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第二十話 白き獅子

「クエスト報告はギルドに入ってからお願いします」


 しばらくテーブルの方で待って緊急調査クエストを受けていくギルドの人達を見送ったのち、受付に座っている女性にセラを引き取ってもらえるか尋ねたところ、どうやらこの盗賊の首領セラはお尋ね者として逮捕クエストに名を連ねていたらしい。ならクエストクリアということでセラを引き渡したいのだが。


「いや、報酬とかはいらないんだ。この犯罪者を引き取ってくれれば」


「規則ですので。ギルドのメンバーでないとクエストは受けられません」


 規則により、ギルドに入っていないものはこのギルド本部でのクエスト受注ができないらしい。そして受注できていなければ完了にも至らない。よってセラの身柄を引き受けないというのだ。


「じゃあ、適当に報酬が欲しい奴に譲るから!」


「手柄の横取りは認められません」


「横取りじゃない。移譲だ!」


「同じです」


「ならこのまま野に放つぞ!」


「規則ですので出来ません」


「どんな規則だ!」


「規則ですので」


 これがお役所仕事というものなのか、規則だからの一点張りだ。カウンターに身を乗り出して睨んで見ても、つんと澄まして受け流される。荒事には慣れっこだと言わんばかりだ。


「オーマ」


「なんだ」


「ギルド作っちゃえばいいんじゃないですか?」


「やたら説明が懇切丁寧かと思えばそう言う事だったのか」


「この際、別に無理して引き渡さんでもええんちゃう?」


「こうなったら意地でも引き渡してやる」


「新規設立は正面右手の受付でどうぞ」


 にっこりと彼女は手のひらを左に向けて、俺たちを追い返した。


「・・・・」(ぷるぷるぷる)


 さっきの怒声に怯えてしまったのか涙目になって震えている中央の受付には触れずに右側の受付を訪う。カウンターごとに分担があるようで左手はクエスト関連、右手はギルドの事務関連を担っているようだ。とすると中央は何を担っているのだろうか。





 ギルドを設立する運びとなったわけだがどうせ名義として使うだけだ。軽い気持ちでギルドの新規設立にのぞむ。


「新規設立ぅ?あんたがぁ?」


 受付嬢にギルド設立を申請しようとするとぶしつけな視線にさらされる。頬杖をついたまま面倒そうに語尾を伸ばす彼女。眉根を寄せてメンチを切っている。左の方から「ひぃ、穏便に~」という声が聞こえた。


「ちっ。初期メンバー五人と新規設立費用50000G必要だけど?」


「メンバーはここにいる五人だ」


「五人?」


 ヒメが首をかしげる。どの五人か考えているようだ。


「オーマ、ヒメ、シャル、リン、たまちゃん、で、おーけー?」


 名乗る前に彼女は俺たちの名前を言い当てて見せる。ただし本名ではなくあだ名の方。ここへ来てからの俺たちの会話で分かったのだろうか。もしくはかなりの情報通という線もある。


「え、何で私は入ってないんですか?」


 五人の中に自分の名前が無かったリーナがショックを受ける。


「小さいから」


 魔族だからという理由もある。


「何故我らが入っている」


「人数合わせ」


「「うちは?」」


 セラとシャルが同じ一人称で質問する。その後何とも言えない表情で見つめ合っていた。


「セラはすぐ離脱するのに入れても仕方ないだろ」


「ひどい」


「シャルは旅は道連れだ」


「どんな理由っすか」


「はぁ。受諾しましたぁ後は設立費50000Gの支払いとぉ」


 ちゃりーん。


 一括払い。景気が良いぜ。


「おい」


 たまちゃんの何か言いたそうな呼びかけは無視して。


「次は試験ですぅ」


 はい?


「レベル20の戦士と戦って勝ってくださぃ。相手はこちらで用意しますぅ。更に特典を得たい場合は、レベル50の騎士に勝ってくださぃ」


 紙に書かれた文をそっくりそのまま読んでいるのか、気のない丁寧語で説明していく受付嬢。


「おい、セラ聞いてないぞ」


「試験って言っても実力を証明すればええだけやから。ギルドを率いるのにふさわしいってリーダーの実力をな。あんたなら簡単やろ?」


「・・・・俺今レベル1なんだが」


「・・・・・」


「・・・・・」


 とはいえ魔力は999。ヤれと言われればヤれる。それにリーダーが必ずしも俺である必要はない。よし、ヒメにやらせよう。


 と決意して口に出す前にセラは次の案を出してしまう。


「別に戦うだけが方法ちゃうから。今までに達成したクエストとか」


「なんかあったっけ?」


「おっちゃんさんに指輪届けたのとオーレリアさんのツケを払ったのだけです」


「どうだ?」


「二つだけじゃねぇ。けっ」


「態度悪いぞ、この受付」


 そう文句を言うと隣から「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と謝る声が聞こえた。


「なら、倒した魔物の数とかはどうなん?」


「どれくらい倒したっけ?」


「1682体です」


 リーナが正確な数を答える。何故お前が知っていると言いたいところだが今は助かった。盗賊は数に入っているのだろうか。


「入ってます」


 盗賊は魔物の内に入るらしい。


「はいぃ十分ですねぇ」


「十分だった」


「そりゃ千体も越えてたら十分凄いわ。何したん」


「ゾンビの大群を倒したぐらいだが」


「あと、ヒデヨシとアーリアと氷狼アーリアと魔王の分身と・・・」


「それ言わなくていいから」


「えー何でですか。絶対評価上がりますよ」


「上げたくないんだよ」


 ひっそりと消えていくつもりなんだから。そもそもそこらへん倒したのヒメだし。




「じゃあ、登録しますねぇ。ギルド名とギルドリーダーを教えてください~」


――ギルド名を入力してください_


 どこに。


 頭の中に浮かんだ要求に際して迷っている俺の前に空白の表示が現れた。ここにギルド名を入れればいいらしい。入力方法は思い浮かべればいいのだろうか。


「ギルド名、どうしようか」


~ヒメの場合~


 挙手したヒメが一案を出す。


「はいっ、魔王を打倒するための軍、略して魔王軍はどうでしょう!もちろんリーダーはオーマで!」


「略してはいけないところを略したな。却下だ」


 それだと俺が魔王軍の首魁みたいになるだろ。


「じゃあ魔王を勇者が攻略する部隊、略して勇者攻略部隊!」


「違う意味に聞こえるんだが!?」


 勇者を倒すことが目的みたいだ。


「じゃあもう、ロリコン大魔王の楽園でいいじゃないですか!略してロリ魔王!」


「良い所が一つも無いわ!」


 だめだこいつ。名付け親にしちゃ駄目なタイプだ。


「オーマの呼び名は私がつけました!」


「はいはいそうでしたね」



~リンの場合~


「あ――」


「却下」


「なら、あ―――」


「却下」



~受付嬢の場合~


「さっさと決めてくれますぅ?決まらないようなら、おまかせで私が決めますけどぉ?」


「ちなみにどんな名前を付ける気だ」


「ほのぼのオーマとたのしいなかまたち」


「却下だ!」


「略してほぼオーマですね」


「何がほぼ俺なんだよ!」


「メンバー?」


「一人にするな!」


「おじさん、張り切ってますね」


「ああ、ツッコミこそ彼の愛なのだと理解させられるよ」



~オーマの場合~


「そこまで言うならオーマが決めればいいじゃないですか」


「なんで拗ねてるんだよ」


「オーマならさぞ愉快な名前をつけるんでしょうねー」


「普通の名前を付けたいんだよ。そうだな。そう言えばヒメはこの剣の名前知ってるか?」


 そう言って示すのは腰に提げた聖剣・白。魔王を倒す切り札とも言うべき武器。俺たちの象徴としては申し分ない。


「・・・シロちゃんです」


「なんでちゃんづけ」


「ちっちゃくて可愛いので」


 言うほど小さいだろうか。長剣ほどの刃渡りはあるし剣としては無骨とも言える。可愛いとは如何に。


「あと、健気で頑張り屋さんです」


 剣の性能の話だよな?


 健気・・・?頑張り屋・・・?


 丈夫とかそういうことか?


「じゃあギルド名も『白の剣』とか」


「『白の剣』は既に存在していますぅ。なにか付け足すかぁ、別のものにしてくださ~い」


「既存でしたか」


「何かと言われてもな」


「魔王足しましょう、魔王」


 足さない。


「ふむ、リアン国王族の姓、レーヴェンはもともと獅子の意味を持つレーヴェが由来とされている。それにリアン建国の祖である初代勇者の名レオンもまた古代語で獅子の意味を持つレオから来ているそうだ」


 たまちゃんが助け舟をくれる。それに対してヒメが素でへーとか言ってる。獅子の名が泣いている。


「獅子か。じゃあ『白獅子の剣』とか?」


「略して白子ですか。良いと思います」


「だから何でお前は略すんだよ!」


「『白子』でいいですかぁ~?」


「良くない!『白獅子の剣』だ!」


「ほいほい。最後にリーダーを決めてくださぃ」


「リーダー?ヒメでいいよな?」


「なんで勇者様差し置いて私がリーダーなんですか。オーマに決まってます」


「うち以外で」


「おじさんに一票」


「好きにしろ」


「愛の頂にふさわしいのは僕だけれど、獅子の頂にはオーマがふさわしいよ」


「それお山の大将みたいな意味は無いよな?」


「じゃあ、そういうことで、オーマがリーダーです」


「『白獅子の剣』リーダー、オーマ。メンバーにヒメ、シャル、リン、たまちゃん。受諾しましたぁ」


「ええ・・・」


 いつの間にこんなに人望を集めていたのか。照れるぜ。


「Cランクギルド『白獅子の剣』、発足しましたぁ。活動を続けてランクが上がれば経験値やステータスにボーナスが付くようになりますぅ。ご努力くださぃ。はあ、終わったぁ」


 「ほっ」と安堵する声が左から聞こえてきた。


「じゃあ、そういうことで」


 無事ギルドは設立された。今後活用されるかはともかく今は役に立つ。セラの腕を取る。


「へ?」


 とぼけた声を出すセラと共に、向かう先は現在の右側の受付の二つ左隣。クエスト報告用受付。受付嬢が笑顔でどこからともなく手枷を取り出していた。


「え?え?」


「じゃあな、セラ」


「良き余生を」


「良き来世を」


「うちの人生ここで終わり!?」


 ガシャン。


 セラの手首に鉄の枷がはめられた。




 クエストクリア!


―逮捕クエスト―


討伐数:盗賊の首領×1

報酬:12000G


――『盗賊狩り』の称号を手に入れた!


 たったらったたん。


「えええぇー!!!」





「いい仕事したぜ」


「流石オーマです」


「いやーすっきりした。そう言えば受注とかしてないんだけどそれはいいのか?」


「他の人が受注していた場合、クエスト報告ができなくなるっす。仕事を完遂したのに報酬がもらえないという事態を避けるための受注というわけっす」


「なるほど、じゃあ、次からはちゃんと受注しないとな~」


「そうですね~」


 あっはっは。





「あの子らほんまひどい・・・」


 引き渡されてしまい、ギルドの受付からつながる地下へと泣く泣く受付嬢に連れていかれるセラなのであった。








「オーマは白が好きなんですか?」


「何の話だ」


 用も済んで晴れ晴れとした気分で外に出たところでヒメが問いを投げかける。


「好きな色の話です」


「白は・・・まあ嫌いではない」


「理由は?」


「理由?・・・理由?あーまあ、何にでもなれる色だから?」


「なるほど、自分色に染められるのが好みと。流石です。ロリコン大魔王の名は伊達ではありませんね」


「・・・・・」


「黒はどうですか?」


「言いたくないんだが」


「まあまあ、そう言わず。魔王討伐のためです」


 絶対関係ない。


「黒も、どちらかというと好きかもしれない。あれだな、安定感があって落ち着く」


「ほうほう。幼馴染的安心感と言うわけですね」


「何の話だ?」


「好きな色の話ですよ?ちなみに一番好きな色は何ですか?」


「その質問本当に必要か?」


「単なる雑談ですよ?」


 じゃあ答えなくてもいいのか。


「金がおすすめです」


「銀もおすすめしますよ」


好きな色は?

→金

 白

 赤

 銀

 水色

 茶

 黒

 次へ


 何故ここで選択肢が・・・。選ばないということは出来るだろうか。


「・・・・・・・」


好きな色は?

→橙

 青

 緑

 ピンク

 黄緑

 紫

 その他


 選択肢が変わった。これは知っておいて損はない情報だった。選択肢が変えられるなんて。


 さあ、それじゃあこのまま話を流して・・・・あれ?


 足が、動かない・・・!?


 それだけじゃない、声が出せない・・・一体何が起こって・・・!?


「オーマ、動けないんですか?」

「おじさん、動けないんですか?」


(にやり)


「橙!橙が好きだ!」


「「ちっ」」


 こいつら舌打ちしやがった!


 選択肢に答えないままだと動けないとか。なんだこの地獄の選択システム・・・。


「橙って誰でしょう・・・」


「まだ橙には会ってないですね」


 色に対して誰ってなんだ。二人が着実に距離を縮めていっていることを喜べない自分がいる。





「さて、このまま町を出るつもりだが、大丈夫だよな?」


 宿屋に泊まらずに旅を続けられるかという質問。体力的に不安なたまちゃんに向けてが主。


「我に構うな。足手まといにはならん」


 その断言ができるだけの自信はどこから来ているのか。リンに視線を向けてみるが、髪をかき上げて、ふさぁ、とかしてるだけだった。


「私たちよりもオーマにやり残したことがあるのではないでしょうか」


「無い」


「武器屋とか防具屋とか寄ってませんよ」


 リーナが思いついたことを挙げる。武器に防具か。


「いらないだろ。・・・そういやシャルは武器持ってないな」


「うちはいらないっすよ、魔法使うのに武器はいらないっすから」


「それもそうか」


「杖とか使わないんですか?魔力が上がるものもありますよね」


 ヒメが少し慌ててそう言う。


「杖は重いっす」


「そんな理由で・・・」


「やっぱり用は無いな」


 結論をそこへもっていこうとする俺にヒメだけが逆らおうとする。


「お風呂入りたいです」


「我慢できるだろ」


「出来ますけどしたくないです」


「我が儘な・・・」


「それにここから先は今までよりずっと辛い戦いが待ち受けています。今のうちに英気を養っておきましょう」


「そうなのか?」


 ヒメの言葉はまずシャルに確認を取ることにしよう。


「さあ?まあ、魔物はちょっとぐらいは強くなるっすけど」


「シャルには分からなくても私にはわかります。ここで休まないと絶対に後悔します」


 またヒメの誘導。そろそろ怪しさ満点だ。ここらで一回逆らっておこう。


「大丈夫だ、ヒメ。俺はお前と一緒にいられれば後悔なんてしない」


「え?」


「ヒメを信じてる」


「オーマ・・・」


「じゃあ、出発しようか」


「はい!」


 あっさり頷いてしまうヒメ。


「ちょろ過ぎます、ヒメさん」


 説得を成功させ俺たちは町に一日として滞在することなく旅立つことにした。


――くうー


「その前に腹ごしらえだな」


 あえてその音が誰のものかを暴くことはせずに。


「その腹ごしらえがおじさん達をこの町に引き留めることになるとは、おじさんはまだ知る由も無かった・・・」


「じゃあ、やめとくか?」


「どうしますか、ヒメさん?」


「意地悪です・・・」


 少食な割にお腹を空かせることが多いのは、燃費が良いのか悪いのか。ヒメを信じるためにも俺たちは昼食をとらねばならなかった。


 食事がしたかったならそう言えば良いのに。


「け、結果オーライです」







 食事のために寄った宿屋の食堂で。


―――おい!宿屋の主人が厨房でひきつけ起こしたって!


――またかよ!だからもう歳なんだろ!?


―――くっ、こんな時に厨房を任せられる都合の良い冒険者はいないのか!




ちゃららら~ん


 クエスト発生!!


『宿屋を手伝え!』


 そんな文字群が頭の中に浮かび上がったのを認識して。


「・・・・・・」


 もうただの命令じゃねえか・・・。


 オーマは再び訪れた理不尽に頭を抱えた。




「私も手伝います」


 というわけで厨房の支配者となったわけだが。ヒメ以外の連中はごく当たり前のようにテーブルについていた。リーナまで。


「オーマって料理できるんですか?」


「これから調べる」


「その発想が既に不安です」


「取りあえず『炎撃』が使えればなんとかなるよな」


「不安しかないです。そうでした、これを渡しておきます」


――オーマは秘蔵のレシピ本を受け取った!


「レシピか、なになに・・・」


・おにぎり

・????

・????

・????

・????

・????

・????

・聖王水

・????



「おにぎりぐらい作れるわ!」


「じゃあ試してみましょう」


「任せておけ。そうだな、ただおにぎりを作ってもつまらないここはアレンジを加えて」


(失敗するパターン)


「焼きおにぎりにしよう」


(焼くだけなら、まだ)


 にぎにぎ


「あとは・・・『炎撃』」


 ごお!!!


(・・・・・)


――失敗した!


――『黒こげの何か』が出来た!


「何故だ!」


「料理に魔法は使いません!!」


「何だと!?」




「残念ですが注文が来たようです、オーマが注文を聞いてオーマが調理して下さい」


「お前は何のためにいるんだ!?」


「私はとなりで茶々を入れる係です」


「何のために!?」


「おにぎり五人前頼む~」


 誰だよそんなの頼む奴は!?


「ほら、早く作らないと直に注文が溜まっちゃいますよ」


「くそっ」


 にぎにぎ


「だめだめです」


 にぎにぎ


「いい感じです」


 にぎにぎ


「だめだめです」


 本当に茶々しか入れないな。茶ぐらい入れろよ。


「おにぎり三人前追加~」


 何でおにぎりばかりっ!


 にぎにぎ


「まだまだです」


 にぎにぎ


「まあまあです」


――おにぎりを五つ納品した。


「おお、来た来た!おにぎり大好き!」(もぐもぐ)


――ステージアップ!


――レシピ『焼き飯』を覚えた!


「どんどん行きましょう」


 にぎにぎ


「いい感じです」


 にぎにぎ


「いい感じです」


 にぎにぎ


「だめだめです」


――おにぎりを三つ納品した。


「かたじけないでござる」(もぐもぐ)


「焼き飯を十三人前頼む!」


 そんな大人数で焼き飯に統一とか・・・どんだけ焼き飯が好きなんだ。


 ぱらぱら


「うまいもんです」


 ぱらぱら


「いい感じです」


 ぱらぱら


「美味しそうです」


 ぱらぱら


「お腹すきました」


 ぱらぱら


「焼き飯一人前追加です」


 ぱらぱら


――焼き飯を一つ納品した!


「ありがとうございます」


 ぱらぱら


「もぐもぐ」


 ぱらぱら


「おいひいでひゅ」


 ぱらぱら


――ステージアップ!


――レシピ『オムライス』を覚えた!


 なんでご飯系ばかり・・・。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」


 ぱらぱら


「いい感じです」


 ぱらぱら


「いい感じです」


 ぱらぱら


「だめだめです」


 ぱらぱら


「やりますね」


――焼き飯を12納品した!


「ちょっと!一品足りないわよ!」


「あれ!?」


「お客さんの満足度が下がりました」


 ぱらぱら


「これまでで最高の出来です」


――焼き飯を無駄に一つ納品した!


「なんだよ!無駄って!?」


「さっきの人達は12品で納得したみたいです。もう受け取ってくれません」


「はあ!?もう一人の分は!?」


「さあ?」


「あ、注文が溜まってますよ。おにぎりを四人前、焼き飯を三人前、オムライスを三人前です」


「くそっ」


 にぎにぎ、にぎにぎ、にぎにぎ、にぎにぎ


「良い手際です」


 ぱらぱら、ぱらぱら、ぱらぱら


「レベルが上がってますね」


 くるりん、くるりん、くるりんぱ


「オーマ実は料理得意ですよね」


――ステージアップ!


――レシピ「満天全席」を覚えた!



・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「燃え尽きたぜ、真っ黒にな」


「満天全席二十人前ってオーマは一体何者ですか・・・」


「手首が・・・手首が死んだ」


 ようやく、ようやく解放された。


 厨房の椅子にぐったり座り込んだオーマと交代してヒメが厨房に立つ。前掛けを後ろ手に結びながら肩越しに注文を聞く。


「何か食べたいものはありますか?」


「ヒメの手料理」


「えへへ。任せてください」


 とにかくもう自分で作りたくない。鼻歌交じりに料理を始めるヒメの背中を眺めていると次々と食堂の方から声がかけられる。


「美味かったぞ~マスター」


「ナイスファイト!」


「また作ってねー」


「絶対嫌だ」


――評価は上々だった!




――クエストクリア!


――「満天全席」のレシピを忘れた!


――『モップ』を手に入れた!


――500G手に入れた!



 割に合わねえ。




 休んでたら夜になった。モップの為に半日を使い潰す勇者って・・・。





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