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last Eden  作者: 久遠夏目
2012年
60/73

春の片隅で

「春ってさあ、死にたくならない?」

「は?」


 さらり、学校の近くで一緒に花見をしていた彼の突然すぎる上にわけのわからない言葉に、ぼくはマヌケな声を発することしかできなかった。


「何かさあ、春って寒かった冬が一転してあったかくなるじゃん? ぽかぽかして気持ちよくってさ」

「だったら、死にたくなる理由なんてないと思うけど」

「ううん、だからだよ」

「は?」


 またしてもマヌケな声がこぼれてしまったが、彼の思考は理解しがたいことが多すぎるのだ。だから、と言われても、何が「だから」なのかわからない。


「意味がわからないんだけど」

「だからね、春はすごく気持ちがいいだろう? だから、こんな良き日にぽっくり死んでしまいたいって思うんだよ。桜はキレイだし、気温はちょうどいいし、ここが人生の絶頂じゃないかって思えるんだ」

「ああ、なるほどね」


 そういうことなら少し理解できる。春はとても気持ちがいい。草木が芽吹き、生命が息吹く、素晴らしい季節だ。ただ、ぼくはそれで死にたいとは思わないけれど。


「で、君は死ぬの?」


 ひらひらと舞う桜を見ながらそう問えば、彼はくるり、とこちらを振り向き、にこ、と笑った。


「まさか。死にたいって思っただけで、本当に死んだりはしないよ」

「そう」

「今日は桜がキレイだからね」

「だから?」

「だから、死なない」


 桜がキレイだから死にたいと言ったり、逆に死なないと言ったり、やっぱり彼の思考は理解しがたい。

 まあ、桜がキレイだから、それでいいか。




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