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last Eden  作者: 久遠夏目
2010年
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愛の赤と死の白

「かわいそうに」


 ぼくと彼女の目の前で、ぼとりと落ちた椿の花。それを拾い上げた彼女の手は雪のように白く、椿の赤がとても目立っていた。


「ねえ、椿って残酷だと思わない?」

「どうして?」

「椿は桜のように花びらが散るんじゃなくて、そのまま落ちるの。だから、斬首みたいだと思って」


 恐ろしいことをさらりと言ってのけた彼女の口は、その物騒な言葉とは裏腹に、ゆるやかな弧を描いていた。つまり、彼女は斬り落とされた首を持って微笑んでいるのだ。

 そう思うと、彼女の白い手によく映える椿の赤が、血のように見えた。


「あなたは、椿の花言葉を知っているかしら」

「知らない」

「椿の花言葉はね、」


 す、と目の前に差し出された白い手。

 そして、その上にちょこんと座る赤。


「『理想の愛』よ」


 歌うようにそうささやいた彼女の微笑みは、どこまでもなまめかしい。

 ぼくは彼女の手の上にある椿をとり、それをじっと見つめた。


「理想の愛って、どんなものだろうね?」

「あら、さっき言ったじゃない。椿はそのまま落ちるんだって」

「うん?」


 意味がよくわからない、というように首をかしげて彼女のほうを向くと、彼女はぼくの手から椿を奪った。


「椿は、桜のように散ってバラバラになったりしない。落ちるときまで、この花のままなの。ずっと、最後まで、このまま。そう――」


 彼女の口元が、歪む。その表情は恍惚としていた。


「永遠に、ね」


 ああ、そういうことか。

 つまり、理想の愛とは永遠の愛である。

 そう、彼女は言いたいのだ。


「斬首に見えたり、永遠の愛だったり、椿はすごいね」


 いや、本当にすごいのは彼女の想像力だろうか。


「ええ、椿はまさに愛と死を連想させる、素晴らしい花だわ。でも、」


 刹那、彼女はふ、と微笑んだかと思うと、その手に持っていた椿をふわりと地面に落とした。白から、赤がこぼれてゆく。ぼくの目にはそれがスローモーションで映って見えた。

 そして、ゆっくりと椿が地面についた瞬間、


「永遠の愛なんて、あるわけないけれどね」


 ぐしゃり、彼女の足が椿を踏み潰し、さらに彼女はそれをぐりぐりとにじった。花が原型ととどめなくなるまで、いや、花びらがすりつぶされてしまうまで、何度も、何度も、強く、強く。

 狂気にとりつかれたように椿を踏みにじる彼女は、やはりどこまでも妖艶に嗤って、いた。




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