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第五話 連携

「さて」


 迷った。


 あれだけあからさまな目印を無視して歩いてみれば一瞬で迷った。何が迷えずの森だ、改名を要求する。などと心の中で愚痴っていても仕方ない。


「だから行ったのだ。道を外れるべきではないと」


 先ほどからはあはあと荒い息をついているたまちゃんが恨めし気にものを言う。


「いや、道は道だし、道はゴールに続いているさ」


「ここにおいてはそれは通じぬだろうな。見ろ」


 たまちゃんが指さすのは外に開けた森の出口・・・・というより入口。俺たちが入って来たところだ。


「戻って来たな」


「ああ」


 森の構造はいくつもの十字路を細道が繋いで出来ている。細道が曲がりくねっているためいつの間にか方向感覚を失い適当に進んでみれば戻ってきてしまった。何か方向を把握する術がなければシャルを追える気がしない。何でこんな複雑な道を作ってしまったのか理解に苦しむ。


「リーナは方位磁針の代わりになれるか」


「なれないです。何でなれると思ったんですか」


「ナビゲーターのくせに」


「アドバイザーですよ?」


「なら、あれだな。ヒメ。森を切り拓いてくれ」


「任せてください!・・・って無理です!!」


「何で一度快諾しておいて却下するのか」


「それより、オーマ、気づいているかい?」


 いつもの場を和らげる漫談の中、リンが油断するなと真剣な声音で尋ねてくる。


「ああ」


「僕らが愛に包まれていることに」


「敵意に囲まれていることに、だな」


「盗賊っぽいですね」


 気づけば周囲から視線を感じる。こちらの隙を窺っているのだ。今にも襲われそうな状況。


「やっつけちゃいましょー」


「人相手ってどの程度で戦うべきなんだろうな」


 魔物のように全力で行くわけにはいくまい。


「ところでオーマ」


「ん?」


「私たち、もうそれなりに仲良くなったと思うんですよ」


「まあ、それなりにはな」


 この緊迫した状況でまるで意に介さず親密度を確かめてくるヒメ。


「そうなると今度は戦闘で連携してみたいと思うわけですよ」


「却下」


「なにゆえ?」


 即答で突っ返されて、ヒメがはてなを浮かべる。


「俺とお前に力の差があり過ぎる。連携なんかせずに自由に動いた方が効果的だ。お前が一撃で倒せる敵に俺の力を加えるのは非効率だ」


「納得してしまいました」


「だろ?」


「とりあえず、これを」


 そう言ってヒメはオーマに何かを手渡す。


「これは?」


 紙の様だ。何かが書き込まれている。



――オーマとヒメ、剣気解放状態になる。


――オーマ、奥義中にAボタンBボタンを長押し。



「連携方法を詳しく突き詰めてみました」


「本気で意味がわからん、こんなんで連携出来るわけないよな。だからAボタンって何なんだよ」


「後、セリフです」


 またヒメに紙を渡される。



オーマ「決めてやる!」


ヒメ「私とオーマの」


オーマ・ヒメ「「愛の力で!」」



 途中で読むのをやめる。


「お前、リンに毒されてないか?」


「真剣そのものです。昨日の夜から考えてました。オーレリアさんも協力してくれました」


「二人でなにやってたんだよ」


「協力奥義開発」


「仲が良い事はわかった」


 って。だから今は狙われてる状況だっての。だが・・・


「襲ってこないな」


「待ってくれてます。ここは有難く協力奥義の実験台にさせてもらいましょう」


「何度も言うが俺の意思を無視する方向で進め過ぎてると思うんだ」


「準備はいいですか?」


「やればいいんだろ」



――盗賊の群れが現れた!



 俺たちの準備が済むや盗賊数人が姿を現す。待っていてくれたのは事実なのか。そして意気揚々と出て来ておいて動かない。なんのために出てきたのか。



 ピコーン、ピコーン。


 聞いたことのあるピコン音が二つ続けてなる。そしてヒメが目配せをしてくる。


「はああああっ!剣気っ・・・解放!!!」


「剣気、解放」


 俺がわざわざ叫んで雄々しく解放している傍らでヒメが静かに解放する。ここから既に合っていない。俺からオーラのようなものが迸っているが、隣にいるヒメから放たれる膨大な気にかき消されている。ここも合っていない。


 他の奴らはそんな俺たちを静かに見守っている。戦う気ないのか、敵も味方も。


 愚痴っていても仕方ない。俺はやる気なさげに佇む盗賊カンタに向かって走る。そして剣を振る。


「『緋炎豪覇』!!」


 炎をまとった斬撃。あっさりとそれはカンタに直撃する。魔力の乗らないただの炎属性の斬撃では一撃で倒すまでには至らない。そして次はAボタンとBボタンの長押し・・・・。


 A?  B?  ??????


 今のでできたのか?わ、わからん。とりあえず進めてみよう。何とかなるだろ。


「決めてやる!」


 そう叫んだ瞬間、世界が一転する。敵とヒメだけの存在を感じさせる黒の世界。俺の体は勝手に動く。振りかざした左手に魔力をこめ魔法を発動。空中に現れた幾重にも連なる鎖が複数の敵を押し込めるように中央に縛り付ける。


「私と」


 そこへ一息で間合いに踏み込んだヒメは鎖に縛り付けられた盗賊を鎖ごと滅多やたらと切り刻む。すれ違いざまに最後の斬撃を浴びせ、オーマとは少し離れた位置でヒメは落ち着いた動作で剣を納める。


「オーマの」


 ヒメからのパス。


 次のセリフ。二人で一緒に。


 せーの。


「足の力で!」

「愛の力で!」


「・・・・足?」


 どこかおかしかった決め台詞はスルーして、ヒメは居合の態勢に、オーマは大上段に聖剣を振り上げる。足の力?が剣に伝わりそれは赤く滾る大聖剣と化す。


 とどめの一撃。


「「心技一足!『オマヒメ斬』ッ!!!」」


 オーマは魔力で長大した燃え盛る聖剣を振り下ろす。


 ヒメは抜刀する。


 強大な力の衝突。ヒメの斬撃に耐え、辛うじて残っていた魔力の鎖が弾け飛ぶ。力がそこで破裂した。


――


――


――


 ばたばたと力なく倒れる盗賊カンタ、アリパ、ゴエモ。その他。


 オーマとヒメはそれぞれ納剣、納刀する。


 そして見つめあう。


「足って何ですか!足って!」


「足の力は大事だよな」


「大事ですけども!」




――盗賊の群れを倒した!



「なかなかいい感じだったな協力奥義」


「むう~」


 今までで一番拗ねてるヒメ。


「だいたいオマヒメ斬ってなんだよ。一応合わせたけど」


「オーマとヒメの斬撃、略して『オマヒメ斬』です」


「凄いセンスだな」


「褒められました~」


 一瞬で機嫌が直るヒメ。


「凄い凄い」


「何というか、二人ともいつもそんな風にじゃれあってるんですね。うらやましいです」


 頭の上でリーナが頬杖をつき寝ころびながら足をぶらぶらしてオーマの頭部に打撃を送る。今の戦闘中も頭の上にいるのだから何というか。


「ふふん」


 そんなリーナの愚痴にまた機嫌が良くなるヒメ。


「何度脱線すれば気が済むのだろうな、こやつらは」


「愛。それは複雑なものなのさ。我が愛しの主よ」


「はあー」


「さてと。・・・・・ってか人間相手にやり過ぎだろ!!?」


「おじさん、我に返る」


 どう考えてもさっきの攻撃、ヒメの滅多切りの時点で勝負がついてた。オーバーキルにもほどがある。


「あ、オーマ、盗賊さんたちはお金をたくさん持ってるみたいです。拾いましょう」


「それ拾うって言わない!」


 その後、ヒメの説得の甲斐あって俺は盗賊たちの懐から所持金を抜き取っていった。


「許せよ・・・」


「アウトですよ。アウトレイジですよ」


 何でもこの国では法律を破った者は大人子供罪状関わらず法の外に置かれるらしい。法の外にあれば当然犯罪から守られることはない。信じられるのは自分の力だけだ。だからこそこうして力で打ち破り、被害を与えることは犯罪の根本的抑止力になるということだった。殺すことすらも。結構壮絶だ。


 ちなみに俺たちに盗みを働いたたまちゃんはと言うと俺が許したから大丈夫らしい。許されない罪人はその罪状に応じて、名がぬすっととか盗賊とか追い剥ぎとかになるらしい・・・盗みしか例がないのか。そして何故素直に名乗ってしまうのか。相変わらず不思議が絶えない。


 とすると、あの時ぬすっとと名付けようとしたヒメはもしかしなくても怒っていたのではないだろうか。


「2000Gっと・・・・結構、多いな。よし、盗賊狩りするか」


「おー」


 金貨があらかじめ袋に分けられているというのは集めやすくいていい。


「おじさんが悪の道へ・・・」


「勇者の道と言ってください」






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