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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
8/73

四九〇〇京分の一のキセキ

「ぼくと君が出逢う確率は、七〇億分の一かける七〇億分の一、つまり四九〇〇京分の一なんだよね。ちなみに、京は兆の次の単位」

「へえ、それで?」


 最初の一文だけなら、それはとても素敵な確率の話だ。

 だけど、ぼくはそんな話に興味はないので、ばっさりと切ってやった。


「君はつまらないなあ。四九〇〇京分の一だよ? キセキだと思わない?」

「よく考えればわかりそうなことじゃないか」


 そう言って再度話を切ると、彼はすねたように口を尖らせた。


「つまらない。実につまらないよ、君。『四九〇〇京分の一なんてキセキじゃないか!』くらい言ってみようよ」

「ぼくがそんなことを言うと思う?」

「本当につまらないなあ、君は」


 それはどうも、と返すと、彼はそっぽを向いて何やらぶつぶつとつぶやき始めた。どうやら彼は、意外と根に持つタイプだったらしい。


「じゃあ、君はキセキだと思っているの?」


 ぼくがそう聞くと、彼はぱあっとカオを輝かせて、嬉しそうにこちらを向いた。うん、実にわかりやすい。


「もちろん! 四九〇〇京分の一だよ? 途方もない数字じゃないか!」


 彼は陶酔したように熱く語る。


「さっきからその数字にこだわっているようだけど、数なんて桁数を増やせば無限にあるだろう?」

「別に数字にこだわってるわけじゃないよ」

「じゃあ、」


 何で? と尋ねようとすると、待ちきれなかったらしい彼が先に話し始めた。


「だって、この世にはたくさんの人がいて、しかも一日に何人もの人と出逢っているでしょ? みんなはそれを当たり前だと思っている」

「まあ、それが当たり前だからね」

「でも、それを数字にしてみると、誰か一人と出逢う確率はゼロに近いんだよ。これが当たり前って、すごいことだと思わない?」


 そう言って、彼はにこり、と太陽のような笑顔をよこした。こういうときの彼はとても輝いている。


「ふぅん、そう」

「君、本当につまらないね」

「つまらなくて結構。でも、ぼくらがここに存在していることもキセキだとは思わないかい?」

「……君、本当に面白いね」


 それはどうも、とまた軽く流したが、彼はとても満足そうに笑っていた。


(君と出逢えたキセキに感謝しよう)




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