ったような顔を見せるシイさん。偽名であることに気付いたのだろう。だが、お互い様だ。


「あなたとは」


 まだ言い足りないことがあるようで言い募ろうとするシイだが、アーリアは無視して足を進める。それでも彼女は言葉をつづけた。


「戦いたくないものですね」


 アーリアは心の内で、同感だと頷きつつも応えることはしなかった。




 立ち去るアーリアの背中を、警戒する複数の冒険者の視線が最後まで追いかけていた。








「彼女は一体・・・?」


 アーリアがいなくなったギルド本部で、きりっとした女性。強いて言うなら受付嬢Aが首をかしげる。


「魔王軍の一員であることは間違いないでしょう。一応監視を遣ってください」


 そう答えたのはシイと名乗った少女である。彼女は、同じくシイと名乗り返した闖入者を魔族だと確信していた。


「魔族なのに逃がして良いのぉ?」


 そう尋ねたのは物ぐさな様子を見せる女性、強いて言うなら受付嬢B。


「勇者様のいない今、手を出せば全滅します。見逃されたのはこちらの方ですよ」


「・・・どうして彼女が魔族だと?」


「魔王の世界征服宣言、その少し前ごろからこの町は監視され始めました。おそらく要所と判断して攻める機を窺っていたのでしょう。その、こちらを窺うやり方が先ほどの彼女と同じように感じられました」


「そんな前から狙ってたのにぃ、何で今まで来なかったんだぁ?」


 一人でここの冒険者を圧倒できる存在が、この町を攻めるのに躊躇する理由が分からない、そう言う受付嬢Bに。


「さあ、どうしてでしょうね」


 その理由をシイが考るなら、指揮官は前に出ないもの、の一言に尽きる。不審な動きを見せるミツメの町に何かあるのではという怪しさを見い出し、攻略に乗り出せなかった。


 しかし。彼女が今いたのは前線を通り越して最奥である。彼女がそうするほどに、吹っ切れた理由の方がシイにとっては空恐ろしかった。


 そしてあの伝言の意味。あの言葉で『白の剣』は『魔王の救出』などというわけのわからないクエストに手を出さざるを得なくなった。何故、かつて神や聖獣とまで呼ばれた不死鳥が今になって魔王の味方をしているのか。


 シイ、強いて言うなら受付嬢Cは頭を抱える。


「というか、シーファは何をしているんですか」


 受付嬢Aが現在クエスト依頼書にある事ない事書き込んでいるシーファに尋ねる。


「何って、魔族のお手伝い?」


「頭おかしぃ?」


「おかしないもん」


「何も考えていないんでしょう、馬鹿ですから」


「へいへい、どうせ馬鹿ですよー。じゃ、依頼書、確かに渡したからな」


 親しげに受付嬢ABと話しながら依頼書を書き終えたシーファは、事情を話す間も惜しいとまたアーリアの後を追うようにギルド本部を後にする。


「変なことを考えていないと良いのですが、あの子は少し考え足らずなところがありますから」


「馬鹿は死なないから大丈夫だよぉ」


「そう願いたいものです」


 AとBが話す傍らで未だに頭を抱えているC。


「魔王を救うってどうしろと。そもそも『白の剣』の存在をどこで。もうあのギルドと関わった人はいないはずなのに。うう、胃が痛い」


「お姉ちゃんが苦悩してるぅ」


「初めて見る姿です。日記に書いておきましょう」






「ギルド本部長は白でした」


「パンツの色?」


「・・・・・・」


「ごめん、怒らんといて!凍らせんといて!」


 たった一言の冗談に、周囲に霜が降りはじめてシーファは慌てて謝る。


「今の状況は偶然の産物という信じがたいものであるということです」


 治安の悪化により精神が毒され、セラは愚行に及んだ。


 勇者の破壊活動は勇者だからこそ、脱獄可能という形で許される。


 多少の因果関係はあれど、一から十まで計算づくという可能性は消えた。しかし黒幕などいないという現実が却ってアーリアを辟易させる。勇者の呪いなどというものが、もしこの先も勇者の周りで同様の事件を起こすとして、その度に明確な対処法が用意できないとなると当然混沌は大きくなる。操縦などすぐにしていられなくなるだろう。


 不可能なのだ。誰も死なせないなどということは。勇者が成長するにつれやがて事件の規模は膨れ上がっていく。今は大丈夫でもやがて死人が出るときが来る。それだけはあの二人には覚悟してもらわないと行けない。でないと本当に大切なものさえ守れなくなる。


 勇者システム。不死の勇者と、治安悪化による事件の多発を組み合わせたお手軽世界救済方法。勇者は勝手に強くなり、魔王を倒してくれる。たとえ魔族が完全守勢であっても。


 それがアーリアの頭を悩ませる面倒の核であった。解決方法が一つ頭に浮かんでいることが尚更。


「ここがエーテル牧場や!で、今度はなにすればいいん?」


 シーファが案内を頼んでいた牧場への到着を知らせてくれる。


「売り買いをしてくれればいいんです。私の代わりに」


 魔族では人間相手に売買が出来ないから。


 とにかく今は1Gでも多くのお金を稼がなければならない。


 大牧場時代(冬)をなんとか生き抜かないといけないのだ。




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