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第四話 黒の剣

 再び戦闘。



「せいっ」


――角イノシシ(薬)に3のダメージ!


「てりゃ!」


――角イノシシ(薬)に4のダメージ!


「とおりゃああ!!!」


――角イノシシ(薬)に1のダメージ!


「何だこれ!?滅茶苦茶強くないか!?」


「さっきのよりは弱いっすよ~」


――角イノシシ(薬)の突進!


――オーマは防御した!


「ぐおおおお!!?」


――オーマに72のダメージ


「いやだって、めっちゃ速いし、防御してんのに一発で視界が真っ赤なんだが!?てか死ぬ、死ぬ!早く回復!」


「はいはいー『ヒール』~」


 おだやかに、少し楽しそうにシャルが回復魔法を唱え、同時に視界がまともになる。視界が赤いって結構焦る。


「『炎撃』!!」


――オーマは魔法を使えない


「・・・・なんで!?」


「オーマー、このタイミングで何ですけど剣の指導して良いですか?」


「本当に何でこのタイミング!?」


 角イノシシ(薬)の突撃を避けて魔法を撃とうとするも、不発。勝つためには敵の攻撃を全て躱してただひたすら一桁しか効かない物理攻撃を当てていくしかない。他のやつらは俺の経験値を集めるためと戦闘には不参加。やるしかないと集中力を高めているところにヒメの一声である。


「聞いてくれたら確実に勝てますよ」


「ばっちこーい!」


「そういう現金なところも好きですよ」


「扱いやすくて?」


「否定はしません」


 リーナの相の手を否定しないヒメ。ちなみにリーナはちゃっかりとヒメの頭の上にいる。あんにゃろう。


「何でもいいからさっさと教えろ!」


「認めたか」


「自然な命令に感激です。それはさておき、まず、転職したことによって全てのスキルがいったん解除されています。スキルの付け替えは戦闘中でも出来るので剣術スキルと魔法スキルを落ち着いてセットしてください」


「セットって何だよ・・・・てか戦闘前に言ってくれよ」


「ちゃんと相手さんも待ってくれてるっすから」


――角イノシシ(薬)はようすを窺っている。


「何で待ってくれるんだよこの畜生は」


 スキル

オーマ

①剣術スキル

②魔法スキル


おっちゃんスキル



「はい、できたぞ」


 仕組みは分からないがもうこの程度お手の物である。便利でさえあれば人間仕組みなど二の次だ。


「あとはインスピレーションです」


「急にざっくりするな」


 魔法さえ使えれば勝てると思うけども。


「剣に魔法を纏わせるイメージで魔力をこめてください」


「んー?」


 とりあえず『炎撃』をイメージ。それを剣に纏わせる・・・。


ぼお!


「お、なんか剣が燃えてる」


 聖剣が炎のように赤々と輝いている。事実として炎が燃え上がっている。剣身が溶けたりしないのか。いちいちそういう所を心配する俺は小心者なのだろうか。


「それが魔法を剣にこめる『纏い』という剣術スキルです。魔法剣士としての主軸です。では早速、斬っちゃってください」


 目的語が抜けているが斬る相手は一匹しかいないので言われた通り、炎を纏った剣を手に踏み出す。心なしか目の前のイノシシの眼が潤んでいる気がする。そう言えば最近の魔物は逃げてくれない。逃げないのなら手を下すしかない。


「我が手に集え、魔の黒炎」


 口が勝手に動く。手が勝手に燃え盛っているはずの剣身をなぞる。それを自覚した時には炎の剣は赤から黒へと衝撃の変化を遂げていた。


「『黒炎斬』」


 横一閃。軽く振っただけの剣があっさりと敵を真っ二つに切り裂く。


――角イノシシ(薬)に999のダメージ!


――角イノシシ(薬)を倒した。


「なん・・・だ?今の」


――910の経験値を得た!


――オーマはレベルアップした!


――真っ黒焦げ肉を手に入れた!



 流れるレベルアップ報告を流しながら、やった自分が一番驚くのも今や風物詩。だが、今のそれはあまりに禍々しすぎた。


「属性変化・・・・しかも闇か」


 たまちゃんが感心したという風貌で目を見開いていた。


「オーマも結構な規格外だと思うんですよ」


 そういうヒメの表情は曇りのない笑顔だった。どこか自慢するような趣き。それに少し安堵する。ヤバいものを出してしまったのかとも思ったがあの表情を見るに化物扱いは避けられるらしかった。


「・・・・・・・」


 ただ、シャルは厳しい目をしていた。


「あー。シャル、やっぱまずいか?今の」


「あ、いえ。闇属性が得意な魔法使いもいないわけでは無いっす」


「へえ、そんなやつもいるのか、良かった良かった」


「・・・・・・・」


「こんな風に『纏い』は攻撃力だけでなく魔力も技の威力に含まれます。オーマには最適のスキルですね」


「まあ、確かにな」


「さあ、じゃんじゃん倒しておっちゃんを極めましょう!」


「おっちゃん極めて何になるんだよ」


「私の役目あんまりないですね」


「しっかりしろアドバイザー」






「皆は転職はしたことあるのか?」


「私は無いです」


「同じくないでーす」


 ヒメと、再びオーマの頭の上に戻って来たリーナが答える。


「僕は生まれたときから愛の戦士だった」


「我も生まれたときから使者であった」


「下手な嘘を・・・」


 あまりにも下手過ぎて追及する気が失せるあたり狙い通りかもしれないのだが。


「シャルは?」


「うちは、賢者とか僧侶とかそのへんいろいろっす・・・」


 よくわからない俺がいうことではないが、凄いのではないだろうか。


「この中じゃ、シャルが一番経験豊かってことか」


「でもそれなら賢者とかの方が単純に優れていると思いますけど、魔法使いでいるのは何故ですか?」


「あ・・・」


 ヒメの疑問に並んで歩いていたシャルがふと動きを止める。シャルの特徴的な一本だけ跳ねた髪がぴんと立った。


「シャル?」


 その様子に気づいたのは話しかけていたヒメ。シャルを背にしていた俺はヒメの言葉で初めて気づく。


「あー・・・・。オーマ様、強くなったすよね・・・・。もううちの力は必要ないっす。じゃあここからは別行動ということで」


「は?」


 そう言ってシャルは今まで見つけてきた目印とは全く逆方向に歩き始める。


――シャルがパーティを抜けた。


 そんなあっさり。理由はなんだ?今弱くなったばっかりなんだが?


「待て。変なことを言って悪かった。俺たちにはお前が必要だ。行くな!シャル!」


「・・・・・・・・・」


 シャルは俺の制止を無視してずんずん進んでいってしまう。唯一の良心が。


「なんだ、仲間割れか?」


 たまちゃんが面倒さを隠そうともせず、億劫に尋ねてくる。徒歩の疲れが出ているらしい。


「愛が足りなかったんじゃないかい?」


「愛がほしいのか!?愛ならくれてやる!戻ってこいシャルー!」


 その俺の渾身の制止が効いたのかシャルが足を止め振り返る。そして右手を突き出し手のひらを開く。


「『大魔球』」


 ゴオオォォォォ!!!!


「攻撃してきた!!!?」


「てい」


 ヒメが俺の前に立ち、大魔球を両断する。


 俺たちを避けるように分断され、それは爆炎を森の中に巻き起こす。しかし木々に火は広がることはなく、間もなく鎮火する。魔法の類は地形に影響しない。これまた変な理である。


 魔法の残滓すら消え去った時、シャルは姿を消していた。


「反抗期か?」


 振り返った時のおっちゃんを見つめる冷たい視線。思い出すだけでもぞっとするぜ。


「そうかもですね」


 ヒメが適当に肯定する。


「いきなりだな。年頃の娘は何を考えてるんだ」


「おじさんのそのお父さん目線は何なんですか」


 頭の上でリーナが呆れた様に言う。さっきまでさんざんおっちゃん呼ばわりして来たくせに。


「年齢的には親世代ぐらいなんじゃないか?」


「でも年齢も覚えてないんですよね?」


「まあな」


「ということは私より年下ということも当然ありえるわけで」


 ヒメが賛同できないことを言ってくる。


「それは・・・・・・・・ないだろ」


「何でですか?」


「お前が年上とか考えられない」


「むー」


「つまり姪ポジションの私の勝利ですか?」


「どんな論理だ」


「話しているところ悪いのだが、彼女は追わなくていいのかい?」


「おっと、そうだった。シャルを追うぞ」


「何でですか?」


 ヒメのあまりにもあんまりな返答に俺は驚く。


「心配じゃないのか?」


「・・・オーマは少しシャルを舐めすぎてませんか?あるいは女性をか弱いものだと勘違いしていませんか?」


「・・・・・・・・」


「そういう所あるみたいですね、おじさんは。女性だから助けないといけないとか、守ってやらないととか。私が男だったらあんな風に必死になってくれましたか?」


「・・・勘違いなのか?」


 リーナの問いには答えず、改めて尋ねる。そう言う部分があることは否定しない。男を進んで護りたいとも思わない。


「勘違いじゃないと思いますか?」


 ヒメが言う。あのヒメがである。説得力が半端ない。


「オーマのそういう所、私あまり好きじゃないです。対等に見てほしいです」


 対等。何をもって対等と言うのか。立場?知識?レベル?能力?年齢?・・・全部負けてる気がする。・・・・ヒメに対して、年齢ですら年齢不詳じゃ勝てない。劣等感が凄い。


「もしかして、ここの常識的には・・・・女の方が強いのか?」


 その疑問に答えたのはたまちゃんだった。


「平等だ。あくまで平等。どちらが上とか、適しているとかは成長後に決まる。過程で比べることに意味は無い。更に言うなら違うものに優劣をつける意味も無い。一長一短だからな。二つの意味で、男だからとか女だからという考えは」


「エゴです」


「だがしかーし!!エゴでもそこに愛があれば!!それは美しい思いやりとなる。そう、それはただ大切な人を―――」


「リンさんは少し黙っていてくれますか?」


「そこに・・・・愛はあるのかい?」


「今は無いです」


「ふっ、刃のような君も素敵だよ」


「どうでもいいですが、シャルって人は追わないということで決定ですか?」


 頭の上でリーナが聞く。アドバイザーの役目をこなしているのか話を戻してくれた。


「あー・・・。ヒメの意見では心配いらないってことで良いのか?」


「心配です・・・。わたしの質問が悪かったのでしょうか」


 ヒメの意見が逆転していた。


「・・・・・今の流れはなんだったんだ?」


「反抗期を演じてみました。愛をくれるというので」


「いらんことをするな」


「おじさんぷんぷんだぜ」


 変な声真似をいれるなリーナ。


 人が増えると会話が長くなっていけない。


「シャルを追うぞ」


「「はーい」」


 ヒメとリーナが元気に返事をした。


 頭痛の種が二倍になってないだろうか。





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