友情以上恋愛未満
ちょっと百合要素あり。
「あ、今の角度似てる」
「え?」
コーヒーショップで二人、横に並んで座っていると、突然そんなつぶやきが耳に入ってきた。くるりと右を向けば、彼女――中学からのわたしの友人――が両手で頬杖をついて、こちらを見つめているではないか。
「何が? いや、誰と?」
「え、彼氏と?」
「ああ、彼氏ね。って、わたしが? しかも角度とか細かいな」
「あと、彼もよくこんな服着てるし」
「男っぽくてすみませんね」
「そんなことないよ? むしろ今会えないから、彼っぽくていいと思う! 擬似彼氏って感じ?」
「何か複雑だな……」
にこにこと笑みを浮かべた彼女は前を向いて、ずずっとキャラメルマキアートをすすった。わたしも前を向いて、自分のカフェオレをすする。
彼女とその恋人は高校で知り合い、その後色々あって付き合い始めたのだが、彼は他県の大学に行ってしまったため、今は遠距離恋愛をしている。ちなみに、わたしと彼女は同じ大学だ。
「ねえねえ、次のデートはどこ行く?」
「……え、マジで身代わり?」
「あっははは、冗談だよ。でも、ホントに似てるんだよね」
「へえ、そう」
「うん!」
何が「うん」なのかはわからないが、にこっと飛びきりの笑顔を浮かべる彼女は、そんなにわたしが彼に似ているのが嬉しいのだろうか。いや、もしかしたらわたしをからかって、面白がっているだけなのかもしれない。ただし、どちらにせよ、彼女が彼氏のことを大すきだということだけはわかった。
「あ、でも性格は似てないけどね。彼、マゾだし」
「ちょっと待て、それはわたしがサドだとでも言いたいのか?」
「えっ、違うの?」
「あんた、さっきから喧嘩売ってるんだろ。そうなんだろ?」
「あはっ、ごめんごめん。でも、彼はやさしすぎるからさあ。いっつもあたしがいじる側なんだよね」
確かに、彼はやさしい人だった。いつもあたたかい眼差しで彼女を見ていた。
――知ってるよ。だから、すきになったんでしょう?
「やさしいならいいじゃん」
「そうなんだけどね、たまには『バカだなあ』とか言って、強引に引っぱっていってほしいわけよ」
「あんたもマゾか」
「いやいや、これくらい普通でしょ。あっ、じゃあさ、ちょっと代わりに言ってみてよ!」
「は? わたしが? ていうか何が『じゃあさ』なの?」
「いいじゃん。だって今日は、彼氏の代わりでしょ?」
「その設定、まだ続いてたのか……」
はあ、とため息をついて彼女をちらりと一瞥すれば、彼女はキラキラと目を輝かせてこちらを見つめていた。そんなに期待に満ちた眼差しを向けられてしまっては、そんなの本人に頼めばいいじゃないか、とは言えない。
わたしはもう一度ため息をついてから、彼女のほうに向き直った。
「――バカだなあ」
うん、本当にバカだと思うよ。わたしが、ね。
「わー、何かそれっぽい! ほかにも何か言って!」
「やだよ。わたしの声が低いっていっても、さすがにこれは似てないでしょ。今度はちゃんと彼に言ってもらいなよ」
「むう、意地悪! 今度のデートとき、色々おごってもらうんだからね!」
「いやだから、いつまでその身代わり設定続けんのさ」
不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いてしまった彼女は、変なところで頑固だから困る。何だか本当に彼氏になったような気分だ。それなら、彼は次に何と言うだろうか。
「――ねえ」
「なーにー?」
ずずずっ、とキャラメルマキアートを飲み干して、ストローをくわえたまま応えた彼女に苦笑する。
「大すきだよ」
「へっ?」
「だから、許して?」
眉を下げてしおらしげにそう乞えば、彼女の口がゆるやかな弧を描いた。
「ふふっ、いいよ。許してあげる。あーあ、ホンモノの彼氏もこんなこと言ってくれたらいいのになあ」
そう、彼女にとって、今のは「彼氏の身代わり」としての言葉。でも、わたしにとっては「わたし自身」の言葉、だった。
すると、彼女がくるりとこちらを向いてまたにこっと笑った。
「わたしも、大すきだよ」
「……うん、ありがと」
わたしと彼女は、ただの友達。だけど、わたしはそれ以上の感情を持っていた。それを「恋心」と言うのかはわからないけれど、わたしは、彼女が大すきだった。
今はただ、彼女からの「大すき」という言葉を噛みしめておくことにしよう。




