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last Eden  作者: 久遠夏目
2011年
56/73

友情以上恋愛未満

ちょっと百合要素あり。


「あ、今の角度似てる」

「え?」


 コーヒーショップで二人、横に並んで座っていると、突然そんなつぶやきが耳に入ってきた。くるりと右を向けば、彼女――中学からのわたしの友人――が両手で頬杖をついて、こちらを見つめているではないか。


「何が? いや、誰と?」

「え、彼氏と?」

「ああ、彼氏ね。って、わたしが? しかも角度とか細かいな」

「あと、彼もよくこんな服着てるし」

「男っぽくてすみませんね」

「そんなことないよ? むしろ今会えないから、彼っぽくていいと思う! 擬似彼氏って感じ?」

「何か複雑だな……」


 にこにこと笑みを浮かべた彼女は前を向いて、ずずっとキャラメルマキアートをすすった。わたしも前を向いて、自分のカフェオレをすする。

 彼女とその恋人は高校で知り合い、その後色々あって付き合い始めたのだが、彼は他県の大学に行ってしまったため、今は遠距離恋愛をしている。ちなみに、わたしと彼女は同じ大学だ。


「ねえねえ、次のデートはどこ行く?」

「……え、マジで身代わり?」

「あっははは、冗談だよ。でも、ホントに似てるんだよね」

「へえ、そう」

「うん!」


 何が「うん」なのかはわからないが、にこっと飛びきりの笑顔を浮かべる彼女は、そんなにわたしが彼に似ているのが嬉しいのだろうか。いや、もしかしたらわたしをからかって、面白がっているだけなのかもしれない。ただし、どちらにせよ、彼女が彼氏のことを大すきだということだけはわかった。


「あ、でも性格は似てないけどね。彼、マゾだし」

「ちょっと待て、それはわたしがサドだとでも言いたいのか?」

「えっ、違うの?」

「あんた、さっきから喧嘩売ってるんだろ。そうなんだろ?」

「あはっ、ごめんごめん。でも、彼はやさしすぎるからさあ。いっつもあたしがいじる側なんだよね」


 確かに、彼はやさしい人だった。いつもあたたかい眼差しで彼女を見ていた。

 ――知ってるよ。だから、すきになったんでしょう?


「やさしいならいいじゃん」

「そうなんだけどね、たまには『バカだなあ』とか言って、強引に引っぱっていってほしいわけよ」

「あんたもマゾか」

「いやいや、これくらい普通でしょ。あっ、じゃあさ、ちょっと代わりに言ってみてよ!」

「は? わたしが? ていうか何が『じゃあさ』なの?」

「いいじゃん。だって今日は、彼氏の代わりでしょ?」

「その設定、まだ続いてたのか……」


 はあ、とため息をついて彼女をちらりと一瞥すれば、彼女はキラキラと目を輝かせてこちらを見つめていた。そんなに期待に満ちた眼差しを向けられてしまっては、そんなの本人に頼めばいいじゃないか、とは言えない。

 わたしはもう一度ため息をついてから、彼女のほうに向き直った。


「――バカだなあ」


 うん、本当にバカだと思うよ。わたしが、ね。


「わー、何かそれっぽい! ほかにも何か言って!」

「やだよ。わたしの声が低いっていっても、さすがにこれは似てないでしょ。今度はちゃんと彼に言ってもらいなよ」

「むう、意地悪! 今度のデートとき、色々おごってもらうんだからね!」

「いやだから、いつまでその身代わり設定続けんのさ」


 不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いてしまった彼女は、変なところで頑固だから困る。何だか本当に彼氏になったような気分だ。それなら、彼は次に何と言うだろうか。


「――ねえ」

「なーにー?」


 ずずずっ、とキャラメルマキアートを飲み干して、ストローをくわえたまま応えた彼女に苦笑する。


「大すきだよ」

「へっ?」

「だから、許して?」


 眉を下げてしおらしげにそう乞えば、彼女の口がゆるやかな弧を描いた。


「ふふっ、いいよ。許してあげる。あーあ、ホンモノの彼氏もこんなこと言ってくれたらいいのになあ」


 そう、彼女にとって、今のは「彼氏の身代わり」としての言葉。でも、わたしにとっては「わたし自身」の言葉、だった。

 すると、彼女がくるりとこちらを向いてまたにこっと笑った。


「わたしも、大すきだよ」

「……うん、ありがと」


 わたしと彼女は、ただの友達。だけど、わたしはそれ以上の感情を持っていた。それを「恋心」と言うのかはわからないけれど、わたしは、彼女が大すきだった。

 今はただ、彼女からの「大すき」という言葉を噛みしめておくことにしよう。




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