愛の赤と死の白
「かわいそうに」
ぼくと彼女の目の前で、ぼとりと落ちた椿の花。それを拾い上げた彼女の手は雪のように白く、椿の赤がとても目立っていた。
「ねえ、椿って残酷だと思わない?」
「どうして?」
「椿は桜のように花びらが散るんじゃなくて、そのまま落ちるの。だから、斬首みたいだと思って」
恐ろしいことをさらりと言ってのけた彼女の口は、その物騒な言葉とは裏腹に、ゆるやかな弧を描いていた。つまり、彼女は斬り落とされた首を持って微笑んでいるのだ。
そう思うと、彼女の白い手によく映える椿の赤が、血のように見えた。
「あなたは、椿の花言葉を知っているかしら」
「知らない」
「椿の花言葉はね、」
す、と目の前に差し出された白い手。
そして、その上にちょこんと座る赤。
「『理想の愛』よ」
歌うようにそうささやいた彼女の微笑みは、どこまでもなまめかしい。
ぼくは彼女の手の上にある椿をとり、それをじっと見つめた。
「理想の愛って、どんなものだろうね?」
「あら、さっき言ったじゃない。椿はそのまま落ちるんだって」
「うん?」
意味がよくわからない、というように首をかしげて彼女のほうを向くと、彼女はぼくの手から椿を奪った。
「椿は、桜のように散ってバラバラになったりしない。落ちるときまで、この花のままなの。ずっと、最後まで、このまま。そう――」
彼女の口元が、歪む。その表情は恍惚としていた。
「永遠に、ね」
ああ、そういうことか。
つまり、理想の愛とは永遠の愛である。
そう、彼女は言いたいのだ。
「斬首に見えたり、永遠の愛だったり、椿はすごいね」
いや、本当にすごいのは彼女の想像力だろうか。
「ええ、椿はまさに愛と死を連想させる、素晴らしい花だわ。でも、」
刹那、彼女はふ、と微笑んだかと思うと、その手に持っていた椿をふわりと地面に落とした。白から、赤がこぼれてゆく。ぼくの目にはそれがスローモーションで映って見えた。
そして、ゆっくりと椿が地面についた瞬間、
「永遠の愛なんて、あるわけないけれどね」
ぐしゃり、彼女の足が椿を踏み潰し、さらに彼女はそれをぐりぐりとにじった。花が原型ととどめなくなるまで、いや、花びらがすりつぶされてしまうまで、何度も、何度も、強く、強く。
狂気にとりつかれたように椿を踏みにじる彼女は、やはりどこまでも妖艶に嗤って、いた。




