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第十一話 決戦

 リアン軍では確かに動揺が広がり士気もだだ下がりを見せていたが、それでも撤退するには至らなかったようだ。どうしようかと悩んでいると、事態は転じる。


「やれやれ、怖い勇者が来てしまったか」


 オーマの左側、氷竜の向こうから勇者の存在を感じる。変なセンサーでも取り付けられた気分だ。

 そしてその姿はすぐに視認できるようになった。かと思うと、恐るべき速さで氷竜に接近する。そして一閃のもと真っ二つにしてしまった。


「まじかよ・・・」


 地響きを立てながら崩れ落ちる氷塊と化した氷竜だったもの。それこそ一人の剣士にどうにかできるものではないはずだが。半信半疑だったヒメの実力が確信に変わる。

 剣を払い、俺に向かって剣を突きつけたヒメは、既に俺とリアン軍との間に軍を守るように立ちはだかっていた。


「魔王、これ以上はやらせません」


 魔王・・・か。そうか今目の前にいるのはヒメではなく勇者なのか。


「全軍今すぐ撤退してください!」

「アーリア、軍を退かせろ!」


 俺とヒメ、二人の声が重なる。だが確かに双方に伝わったようで、魔王軍は撤退を始める。しかし、リアン軍は撤退するわけでもなく気勢を上げていた。


「おおーー!勇者様が来られたぞーー!!」「姫様に続けーーー!!」「勝機は我らにあり!」「ちょ、ちょっと何でやる気になってるんすか!?」「姫様を魔王ごときにやらせるなーー!!」「撤退するんすよ~!」「ここで退いては男が廃る!!」「今こそ我らの底力を見せるとき!!」


「「・・・・・。」」


 二人の間で沈黙が流れる。なんとなく同情してしまう。


「慕われているようで何よりだな」


「うう~」


 これのどこが信用されていないのだろうか。


 そんな中オーマの後ろに二つの姿が現れる。


「弱い犬ほどよく吠えるってやつだな」


「まったくです。今更、勇者の一人や二人が来たところで勝てるわけありません」


 拳をたたきながら出てくるイーガルとアーリアの姿が。


「撤退しろと言ったはずだが?」


「俺たちはただの家族だからな」


「全軍には含まれません」


「あのな・・・」


 そのやりとりを聞いていたヒメは、


「慕われているようで何よりですね」


「ぐっ」


 お返しとばかりに言われた。




 しかし。どうするか。収拾つかんぞこの事態は。ヒメの後ろでは今にも突撃を開始しようとしているリアン軍に、それを迎え撃つ気満々のイーガルたち。


「はあーー」


 思わずため息をつくオーマ。


 それに対しヒメは、


「一騎討ちを希望します」


 朗々と宣言する。


「ほう」


「ですから皆さんは手を出さないでください」


 同時に背後にも忠告を飛ばす。


「受けるとは言っていないんだが」


「受けないんですか?」


 挑発するように返すヒメ。


「まさか。お前らも手は出すなよ」


 今度はこちらがイーガル達に注意する。


「で、ですが」


「俺が一対一で負けるとでも?」


「それは・・・思いませんが」


「だろ、じゃあ待ってろ」


「またそれだ、最近乗り悪いぞ。オーマ」


「悪い」


「・・・・・・ったく。さがるぞ」


 ぶつぶつ文句を言いながらもイーガルはアーリアを連れてさがってくれた。

 なんだかんだであいつは俺の気持ちを理解してくれている。

 一方でアーリアには勇者に本気で怯える俺を見せてしまっている。心配するのも無理はない。


 だがこれから殺し合いをするつもりはない。殺陣というやつだ。


 オーマは数歩前に出る。


「本気で行くので覚悟してくださいね。魔王」


 にこっと笑うヒメ。なぜかその可愛い笑顔に背筋が凍るような恐怖を感じる。


 ・・・あれ?・・・なにこれこわい。


(演技・・・だよな?)


 こうして俺たちの初勝負が始まってしまった。





 ヒメが踏み出すと同時、残る三体の竜をヒメに差し向けた。ばらばらに撃たれる炎、岩、雷の弾丸、ヒメはそれを易々と躱し、炎竜の懐に入り込み、真一文字に切り裂く。だが。


「無駄だ、炎竜は再生の象徴、剣で斬れるものではない。」


 再び形を取り戻す、炎の竜。しかし、それを確認するや、ヒメの剣に青白い光が宿る。


「わざわざ説明してくれるなんて、親切ですね。―――っ!」


 そして再び炎竜を斬りつける。すると今度は再生することなく炎竜もまた霧散していった。


(破魔の剣か)


――魔法を切り裂き無に返す反魔法。


 俺の魔法を消した事から相当強力であることがわかる。



「簡単にやられてもらってはつまらないのでな」


 などとやせ我慢を言ってる間に、そのまま残る岩竜と雷竜もあっさり倒されてしまう。


 正直驚いていた。身のこなしも剣技も魔力もかつて俺を倒した時の勇者に匹敵している。かつての力がヒメに継承されているかのように。

 そう考えると急に恐怖が沸き起こってくる。


(いや、違う。それにしては、荒削りに思える)


 確かにヒメは強い。だが、あの時ほどのキレがない。ただ俺を倒すためだけに磨かれたかのような、あの鋭さがない。

 そもそもあの四体の竜はあくまで封印魔法だ。攻撃や守りには向かない。見た目を重視して出しただけだ。ある意味倒してくれなければそれこそ対処に困っただろう。


 ここからが本番だ。


「何を考え込んでいるんですか? ふ―――っ!」


 竜を倒せば、次は魔王、とばかりに俺に斬りかかってくる。そこにためらいはない。だが同時に、なんといえばいいのか・・・、そう、殺気がない。


―――ガキンッ


 俺の右手に現れた、炎鉄の剣がそれを受け止める。破魔の剣といえど、俺が直接送り込んでいる魔力ごと消すには力不足らしい。

 だが、それだけでは終わらない。バックステップで飛びずさるやヒメは俺の背後をとるように円を描いて走り出す。


 四方八方から放たれる斬撃。それを確実に目でとらえてから斬り返す。とらえきれない速度ではない。だが気を抜けばその姿を見逃してしまいそうだ。


「何、この程度かと安心したんだ」


 殺気がないのは当然だ。だが、どこか、剣を振る意志が薄弱としている。だから、挑発する。できればヒメの本気を見ておきたい。


 次のタイミングでヒメの剣と切り結ぶと同時、左手をヒメの剣の内側へ突っ込み、魔力弾を放つ。


「くっ!」


 ヒメは魔力の盾をつくり受け止める。だが純粋な魔力では俺の魔力弾を防ぎきれなかったようでリアン軍の前まで弾き飛ばされてしまった。


 地面を削りながら着地するヒメ。剣を正眼に構える。





 これだけの時間さえあれば十分だった。オーマの上空に隠されていた巨大な炎熱球が姿を現し、さらに空を埋め尽くさんばかりに肥大する。正直やり過ぎかもしれないとは思ったが、これだけすれば向こうの人間どもも、考えを改めてくれるだろう。


「降参するなら許してやらんこともないが?」


「冗談言わないでください。」


 しかし、ヒメは立ち向かう。ならば、ヒメへの信頼の証として撃ち放つだけだ。



 ほぼ真上から撃たれた炎熱球が、まずヒメの青白く光る聖剣とのみ接触する。同時にその余波がそこを中心にすべてを吹き飛ばす衝撃波となる。


 だがリアン軍を守るように、その衝撃を防ぐバリアが張られる。あれはヒメではない。見れば軍の中心で魔力を放つ少女の姿があった。あれが、シャルか。


(あれだけの障壁を張れるなら、もっと暴れてもいいかもしれないな)


「――っ!!もう分かったっすよね!あんたらがここにいても邪魔になるだけっすよ。早く撤退するっす!」


 その少女が叫ぶ。それに応じてようやく、のろのろとリアン軍は撤退を始めた。


 あとは時間がたてば目的は果たせる。




「っつうう、はあぁぁっぁぁ!!!!」


 一方、ヒメの下の地面はクレーター状にえぐれ、それだけの衝撃がヒメを襲ったことがうかがえる、というのにヒメは、無傷だった。

 あの炎熱球をすべて破魔の力で打ち消したのだ。だが、魔力を大分使ったのであろう、聖剣からはあの青白い光は失われ、息も荒くなっている。

 しかしヒメの闘志は消えていなかった。目的は達成できるというのに。


「大丈夫か?ふらふらしてるぞ」


「魔王に心配されるいわれはありません」


「それもそうだな」


 様子がおかしい。まさか俺を敵視している?いやいやまさか。どちらにせよこの戦いは今しばらく続けなければいけない。




「・・・これで終わりか?」


 息を整えるヒメに再び挑発する。正直この程度なら恐れるに足りない。殺す気もないのだから、蘇ることを恐れる必要もない、

 そもそも勇者に敗れたときは連戦に次ぐ連戦で消耗しきっていたことが原因だ。そうでなければあの時のユーシアすら俺の相手にはならない。


「安心してください。私には奥の手がありますから」


 そういうとヒメはクレーターを出て聖剣を鞘に納める。片膝を立て、その場に座り込む。右手は剣の柄に添えられている。


(居合か?)


 だが居合など、本来は刀でするものだろう。反りの無い剣はそれに適していない。


 俺の疑問に答えるようにヒメが構える聖剣の鞘は形を変える。刀の形に。


(そんなこともできるのか。鎧の取り外しといい便利だな。)




 居合は後の先をとる究極のカウンターだ。神速の剣閃は間合いに入ってきたものを一瞬をもって両断する。ヒメほどのものの熟練の居合。おそらく目で追えるものではない。


 しかし、彼我の距離はおよそ三十メートル、俺を間合いに捕らえるのは不可能だ。俺には遠距離の攻撃手段がある。近づかなければいい。



「姫流抜刀術『唯壱の型』――」



 ヒメは集中を始める。同時に形を変えた聖剣――いや聖刀か――に魔力が集中する。どこにそんな魔力が残っていたのかというほど大量の、そして凝縮された魔力。そしていまだ魔力は増し続けている。

 もしあれが仮に刀身の延長に使われれば――


――ぞわっ


 そこで初めてヒメから殺気のようなものが発せられ皮膚に触れる。確実な死を予感させる殺気。すでにオーマはヒメの間合いに入ってしまっている。それに思い至りさらに距離をとるため大きく飛びずさる。

 同時にこれ以上魔力を溜めさせるわけにはいかないと魔力弾を複数放つ。


 だが、ヒメはそれに反応すらせず無防備に喰らってしまった。


「ほゎっ!?」


 まさか、まともにあたるとは思わず、ヒメへの心配から思わず変な声が出た。

 だが、巻き起こった爆炎が晴れそこにいたのは無傷のヒメ。聖刀から発せられた魔力がヒメの周囲を覆っていた。


 無傷なのはいい、だが避けようとしないということは、あの防御を破る攻撃をすればヒメがダメージを負うということだった。


 しかし、ヒメの魔力溜めはいまだ続き、着々とその威力を増していっている。迎撃しなければ俺が死ぬ。


 炎鉄剣を振り上げ、こちらも魔力をこめる。


 ごお、と勢いが増す炎の剣。


 更にこめられた魔力を受け巨大化する。刃渡り六十六メートル。ぎりぎり今の距離ではヒメに届かない。

 炎の精霊が持つと言われたすべてを燃やし尽くす魔剣。威力は先ほどの炎熱球をはるかにこえるだろう。だがそうでもしなければこのヒメを止められない。そう感じるほどの威圧感が既にあの聖刀には宿っていた。


「・・・・・。」


(本当に大丈夫だよな)


 お互いに無傷で終わらせる。その意志は共通のものだと思いたいが・・・。


 しばらく静寂が、いや俺が持つ剣の炎の音だけが響く。ヒメの聖刀にもますます魔力が集まっている。汗が俺の頬を伝う。どれだけ時間がたっているのか感覚が曖昧になる。そんな中、時が来る。


 俺は、振り下ろす。一度であたり一帯を焦土と化す、純粋な暴力を。ただ、まっすぐに。



「降神・炎凰―――剣っ!!!」



 巨大な剣の先端が傾ぎ、加速され、ヒメに振り下ろされる。今にもヒメに及ぼうとする瞬間。



――ヒメは刀をゆっくりと鞘にしまっていた。



「――斬空。」


――かちん



 いつ、抜いたのか。何も見えなかった。だが俺が持つ炎の剣が何が起こったのかを如実に表す。折れた。いや斬られた。中腹で分断された剣先は勢いそのままヒメの体の直上を飛んでいき、背後で爆炎を上げた。


 だがそれだけでは終わらない。俺が振り下ろした手の中に残る剣が自壊を始める。まるで見えない圧力に耐え切れなかったかのように。軋みをあげる。


 切断面から始まった崩壊は、剣の柄まで及び思わず手を離し後ずさる。すべてが砕け、やがて破片となった炎鉄剣は跡形もなく消え去った。



 俺が呆然とする中、いまだ轟々と燃える火柱を背にヒメは、立ち上がりこちらに向かって歩き出す。もうすべて終わったといわんばかりに。


「え?」


 そしてヒメはいつの間にか俺の目の前に来ていた。反応できない。完全に呑まれていた。



 無防備な俺に対しヒメは笑顔を見せ・・・そして。







「オーーーマーーーーーーー!!!」



 抱き付いてきた。



 俺の体にひっつくヒメ。何が起こった?理解できない。


「は?お前・・・なんで?」


「どうしたんですか?オーマ?」


「どうしたは、お前だろ?何で途中で」


 言うと同時自分でもおかしいと気付く。俺たちは軍を退かせるために茶番に興じただけだ。殺し合いなんてするわけがない。


「もうリアン軍が退いたからですが?」


 ヒメも心底わからないというような顔をしている。今だって、ヒメに敵意がなかったからあそこまで近づかれても何もしなかったのだ。なのになんで。


「あ、いや何でもない。すまない、忘れてくれ」


 殺されると思ってしまったのか。とっさに誤魔化すしか俺にはできなかった。





「オーマが頑張ってくれたおかげで無事にみんな帰ってくれました」


「ああ、もう撤退してたんだな。・・・ってヒメは?ケガしてないか?どこも痛くないか?」


「大丈夫です。オーマの攻撃なんて私には届かないのです」


 胸を張ってふんすとばかりに鼻息をもらすヒメ。


「はあーー。良かったー」


「普通に安心されてしまいました」


 当たり前だ。ヒメに傷なんてつけていたら後悔してもしきれない。一応すべて手加減していたのだからヒメの言葉も気にならない。


 安心すると力が抜け、ヒメと一緒にへたりこむ。


「はあーたくっ・・・、本当に無事でよかった」


 俺はヒメを強く抱きしめた。


「ほわ」





「ところでさっき何か怒ってなかったか?」


「怒ってなんかいませんよ?」


「でも全然雰囲気が違ったぞ?」


「ん~まあ、イライラしていたかもしれません。」


「イライラ?」


「だって演技とはいえオーマと戦うことになったんですよ?こんなに大好きなのに」


 ヒメからぎゅーと抱きしめてくる。


「父が余計なことをしてくれたせいで、犠牲が出るかもしれなかったんですから」


「じゃあ、やっぱり、ヒメは知らなかったのか」


「はい。・・・オーマ、ごめんなさい。軍が送られたなんて知らなくて。迷惑をかけてしまいました」


「構わない。約束したからな」


 これ以上誰も傷つけず、ヒメを幸せにすると。


「はい」


 そんな俺にヒメは微笑む。


「やっぱりオーマを好きになってよかったです。そして頑張ったオーマにはご褒美をあげます」


 そういって背伸びしたヒメは俺の頭をなでる。


「いや、そういうのはいいから。」


「照れなくていいですよ」


 続けようとするヒメから何とか逃れる。なんて魔力だ。いつまでもなでられていたいと思ってしまった。


「むう、それでは、こちらをあげます」


 そういって何かを手渡す。


「何だ・・・これは?」





――オーマは『町長のももひき』を受け取った!



 捨てた。






 遠くで様子を窺っていたアーリアとイーガルが駆け寄ってくる。



「何・・・してるんですか、魔王様?」


 抱き合う俺たちを見てアーリアは冷たい目を向ける。



「心配させておいてそれかよ。オーマ最低だな」


 同じくイーガルも軽蔑の目を向ける。



「ま、まてお前ら。事情をきいてくれ」


 事情なんてない。だが何か言わなければ、そんな空気が漂う。


「そうだよ~二人とも。これからもっと凄いことするんだから離れててくれるかな?」


「お前は事態をややこしくするな!」


「――ま、魔王様・・・。どうかお幸せに!」


 その言葉にアーリアは涙を見せたかと思うと、突然脱兎のごとく走り出した。


「アーリア!?」

「アーリア!」


 俺とイーガルが慌てる。


「ったく、俺がフォローしとくから、あとで埋め合わせしろよ」


 イーガルもアーリアの後を追ってかけていった。


「「・・・・・。」」


「本当に行っちゃったね」


「ヒメ・・・」


「オーマ・・・」


「なにしてくれてんだ、お前は~~」


 ヒメの頭を両手の握りこぶしで挟み、ぐりぐり。


「いたい、いたい。ごめんなさい、ごめんなさい~」


 されるがまま、反省の色は見せているが。


「何でお前はアーリアにあてつけるようなことするんだよ」


「可愛い子っていじめたくなりませんか?」


「わかる」


「でしょ」


「でもアーリアにはやめろ。既にトラウマだ」


「そんなおおげさな~」


「・・・・・。」


「・・・・・気を付けます」






「じゃあ、私は、もう行くね」


 するりと俺の手から逃れる。


「ああ、そうか」


 リアン軍を国まで撤退させる。その指令はヒメにしか出せないだろう。下手をすればヒメを心配して再出撃なんてことになるかもしれない。またしばしの別れとなる。


「オーマ、ん」


「?」


「ん」


 ヒメは目を閉じ、顔を突き出してくる。


「だから何だよ?」


 そう聞くと目を開け、ぶうと頬を膨らませる。


「お別れのキス」


 一瞬あっけにとられる。だがこんなに可愛く要求されれば断れるはずもない。


「たく、いくぞ」


「うん」


 再びヒメは目を閉じた。


 夕焼けに光るヒメの唇に俺は口づける。


「にへへ」


「何ニヤニヤしてるんだよ。」


「だって、嬉しいし」


 俺だって嬉しいよ。


「会いたくなったらいつでも呼んでいいからな」


「呼んだら来てくれるの?」


「ああ。ほら、これ」


 そういって角のようなものを渡す。


「これは?」


「俺の角だ。」


「角!?オーマに角なんてあるんですか?」


「魔王だからな。今は隠してる。それに魔力をこめれば俺が気づくから。暇だったら行ってやる」


 そう聞くとヒメは大事そうにその角を両手で包む。


「じゃあこれからは、オーマがずっとそばにいてくれるんですね」


「まあ、そうなるかな」


「嬉しいです。実は昨日も少しだけオーマに会いたくなっちゃいました。会えなかったのはたった一日だけなのに」


「俺もだよ」


「え?」


「俺も会いたかった」


「オーマがデレました!」


「何だよ、デレって」


 言葉の意味が分からない。


「好きって気持ちを素直に表すことです」


「そうか?前から結構言ってると思うんだが」


「もっと出して行きましょう!」


「じゃあ、遠慮なく」


 ヒメを強く抱き寄せる。


「ひゃあ」


「ヒメ、好きだ。片時も離れたくない。ずっとそばにいてほしい」


「そ、そう言われても、軍に戻らなきゃ。でも――」


「分かってる、ただ素直に言っただけだ。お別れのキスももうしたからな」


 名残惜しくならないうちに体を離す。


「じゃあな」


「っ!!次会ったらいっぱい可愛がってあげるから!全部片付いたらずっと一緒にいるから!」


「はいはい、気をつけてな」


 ああ、もう、何してるんだ俺は。これが魔王のすることか。俺はニヤけてしまう顔を見られないように後ろを向き、姿を消した。






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