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last Eden  作者: 久遠夏目
2012年
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始まりの放課後

「なあ」


 放課後の教室で二人きり。それがわたしにかけられた言葉だなんて、火を見るよりも明らかで。わたしは読んでいた本に視線を向けたまま、口を開いた。


「何?」

「すきなんだけど」

「何が?」

「お前が」


 その言葉に驚いてカオを上げれば、彼の顔はこちらを向いているものの、目はちらちらと泳いでいて、ほおはほんのりと赤く染まっていた。

 生まれて初めてされた告白。こういうとき、何と答えればいいのだろうか。


「そう」

「うん」


 ただ、それだけしか言えなかった。しかも、表情があまり顔に出ないものだから、かなりそっけない返事に聞こえてしまったことだろう。

 けれど、わたしは彼のことが嫌いなわけじゃないし、冷静ぶっているわけでもない。むしろ脳みそは沸騰寸前だ。そのせいで、本当に言いたいことが言えない。


「帰るか」


 すると、彼はこれ以上先が続かないと判断したのか、ガタ、と音を立てて、イスから立ち上がった。これまでのことがなかったことにされてしまうような気がして、急に胸に不安が押し寄せる。


「ねえ」

「何」


 慌てて引き止めれば、何にもなかったようなカオをして、彼が振り返る。きっとわたしはさっき、あんなカオをしていたのだろう。だったら謝るよ、ごめん。それから、


「わたしも、すきだよ」

「何が?」

「君が」


 そうだ、ごちゃごちゃ考えたって仕方ないじゃないか。言いたいことは、ただそれだけなのだから。

 しかし、彼は後頭部をがしがしと掻いたかと思うと、そのままうつむいてしまった。手は止まり、反応は何もない。もしかして、さっきの彼もこんな気持ち――不安、失望、それから、ほんのわずかな恐怖――だったのだろうか。今さらながら申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。

 どうしよう、と思っていると、彼が顔を上げた。そのほおはさっきよりも赤く染まっている気がする。


「手」

「て?」

「つなぐ?」

「……いいよ」


 そうして、どちらからともなく手を差し出し、きゅ、と握った。その瞬間、さっきの暗い気持ちは全部吹き飛んでしまった。うん、こんな始まりも悪くはないだろう。




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