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第三話 成長

「リン!そっち行ったぞ!」


 森の中。オーマの発動した魔法が魔物に直撃する。続けて放たれる聖剣による追撃。それを厭ったのか、魔物はオーマから逃げ出すように向きを変え猛進する。向かう先にはリンがいた。


「かかってくるがいい!君たちの愛!見せてもらおう!」


 リンは脇目にそれを把握し、細剣を構え迎え撃とうとする。


「リンさん!そっちに行きました!」


 ヒメの方でも同様のことが起こったらしい。ヒメが受け持っていた複数体のイノシシ―――というより群れそのもの―――から二体のイノシシがリンへと向かっている。もともとリンにまとわりついていた二体を足して合計五体のイノシシに迫られているリン。猪にあるはずのない魔物の証左である鋭利な角が今にもリンを貫かんと迫る。


「任せてくれたまえ!ぼくがすべて受け止めて見せる!」


 その言葉を信用したわけではないが前に出ていたオーマはいったん後衛へと下がる。


「見事に全部引きつけてるっすね・・・」


 何とも言えぬ様子でリンの方を見ていたシャルが同意を求めるようにつぶやく。その足元には赤い魔法陣が煌々と自らの存在を示していた。詠唱中なのだが、声をかけてくるということはそれだけ余裕があるのだと判断する。


「あいつやたらと掛け声出しまくるんだがなんか意味あるのか?」


「そうっすね、例えば、最初の――」


――行こう!愛を奏でるために!


「――は全体の攻撃力が上がってたっす」


「ああ、それは表示されてたな」


――オーマの攻撃力が上昇した!


――ヒメの攻撃力が上昇した!


――シャルの攻撃力が上昇した!


――リンの攻撃力が上昇した!


 みたいな感じで。多分怒りとかイラつきとかが上昇の理由。


 その後のいくつかの大げさなセリフも魔力が上がったり防御力が上がったりしていた。


「でも今のは何も変化はないぞ」


「多分見えないところで効果があるんすね。多分」


 多分、二回言ったぞ。


「多分すけど、多分敵を挑発してターゲットを自分に集める的なことをしているんだと思うっす、多分」


「自信なさすぎだろ」


 つまり、味方だけではなく敵まで怒らせているのだろうか。自業自得ということか。


「愚かなる獣に降り注げ、火地の鉄槌!『ボルケイノ』!!」


 話しながら、機と見て発動したシャルの魔法はヒメが食い止めていたイノシシの群れに、火山弾のごとく降り注ぐ。それに抗う術を持たずイノシシは次々と倒れ伏していく。


「流石っすね・・・」


「何が?」


 タイミング的に一瞬、自魔自賛かと思ってしまったがそうではないらしい。


「味方全体のステータス補助、敵全体へのアピール。そんな芸当を接近戦をこなしながら出来るのは、戦士の中でもかなり上位、聖騎士クラスっすよ」


「それはおかしい」


「へ?」


 あいつがそんなに凄いわけがない。


「・・・考察するのは構わないが鈴が一方的にやられているのだが」


 そう告げる非戦闘員たまちゃんの言葉にリンの方を改めて見る。


「ふっ」

「はっ」

「この程度!」

「あぐ!」

「ぐ、ここまでやるとは・・・」


 なんかぼろぼろになっている。輝くようだった金髪がすすけている。


「だから何であいつは反撃しないんだ」


「・・・・鈴は危機にあって真の力を発揮する」


「普通の戦闘でピンチになるなよ」


「我に言うな。あやつの戦闘理念だ」


 仕方なしに援護に向かおうとしたところで、ぴこーんという音が聞こえた。それを機に防戦一方だったリンが生き生きとする。


「この時を・・・この時を待っていた―――!」


「『秘剣乱舞』!!」


―――角イノシシ(親)に999のダメージ!

―――角イノシシ(親)を倒した!


―――角イノシシ(人)に999のダメージ!

―――角イノシシ(人)を倒した!


―――角イノシシ(中)に999のダメージ!

―――角イノシシ(中)を倒した!


―――角イノシシ(ここに入る一字を答えよ)に999のダメージ!

―――角イノシシ(ここに入る一字を答えよ)を倒した!


―――角イノシシ(小)に999のダメージ!

―――角イノシシ(小)を倒した!


 だが心配したのも束の間、一瞬でイノシシが全滅する。


「おお、すごい」


 これがピンチの時に発揮されるというリンの実力。


「オーマ!倒しました!褒めてください!」


 ではなくヒメの実力。


「お前が倒したんだな」


 相変わらずうちのヒメはとんでもないぜ。


「愛の剣、いまだ抜くには至らぬようだ」


「なんか勝ち台詞言ってるっすけど」




 どうでもいいが、リンは戦闘では金髪のかつらをかぶらないと気が済まないらしかった。


「そう言えばバラは良いんですか?」


 シャルからの回復を受けているリンに向かってヒメが尋ねる。


「どこかで落としたようでね。期待に沿えず申し訳ない」


「あ、期待とかは全くしてないです」


「そうかい?」


 ヒメは金髪リンに対しては態度を改めず冷たい。それでも普通に会話する程度には距離は縮まっているが、それらすべてがかつらを取りさえすれば解決するのになぜかリンは外そうとしない。どう考えても、今友達が出来ない理由はそこに在る。


 ただ、かつらを外している間ぶれぶれだったキャラがかつらを被ることによって定まった気がする。やっぱりあいつはこうでないと、などと思っているあたり俺は毒されているのかもしれない。





「それにしてもいきなりだったな」


 聖剣を鞘に納め一息つく。森の中に足を踏み入れた途端、イノシシの群れが迫って来た。まるで森に踏み入れるものを排除しようとするかのように。


「なんというか・・・・今の敵、いつもよりタフだったというか、強かった気がするっす」


 何か感じるものがあるのはシャルも同じだったのか、かすかに首をかしげている。


「前に戦ったことがあるのか?」


「この森にはよく来るっすからね。素材集めとか」


「ふーん。何で強くなってたんだろうな」


「オーマ様の魔力に中てられたんじゃないっすか?」


「倒せたのならさっさと進むぞ。のんびりしている暇はない」


 話している俺たちに焦れた様にたまちゃんが急かしてくる。そんな彼は戦闘では後ろで見てるだけだ。


「はいはい。じゃあ行きますか」


 戦えないやつに戦えと言うのも筋違いだ。他の部分で役立ってもらえばいい。


 たまちゃんの意見に特に異論のなかったオーマは再び足を森の奥へと向けた。








「ところで、オーマ様」


「ん?」


 いつものようにすり寄って来たヒメを歩きながら撫でてやっていると、シャルがふと思い立ったと言う様に声をかけてくる。


「なんか強くなってないっすか?」


「俺がか?それともヒメがか?」


「オーマ様がっすよ。そもそもヒメ様はこれ以上強くならない―――――はずっす」


「この歳で成長の見込みなしは悲しいものがあります。あれ、私どうやったら強くなるんでしょう?」


「そういや、結構レベルアップしてたしな」


 ヒメの疑問に答えを持たない俺は聞かなかったことにするしかない。ステータスでも見てみるか。



オーマ


 職業: 勇者●●

 Lv:   78


HP:   588

MP:   970


攻撃力:  687

防御力:  402

魔力 :  999

精神力:  587

素早さ:  377

器用さ:  128

幸運 : -999


経験値:5767152

次のLvまで:78127



 78レベル。いつの間にかいっぱしのとこまで来てしまっている。まだまだ初心者の心づもりなのだが。そこまでの経験をしてきただろうか。してきたか・・・。経験に貪欲と言うか、珍しい経験ならなんでもかんでも経験値に換えてきたのだろう。



ヒメ


 職業:   王女

 Lv:   99


HP:   999

MP:   969


攻撃力:  999

防御力:  999

魔力 :  512

精神力:  534

素早さ:  999

器用さ:  999

幸運 :  999


経験値:116733595

次のLvまで:―



 はい。・・・・・・・はい。俺が言う事なんて何もないです。



シャル


 職業: 魔法使い

 Lv:   55


HP:   232

MP:   603


攻撃力:  189

防御力:  359

魔力 :  592

精神力:  360

素早さ:  132

器用さ:  153

幸運 :   74


経験値:527090

次のLvまで:1965



 シャルはこんな所でも落ち着かせてくれるな・・・。



リン


 職業: 愛の戦士

 Lv:   53


HP:   378

MP:    80


攻撃力:  264

防御力:  999

魔力 :   21

精神力:  964

素早さ:  232

器用さ:  253

幸運 :  174


経験値:470000

次のLvまで:9068



 リン。ステータスで判断するなら防御特化の近接タイプといったところ。先ほどの戦い方からも、それを察することが出来る。その上味方のサポートもする。もしかしなくても凄いのかもしれない愛の戦士。なりたいとは思わないけども。



たまちゃん


 職業:   使者

 Lv:   10


HP:   100

MP:     0



 ふむふむ。まあ、戦わないしな。

 初期の俺よりHPがあるのが気に食わないが。



リーナ


 職業:アドバイザ

 Lv:   10


HP:   100

MP:     0



 ちょっと待て。




「リーナが、この中にいる!」


「何を今更」


「今更っすね」


 叫んだオーマに返って来たのヒメとシャルの冷静な言葉だった。


「リーナ君?」


 リンが首をかしげる。どこにいるのかと。


「今更って何だ?知ってたのか?」


「オーマ、頭にリーナちゃん・・・ついてますよ」


「・・・・・・」


 言われてオーマは自分の頭に手をやる。


ぷにゃ


 変な感触がした。変な感触がした。


 オーマは手に触れた何かを掴み目の前に運ぼうとする。が。


ぐぐっ


 髪の毛が引っ張られる。どうやらその何かはオーマの髪の毛を掴み抵抗しているらしい。だが、それも一時、しばらく拮抗しているとずずずとその何かはオーマの頭から引き離された。


「アーレー」


 オーマは自分の目の前の自分の手で鷲掴みにされたものを見る。


 ヒメに譲られた犬の着ぐるみを身に纏ったリーナ、その小型バージョンだった。いぬかわいい。


 目が合ったリーナはにこりと笑みを浮かべる。


「おい、家で寝てろって言ったよな」


「本体はちゃんと寝てますよ?今も夢の中です」


 返ってきたのは小さく甲高い声。体が縮んで声が変質しているのか。その言葉から察するにおそらくこのリーナは俺の分身と同系統のもの。


「いつからだ」


「?」


「いつから俺の頭の上にいた!」


「宿屋で話し合っているときに急に現れたっすね。オーマ様の頭の上に」


「何で教えなかった」


「気付いた上で無視しているのかと」


「ヒメは?」


「しーってされちゃいまして」


「お前らは!?」


 さらに尋ねる。相手はリンとたまちゃん。


「ファッションかと思った」


「服装の一種だろう」


「頭の上にこんな人形乗っけてるのが服装どうこうで済んでたまるか!!」


「人形じゃなくて霊体ですよ」


「・・・・・触れてるけど」


「おじさんに触れてほしいという乙女心です」


 そう言うとリーナ(小)は透過してオーマの手をすり抜けふよふよと空中を浮遊し、オーマに着頭した。


「皆に見えてるのは?」


「見えなかったら今頃おじさん変な人ですよ?」


「今までだんまりだったのは」


「いつまで気づかないものかな~と」


「はあー」


「まあまあ、世間知らずなお嬢様に外の世界を見せてあげるぐらいの気持ちで行きましょう」


「お前が言うな。・・・・・ちゃんとお前の体は休めてるんだよな」


「はい。それはもう、いい夢見れてますから」




 そうして、同行者が一人増えた。増えていた。


「リーナ君にはどこか近しいものを感じるよ」


「あまり感じてほしくないです。女装癖とでも思ってるんでしょうか」


「私とは決闘したくせにリーナちゃんにはあっさり許可するんですね」


「本体じゃないなら危険はないだろ。それにしてもいつの間にか大所帯だな」



◎○






 何故かやはり一列になって森の中を進む。さっきまで見渡す限り平原だったはずなのに、何故今森の中にいるのか。森に入ったからである。


『迷えずの森』


 俺たちの新たな目的地、ミツメの町へ向かう道中に立ちふさがる広大な森。準備無く挑めばあっという間に旅人の方向感覚を狂わせ、その胃袋へと誘いそうな深い森。なのに名前は迷えずの森。


 何故迷わないのか。


「蝶がこっちに飛んでます」

「木に目印がついてるっす」

「きのこがこっちに集中しているようだね」

「蒼い花があるな」


 目印が大量にあるからである。同じ方向に。


「楽できますね」


 働かないアドバイザーが俺の頭の上で楽している。


「先人は偉大だな・・・」


 目的地に着かない限り迷ってはいないとは言い切れないのだが、多分迷ってない。




 完全に話の腰を折られたが、ステータスへのコメントは・・・・もういいか、って訳にもいかないか。


「シャル、実はな」


「・・・・?なんすか?」


「俺はお前より強い」


「・・・・・・・・・・・ほう。・・・・・・・・・」


「レベル的にな!実力で勝ってるとは思ってないから!」


 シャルの目がすっと細まる。いちいちこういう挙措に威厳が感じられるから侮れない。


「なら、転職してみるっすか?」


「て、転職?」


「丁度さっき転職アイテムが手に入ったところっすから、試しにやってみるのもいいかもしれないっすね」


「嫌な予感がするので却下だ」


 ついさっき手に入ったばかりの『おっちゃんのランニングシャツ』が頭をよぎる。


「まずはメニュー欄を開いてください」


 ヒメが早速とばかりに進めようとしてくる。多分、転職の流れ。


「ヒメ、俺が『おっちゃん』になっても何とも思わないのか?というか最近俺の意思を無視し過ぎじゃないか?」


「全部オーマのためです。オーマのためならオーマに嫌われようと汚れ役だろうとやってみせます」


「俺はやるなと言いたいんだがな。俺はお前に輝いていてほしいんだ」


「何かにつけ心配してくれる。そんなオーマが大好きです」


「私も好きです」


 どこか二人、似ているものがあると思ったらこういう好意を隠さないところか。案外ヒメがリーナを過剰に可愛がらないのは同族嫌悪とか牽制とかだったりするのかもしれない。


「じゃあ、メニューから職業を選んでください」


「進めるな!勝手にメニュー欄を開くな!」


 左上の方に現れる何かのスペース。「話す」やら「アイテム」やら「ステータス」やら示されている。言われた「職業」もある。だが俺はその一覧を意志の力で消そうとする。おっちゃんなんかになってたまるか。


「・・・ってあれ消せない?」


 消せなかった。


「『職業』を選んでください」


「あ・・・・はい」


 察した。またこのパターン。王の力はヒメの力でもあったのか。


職業欄

・勇者

・おっちゃん

・?????

・?????

・?????



「『おっちゃん』を選んでください」


「嫌だー。おっちゃんは嫌だー」


「中身は変わりませんから」


「外見変わるのかよ!」


『おっちゃん』

☑必要レベル・・・勇者Lv10


☑必要G・・・・0G


「各職業のレベルとお金が足りれば転職可能です。今回は勇者レベル10と0Gを満たしているので転職可能ですね。職業によってはそれ以外に必要な条件があるものもあります。頑張って上の職業を目指しましょう!」


「嫌だー。おっちゃんの上は目指したくないー」


――『おっちゃん』に転職しますか?


→はい

 いいえ


「では決定してください」


「あああああああ」


――オーマは『おっちゃん』に転職した!


――レベルが1に戻った!


――おっちゃん技、『おやじギャグ』を覚えた!




 ランニングシャツ。おっちゃんというより若気の至りと言うか。森の空気が肌寒い。


「転職・・・しようと思うんだ」


「とりあえず10レベルまで頑張ってください」


「くそう・・・」


「これで晴れておっちゃんおじさんとなったわけですね」


「転職の大変さはうちもよくわかってるっすから、頑張るっすよ」


 親身になってくれているようでシャルの口は緩んでいた。こうなること分かってやりやがったな。


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