四九〇〇京分の一のキセキ
「ぼくと君が出逢う確率は、七〇億分の一かける七〇億分の一、つまり四九〇〇京分の一なんだよね。ちなみに、京は兆の次の単位」
「へえ、それで?」
最初の一文だけなら、それはとても素敵な確率の話だ。
だけど、ぼくはそんな話に興味はないので、ばっさりと切ってやった。
「君はつまらないなあ。四九〇〇京分の一だよ? キセキだと思わない?」
「よく考えればわかりそうなことじゃないか」
そう言って再度話を切ると、彼はすねたように口を尖らせた。
「つまらない。実につまらないよ、君。『四九〇〇京分の一なんてキセキじゃないか!』くらい言ってみようよ」
「ぼくがそんなことを言うと思う?」
「本当につまらないなあ、君は」
それはどうも、と返すと、彼はそっぽを向いて何やらぶつぶつとつぶやき始めた。どうやら彼は、意外と根に持つタイプだったらしい。
「じゃあ、君はキセキだと思っているの?」
ぼくがそう聞くと、彼はぱあっとカオを輝かせて、嬉しそうにこちらを向いた。うん、実にわかりやすい。
「もちろん! 四九〇〇京分の一だよ? 途方もない数字じゃないか!」
彼は陶酔したように熱く語る。
「さっきからその数字にこだわっているようだけど、数なんて桁数を増やせば無限にあるだろう?」
「別に数字にこだわってるわけじゃないよ」
「じゃあ、」
何で? と尋ねようとすると、待ちきれなかったらしい彼が先に話し始めた。
「だって、この世にはたくさんの人がいて、しかも一日に何人もの人と出逢っているでしょ? みんなはそれを当たり前だと思っている」
「まあ、それが当たり前だからね」
「でも、それを数字にしてみると、誰か一人と出逢う確率はゼロに近いんだよ。これが当たり前って、すごいことだと思わない?」
そう言って、彼はにこり、と太陽のような笑顔をよこした。こういうときの彼はとても輝いている。
「ふぅん、そう」
「君、本当につまらないね」
「つまらなくて結構。でも、ぼくらがここに存在していることもキセキだとは思わないかい?」
「……君、本当に面白いね」
それはどうも、とまた軽く流したが、彼はとても満足そうに笑っていた。
(君と出逢えたキセキに感謝しよう)