始まりの放課後
「なあ」
放課後の教室で二人きり。それがわたしにかけられた言葉だなんて、火を見るよりも明らかで。わたしは読んでいた本に視線を向けたまま、口を開いた。
「何?」
「すきなんだけど」
「何が?」
「お前が」
その言葉に驚いてカオを上げれば、彼の顔はこちらを向いているものの、目はちらちらと泳いでいて、ほおはほんのりと赤く染まっていた。
生まれて初めてされた告白。こういうとき、何と答えればいいのだろうか。
「そう」
「うん」
ただ、それだけしか言えなかった。しかも、表情があまり顔に出ないものだから、かなりそっけない返事に聞こえてしまったことだろう。
けれど、わたしは彼のことが嫌いなわけじゃないし、冷静ぶっているわけでもない。むしろ脳みそは沸騰寸前だ。そのせいで、本当に言いたいことが言えない。
「帰るか」
すると、彼はこれ以上先が続かないと判断したのか、ガタ、と音を立てて、イスから立ち上がった。これまでのことがなかったことにされてしまうような気がして、急に胸に不安が押し寄せる。
「ねえ」
「何」
慌てて引き止めれば、何にもなかったようなカオをして、彼が振り返る。きっとわたしはさっき、あんなカオをしていたのだろう。だったら謝るよ、ごめん。それから、
「わたしも、すきだよ」
「何が?」
「君が」
そうだ、ごちゃごちゃ考えたって仕方ないじゃないか。言いたいことは、ただそれだけなのだから。
しかし、彼は後頭部をがしがしと掻いたかと思うと、そのままうつむいてしまった。手は止まり、反応は何もない。もしかして、さっきの彼もこんな気持ち――不安、失望、それから、ほんのわずかな恐怖――だったのだろうか。今さらながら申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。
どうしよう、と思っていると、彼が顔を上げた。そのほおはさっきよりも赤く染まっている気がする。
「手」
「て?」
「つなぐ?」
「……いいよ」
そうして、どちらからともなく手を差し出し、きゅ、と握った。その瞬間、さっきの暗い気持ちは全部吹き飛んでしまった。うん、こんな始まりも悪くはないだろう。




