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last Eden  作者: 久遠夏目
2011年
57/73

生に絶望、死を希望。

 生は希望で、死は絶望?

 否、彼にとってはまったくの逆なのだろう。

 だって、彼は生に絶望し、死を希望しているのだから。


       * * *


「ねえ、ぼくたちに生きる意味なんてあるのかな?」


 にやり、意地の悪い笑みを浮かべて彼は言った。


「さあ、あるかもしれないし、ないかもしれない」

「ほほう、人それぞれってことかい? まあ、それが安易で妥当な、普通の意見だよね」


 トゲのある言葉だったが、彼は素でそう言っているのだから直しようがないし、こんなのはいつものことだからいちいち気にしていられない。

 そんなことを考えながらずずっ、とコーヒーをすすり、今度はぼくが口を開く。


「じゃあ、君は?」

「うん?」

「君は、ぼくたちに生きる意味があると思っているの?」

「ははっ、まさか。『ぼくたちの生きる意味って、何だろうね』と聞かない時点で、ぼくはそんなものはないと思っているんだよ」


 わかるかい? と今度は小バカにしたような口調だったが、これもいつものことで。もうこれが彼の性格だから仕方ない、と半ばあきらめて受け入れているぼくがいた。

 それでも、はあ、と自然にこぼれたため息を受けて、彼は愉快そうに口角を上げる。


「ぼくたちに、いや、人間に生きる意味なんてない。しいて言うなら、ぼくたちは死ぬために生きているんだ」

「それはまた、可笑しな話だね」

「そう、まったくもって滑稽な話さ。生が死によって意味づけられている、なんてね」


 彼の言葉にだんだん熱がこもってくると同時に、ぼくには嫌な予感が押し寄せてきた。饒舌になった彼は、自分が満足するまで誰にも止められないからだ。そう、まるで坂を転がり落ちる石のように。

 そんな不安を抱えるぼくをよそに、彼は先を続ける。


「でも、やっぱり人間に生きる意味なんてない。いつかは必ず死んでしまうのだから。なのに、生きる意味をさがしている人間は、とても滑稽だよ」

「じゃあ、君は全人類に死ねとでも?」

「ああ、それがいいと思うよ。人間の最終目的は『死』なんだからね」

「でも、死ぬのはこわいし、哀しいよ」

「どうして?」

「どうして?」


 心底不思議だというようなカオでそう聞いてくる彼と、その質問の意味がわからず、眉間にシワを寄せておうむ返しをするぼく。


「どうして君は、死がこわくて哀しいものだと思うんだい?」

「いや、普通そう思うでしょ。自分が死ぬのはこわいし、誰かが死んだら哀しいよ」

「どうして誰かが死んだら哀しいの?」

「それは、もう二度と会えなくなるから、かな」

「どうして?」

「……どうして?」


 いよいよ本格的に彼の質問の意味が、いや、彼自身が理解できなくなってきた。

 生と死は完全に違うもので、誰かが死んだらその人が生き返ることは決してない。だから、もう会うことも話すこともできなくなるから哀しいのに、彼は何を「どうして?」と聞くのだろうか。

 ぼくが黙りこくっていると、彼はふ、と薄い笑みをこぼした。


「死んだら会えなくなるなんて、誰が言ったんだい? 自分も死んだら会えるかもしれないだろう?」

「君、どれだけ自殺を勧めるの?」

「それに、死の向こう側を見た人は誰一人としていないんだから、もしかしたらそっちのほうが楽園かもしれないじゃないか。それなら、死に恐怖ではなく、希望を持つことも可能だ」


 恍惚とも言える表情で語った彼は、もしかすると死に希望を持ち、自殺に焦がれているのかもしれない。

 だけど、


「だったら、君はどうして死なないの?」

「だって、これは神様からもらった命だから」

「、え?」


 神様、だって?

 唐突に出てきた彼らしくない単語に瞠目したぼくを見て、彼はこれまた彼らしくない、困ったような笑みを浮かべた。


「意外かい? ぼくは神様を信じている。何故なら、神様はこの世で一番残酷だからさ」

「えーと、つながりがよくわからないんだけど」

「だってそうだろう? 神様は、死に向かって生きるだけの人間を、自分が創ったからという理由だけで縛りつけて、この世にとどめているんだ。でも、生きる意味がない人間に『生きろ』と言うことは、死刑宣告でしかない」


 生きることは死刑宣告で、しかし死によって生が意味づけられる。

 生は死で、死は生で。さて、ぼくたち人間は、どうすればいいのだろうか。




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