第三十話 牢屋入り
夜の町。今、ある一人の男が連行されている。
一体どのような罪を犯したのだろうか。近傍を屈強な戦士が囲み、索敵に長けたレンジャーが周囲を警戒。更には魔術師集団が後詰めとして控えている。水も漏らさぬ鉄壁の守りで護送されていく様は、もはや要人警護と言って差し支えない。
そんな光景から、ただ一つ察せることがあるとすればそれは、連行される彼の未来が、その表情と同様に暗いものであるということ。
彼が何を求め、何を望んだのか。勇者と呼ばれた彼の夢は、もはや誰も知ることはない。
なんて風に語り継がれるのだろうか、勇者オーマ伝は。嫌だ。それじゃ他の変態勇者どもとなにも変わらないじゃないか。
オーマは現在、前後左右を名も知らぬ人間に囲まれ、粛々とギルド本部へと続く道を歩かされていた。
かつてこれほどまでの危機に陥ったことがあっただろうか。いや、・・・・あったかもしれない。とにかくなんとか切り抜ける糸口を見つけないといけない。
隙を見て逃げ出そうと決めたオーマは、一先ず会話に興じて相手の注意を逸らそうとする。
その相手は隣に立つ、橙という変わった髪色をした子供である。白いカッターシャツに黒いチョッキ、黒いズボンという落ち着いた服装はサイズこそ違えどギルド本部の受付にいた女性二人と同じものである。制服ということならギルド本部の従業員なのかもしれない。
「結局さっきの騒ぎはなんだったんだ?みんな揃って目を押さえていたが・・・。目がぁー選手権か何かか?」
目を押さえて天を仰ぐ様は、目を失ったままに追いかけてくるかの絵画を彷彿とさせた。それが集団ともなると、さながら宗教の一幕である。話のきっかけとして申し分ない変事であった。
「すみません。その選手権初耳なのですが知らないとまずいでしょうか」
「ああ。かなりまずい。何がまずいって、かなりまずい」
いきなり話題が明後日の方向に飛んでしまった。この後どう話を繋げればいいのか。自分で持ち出しておきながらもそんな話題で真剣に議論するつもりがオーマにあるわけもなく、歯牙にもかけず適当に流すことにする。
「そ、それはかなりまずいですね。お手間をお掛けしますが教えていただけると有難いです」
へりくだりながら存在する筈もない選手権に思いを馳せる名も知らぬ子供。本気なのか冗談なのか、申し訳なさそうにお願いしてくる。
「一年に一度、大地の神ムスカミ様に祈りを捧げる大切な行事だ。これを欠かすとムスカミ様の怒りを買いその地一帯がおおいなる神の兵によって火の海に沈む」
しかしオーマの意識は遥か彼方、この窮地をいかに脱するかに割かれていた。口から出るのは、出るに任せた出任せである。
元ネタはリーナの屋敷で読んだ『時空の城ポトフ』とかいう、空から降ってきた親方が四十秒で落下していく物語。四十秒という異様に長いスパンで落下していく親方との視線のやり取り。人と人との繋がりに焦点を当てた、目玉焼き無しには語れない名作だった。
「はへー」
適当なことを並べ立てるオーマと、それを感心した様子で聞き入る子供。周囲はほんわかとした空気に包まれた。
「しかし、そんなムスカミ様に対抗する魔法の言葉がある。そう、バ―――。いや、そんなことはどうでもいいんだ。ふざけてないで質問に答えろ」
「はう。そうでした。ごめんなさい」
思考を終え、今までの流れをぶったぎる魔法の言葉をオーマは告げてしまう。子供が少し涙目になり、周囲であーあという空気が流れる。知ったこっちゃない。さっさとあの場で何があったかの情報がほしい。逃げる算段はついた。大雑把に言うとヒメ待ちだ。
その視線は改めて隣の子供に向かう。涙目になって頭を下げているやはり見ず知らずの子供。そもそも誰なんだこいつは。
「相変わらずうちの姉さんは癒しです」
「世界を狙えるうちのおねえちゃん、ちょーかわいぃ」
(姉・・・だと?)
姉。まさかの姉。左右両脇から聞こえた驚愕のコメントに動揺を禁じ得ない。言ったのは先ほどから同行している受付嬢二人。どう見ても子供にしか見えないこのちびっこが、ヒメより年上っぽいこの受付二人の・・・姉。
「人は見かけによらないな・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい。よくわからないけどごめんなさい」
生命の神秘を感じた。ともあれ性別は女であるらしい。見た目的にはヒメの言うところのロリ。この国何かにつけて幼女とばかり出会うが大丈夫だろうか。女の子との出会いの多さによくわからない危機感が沸き上がる。今回は幸いにして子供ではないらしいがどちらにしろヒメは喜びそうだ。
「で、説明するのか、しないのか」
「します。しますからどうか許してください」
「許すかどうかは聞いてから決める。さっさと話せ」
「ひぅ」
何故か怯えられているらしく、頭を庇う子供、ではなくちびっこ。
「ひそひそ」
「ひそひそ?」
涙目のちびっこ相手に高圧的な態度を取る俺、という図式にひそひそ声が聞こえてくる。そこから漏れ聞こえる内容を聞いてみると。
「婚期を逃して早数年、ついに姉さんに出会いが」
「でも被疑者だよぉ?またダメ男っぽいよぉ?」
(・・・・・・)
どうやら複雑な事情があるらしい。触らぬ神にたたりなし。
「あ、あのですね!」
そんな内緒話は本人にも聞こえていたのか、声を張るようにしてちびっこは話を続けようとする。
「最近ギルド界隈で妙な動きをする人がいてですね。それがあまりにも行き過ぎていたので、ぶっ潰そうということになって」
(・・・・・・)
たどたどしく説明するちびっこの口から、簡潔に、何か恐ろしいことを聞いてしまった気がする。
「姉さん、素が出てます」
「姉ちゃんぶちぎれしてたもんなぁ。うちのシマに手え出そうたあええ度胸や!って」
「それまじで?」
「まじまじぃ」
思わず聞いてしまったのはそれがあまりにもちびっこに似合わなかったため。随分と男前な啖呵だ。本当に、人は見かけによらない。
「まじじゃないです。言ってないです。そもそもその二人妹じゃないです」
涙目を通り越して表情暗く消沈し始めたちびっこ。
「まあ、どうでもいいが」
「よくないです」
別にそこらへんの人間関係や人柄などに欠片も興味は無いのだ。いや、それなりに食いつきはしたけど。
「そのおたくらのシマで好き放題してた奴ってのは、セラか?」
大事なのはここからだった。変にちょっかいをかけられるチビ姉(?)ではあるが、それでもオーマはちびっこに尋ね続ける。この場で一番まともに会話してくれそうな相手だと信じてのことだ。それにこのちびっこからはリーダーの風格を感じた。何か事情を知っているとしたらこいつだろう。オーマの勘がそう告げていた。
「あ、はい。そうです。体を入れ替えるという特殊技能を用いてギルド移籍を強要したりしてギルドを荒らしてたので。残念ながら入れ替わった状態をもとに戻すことに協力していただけそうになかったので、対処しました」
「対処?」
期待通りちびっこは事情を説明してくれる。ギルド本部の方でもセラの動きは目についていたようだ。そんなセラ相手に彼らは彼らで動いていたらしい。同じ目的を掲げたガウェインとのつながりも気になるが、その前に対処という言葉の響きが妙に引っかかった。
「はい。少々予定が狂ったのですが、どうにか皆、あなたも含めて元の姿に戻ることが出来たようです」
「対処って何だ?何をした」
「目的自体は解呪でした。魔法に秀でたものを集め全ギルド総動員で入れ替わりを解除する予定・・・でした」
後ろの方でわいわいやっている冒険者の一団。その中にはガウェインと共にいた者らもいた。優秀な魔法使いにはとても見えないが、解呪とやらにおいて一役買う予定だったらしい。しかし。
「予定ってことは、何か想定外が起こったのか?」
知りたいことにたどり着きそうな段になって、ようやくオーマは核に触れる。あの場で一体何が起こったのか。
「先程の、あなたに食ってかかってしまった女性が言ったように、犠牲者が出ました。セラが最後に乗り移っていた女性、アーシェさんが死にました」
余りにもあっさりと告げられた事実に、初めは気にも留めなかった。けれどよくよく意味を咀嚼していけば、それはあまりに重く、重たい、鉛のごとき結末。
不意打ちだった。
「・・・・死んだ?」
「はい」
そこで思い出すのは先ほどのアルフレッドの狼狽ぶり。アーシェが死んだとすれば納得がいく。だが魔力の反応は確かに今もある。その場所は・・・・教会。反応があるのに、死んでいるとはどういうことだろう。
「っ・・・」
だがそれ以上に。
オーマの歯が軋みをあげる。アーシェが死んだという報告が、予想以上に胸を締め付けていた。何故だろうとは思わない。理由はわかっている。
昨日今日すれ違っただけの相手が死のうが心が痛むはずがない。だからこの痛みは、アーシェが他人ではない。その可能性を示すものだ。
「死んだ原因は?」
オーマはここから逃げ出すという目的を脇にやる。優先順位が切り替わった。
「誰かは分かりませんが、あなたの体に入っていた方が、アーシェさんの体もろともセラを殺しました。予定とは違いましたが術者が死んだことで入れ替わりが解除されたようです」
個の暴走による犠牲。それを引き起こしたのが俺の体。だがら先程の俺への糾弾か。しかしアーシェの体にセラが入っていたとするなら、俺の体を使っていたのは消去法でアーシェのはずだ。だとすると俺の体がアーシェの体を殺すというのは、自分で自分の体を殺す自殺行為ではないか。意味がわからない。
俺の知らないところでまた別の入れ替わりが起こっていたなら話は別だが。
問題は、本当に犠牲者が出たのかどうか。現実逃避なのかもしれないが、どこかでアーシェが死んだという事実を否定する自分がいる。けれど根拠は、無い。
「ガウェインはどこだ」
情報の途切れた今、オーマが次に尋ねたのは、もう一人の重要人物について。何故なら彼が、全て任せろと言ってのけたから。
全てを任せてしまったから。
「ガウェインはここにはいません」
「なんだと?」
オーマの声に苛立ちが込められる。
「すみませんごめんなさい申し訳ないです」
「あいつの、ガウェインの指示でセラを捕らえることにしたんじゃないのか」
「指示というより頼みですね。依頼を承諾した形です。彼に指示される謂れはありませんし、彼が今何処にいるかは私は知りません」
指示と依頼の差など些末事だ。どのみち、この大所帯はガウェインの差し金だ。けれど、ガウェインはここにはおらず、結果としてアーシェが死んだという。
「え?」
ガウェインの主導を許した結果、アーシェが死んだ。
ある事実に気がつき、疑念が頭をよぎる。疑いは連鎖し、次々に今までの出来事を一つの線にして行く。
何故今、ここにヒメが来ないのか。
「着きました。ギルド本部です。入ってください」
言われて、もう自分が地獄の穴の前に立たされていたことに気付く。まだ何の策も起こしていない。だが、反抗する気は起きなかった。
誘導され、力無くギルド本部の中へと足を進める。最初訪れたときとは違い、ほぼ無人の屋内で、もうひとつ違うのは俺が一人であること。
「迷えずの森に残っていた魔力痕跡とあなたのものが一致しました」
「・・・」
魔力の照合のため、何か作業が行われていたらしいがそれに意識を向ける余裕もなく。
「拘束させてもらいますね。ごめんなさい」
その言葉も、もはや耳に入らない。
別のことを考えていた。
アーシェが死んだという結末が、これだけの時間が過ぎたにも関わらずヒメが助けに来ないという不自然が、オーマの思考を刺激する。
町の中からアーシェの魔力反応が、儚く消える。そして、ヒメが何処にいるのか、いや、もう誰が何処にいるのか全く分からなくなる。
「魔力および魔力感知は制限させてもらいます」
視線を落とすと手枷がはめられていた。
けれどそれすらオーマの思考をとどめることはできず、オーマの頭はただひたすらに、「何故」を繰り返す。
ヒメに裏切られたという結論を避けるために。
牢屋に入れられた。立っていることも難しく投げやりに腰を落とす。
「なんや、しけた顔の新入りやな」
アーシェとああああ。ああああの記憶、ヒメの記憶。過去のつながり。
「なあ、人のこと牢屋にいれたその日に捕まんのってどんな気持ち?なあ、今どんな気持ち?」
アーシェもまた、過去において俺と何らかのつながりがあったのではないか。アーシェは俺にとって、大切な存在だったのではないか。
それが、死んだ。ヒメが俺に隠していた結末がこれか?
「・・・もしかして割りと本気で落ち込んでる感じ?なんか、ごめんな」
アーシェを見捨てさせるためのヒメ達の謀略。それを俺は信じてしまった。みすみすアーシェを死なせてしまった、と。そう言う事、なのか?
「でも捕まるぐらいよくあることやん。むしろ勇者にはお約束やし気にすることないで。むしろ大事なのはこれからや。これからどう脱獄するかや」
取り返しのつかない犠牲を前に迷いが生まれる。自分の選択が正しかったのかと。ヒメを信じると決めたその選択は本当に正しかったのかと。アーシェは死んだ。
ヒメは笑っていた。
「そろそろ何か言ってくれへん?一人で喋ってんの寂しいねん。喋ってないのも悲しいねん」
「いや」
違う。迷うな。一度信じると決めたら最後まで貫け。あのヒメがこんな結末を望むわけがないだろう。そもそも、アーシェが死んだとはまだ決まっていない。アーシェが俺と関わりがあったとも限らない。
「ひどい」
まだ何も失ってなんかいない。アーシェはきっと、生きている。その痕跡はあった。死んだように見せかけただけだ。ヒメが来ないのは、今まさにアーシェを助けようとしているからではないか。
オーマは目まぐるしい思考の終わりに、再び信じるということを決める。それがどのような結末に至っても。
俺はヒメを信頼している。
腹が決まると別の疑惑が上がってくる。
ヒメは監禁させてほしいと言った。今俺は禁固に処されている。
「・・・・・・」
まさかな。このまま放置なんてことは流石にないだろう。
ないない。
―十年後―
なんてことにはならないはずだ。
「ええもん。うちなんかどうせ汚い盗賊やもん。勇者に気にかけてもらう資格もない哀れな美少女やもん」
「さっきからうるさいぞ、リンの愛人」
それでもやはり不安は湧くもので。牢屋の外、壁にかけられた燭台が照らす薄闇のなか、隣の独房でさっきから何やらぶつぶつとうるさい隣人に初めて声をかける。
つけられているのは手枷だけ。後は三方を囲む土壁と正面の鉄格子が行動を阻むだけだ。
「愛人て。それまだ続けるん?でもまあ、ようやく話しかけてくれたな。ほな脱獄しよか」
「なんでだ」
「勇者が牢屋入れられたら脱獄するしかないやん。てか脱獄せえへんと本気で一生ここで暮らすことになるで」
「その点はまあ、別のあてがあるし、わざわざお前と脱獄しようとは思わないんだが」
「そこをなんとか!うちもうここ嫌や!」
「また、随分とあっさり下手に出てくれたな。なら、とりあえずお前の正体、白状してもらおうか」
「正体?」
「セ・ラ。・・・別人らしいな」
「・・・・・ああ、それか。そうなるわな。でも正体いわれてもそんな大層なもんやないで?最近首領の座についた盗賊ってだけやし。セラっちゅーのも名前出したくなかったから元首領の名を借りただけで。セラ二世!みたいな」
「それが何で、この町のことで勇者に助けを求める必要がある」
「ああ・・・・・・・ん。ガウェインにはおうたか?」
「お前の前で会ってただろう」
「そうやなくて。ちゃんと話したかってこと」
「ああ。その後死んだ」
「うそお!?」
「嘘だ」
「性質悪うっ」
「死にに行く顔はしてたけどな。助けもいらないらしい」
俺に宿屋から出るなと言った時のガウェインの目。俺に言わせれば、あれは覚悟を決めた目だった。だから信用する気にもなったのだがいったい何が狙いなのやら。
「ほんまにあいつは。アホなんやから」
それを聞いたセラ―――暫定的にそう呼ぶしかない――の声には寂寥がこもっていた。なかなかにしんみりしている。
「お前も大概アホだぞ」
「何でそこで茶々入れるん!?」
「お前にシリアスは似合わない」
「そんな、そんな事言われたら、うち・・・・。どう受け取ってええか分からへん!」
「さっさと本題進めてくれるか?」
「冷たい・・・・。けどなんや、この、胸に去来する懐かしさは」
「・・・すまん。真面目に話を進めてくれ」
「そ、そうやな。えふん。うちの本当の名前はシーファ=ガルード。この町の町長家の次女。フィブリル姉さんの妹でガウェインの義妹や」
シーファ。シーファなあ。
「つまり不良娘か」
「盗賊のイメージ、少しは改善しーひんの?立派な職業やで・・・」
「立派ではないし職業でもないな。屑め。このガルード家の恥さらしが」
「何であんたにそこまで言われなあかんの」
「すまん。盗賊とだけは何があっても相容れそうにない。転職をお勧めする」
「まあ、そこまで言うなら考えんでもないけど・・・って!うちの進路相談してる場合じゃないねんて!」
「ああ。そうだな。で、何でその、シーファは盗賊の首領なんかに・・・いや、もうお前何がしたかったんだ?」
「そんな根本的に聞かなあかん程うちの行動不可解か?」
「不可解というか不快だ」
「泣く。決めた。うちもう泣く」
「はいはい」
「ぐすん・・・・。まあ泣いててもしゃーないから答えるけど、勇者に助けてほしかった。けど助けてくれるなら誰でもよかったんや。だからあの森でつよそーな冒険者探してた」
「助けるってのはフィブリルやガウェインを、セラの魔の手から、か?」
「ちゃう。セラの悪だくみを起点としたこの事件の犠牲者を、助けてほしかった。いや、助けてほしい。あんたに」
「違いが分からん」
「この事件、あんたが動いてくれへんと誰か一人、死ぬ」
誰かが死ぬ。穏やかならぬ断言にオーマも気を抜けなくなる。
「・・・・・・・・なんでそう思った」
「そう言われた」
「誰に」
「魔王に」
魔王。そうか魔王か。
「はああ?」
「な、なんや、急に」
「急に突拍子もないことを言ったのはお前だろ?」
「そうか?」
「何で魔王と接点がある?何で魔王に忠告されてる?何で魔王の言葉を信じる?」
「うちが、盗賊やからや!」
「よし、盗賊滅ぼそう!」
とうとう尻尾を出したか。この極悪盗賊。
「あー、やめて。他の盗賊に迷惑かけんといて。一応親分やねん」
「なんでその話をもっと早くしておかないんだ」
「言おうとしたのにあんた聞こうとしーひんし、早々にここにぶちこんだんやんか!」
「・・・・・まあ、その件はおいておこう。だがその犠牲者。もうアーシェが死んだらしいぞ」
俺は死んでいないと信じているが、一応彼女は死んだことにされている。
「へ?」
「もう犠牲者が一人出てる」
「このへっぽこ勇者!」
「んー。否定できない」
否定したいが何も出来なかったのは事実だ。へっぽこを受け入れるしかない。
「いえ、アーシェさんは死んでいません。だからオーマ様はへっぽこではないです」
「そうか。もっと言ってやれ・・・って」
不意に俺のものでもシーファのものでもない声が、俺への批判を否定してくれる。しかし他に誰もいないはずの地下牢で、オーマはそのことに戸惑う。その正体を探っているとオーマの収容されている牢屋の前に、灯りに照らされ影が伸びてくる。やがてぺたぺたと裸足で歩く足音と共に声の主が姿を現す。小柄な体、細い肢体。顔を覆うフードが怪しさを漂わせる。
けれどその怪しさを自覚していたのか、彼の者はフードに手をかける。フードを取ってひょっこり現れたのは二つの柔らかそうな耳。その顔は少し安堵を含んでいた。
「「アーリア!?」」
オーマとシーファの驚きの声が被る。それを受けて地の底に舞い降りたアーリアは微笑みを浮かべ。
「こんばんは、オーマ様」
オーマにだけ挨拶した。




