2つの自分
私の名は神崎 麗。
中学3年生である。
これは私が小3の時の出来事。
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クラスの女子達の間で「はないちもんめ」が流行っていた。
人見知りな性格の私には、友達なんかいなかった。
はないちもんめなんかしたことも無かった。
女子達が楽しんでいるのをただ見るだけだった。
ある日
クラスの人気女子、風見 香奈(人気女子という立場のヤツはどうも苦手だ)
が突然話しかけてきた。
「麗ちゃん、はないちもんめやらない?麗ちゃんいっつも独りじゃん。やろうよー。」
(偽善者感バリバリだよバカ。気安く名前で呼ぶな。
「遠慮しときます。この本読んでるほうが楽しいので。」
と、言ってみると風見はイラッとした顔を一瞬した後、貼り付いたような
笑顔になった。
出た。一番キライな顔だ。
「いいじゃん。たまにはさぁ、ほら、ね?やるよ!」
そう言うと風見は無理矢理私を女子の列へとひきずっていった。
私に有無を言わせることなくはないちもんめは始まった。
最初に私のチームからいなくなったのはやはり風見だった。
風見は繰り返しチームを行ったり来たりで引っ張りダコだった。
しばらくやっているととうとう残りは私だけになった。
やはりこういうゲームは人気のあるヤツからいなくなって
私みたいなのはあまり者になるのがオチだ。
結局これはある意味クラスの人気投票のようなものだったのだ。
最後に残った私を見て風見が言う。
「ねぇどうする?麗ちゃんのこっちゃったねぇー。別に麗ちゃんなんか
いらないし、何の得もしないからいいよね?ほかの遊びにしようよ。」
だと思った。風見はこうして私をクラスからのけ者にしたかったんだ。
そして翌日以降からクラスでの私へのいじめはエスカレートしていった。
それは中学に入っても規模を小さくしてでも続いた。
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そして現在。
いじめが続くなか、唯一そばにいてくれて、私の気持ちを解ってくれる存在が出来た。
彼氏というものが人生ではじめてできた。
まず人を好きになるという経験をしたことがない私には新鮮、嬉しいというよりも
自分がこんな感情をもっていたことへの驚きのほうが大きかった。
その人は東田 十貴。
東田もいじめにあったことがあるらしく、私の気持ちをよく解ってくれた。
またそれが私にとっての支えにもなっていた。
趣味もほぼ同じ。話が合う。そしてなにより・・・
彼のもつ優しさは特別に思えていた。
以来、私は空白を埋めるかのように幸せな時間を過ごすことが出来た。
しかし、どんな出会いにも別れはつき物だった。
実は、東田と私は部活内では先輩と後輩。
3年である私は部活を引退することになってしまった。
引退してしまうと東田に会えなくなる。そうなってしまうと、私の心のよりどころは
なくなってしまう。
不安になった私の心の内には黒い霧のようなものが覆いかぶさってゆく。
曇った鏡の曇りはなかなかとれない。同じように、その黒い霧もまた、とれなかった。
こんなにツライ思いをするのなら、心が痛むのなら、いっそあの人を
私の物にしてしまおう・・・。
そうすればきっと、ずっと一緒にいられる。
もう、苦しまなくて良くなるんだ・・・。
私の物・・・。
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翌日。東田を夜のきもだめしに誘った。2人で逝こうと・・・。
私たちは廃墟へと向かった。彼はここがどうなる場所であるかしらぬまま。
「東田・・・。怖い?」
「うん。まぁ。でも麗を守るよ。」
「一番怖がるべき者が何か知ってる?」
「何?」
「私よ・・・。お願い!私から逃げて!」
忘れてた。私にはもう一人人格があったっけ。
肝心な時に・・・。
「ごめん。何言ってるのか俺にはさっぱり・・・」
「逃げなくていいのよ。こっちに来てよ・・・。不安になるじゃないの・・・」
彼がこっちへ足を進めた瞬間、私は彼の頭を殴り、気絶させた。
適当にあった椅子へ縛り付けた。1時間たったところで目が覚めたようだ。
「r・・れ、麗・・・・。」
「東田・・・アナタは私の物・・・。もうどこへも生かせないわ・・・。」
「何する気だ・・・」
「東田・・・一緒に逝きましょうよ。地獄へ・・・。
そして一緒に苦しみましょうよ・・・。ね?いいでしょう?アナタは
私のことが好きで好きでたまらないのよね?我慢できないほど、愛してるわよね。
あなたが他の子としゃべってる時の・・・私の気持ち分かる・・・?
すごく・・・殺したくなるの。その子たちを。でもあなたを殺せば、あなたは私の物になる・・・。
あなたもソレを望んでくれているのでしょう?なら、ずっと一緒になればいい・・・。
私のこと好きでいてくれているのならば・・・お願いだから殺させて・・・。」
「俺は・・・死にたくない。助けてくれ・・・」
私は自分の中のもう一人が出てこないうちに行動する必要があった。
彼の後頭部をおもいきり殴る。ナイフでじわじわ傷をつけていく。
彼から血が溢れてくる。彼が叫ぶ。それがまた、私に快感を与える。
近いのに遠い存在に思えた東田が今、私の好きなようにされている・・・。
こんなにも苦しんで、こんなにも私のことを見てくれている。
たまらなかった。止まれなかった。もう、後戻りは出来ない。彼の息も小さくなっていく・・・。
そろそろ自分も逝こうとした瞬間、アイツが出てきた。
(もう・・・やめて・・・お願いだから。これ以上自分を壊さないで・・・。
私はもう一人のあなたなんかじゃない。私は天使として悪魔のとりついてしまったあなたを救うために
中に入ったの。今のあなたは大半が悪魔に支配されているわ。今あなたが自分の罪を悔やめば助かるわ。
東田さんを助けることも出来るかもしれないわ。好きなんでしょう?
だったら、善を選ぶの。そしたらあなたか、東田さんのどちらかは確実に助かると保障するわ。)
そ・・・ソレは本当なの?私が悪魔?私はどうすれば・・・。
(くそ。バレたらしかたがねぇじゃねぇか。良かろう。私が天使よりもいい条件をだしてやる。)
何よ、条件って。
(死んでから地獄に来るというのなら、生きてる間は2人は絶対に離れない。人生をともにできるというわけだ。どうだ、いい条件だろう?)
(騙されてはダメよ!そんなの信用できないわ!)
ねぇ。天使。善を選べば、2人とも天国にいけるの?
(ええ。出来るわ。)
なら、決まりだ。善を選ぶ。しかし助かるのは私。いいわね?
(・・・分かったわ。いいのね、東田さんが死んでも。)
いいわよ?こっちにも考えがあるから。
その瞬間、東田の息の根は止まった。
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翌日、私はひきだしの中のナイフセットを取り出し、自分の手首を切った。
部屋の中には私の鮮血が飛び散る。何故かそれが凄く綺麗に見えた。
意識は途絶え、見渡す限りの明るい、真っ白な光景が広がっていた。
音も風もない。ただ、東田 十貴がそこに立っていた。