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last Eden  作者: 久遠夏目
2011年
54/73

ぼくらの生きるリアル

 部屋に響くのは、カタカタとキーボードを叩く音と、ぺらりと本のページをめくる音。ほとんど無音と言ってもいいような静けさを、ぼくは破る。


「ねえ」

「何?」

「ぼくたち、もう三年じゃん?」

「そうだな」

「そろそろ進路決めなきゃだよね」

「ああ」

「ぼくはもう決めたよ」

「へえ、何だ?」

「二次元に行く」

「……は?」


 ゆるり、本に向けられていた視線がこちらを向く。それを横目で確認したぼくもパソコンの画面から目を離し、彼のほうを向いた。


「すまん、もう一度言ってくれるか?」

「え? だから、ぼくの将来の夢、二次元に行く」


 はきはきと宣言して、にこりと微笑んでみせれば、彼の眉間に濃いシワが刻まれた。


「あー……どうしたらそういう考えになるんだ?」


 そう尋ねながらも、彼は自分を落ち着けるためか再び本に視線を戻していたので、ぼくもパソコンに向き直りながら口を開いた。


「だってさーあ? リアルの人間付き合いとかメンドくさいだけでしょ?」

「そうか?」

「そうだよ。まあ、ぼくにはそんなことを言えるほど、リアルに大した人間関係はないんだけどね」

「具体的には、どういうところが面倒くさいんだ?」


 ぺらり、本をめくるかすかな音が聞こえた。どうやら彼は、この状況で本当に本を読み進めているようだ。器用だなと思いつつ、ぼくは彼の質問の答えを考える。


「んー、ぼくは基本的に学校の人たちは『友達』じゃなくて『クラスメイト』だと思ってるんだけど、そうすると上辺だけの付き合いになって、すごく疲れるんだよね」

「じゃあ、友達になればいいじゃないか」

「ムリだね、話が合わないし。それだったら、趣味をわかち合えるネットの人たちだけでいいよ。いさかいとかほとんどないから楽だし」


 そう、今だってリアルにいる彼よりも、触っているパソコン(の中の人)を優先している。まあ、それに関しては彼も本を読んでいるからおあいこか。


「それは、逃げじゃないのか?」

「え?」


 少し低めの声に再びくるりと振り向くと、彼は真剣な眼でこちらを見ていた。その真っ直ぐさにばつが悪くなり、ぼくはさっと目をそらしてまたパソコンのほうを向く。


「どーゆー意味?」

「ネットでは同じ趣味の人が集まるから、喧嘩がないのは当然だろ。でも、リアルではそうはいかない」

「そりゃそうだ。それこそ当然でしょ。ぼくはそれが嫌だから、二次元に行きたいって言ってるんだよ」

「でも、君が生きているのはリアルだろう?」

「それはそうだけど、リアルはつまんないんだもん」

「それは君が心を開いていないから、つまらなく感じているだけかもしれない」

「ぐぬぬ」


 彼の言うことは基本的に正論だから、いつもヘリクツばかり言っているぼくは反論できなかった。

 それでも意地になって、ぼくはパソコンとにらめっこを続ける。すると、


「それに」

「何?」

「ぼくは、君の『友人』じゃないのか?」


 そのセリフに勢いよく振り返れば、すでにこちらを向いていた彼は、にっと不敵な笑みを浮かべた。


「……だったら、本ばっかり読んでないで構ってよ」

「じゃあ、君もパソコンばかりしていないで、何か話したらどうだ?」


 しばしの間を置いて聞こえてきたのは、パソコンの電源を切る音と、パタンと本を閉じる音。


「まったく、だからリアルは面倒なんだよね」

「それがリアルだからな」

「――うん、そうだね」


 さて、今日は何の話をしようか。メンドくさいリアルの友人?




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