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第十七話 理由

『えんがちょ、えんがちょ。あーぞわぞわします』


「あのさ」


『はい?』


「シンはなんでそこまであの人たちの事嫌ってるのさ?陰口はよくないよ?」


 町を後にし、アーシェにも追いつき一息ついたところで先ほどオーマさんと話している間中、人の頭の中で嫌味を連発していたシンに尋ねる。


『むしろ、なんであれが平気なんですか?あの目見ましたか?何のためらいもなく魔物を殺す目でしたよ。魔物の敵ですよ』


「魔物の敵って・・・・どちらかというと僕も魔物の敵だし、アーシェなんか理由も無いのに魔物倒しまくってるんだけど」


『大丈夫です。小さいのが倒してるのはみんなそういう性癖の魔物なので』


「・・・・どういうこと?」


『魔物の中にもいろいろいるんですよ。戦える魔物、戦えない魔物、そして・・・いじめられるのが好きな魔物』


 最後に変なのが来た。


『あの愚か者はそこらへん区別なく殺しくまくってます。まものキラーです。凶悪です』


 確かに同じ魔物でも、人間の言葉で話しかけてきたかと思うと助けを求めて来る魔物や、こちらを見つけた途端戦闘に入る魔物もいる。経験則として助けた魔物はお礼に何かくれるのでアーシェと協力して助けてやることもある。


 しかしアーシェはたまに助けを求める魔物も攻撃している。理由を聞いてみると攻撃してみたくなった。というような返答が返ってくる。それもいいのだろうか。


『その点小さいのは中々わかってます。倒された魔物も満足気です』


 相手の性癖を区別していればOKらしい。むしろアーシェがそこらへん区別できていたことにびっくりだ。出会った魔物を片っ端から倒しているようにしか見えないのに。よく後ろから奇襲するのに。


「・・・・・あの、アーシェが倒した魔物がたまに起き上がって熱い視線で僕の事見つめてくるんだけど。まさかとは思うんだけど。あれって・・・」


『波長が合ったんでしょうね。マスターをご主人様と認識したんです』


「仲間になりたいとかそういう・・・?」


『下僕になりたかったんでしょう』


「・・・・・・」


『・・・・・・』


 どうして倒されて憎いはずの相手に仲間になりたそうな視線を向けるのか。疑問に思っていたが、仲間になりたそうな視線ではなくもっといじめてほしいという視線だったからか。そうかそうか満足してたのか。


「何でアーシェじゃなく僕を見るのさ・・・」


『小さいのに向けたところで無視されるからじゃないですか?』


「僕も無視してるんだけど」


『実力的には足元にも及ばない人間に運命を左右されるなんてぞくぞくします』


「・・・・・」


『・・・・・・という話を聞いたことがあります』


 魔物ってもしかして相当あれなんだろうか。





「それでアーシェはさっきの人達と知り合いだったの?」


「・・・・・。」(ふるふる)


「だよね」


 そもそも同じ村に生まれて同じ時を過ごしてきた間柄でお互い相手の知らない出来事など本当にわずかだろう。だというのにあんな綺麗な人とどこで知り合う機会があるというのか。単なる人違いだったのだろう。


「ところで今どこに向かってるの?」


 あの炎の原因究明を目指していることはわかったがどうやって調査するのか。そもそも今どこに向かってずんずん進んでいるのか。


「・・・・・。」(ぴっ)


 アーシェが指し示す、その先にあるのは・・・。何と表現すればいいのか・・・マグマの谷。巨人が樹齢何百年の樹で作った丸太で無理矢理地面を削ったりしてもこうはならないであろう悲惨な爪痕が地面をえぐっていた。平原の向こう、森へと消えていくその終端は目に入る範囲には無いほど。底ではぐつぐつと地面が煮えたぎり火の粉が飛んでいる。何で平原にこんな魔境が生まれてしまっているのだろう。


「これがあの炎の跡ってこと?これをたどれば原因に行きあたると」


「・・・・・。」(こくん)


 そのとおり。とアーシェは頷いた。


『元凶さっき通り過ぎてましたけど』


「え・・・?いつ?」


『本気ですか、マスター』


「?」


――ぐぎゃー


 話をぶった切るようにリウが鳴いた。


「またお腹減ったの?お昼までまだあるんだけど」


――ぐぎゅるるるるうぐおおおおおがああああ


 腹の虫が鳴いている。もう虫なんてレベルではない気がする。


「わかったから。ああでも食材無いから・・・」


 道具屋に向かう暇もなく町を出たため食材がほとんど無い。どうしたものかと困っていると前を歩いていたアーシェが歩みを止める。そして背負っていたリュックから槍を取り出し地面を払う様に一振りする。


「・・・・・。」


 現地調達。そう背中で主張するアーシェ。その姿が影に黒く染まる。


――ちゅうううううううううう


 待ち構えるように槍を構えたアーシェの正面に、どこからともなく毛むくじゃらの灰色の巨体が落ちて来た。落下の衝撃で地面が激震する。


――ちゅうううううううううう


 ただでさえ背が低いアーシェとは比べ物にならない巨大なねずみ。何百倍はあろうかという身の丈で遥かな高みからアーシェのことを見下ろしていた。


 魔物が現れた!


「おおきい・・・」


 驚きを隠そうともせずアルフレッドはそれを見上げる。


『怪獣ネズミですね。その巨体から繰り出される一撃はどんな鎧だってぺしゃんこです』


 シンの説明に納得せざるを得ない。この魔物の大きさは人にどうこう出来るものではなかった。鳴き声一つとってもびりびりと空気を震わせ、アルフレッドを委縮させる。だけどどうしてだろう。その鳴き声が悲しげに聞こえるのは。


「ちなみに、あれも・・・?」


『いじめられたいタイプです。いじめタイプの攻撃がよく効きます』


「聞かなきゃよかった。とにかくアーシェ!逃げよう!」


 と、アーシェに逃亡を勧めてみるが。


「・・・・・!」


「やっぱりそうなるよね。うん。わかってた」


 そんな話をしている間に、既にアーシェは走りと共に槍を地面に突き立て、反動を利用して高く飛び上がっていたのだ。魔力を足に纏わせた跳躍はアーシェの体を遥か上空、怪獣ネズミの顔の正面に運ぶ。


 上昇の最中、アーシェは新たな槍をリュックから取り出し、振りかぶって怪獣ネズミの目めがけて槍を投擲する。


「・・・あ」


『・・・あ』


 じゅぶり。と嫌な音を立てて深々と突き刺さるアーシェの槍。


――ぢゅーーーーーーー!!!!!!!!


「・・・・・」


『・・・・・』


 明らかに怨嗟がこもっている叫びをあげ怪獣ネズミは体を傾ける。痛みを和らげようと目を覆うために頭を短い両手に近づけた結果、その頭は空中にいるアーシェに差し出される形となる。


 上昇が終わり落下中のアーシェは、リュックから取り出した新たな槍を差し出された頭に突き刺し、それを基点に体を入れ替えるようにして怪獣ネズミの頭上に着地する。


 その後。


――さくっさくっさくっ。


 槍を抜いたアーシェは怪獣ネズミの頭に、刺しては抜き、刺しては抜き、を繰り返す。


――ぢゅううううううう!!!!!!


 悲鳴にしか聞こえない断末魔を繰り返す怪獣ネズミ。必死に振りほどこうと暴れまわっているがアーシェはそのくらいで落ちたりはしない。えい、えい、と刺し続ける。


「・・・・・」


『・・・・・』


 戦闘開始と同時に戦場から距離を取っていたアルフレッドはシンと揃って無言である。


――ぴちゃ


「うわ!?何?」


 現世に現出した地獄に戦々恐々としているアルフレッドの鼻に何かの液体が落ちてきた。生暖かい感触に思わず、ちで始まり、ちで終わる一文字のものを想像してしまうが。


『リウの涎です』


「待ちどおしいの!? ちょっと待って、ていうか魔物の敵を嫌うシンとしては魔物を食べようとするリウはOKなの!?」


『OKです。弱肉竜食です。弱きものはただ黙って肉となり竜に食われろ。人間もたまにはいいこと言いますね』


「そんな言葉使ったのは君たちが初めてだよ。そもそも戦ってるのはアーシェだし」


『魔物のくせにリウの前に跪かないのが悪いんです』


 それからしばらくの死闘を制し、アーシェは無事勝利した。巨体を地面に激突させ倒れ伏す怪獣ネズミ。


――怪獣ネズミを倒した!


――『魔物の鼠肉』×10を手に入れた!


――『巨大な鼠の目玉』を手に入れた!


 目の部分に突き刺さっていた槍を抜きその拍子に転がり落ちてきた目玉を無表情でゲットするアーシェ。余りにも大きいそれはアーシェの体を隠してしまっている。


 アーシェはそれを持ったままこちらに歩いて来てリウにそれを差し出す。リウは喜んでアルフレッドの頭の上から飛びついた。完全に餌付けであることにはあえて触れないでおく。そしてリウに差し出されたということは同時にアルフレッドにも差し出されているということで。


 白く濁った目玉がこちらを凝視している気がする。リウに食べられて無念そうなまなこがぼんやりとこちらを見つめている。お願いだからアーシェ、それをこっちにこれ以上近づけないで。




「けふ・・・」


 ただひたすらえぐい食事を終え、緑の液体をあちこちに付着させたリウがアルフレッドの頭に帰還した。


「せかいってどうやったらへいわになるのかな・・・」


 アルフレッドが死んだ目をしながら世界に疑問を投げかける。


「・・・・・。」(皆でそれを考えること。それが平和)


『リウが満腹になれば訪れるんじゃないですか?』


「がおー」


 リウが同意するように鳴いた。


 どっちに賛同したのかは分からなかった。


 それはさておき。


「ネズミって不衛生じゃない?」


『魔物の肉なんてみんな一緒ですよ』





『折角ですから仲間にしてみますか?』


「え?誰を?」


――怪獣ネズミは仲間になりたそうな目でこちらを見つめている。


「その目大丈夫!?」


『大丈夫なんでしょう。多分』


 アーシェが手に入れたはずの目玉はもとに戻っていた。


「まあ、大丈夫なら・・・」






 怪獣ネズミが仲間になった!






『名前を付けましょう』


「デカチュウ」


『アウトです』


「なんで?」


『ダメなものはダメです』


「・・・・・。」


「じゃあ、金剛羅刹で」


『マスターのネーミングセンスには脱帽です』


「あ、今のはアーシェが考えたやつ」


『納得しました。なにはともあれこれで無事、マスターに下僕が出来たわけですね』


「仲間じゃダメなの?」


『本質は一緒なんですからどっちでも良いじゃないですか』




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