神様と死なない化け物(中編)
いきなりの核心を突いた質問に、ぼくの心臓はドクン、と大げさなくらいに跳ね上がる。反射的に眉毛がぴくりと動いてしまったものの、ぼくはあくまで冷静を装って口を開いた。
「……何の話かな」
「とぼけないでくださいよ。あなたの胸ぐらを掴んでいた彼は、あなたを殴ろうとした瞬間に倒れました。あなたは彼の脈を測り、鼓動も確認した。それなのに、どこにも通報する気配はなく、帰ろうとしました。そして、振り返って私の姿をとらえるまで、あなたのカオには笑みが浮かんでいた」
「ああ、そんなところから見ていたのかい? でも、それだけでぼくを犯人扱いするのはどうかな。面倒なことには巻きこまれたくないと思うのは当然だし、第一、ぼくはどうやって彼を殺したっていうんだい?」
「確かあなた、彼が死ぬ直前に右手を彼の胸のあたりに当てていましたよね。もしかしてそのときに毒でも注射したんじゃないかと思いましてね。この死体を解剖したら、何かわかるかもしれません」
へえ、さすが医者だ。確かにあの動作はそういうふうに見えなくもない。
だけど、それはまったくの不正解だ。むしろ、正解を一発で導き出せたのなら、それこそ驚きだろう。何故なら、
「残念だけど、この死体をくまなく調べても、ただの自然死でしかないよ」
「どうしてです?」
「だって、それがぼくの『能力』だからさ」
「……能力?」
「そう。君、ちょっとそのへんに隠れていてくれるかい? 今からそれを証明してあげるからさ」
訝しげなカオをしてこちらを見つめていた彼をその場に残し、ぼくは闇の中へと足を進める。数分後、ぼくは「君たちの仲間が倒れている」と適当なウソをついて、そのへんにいた不良を三人ほど連れて戻ってきた。しかし、当然彼らは死体の人物に見覚えなどなく、だまされたことに気付く。そして、一斉に振り向いてこちらに近づいてくると、真ん中の一人がぼくの胸ぐらを掴んできたではないか。
「テメェ、誰だよこれ。俺たちはこんなヤツ知らねぇぞ」
「ああ、そうだったんだ。ぼくには君たちみたいな人間はみんな同じに見えるんでね。てっきり仲間かと思ったんだよ」
「んだとコラ!」
そうして男が拳を振り上げた瞬間、ぼくは彼の胸にとんと指を突き立てて、静かにつぶやく。
「チェックメイト」
刹那、ぼくの胸ぐらを掴んでいた手の力が抜け、彼はドサリと倒れてしまった。そう、一人目の不良と同じように。
残りの二人は驚いてとっさに後ずさったものの、すぐに一方が懲りずにぼくの胸ぐらを掴んできた。これで本日三度目だ。面倒くさいことこの上ない。
「テメェ、何しやがっ……」
「チェックメイト」
やはり同じように指を突き立ててささやけば、そいつもドサリと崩れ落ちる。しゃがんで先に倒れたほうをゆすっていた最後の一人は気が弱いのか、もう一人が倒れたことに気がつくと、「ひっ」と悲鳴を上げて路地の奥のほうへ尻をついたまま後退し始めた。
ぼくはゆっくりと歩みを進め、そいつを逃げ場のないところまで追いこむ。壁を背にした不良はガタガタと震え、目には涙を浮かべていた。その間の距離が三メートルくらいになったところで足を止めると、後方で隠れていた彼をちらりと一瞥し、ふっと笑みをこぼす。
「さあ、よく見ておくといい。これがぼくの『能力』だよ」
「あ、あ、やめ……!」
ゆっくりと、銃に見立てた指を不良の心臓に向ける。そして、
「――チェックメイト」
高らかにそう告げれば、不良はビクンと肩を震わせたあと、ガクリと首を折り、動かなくなってしまった。
「ははっ、あははははっ」
高揚した気持ちを抑えられずに笑みがこぼれる。すると、白い影がすっと横切り、そのまま不良のほうに近づいていった。もちろん、それは彼だ。彼は不良の脈と鼓動がないのを確認したのかため息をついてすっと立ち上がると、何か言いたそうな表情でこちらを向いた。
「これは、すべてあなたがやったんですか?」
「そうさ。君も見ていただろう? ぼくは何の道具も使わずに彼らを殺したんだ。これがぼくの能力さ」
「能力、とは?」
まだ信じられないというようなカオをしている彼に向かって、ぼくはにやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべてやった。
「こうやって人の心臓に向かって指を立てて、チェックメイトって言うんだ。そうすればその人間の心臓は止まり、死ぬ。効力は半径三メートル前後ってところかな」
「まさか、そんなの」
「残念だけど、それが現実さ。ぼくはそういう能力を持った人間なんだ。そして、快楽殺人者でもあり――神でもある」




